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サウナー、異世界の村にサウナ施設を建てる①

朝の村の広場に、ざわざわと人だかりができていた。

どうやら今日の仕事分担を決める、朝の集まりらしい。


俺はその輪の後ろで、こっそりと昨夜のサウナの疲れをほぐすように伸びをしていた。


「サウナー!」


厳しい声が響いた。

振り向くと、村長が腕を組んで仁王立ちしていた。


「お前、最近サウナに入り浸りで、畑仕事にも出てこんと聞くぞ」

「ぐっ……」


痛いところを突かれた。図星だった。

確かに、サウナの改良やら新しいサ飯の開発やらに夢中で、村の共同作業はほとんどしていなかった。

広場にはアリーや、パン屋のバルタ、薬師セイルの姿もある。


みんなの視線が一斉にこちらに集まると、なんとも言えない気まずい空気が漂った。


「サウナが村に活気をもたらしたことは認めよう」


村長は厳しい目で俺を見据える。


「だがな、村人は皆、汗水流して働いておる。お前だけが、趣味の延長で楽をしているように見えては示しがつかんのだ」

「ち、違います村長! 師匠はいつも村のために、サウナのことを考えて……!」


アリーが慌てて俺と村長の間に割って入る。


「サウナパンも、サドリも、セイルさんの薬草も、みんなサウナから繋がっているんです! 決して師匠は楽をしているわけじゃ――」


だが村長は眉をひそめたまま、静かに首を振った。


「……ならば、長であるわし自身が確かめてやる。そのサウナとやらが、本当に村の未来に必要なものなのかどうかをな」


そう言うと、村人たちが「おおっ」とどよめいた。

これまで頑なにサウナを遠巻きに見ていた村長の初サウナ体験が、こうして決まってしまった。


俺たちは急いでサウナ小屋を最高のコンディションに整え、ストーブに薪をくべた。

ごうごうと燃える炎が石を熱し、やてじわじわと聖なる熱気が小屋に満ちていく。

村長はどかりと胡座をかき、疑いの目で腕を組んだ。


「ふん……ただ暑苦しいだけの部屋ではないか。こんなもので本当に疲れが取れるというのか」

「まあ、すぐに分かりますよ」


俺は自信を持って柄杓を手に取り、熱されたサウナストーンにアロマウォーターを落とした。

ジュワァァァァッと音を立てて蒸気が舞い上がる。

湿った熱が肌にまとわりつき、村長は思わず「む…」と眉をしかめた。


サウナ室の隅では、村の重鎮たちも固唾をのんでその様子を見守っている。

やがて、頑なに組まれていた村長の腕の力がふっと抜け、険しい眉間の皺がゆっくりとほどけていく。


「……おお……なんだこれは。長年背負ってきた重い鎧を、脱ぎ捨てたかのように……体が軽い……」


汗だくで外へ出ると、涼しい風が火照った肌を撫でた。

村長は目を細め、そのまま“ととのい椅子”に深く身を預ける。


「まるで……若い頃に戻ったようだ……」


そう呟くと、すうすうと穏やかな寝息を立て始めた。


「む、村長!? 寝てしまわれた! 大丈夫でしょうか!?」


アリーが慌てて覗き込む。


「心配するな。完璧にととのっただけだ」


俺は笑って答えた。

しばらくして目を覚ました村長は、少し照れくさそうに一つ咳払いをした。


「……うむ。認めよう。サウナは確かに、この村に必要なものだ」

「やったー!」


アリーが子供のように飛び跳ねて喜ぶ。

しかし村長はすぐに厳しい、だが以前とは違う熱を帯びた目に変わった。


「だがな、サウナー。この素晴らしい癒やしを、一部の者だけで独占するのは間違っておる。この小さな小屋では、女子供や年寄りが安心して使うには手狭すぎる」

「……え?」

「よって、長として命じる! この村の総力を挙げて、お前を手伝ってやる。だから、誰もが安心して“ととのえる”、この村の“誇り”となる大サウナ施設を、お前の手で建ててみせよ!」


その言葉に、広場がどっと沸いた。

村人たちの目が、期待と興奮にキラキラと輝いている。

俺は、その視線を一身に浴びながら、心臓が高鳴るのを感じていた。

自分の好きが高じて建てた小さな小屋が、今、村全体の希望になろうとしている。


(……やってやる)

俺は込み上げる興奮を抑え、深く頭を下げた。


「分かりました。必ずや、この村最高のサウナを、皆さんと一緒に作ってみせます」


こうして、俺の小さな趣味から始まった物語は、村総出の一大建築プロジェクトへと、その幕を開けたのだった。

ここから初めての長編に入っていきます。

やっとサウナー、異世界にサウナを建てるといったところです。

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