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サウナー、異世界の村にサウナ施設を建てる⑩

汗をかいたら、冷たい水に飛び込む。

――これが、サウナの快楽の半分を占めていると言っても過言ではない。


完成に近づいたサウナ施設を前に、俺は次の、そして最も重要な課題を見据えていた。


「サウナー、建物はもうすぐだろ? あとは中のベンチを仕上げるくらいか?」


大工のゲルドが、満足げに組み上がった施設を眺めながら言った。


「いや、ゲルド。まだだ。この聖なる館には、最高の魂を迎え入れるための“器”が足りない。――水風呂だよ」


俺がつぶやくと、隣で図面を広げていたアリーが川を指差した。


「師匠、目の前に大きな川があるじゃないですか。あそこに飛び込めば、最高に気持ちいいですよ!」

「甘いな、アリー。川は気まぐれだ。今は初夏だから心地よく冷たいが、真夏になれば生ぬるい湯になるし、冬になれば心臓が止まるほどの氷水になる。最高の“ととのい”は、常に安定した最高の水風呂があってこそなんだ」

「じゃあ、どうするんですか? また井戸を掘りますか?」

「あの井戸は傑作だった。だが、個人用の湯呑みだ。今俺たちが作っているのは、村中が宴会を開けるほどの大甕おおがめ。それに見合う水風呂が必要だ」


俺は腕を組み、宣言した。


「川の一部をせき止めて、この村だけの、天然にして完璧な“水風呂”を作るんだ」

「川を……せき止める!?」


アリーが目を丸くする。その横で、話を聞いていたドルガンがニヤリと笑った。


「ほう、そいつは面白え。水神様相手に普請を仕掛けるってわけか。鍛冶屋の腕が鳴るぜ」

「しかも、ただの池じゃないぞ」


俺が条件を並べるたびに、集まってきた村人たちの目の色が変わっていく。


「深さは大人が肩までしっかり浸かれるくらい。常に新鮮な水が循環するように、川から水を引き込んで、反対側から排水する流路も作る。さらに、水温が上がらないように、木陰になるような屋根もだ!」


未知の施設への挑戦に、村人たちの職人魂と好奇心が刺激されるのが分かった。

力自慢の農夫ゴランが、こぶしを天に突き上げて叫ぶ。


「面白えじゃねえか! サウナーの言う、世界一の水風呂ってやつを、俺たちの手で作ってやろうぜ!」

「「「おおーっ!」」」


村人たちの賛同の声が、川面に響き渡った。

場所はサウナ施設のすぐ脇、川がゆるやかにカーブを描く一帯に決まった。

流れが比較的穏やかで、頑丈な岩盤が近い。


「ここなら川の流れを少しだけお借りして、天然のプールが作れますね!」


アリーが目を輝かせる。


「ああ。しかも常に水が入れ替わるから、いつだって一番風呂の気分だ」


作業が始まった。

ゲルドの指示で川の流れを迂回させ、男たちが川底に杭を打ち込んでいく。ドルガンが鍛えた鉄のくさびが、丸太をがっちりと固定する。

石積みの基礎工事で腕を上げた村人たちが、今度は川の中に美しい石垣を築き上げていった。

誰もが泥だらけになりながら、夢中で作業に没頭していた。


「おい、そっちの石、俺に寄こせ!」

「任せとけ! 畑の石拾いで鍛えた俺の選石眼をなめるなよ!」


笑い声と掛け声が、夏の空に響き渡る。


数日後。

そこには、見事な「村サウナ専用水風呂」が姿を現していた。

大人が胸まで浸かれる絶妙な深さ。底には丸い川石が敷き詰められ、足の裏に心地よい。

石垣の取水口から常に新鮮な川の水が静かに流れ込み、反対側の排水口からよどみなく流れ出ていく。水面は鏡のように澄み渡り、底の石がくっきりと見えるほどだ。


「わぁ……! 川の一部なのに、まるで綺麗な泉みたい!」


子供たちが歓声を上げて飛び込もうとするのを、母親たちが慌てて止める。


「こら! この一番風呂は、汗水流して働いた父ちゃんたちのものだよ!」


その光景を見ながら、俺の胸はじんわりと熱くなった。


「……これだよ。みんなで作って、みんなで喜びを分ち合う。サウナはただの建物じゃない。この村の新しい文化そのものなんだ」


俺の言葉に、アリーが誇らしげにうなずく。


「はい、師匠! じゃあ次は、この最高の水風呂の隣に、最高の休憩場所が必要ですね!」


そう言って、彼女は水風呂の横に広がる、木漏れ日が美しい草地を指さした。

俺は思わず笑みをこぼした。


「そうだな。最高の水風呂の次は、最高の外気浴エリアだ!」


こうして、村のサウナ施設に欠かせない“ととのいの舞台”が完成した。

冷たい川の恵みをその身に抱えた水風呂は、これから先、数え切れないほどの村人たちを、至福の境地へと導くに違いなかった。

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