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サウナー、子供に追い回される

その日の朝。サウナ小屋の前まで来ると、中から何やらただならぬざわめきが聞こえてきた。


「出たな、悪者! この“ととのいの館”は僕たち“サウナの勇者”が守る!」

「わー! やっつけろー!」


開け放たれた扉の向こうから、湯上がりでほんのり肌を赤らめた子供たちが、棒切れを剣のように構えてわらわらと飛び出してくる。そしてなぜか、俺を取り囲んだ。


「ちょ、ちょっと待てお前ら! 俺は悪者じゃなくて――」

「問答無用! ととのいの館を独り占めしようったって、そうはさせないぞ!」

「みんなのサウナを守るんだー!」


……誰が独り占めしようとしてるんだ。そもそも俺が建てたサウナだぞ。

困惑する俺の後ろから、アリーがひょっこり顔を出す。


「すみません師匠、みんなが『風の導師様も一緒に館を守りましょう!』って言うものだから、つい……」

「つい、じゃないだろ!」


見れば、アリーの手にもしっかり棒切れが握られている。額に汗を浮かべ、バツの悪そうな笑みを浮かべるその姿は、完全に子供たちの仲間だった。

子供たちはサウナ小屋に駆け戻ると、今度は勝手にロウリュ用の水桶を持ち出し、水をかけ合い始めた。


「ひゃー! 聖なる滝の修行だー!」

「気持ちいいー!」

「おいおい! それは神聖なロウリュに使う大事なアロマウォーターだぞ!」


慌てて桶を取り返す俺。床はびしょ濡れ、貴重な薬草の香りがあたりに立ち込めている。


「こらーっ! サウナは遊ぶ場所じゃない!」

「えー? でも熱くて水があって楽しいもん!」

「ここで汗をいっぱいかいてから、新しい井戸の水風呂に入るのが最高なんだぞ!」


……その通りなのが、余計にややこしい。

どうしたものかと頭を抱えていると、アリーがポンと手を叩いた。


「ねえ師匠、こうなったら、ちゃんとしたサウナの入り方を教えてあげればいいんじゃないですか?」

「うーん……まあ、そうだな。子供にもわかるように、しっかり教えるか」


俺は咳払いを一つして、子供たちを集めた。


「静粛に! これより、第一回・ちびっこサウナーのための安全講座を始める!」

「まずはそのいち! ストーブには絶対に触らない! 熱々の石だ、火傷するぞ!」

「はーい!」

「そのに! ロウリュの水は勝手にかけない! あれは俺か、風の導師アリーがやる神聖な儀式だ!」

「はーい!」

「そしてそのさん! サウナから出たらちゃんと水を浴びて、外で静かに休む! 走り回るのは禁止!」

「えー……つまんなーい」

「そのかわり!」


俺はニヤリと笑った。


「ルールを守れた良い子には、外気浴用の椅子で、キンキンに冷えた特製ドラゴンベリーアイスを配ってやる」

「「「やるやるやるー!! アイス! アイス!」」」


子供たちの返事は驚くほど素直だった。アイスに完全に釣られた感は否めないが……まあ、よしとしよう。

その日の午後。子供たちはきちんと順番を守り、見違えるほど行儀よくサウナを楽しんだ。

熱気にじっと耐え、新しくなった冷たい井戸水に「きゃー!」と歓声を上げ、ととのい椅子に座ってぐったり。


「……なんか、頭がふわふわする」

「体がしゃぼん玉になったみたい……」

「雲の上でお昼寝してるみたいだぁ……」


小さな体でも、本物の“ととのう”感覚はしっかりやって来るらしい。

アリーがにこにこしながら俺の隣で言った。


「ねえ師匠、未来のサウナーがどんどん育ってますよ!」

「……まあ、いい傾向なんだろうが。頼むから、将来『我ら、熱波戦隊サウナレンジャー!』とか名乗り出さないでくれよ……」


その日から、村の子供たちはすっかり「サウナー見習い」になった。サウナ小屋をただの遊び場ではなく、みんなの大切な場所として、少しだけ誇らしげに扱うようになったのだ。

――ただし。


「ぼくが先に座ってた!」

「わたしの方が早かったもん!」


と、一番気持ちいい“神の御座(ととのい椅子)”を取り合って、しょっちゅう軽い喧嘩になっているのは、ご愛嬌というやつだろう。

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