サウナー、異世界の村にサウナ施設を建てる⑦
親子の魂が込められた最高のストーブが完成した。
だが、それだけではサウナは完成しない。
本当の心臓部は、このストーブがその懐に抱く「石」なのだ。
「え、石なんて、そこの川原にごろごろしてますけど?」
アリーが不思議そうに首をかしげる。
「甘いな、アリー。ただの石じゃダメなんだ」
俺は村人たちを連れて川辺にしゃがみこむと、手頃な丸い石を拾い上げ、別の石に力껏叩きつけた。
パキン!――石は、驚くほどあっけなく二つに割れた。
「こういう川の石は、長い年月をかけて内部に水分を溜め込んでいる。これをストーブの熱でガンガンに熱して、そこにロウリュの水をかけたらどうなるか……分かるか?」
「……まさか、爆発するとか?」
「正解だ」俺は真剣な顔で言った。
「内部の水分が一気に膨張して、手榴弾みてえに爆ぜる。熱々の破片が飛び散って、大怪我じゃすまないぞ」
村人たちが「ひぇっ」と顔を見合わせてざわつく。
アリーは目を丸くして「石って、爆発するんですね……」とゴクリと喉を鳴らした。
「ああ。だから、サウナに使う石は“一度、地獄の熱で焼かれた石”がいい。つまり、火山の石だ。もともとマグマだったような石は、高温にさらされてもびくともしない」
鍛冶屋のドルガンが腕を組んで深くうなった。
「なるほどな。鉄を鍛えるのと同じだ。質の悪い鉱石は、炉に入れた途端に割れて使い物にならん。石も同じことか」
「そうそう。理想は、黒くて密度が高くて、硬いやつ。まあ、要は一度地獄の熱をくぐり抜けた、エリート石ってことだな」
俺たちはセイルの知識を頼りに、森を抜け、丘を越えて、古い火山の麓にあるという岩場まで足を伸ばした。
地面を掘り返すと、ごつごつとした角張った黒い岩がごろごろと顔を出す。
「おお……! これが“えりーと石”ですか!」
アリーが一番大きな石を持ち上げようとするが、ずしりとした重さに「んぐぐ……」と顔を真っ赤にしてよろけた。
「いい石だ。これなら最高の熱を蓄えてくれるぞ」
表面はざらつき、叩いてもカンカンと澄んだ音がするだけ。
これなら、どれだけロウリュの蒸気を浴びせても割れることはないだろう。
大量のサウナストーンを馬車に積み込み、意気揚々と村に帰ると、ゲルドとドルガンが腕を組んで待っていた。
「サウナー、石もいいが、次の難関は“煙突”だぞ」
煙突――。サウナの呼吸を司る、もう一つの重要な器官だ。
「師匠、煙って、ただ上に抜けさえすればいいんじゃないんですか?」
アリーが完成したばかりの屋根を指さす。
「それだけじゃダメなんだ。煙突には二つの重要な役割がある」
俺は地面に枝で簡単な図を描いた。
一つは、もちろん煙を外に安全に逃がすこと。
そしてもう一つは、吸気。つまり、新鮮な空気を炉に送り込み、火の燃焼を助ける空気の流れを作ることだ。
「煙突が高ければ高いほど、強い上昇気流が生まれる。その力で、炉は下からどんどん新しい空気を吸い込んで、薪は力強く燃え上がるんだ」
ドルガンが「ふむ」と頷く。
「なるほど。うちの工房の炉の煙突が高いのも、そのためか」
「ただし、ただ真っ直ぐに伸ばせばいいわけでもない。熱が全部煙突から逃げてしまったら、いつまで経ってもサウナ室が温まらないからな」
「ええっ!? そんなに繊細なんですか!」
「ああ。サウナってのは、科学と経験が組み合わさった、繊細な芸術なんだよ」
それから数日間、俺たちの試行錯誤が始まった。
石を運び込み、煙突の試作を繰り返す日々。
ある時は煙突の引きが弱すぎて、サウナ室はあっという間に燻製小屋と化した。
「ごほっ、ごほっ! 師匠、目が、目がぁ!」
「これじゃ魚と一緒に私たちが燻されちゃいますー!」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃのアリーが叫ぶ。
だが、失敗のたびに学びがあった。
石は熱効率を考えて最適な大きさのものを厳選し、煙突は長さと太さ、そして熱を一度滞留させるための“遊び”のバランスを調整する。
ドルガンが鉄で頑丈なパーツを作り、ゲルドがそれを建物に組み付け、村人たちが石を運ぶ。
まさに村総出の大工事だった。
そして、運命の日。
ストーブに完璧なサウナストーンが積まれ、屋根からは銀色に輝く煙突が高くそびえ立った。
「よし……試運転だ」
薪をくべ、火をつける。
ごうごうと炎が力強く燃え上がり、煙は理想的な上昇気流に乗って、勢いよく煙突を抜けていく。
ストーブが、そして石が、じっくりと熱を蓄えていく。
やがて、部屋の空気がむわっとした熱気を帯び始めた。
俺は柄杓で水を一杯すくい、熱された漆黒の石に、祈るようにかけた。
ジュワァァァァァァッッ――!
これまでとは比べ物にならない、龍の咆哮のような音が響き渡る。
白い蒸気が爆発的に立ち上り、天井にぶつかって熱のシャワーとなって降り注いだ。
アリーが息をのむ。
「すごい……! 小屋の時の熱が子供だましに思えるくらい、濃密で、力強い熱気です!」
「これが……俺たちの作った、本物のサウナだ」
俺は胸を張って言った。
その瞬間、外で見守っていた村人たちから、割れんばかりの歓声が響き渡った。
最高の石と、最高の煙突――その一つ一つのこだわりと工夫の積み重ねが、この村を一つにする、最高のサウナを生み出したのだ。
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