サウナー、サウナと酒について説く
サウナを出て、ととのい椅子で夜風に当たる。誰もが心地よい静寂に身を委ね、失われた水分をゆっくりと補給する――至福の瞬間だ。
……なのに、その静寂を破り、一人だけ威勢のいい声を上げた男がいた。
「ぷはぁーっ! 汗をかききった体に染み渡る! やっぱこれだよなぁ!」
素焼きの壺を掲げ、エールのような酒を豪快に煽った男は、顔を真っ赤にして笑っていた。
「おい、ちょっと待て。サウナ中の酒はまず――」
俺が声をかけたときには、もう遅かった。
次の瞬間、男の笑顔が引きつり、その巨体がぐらりと揺れる。焦点の合わない目で宙を掴もうとしたが、そのまま椅子から崩れ落ち、地面にぐったりと倒れ込んでしまった。
「師匠! 大変です! ダリルさんが!」
アリーが慌てて駆け寄る。周りで見ていた他の村人たちも、顔を青くした。
「だから言わんこっちゃない。サウナの直後に酒を飲むのは最悪の組み合わせだって」
「えっ、どうしてですか? すごく気持ちよさそうなのに……」
「サウナ後の体は、汗をかいてカラカラに乾いたスポンジみたいなもんだ。そこに水を吸わせなきゃいけないのに、アルコールなんて入れたらどうなる? 余計に水分が奪われて、血の巡りもおかしくなる。倒れて当然だ」
俺は冷たい井戸水を汲んで、倒れた男の口元に少しずつ含ませる。
幸い、数分でうめき声と共に意識は戻ったようだ。
「ひぃ……頭がぐわんぐわんする……目の前が回る……」
「当たり前だ」
俺は回復した男に、容赦なく言い放った。
「サウナの後に必要なのは、まず『水』、そして『休憩』、それから失われた『塩分』。断じて酒じゃない」
「わしも……今夜は一杯やろうと思ってた……」
「危ねえところだったな……」
村人たちが肝を冷したように囁き合う。
俺の言葉に、アリーが真剣な顔でこくこくと頷いた。
だがその目は次の瞬間、きらりと閃きに満ちた。
「じゃあ! サウナの後に安心して飲める、最高の飲み物を私が作ります!」
「は?」
「セイル様に相談して、ドラゴンベリーの酸っぱさと薬草の回復効果を合わせた、“ととのい専用”のスペシャルドリンクです! 絶対においしくて、身体に良くて、もっともっと“ととのえる”やつです!」
またしても無駄に張り切っている。
だがまあ、これを機に村に「安全なサウナドリンク」でも広まれば、それに越したことはないか。
俺はため息をつきながら、まだぐったりしている男を見下ろした。
「……いいか、みんなもよく聞け。サウナと酒を安易に混ぜるな。命が惜しければ、な」
その言葉は、ただの脅しではなく、村の新しい文化を守るための、サウナーとしての切実な願いだった。
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