サウナー、サウナドリンクでととのう
サウナから出たあとの外気浴。
涼しい夜風に吹かれて、俺はととのい椅子の上で大きく息を吐いた。
「……やっぱ、これだよな」
冷たい水を飲み、火照った体を休める。ただそれだけのことが、どれほど心身を癒やしてくれるか。
この時間こそが、俺にとっての最高のご褒美だ。
視線の先では、昨日、酒を煽って倒れた男が、しょんぼりとした顔で水を飲んでいる。あの一件以来、サウナ中の飲酒は村の暗黙のルールで禁止となっていた。
「サウナの最中に酒……。命知らずにも程がある」
その時、隣で同じように水を飲んでいたアリーが、ぐっと拳を握りしめた。
「師匠! やはりサウナの後には、ただの水ではない、“専用の飲み物”が必要です!」
「専用の飲み物?」
「はいっ! 汗をかいた全ての人を癒やす、最高の飲み物! 名付けて……“サドリ”です!」
アリーはビシッと指を立て、渾身のどや顔で言い放った。
「サウナドリンクのことか。略すのが早すぎるだろ」
思わずツッコミを入れたが、アリーの目は「この村ではこう呼ぶのです」とでも言いたげに、真剣そのものだった。
翌日。
アリーはさっそく薬師のセイルを巻き込み、村の広場で“サドリ開発会議”を開催していた。
机を挟んで、二人が真剣に議論を戦わせている。
「第一に考えるべきは薬効だ。発汗で失われた滋養を補い、疲労を回復させる成分が不可欠だ」
「それじゃあ薬臭くて飲めません! サウナの後は、ゴクゴク飲める美味しさが一番大事なんです!」
なぜか俺も意見役として巻き込まれ、次々と差し出される試作品を口にする羽目になった。
最初に出されたのは、セイル特製の、深く濃い緑色の液体。
「これなら……栄養は満点のはずだ」
セイルが自信ありげに差し出してきたが……見た目が完全に青汁、いや、沼の水だ。
恐る恐る一口含むと、口の中に濃縮された野草の苦味と土の味が爆発した。
「……うぐっ! おいセイル、これ、罰ゲームか何かか? ととのった後の体に叩き込んだら、魂ごと体から抜けていくぞ」
セイルは「そうか?」と心底不思議そうに首をかしげたが、アリーが両手をぶんぶん振って全力で却下した。
次にアリーが出してきたのは、ドラゴンベリーをこれでもかとすり潰した、どろりと甘ったるい赤い汁。
「師匠、どうですか!?」
「……美味い。美味いが、これじゃただの濃厚なジュースだ。喉の渇きは癒えない」
「むぅ……奥が深いです……」
試行錯誤は続く。
蜂蜜を少し足してみたり、ミントのような清涼感のある葉を浮かべてみたり。噂を聞きつけた村人たちも「俺にも一口飲ませろ」と集まりだし、気づけば広場はさながら大試飲会となっていた。
そして夕方。
何度も調整を重ね、セイルの薬草、アリーの果実、それにほんの少しの蜂蜜と岩塩を混ぜ合わせた、黄金色の一杯が完成した。
「これです!」
アリーが目を輝かせ、セイルも「……ふむ」と満足そうにうなずく。
俺も木製のカップで一口もらう。
ひんやりとした液体が喉を滑り落ち、ベリーの爽やかな酸味と蜂蜜の優しい甘みが広がる。そして後から、薬草のすっきりとした香りが鼻を抜けていく。
サウナの熱で乾ききった体に、命の水がじわじわと染み渡っていくのが分かる。
「……悪くない。いや、これは、かなりいい」
俺は思わず深く息を吐いた。
「サウナに水風呂、ととのい椅子……そして、この一杯。完璧なリレーだ」
その言葉に、周りの村人たちも次々にカップを手に取り、そして歓声を上げた。
「おお、これは滅法旨い!」
「火照った体に染み渡るようだ!」
「サドリ! これぞサドリだ!」
気づけば広場中に、新しい飲み物の名を呼ぶ「サドリ!」コールが響き渡っていた。
……どうやら名前も、すっかり定着してしまったらしい。
夜。
涼しい風に吹かれながら、俺は一杯のサドリをゆっくりと飲み干した。
「師匠! これで村のサウナは完璧ですね!」
「いや……まだまだだ。サウナ道に終わりはないぞ」
アリーが「えへへ」と嬉しそうに笑う。
その隣でセイルは腕を組み、「ふん……まあ、及第点といったところか。次は効能の種類をさらに増やすぞ」と、ぶっきらぼうに、しかしどこか満足げに呟いた。
……まあ、何はともあれ、これでサウナ中に酒を飲んで倒れる馬鹿は減るだろう。
そう思うと、少しだけ肩の荷が下りた気がした。
異世界の小さな村に、また一つ、サウナから生まれた新しい文化が根付いた瞬間だった。
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