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サウナー、異世界の村にサウナ施設を建てる④

基礎づくりを終えて数日。

俺たちは次の段階――建物の骨格となる、木材の調達に取りかかることになった。


「サウナの心臓はストーブの石と、壁やベンチの木だ。特に木は、熱に耐え、心地よい香りを与えてくれる。だからこそ、最高の木を選び抜かなくちゃならない」


俺は村人たちの前でそう宣言した。

基礎が整った今、建物を支えるためには大量の木材が必要になる。

だが、ただ近くの木を切り倒せばいいわけじゃない。


「師匠、どんな木がいいんですか?」


アリーが興味津々に首をかしげる。


「熱でヤニがたくさん出る木は向かない。柔らかすぎると湿気で腐りやすいし、硬すぎると加工が大変だ。理想は、熱に強くて、乾くと心地よい香りが立つ木…そうだな、故郷で言うスプルースやシダーみたいな木が最高なんだが…」


「すぷ……? しだー?」

「聞いたこともねえ木だなあ」


大工のゲルドが腕を組んでうなる。

異世界の森に、俺の知る木材が都合よくあるとは限らない。

けれど、似た性質の木は必ずあるはずだ。

そこで、森の植生に詳しい薬師セイルが口を開いた。 


「川の上流に、白っぽい木肌で清涼な香りのする木が群生している。乾燥させると虫も寄せ付けにくいという特性がある。あれならば用途に合うかもしれんな」

「おお、それだ! 間違いない!」


俺は興奮して拳を握った。

「よし、みんな! 明日は森に入って、サウナの魂となる木を切り出すぞ!」


翌朝。

俺たちは斧や縄を携え、セイルを先頭に森の奥深くへと足を踏み入れた。

川のせせらぎを頼りに進むと、空気はしっとりと潤い、苔の匂いが深くなった。

鳥のさえずりが降り注ぎ、木々の隙間から差し込む光が、まるで教会のステンドグラスのように地面を照らしている。


セイルが指差した先に、確かに白い幹を持つ木々が天に向かって並んでいた。

すらりとまっすぐに伸び、その幹を叩くと、コン、と乾いた心地よい響きが返ってきた。


「おおっ、こいつはいい材料になりそうだぜ!」


ゲルドが職人の目で目を輝かせる。

後から杖を突きながらやってきた村長が、厳かに言った。


「うむ。森の恵みをいただくのだ。くれぐれも粗末にしてはならんぞ。必要な分だけを伐り、余った枝葉は村の燃料として、ありがたく使わせていただくのだ」

「心得ています」


俺は森への敬意を込めて、深くうなずいた。

いざ、伐採が始まった。

ゲルドが振るう斧が、ズシン!と重い音を立てて幹に食い込む。

俺も負けじと汗を流しながら、力いっぱい斧を振り下ろした。


硬い木目に刃が食い込むたび、爽やかな木の香りがふわりとあたりに漂った。

斧を扱えないアリーは、伐り倒された木から小刀で枝を落とす役を買って出た。


「えいっ!やあっ!」


張り切って小刀を振るう姿は真剣そのものだが、勢い余って自分の服の袖を切りそうになっていて、見ていてひやひやする。


「無理すんなよ、アリー。手を切ったらセイルの世話になるぞ」

「だ、大丈夫ですから!」


そう言って顔を真っ赤にしながら枝と格闘するアリーの姿に、周りの村人たちの口元も自然とほころんだ。

やがて十数本の立派な木を切り出し、村まで運ぶことができた。


その道中は、木材の重みで馬車がきしみ、村人総出で坂道を押したり引いたりと大騒ぎだったが、それすらもどこか楽しかった。


数日後。

しっかりと乾かした木材を並べ、いよいよ骨組みの作業に入る。

「そっちを上げろ!」「せーので持ち上げるぞ!」「よし、今だ、打ち込め!」

ゲルドの檄に応え、村人たちの掛け声と、木槌が木材を叩く乾いた音が現場に響き渡る。

汗と木屑にまみれながらも、誰一人弱音を吐かなかった。


木材が組み上がるたびに、ただの空き地だった場所に、確かな建物の影が浮かび上がっていく。

組み上がった骨組みは、茜色の夕日を浴びて、未来のサウナのシルエットを大地に長く、長く伸ばしていた。


「すごい……本当にできちゃうんですね、こんな大きな建物が……!」

アリーが、組み上がった骨組みを見上げて呟いた

「ああ。この木の香りを嗅いでみろ。こいつが、最高のサウナ室になるんだ」


夕暮れ時。

村長が組み上がった骨組みの前に立ち、満足げにゆっくりと口を開いた。 


「皆、よくやった……今日この日、我らのサウナは、村の未来へと確かに一歩進んだ」


その声に、村人たちはわっと歓声をあげた。

子供たちは骨組みの周りを駆け回り、パン屋夫妻は笑い合い、アリーは感極まったように目元をぬぐっている。


俺はそっと、一番太い柱に手を触れた。まだ生木の湿り気を帯びた、温かい感触。

これはもうただのサウナじゃない。この木の一本一本に、村のみんなの汗と笑顔が染み込んでいる。

俺たちの未来そのものなんだ。

胸の奥から熱いものがこみ上げてくる。


「さあ、次は壁と屋根だ。みんな、まだまだこれからだぞ!」


俺の掛け声に、村人たちの「おおーっ!」という歓声が、美しい夕焼け空にいつまでも響き渡った。

お読みいただきありがとうございました。

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