サウナー、異世界の村にサウナ施設を建てる②
村長が「立派なサウナを建てよ!」と宣言した翌朝。
広場には、村中の人間が集まっていると言っても過言ではなかった。
アリーはもちろん、パン屋のバルタ夫妻、薬師セイル、肩に斧を担いだ木こりのオルフに、腰に金槌を下げた大工のゲルド。
さらには子供から年寄りまで、誰もがそわそわとした期待に満ちた顔で集まっている。
俺は思わず背筋を伸ばした。……みんな、本気だ。
「さて、皆の者!」
村長が咳払いをして、広場に響き渡る声で言った。
「昨日、わしは初めてサウナなるものを体験した。そして確信した! サウナは、この村の宝になる! だからこそ、村総出で、誰からも愛される立派な施設を建てるのだ!」
その一言に、わあっと大地が揺れるような歓声が広がった。
村人たちの顔には、村長の頬と同じ“ととのった”後のような、晴れやかな活力がみなぎっている。
「でもよ、村長。一体どんなサウナを作るんだい?」
最初に声を上げたのは、木こりのオルフだ。
「あの小屋をもっとでっかくする、って感じでいいのか?」
「いや、もっとこう……」
(日本のスーパー銭湯みたいに、食事処や仮眠室も…いや、さすがに贅沢か)
俺は頭に浮かんだ壮大なイメージを、現実的な言葉に落とし込んだ。
「広い脱衣所、一度に何十人も入れる大きなサウナ室、そしてキンキンに冷えた水風呂。それから――」
「広々とした外気浴スペースです!」
アリーが元気よく手を挙げて引き継ぐ。
「ととのい椅子をたくさん並べて、みんなで風に吹かれながら、あの最高の気持ちよさを味わえる場所です!」
「ふむ」
セイルは腕を組んで思案げに頷いた。
「ならば植栽も考えよう。癒やし効果のある香草の小道なども作れば、心身ともによく休まる」
「よし、だったらパンを売るための小さなカウンターも置こう!」
バルタの妻が張り切って叫ぶ。
「サウナあがりに食べる焼きたてのサウナパンは、絶対に最高なんだから!」
「ははっ、なんだか一大リゾート施設みたいになってきたな」
俺は思わず笑ってしまった。
「待て待て、夢を語るのはいいが」
大工のゲルドが、現実的な視点で手を上げる。
「肝心の場所を決めないことには、設計図も描けんぞ。一体どこに建てるんだ?」
その言葉に、熱狂していた空気が少しだけ冷静になる。確かに、その通りだ。
すると村長が、待ってましたとばかりに古い村の地図を広げた。
「わしの考えでは、村はずれの川沿いがよかろう。水は豊富に使えるし、川を渡る心地よい風は、外気浴に最適だ」
「川沿いか……」
オルフが顎をさすった。
「あそこなら、森から木材を運び出すのも楽だ。だが、川に近いぶん地面がぬかるみやすい。並の基礎じゃ、大きな建物は沈んじまうぞ」
「ぬかるむなら、石で基礎をがっちり固めりゃいい」
話を聞いていたアリーの親父さん――鍛冶屋のドルガンが口を挟んだ。
「うちの工房の周りにも、使ってねえ石材が山ほどある。いくらでも持っていけ」
「石の基礎……! それなら頑丈なものが建つ。いいな、それでいこう!」
ゲルドがドルガンの肩を叩いてすぐに同意した。
「みんな、ありがとう! 最高のアイデアばかりだ。ただ、俺から一つだけお願いがある」
俺はみんなの顔を見渡し、宣言した。
「水風呂だ。あの新しく掘った井戸のような、キンキンに冷えた水が使えること。これだけは絶対に譲れない!」
俺のサウナーとしての魂の叫びに、村人たちは「おう!」「任せとけ!」と力強く頷いた。
「よし、決まりだ!」
村長が地図を力強く指で叩く。
「場所は川沿い! 基礎は石! 水風呂は極上! これで建てるぞ!」
どっと、今日一番の拍手が起こる。
気づけば、俺の胸もサウナに入った時のように熱くなっていた。
アリーがにこっと笑って言う。
「村のみんなで作ったら、きっと最高のサウナになりますね」
「……ああ」
俺は深くうなずいた。
「世界一の、ととのいの館を作ろう」
その言葉に、村人たちが「よっしゃ!」「やってやろうじゃねぇか!」とさらに盛り上がる。
最初の仕事は、建設予定地の――地ならしだ。
(かつて、満員電車に揺られて書類仕事に追われていた俺が、まさか異世界の村で、一大施設の建設プロジェクトを率いることになるなんてな…)
熱気に満ちた村人たちの顔を見渡しながら、俺は静かに、しかし強く拳を握った。
「絶対に、最高のサウナをこの手で作り上げてみせる」
村人たちのサウナより熱い情熱に包まれながら、俺の胸は未来への期待でいっぱいになっていた。
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