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サウナー、サウナでパンを焼く

サウナの熱気で温まった身体を冷ましながら、俺は完成したばかりのサドリを一口飲んだ。

……ふと、無骨な声が飛んできた。


「おう、サウナー。ちいと相談があるんだがな」

振り向くと、がっしりとした体格の男が腕組みをして立っていた。

村のパン屋、バルタだ。日に焼けた腕は丸太のように太く、顔には焼き窯の煤がうっすらとついている。いつも強面だが、実は村一番の働き者で、みんなに慕われている男だ。


「あんたのサウナの熱気…あれでパンは焼けねえだろうか?」

「パンを……サウナで?」


俺は思わず眉をひそめた。


「パン焼きは火が命なんだが、この村は風が強くてな。窯の温度が安定しねえ。だが、あんたのサウナは違う。いつでも安定した熱気で満ちてる。あの熱を使えば、最高のパンが焼けるんじゃねえかと思ってな」

バルタは真剣そのものの目で、ぐいと俺に迫ってくる。


「……面白い。やってみるか」


俺はニヤリと笑った。


翌日、俺のサウナの前は、さながら新商品開発室と化していた。


パン生地をこねるバルタ、目を輝かせるアリー、そして腕を組んで思案顔のセイルまでいる。


「ふむ…パンに薬草を練り込めば、日常的に薬効成分を摂取させられるな。実に合理的だ」

「師匠! サドリには、やっぱり焼きたてのパンがなくっちゃ!」


お前ら、すっかりやる気だな。

俺は苦笑しつつ、サウナのストーブの上に厚手の鉄板を設置した。パン生地を入れた鉄鍋をそっと置き、扉を閉める。

じりじりと鉄が焼ける音が鳴り、やがてサウナ室に小麦の香ばしい匂いが広がり始めた。


「おお……! いい匂いだ……!」


バルタの目がギラギラと輝く。だが――


「焦げたぁぁっ!」


慌てて取り出した鍋の中身は、もはやパンとは呼べない炭の塊だった。


「ちくしょう……もう一回だ!」


次は温度をじっくり下げて挑戦。しかし、次にできあがったのは、表面だけがうっすら色づいた、生ぬるい生地の塊だった。

何度も試行錯誤を繰り返し、バルタはがっくりと頭を抱える。


「安定しているはずのサウナなのに……窯とは勝手が違うのか……!」


俺はふと、ロウリュで立ち上る蒸気を見つめた。


「……待てよ、バルタ。このサウナの熱は、ただ乾いてるだけじゃない。湿度があるんだ。窯焼きじゃなく、“蒸し焼き”にしてみたらどうだ?」


試しに、鉄鍋の底に少しだけ水を張り、生地を入れて再度加熱する。

すると――

「……できた!」


鍋の蓋を開けると、これまでとは比べ物にならない、芳醇な小麦の香りが溢れ出した。中から現れたのは、表面はこんがりと黄金色に焼け、それでいてふっくらと膨らんだ、完璧なパンだった。


村人たちが次々と集まり、そのパンを口にする。

一口ちぎると、外側はパリッと小気味よい音がし、中は湯気と共に信じられないほど、もっちりと柔らかい。


「うまい! なんだこりゃ、今まで食ったどのパンよりも柔らかくて、香りがいい!」

「これがサウナの蒸気で焼いたパンか!」


アリーはサドリを片手に、焼きたてのサウナパンを幸せそうにほおばっている。


「師匠! これはもう、サウナ後の定番セットメニューですよ!」


セイルも満足げにうなずいている。


「薬草を混ぜ込めば最高の健康食になるな。ふむ、研究のしがいがある」


だが何より感動していたのは、他ならぬバルタだった。

その無骨な顔に大粒の涙を浮かべ、パンをそっと抱きしめるようにして呟いた。


「……俺の夢はな、どんな日でも、村中の奴らに焼きたてのうまいパンを腹いっぱい食わせてやることだった。だが、風の強い日には火力が安定せず、何度生地を無駄にしたか分からねえ。その度に悔しくて……」

「だが……このサウナがあれば……! サウナがあれば、俺の夢が叶う!」


俺は思わず笑みがこぼれた。


「サウナにまた新しい役割が増えちまったな」


バルタはごつい手で俺の肩をがしっと掴み、涙で濡れた顔で力強く叫んだ。


「サウナー! あんたがいれば、俺の夢が叶う! これからは俺たち、最高のパンを作る相棒だ!」


……相棒、か。

サウナから生まれるものが、またひとつ、この村の絆を強くしていく。


「サウナパン、村の新しい名物ですね!」


アリーが嬉しそうに言う。

俺は空を見上げた。まさか異世界で、パンとサウナを結びつける日が来るなんて。

でも、不思議と悪い気はしない。

アリーが淹れてくれたサドリを片手に、焼き立てのサウナパンを一口頬張る。


(サウナと、サドリと、焼きたてのパン……悪くないフルコースじゃないか)


俺がそう思っていると、村人たちの幸せそうな笑い声が、香ばしいパンの匂いと共に、心地よく広場に響き渡った。

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