サウナー、異世界の村にサウナ施設を建てる③
夜明けと共に、川沿いの空き地は村人たちの熱気で満たされていた。
男たちは鍬やスコップを手に談笑し、女たちは昼飯の準備に大わらわ。子供たちまでが「俺も手伝う!」と走り回っている。
まるで、村の新しい祭りが始まったかのようだった。
「さて……まずは地ならしだな」
俺は腕を組んで、これから俺たちの聖地となる土地を見渡した。
石ころだらけで雑草が生い茂り、しかも片方は川に向かって緩やかに傾斜している。
このままでは、とてもじゃないがサウナなんて建てられやしない。
「おーい、サウナー! 俺たちはどこから掘り始めりゃいいんだ!」
大工の棟梁、ゲルドがその大きな体で声を張り上げる。豪快な笑顔が頼もしい、現場のリーダー役だ。
「よし、まずは川沿いの傾斜からだ! 土を削って平らにしていくぞ!」
俺が指示を出すと、「おう!」という威勢のいい声と共に、村の男たちが一斉に鍬を振い始めた。
土を掘る音、石をどける音、そして人々の掛け声が重なり、空き地は一気に活気づく。
俺もスコップを手に取り、夢中で土を掘り進めた。すぐに汗が噴き出し、息が上がる。
それでも、不思議と体は軽く、最高に楽しかった。
「師匠、ちょっとはしゃぎすぎですよ!」
アリーが呆れたような、でも楽しそうな顔で俺を見ていた。
その横ではパン屋のバルタと妻のミーナが、大きな籠いっぱいに差し入れのパンを抱えて、みんなの作業を見守っている。
「よっこらせ……!」
大きな石を担ぎ上げると、腰にずしりと重みがくる。
けれど、こうして村人たちと肩を並べて汗を流すのは、悪くないどころか最高の気分だった。
しばらく作業に没頭していた、その時だった。
ゴゴゴゴゴ……!という地響きと共に、川沿いの土手が大きく裂けたのだ。
「うわああっ!」
「崩れるぞ、逃げろー!」
土砂が一気に川へとなだれ込み、濁流が逆巻いて水しぶきが舞い上がる。
土砂に足を取られかけた若い大工を、棟梁のゲルドが「うぉっ!」と叫びながら屈強な腕で引きずり上げる。
「ちっ…危ねえところだったな。おいサウナー!少しペースが早すぎだ!」
「すまん、ゲルド! 俺の指示ミスだ…!」
俺は頭をかきながら謝った。みんなの熱気に浮かされて、危険を見落としていたのだ。
杖をつきながら様子を見ていた村長が、険しい顔で近寄ってくる。
「むう、やはり川沿いの工事は一筋縄ではいかんか。まずは基礎を盤石に固めねばならんのう」
「それなら、石を積みましょう!」
アリーが声を上げた。
「川に沿って石垣を組んで、頑丈な土留めを作るんです! そうすればもう崩れません!」
「……いいな。サウナの基礎もかねて、石垣で土台を固めるか」
俺はアリーの案にうなずき、改めてみんなに指示を飛ばした。
それからは、まさに村の総力戦だった。
屈強な男たちが川から大きな石を運び上げ、大工のゲルドが配置を指示する。
女子供は石の隙間を埋めるための粘土質の泥を運び、鍛冶屋が作ったタガネで石の形を整えていく。
「よっしゃー! これでびくともしねぇ、頑丈な土台の完成だ!」
ゲルドが組み上がった石垣をバンと叩いて豪快に笑う。
薬師セイルは手を泥だらけにしながらも、専門家として冷静に分析していた。
「ふむ……石組みの基礎なら湿気も防げるな。衛生面でも理想的だ。カビの心配も少なくなるだろう」
「最高じゃないか!」
俺は思わず声を張り上げた。
「この土台が完成すれば、俺たちのサウナはもう約束されたようなもんだ!」
その言葉に、泥だらけの村人たちが一斉に「おおーっ!」と歓声をあげた。
日が傾く頃、川沿いの土地は見違えるように整えられていた。
平らに均された地面に、夕日を浴びて輝く頑丈な石の壁。
そこに立つと、まるで巨大なサウナの土台がすでに完成したかのような達成感があった。
その光景を前に、パン屋の妻ミーナがぽつりと呟いた。
「なあ…本当に、こんな何もないところから、みんなが入れる立派なサウナなんてできるのかい…?」
「ああ、できるさ。最高のスタートだ」
俺は胸を張って答えた。
「見てみろよ、この頑丈な基礎を。これだけしっかりしてれば、もっと大きなストーブだって置ける。川の水を直接引けば、いつでもキンキンに冷えた水風呂が使える。最高のサウナにならないわけがない!」
アリーが満面の笑みを浮かべた。
「師匠……!」
「すごいのは俺じゃない、みんなだ。サウナが村を変えるんじゃない。みんなでサウナを作ることで、村が新しくなっていくんだ」
その言葉に、アリーも、周りの村人たちも、誇らしげに頷いた。
――こうして、サウナ建築の最初にして最大の難関、地ならしと基礎づくりは無事に終わった。
だがこの先には、もっと大きな挑戦が待っている。
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