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サウナー、恋を応援する

村の若い農夫――確かリオという名だったか――が、サウナ小屋の前を行ったり来たり、挙動不審にうろついていた。


ため息をついたかと思えば、自分の頭をぽかりと殴り、また天を仰ぐ。


「おい、なにやってんだ?」


声をかけると、青年は「ひゃいっ!」と飛び上がるように振り返った。


「サ、サウナーさん!」

「俺でそんなに驚くなよ」


どうやら、ただサウナに入りに来たわけではなさそうだ。

俺が腕を組んで黙って待っていると、リオは観念したようにぽつりぽつりと口を開いた。


「……あの、好きな娘がいるんです。でも、俺みたいな朴念仁、どうやって誘えばいいのか全然分からなくて……。サウナーさん、サウナは人の心を解きほぐすって言うじゃないですか。だから、一緒にサウナに入れたらって……」


なるほど、恋の相談か。

俺はサウナーであって、恋愛の先生になった覚えはないんだが……。

そこに、話を聞きつけていたアリーがひょっこり顔を出した。


「えっ!? サウナでデート!? 最高じゃないですか!」


目をキラキラと輝かせている。

こいつはこういう話になると、本当にすぐ食いついてくる。


「いや、俺に振るな。アリー、お前が答えてやれ」

「もちろんお任せください! 師匠!」


アリーはぱん!と手を叩き、恋愛コンサルタントのように力説し始めた。


「いいですか、リオさん! サウナは心と体を裸にする場所…つまり、お互いの素直な気持ちを打ち明けるのに、これ以上ない聖地なんです! まずはセイルさん特製のリラックス効果があるアロマでロウリュ! そしてキンキンに冷えたサドリで乾杯! 仕上げに焼きたてのサウナパンを二人で分け合って食べれば、もう完璧です!」


それはもうただのフルコースじゃないか。

俺は思わず吹き出しそうになったが、アリーの熱弁と、それを真剣に聞いているリオの姿に、口を挟むのをやめた。


結局、アリーの勢いに完全に押されたリオは、その夜、意中の娘をサウナに誘うことに成功した。

俺とアリーは、少し離れたととのい椅子から、こっそりとその様子を見守る。


「……来てくれましたね、師匠!」

「ああ、大したもんだ」


サウナ小屋の窓から漏れる明かりが、静かな夜を温かく照らしている。

最初はぎこちない相槌や、沈黙が続いていたが、ロウリュの蒸気が上がる頃には、だんだんと楽しそうな会話が聞こえ始めた。やがて、小屋からは二人の柔らかな笑い声が漏れ聞こえてくるようになった。

俺はアリーに小声で言った。


「……やれやれ。サウナってのは、人の恋路まで温めちまうらしいな」

「はいっ! だから言ったじゃないですか! サウナは人生を豊かにするんです!」


どこまでも万能にするつもりらしい。

だが、あの幸せそうな笑い声を聞けば、それも悪くないと思えてくる。


しばらくして、サウナ小屋から二人が出てきた。

少し気まずそうに、でも明らかにさっきよりも近い距離で、並んで歩いていく。不意に、リオが俺たちの存在に気づいた。彼は一瞬はっとした顔をしたが、次の瞬間、これまで見たこともないような満開の笑顔で、深々と頭を下げた。その隣で、娘さんもはにかみながら小さく会釈してくれた。


「……おせっかいも、たまには悪くないもんだな」


俺がそう呟くと、隣のアリーが「サウナは、恋のキューピッドにもなるんです!」と、満面の笑みで胸を張った。

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