サウナー、弟子を取る
俺の建てたサウナ小屋が、村の新名所になってから数日が経った。
農作業を終えた男たちが一日の疲れを癒やし、女たちは井戸端会議ならぬ“サウナ端会議”に花を咲かせている。村人たちはすっかり「汗をかいて水に飛び込む変な儀式」虜だった。
今日も薪をくべ、ロウリュの準備をしていると――。
「……あの!」
凛とした声に振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。歳は十六くらいだろうか。工房帰りなのか、頬はうっすらと煤で汚れ、その手には年季の入った金槌が握られている。何より印象的なのは、好奇心に満ちた、やたらとギラギラ輝く真っ直ぐな瞳だった。
「君は……確か、鍛冶屋の娘の」
「はい! アリーです!」
元気よく名乗った彼女は、俺が作った薪ストーブを、穴が空くほどまじまじと見つめた。
「これ、すごいです! こんなに小さな炉で、石を均一に、しかもこれほど高温に熱するなんて……! 火の力を無駄なく熱に変える、見事な構造です! ぜひ、私にその技術を教えてください!」
「……いや、これは鍛冶じゃなくてサウナの技術なんだが」
「サウナ……! なんて力強い響き……! それはもしや、火の扱いを極めるための修行の名称なのでは!?」
「違う! 健康法!」
どうやら俺の異世界ライフでは、この禅問答が日常になるらしい。
「とにかく、理屈より体験だ。一度入ってみるといい」
俺はアリーをサウナ小屋に案内した。
「まず服を脱いで、この布を体に巻く。そして、ベンチに座って温まるんだ」
「はい!」
やけに気合いの入った返事が返ってきた。まるでこれから秘伝の儀式にでも挑む修行僧のようだ。
ストーブの石がチンチンに熱を帯びたところで、俺は柄杓で静かに水をかけた。
ジュワァァァァァッ――!!
熱い蒸気が一気に広がる。アリーはびくっと肩を震わせた。
「ひっ……! な、なんて熱気……! 鍛冶場の炎とは違う、肌を包み込むような濃密な熱……! まるで、火の精霊がすぐ側で息をしているみたいです!」
「違う! ロウリュだ!」
数分後。
顔を真っ赤にして耐えていたアリーだったが、ついに限界が来たらしい。
「も、もうダメですぅぅぅ!」
バンッと扉を開け、外の大樽に一直線――ドボンッ!
「ひゃぁぁぁぁぁぁぁっ!? つ、冷たっ! でも……でも……」
ブルブルと震えながらも、彼女の強張っていた表情が、次第にふわりとほころんでいく。
「……はぁぁぁぁ……体の芯から、疲れが溶けていくみたい……。頭がすっきりして、新しい槌の打ち方がいくつも浮かんできます……! これが師匠の言っていた……“ととのう”ということなんですね!」
(俺はそんなスピリチュアルなこと一言も言ってないんだが……)
水から上がったアリーは、目をキラキラと輝かせて俺に向き直った。
「師匠! 私、この“サウナ道”を極めたいです!」
「いや師匠って呼ぶな! 俺はただのサウナーだ!」
「この“サウナ”を作り、村の人々を癒やす……師匠は、火で人を幸せにする、最高の職人です!」
「ちょっと待て、話が壮大になってるし、それもう宗教っぽいから!」
こうして、俺の意思とは裏腹に、記念すべき一人目の弟子――鍛冶屋の娘アリーが誕生してしまったのだった。
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