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勇者がいない別世界3(裕太の正しい道)

「「「ブッブゥーーーーーーーーーーーーー!!!」」」


「わっ!わっ!なんだよっおまえたちっ、せっかく差し入れした缶コーヒーが……」

「ゲッゲホ、ゲホ、ゲホッ。裕太くん!今なんて?」

「いや、だから、今、俺は通っている高校を休学して、ヤクの売人をやっているって…」

「まっ待て待てっ、裕太先輩!それじゃ今通っている高校はどうしたんだ!?」

「いや…、だから、高校は休学してるって……」

「まっ、まっ、まぁ、みっみんな一旦落ち着こう!」

「いやいや大吾、おまえが落ち着けよ…」


俺とヒロシと雄二、そして裕太先輩は、俺の親戚の家の縁側にいた。

空は雲ひとつなく、まんまるお月さんが浮かんで、辺りを照らしている。

秋の虫たちがコロコロと心地よい鳴き声を響かせていた。


「とりあえず、みんな深呼吸してみようか?なっ?」

裕太先輩がそう言うので、俺たちはそれに従う。

「すぅ〜、はぁ〜」

「すぅ〜、はぁ〜」

「すぅ〜、ピィー」

「おいおい、誰だ?…吐く息の音がおかしい奴がいるけど…。まっいいか…。それじゃみんな落ち着いたな?」

「大丈夫だ、落ち着いたよ…」

「それじゃ、ちょっと長くなるかもしれないけど、どうしてそうなったか、今からおまえたちに話すから、聞いてくれ…」


それから俺たち三人は裕太先輩の話に全神経を集中して聞くことにした。

「そもそものはじまりは、大吾やヒロシは知っていると思うけど、俺の親父が亡くなったところからだな…」

裕太先輩が小学生の頃、自動車事故に巻き込まれて亡くなった、最愛の親父さんの話から始まり、その親父さんの死からようやく立ち直ったところで、お袋さんの癌が見つかったこと、そして事情によりお袋さんの癌を完治させるために、高額な治療費が必要になり、その治療費を稼ぐため、通っていた高校を休学して働き出したところまで裕太先輩は話し、一旦話を切る。


「そんなことが…。知らなかったよ…」

「まあ、俺は遠くの高校に通っていたからな、仕方がないよ…。それでな、ここからが本番だ……」

裕太先輩はそう言うと、話の続きを始める。


お袋さんの治療費を捻出するために、なんとか希望の金額に見合う給料の町工場を見つけ、そこで真面目に働き出した先輩だったが、その町工場がある日突然倒産したところから、裕太先輩の人生が大きく狂うこととなる。

突然の町工場の倒産によって、正常な判断力を失くした裕太先輩は、その時気にかけてくれていた職場の先輩から、ヤクの売人という悪への片道切符を受け取ることとなり、そして今に至っているとの話だった。


「正直、俺は絶望のどん底まで落ちたよ…。かろうじて生きようと思えたのは、お袋の元気な姿を取り戻したい、その一念があったから…。お袋の為なら自分はどうなってもいいと考えたよ…。お袋の癌が消えるなら、どんな悪事だろうが手を染めてやろうとさえ思った。そしてそこから俺は道を大きく踏み外すこととなる…。今、冷静になって考えれば、お袋はそんなことをされても全く喜ばないし、それどころか毎日悲しみに暮れることになる。そんな、ちょっと考えればスグにわかることすら、気づけないほど、俺はトチ狂ってしまったんだ…」


「うっう〜ん…、もしも俺が裕太先輩の状況に陥ったら……。ダメだ!きっと俺も裕太先輩と同じ、いやっもっと酷い状態になってたかもしれない……」

「……でっ、でもっでもっ今からでも正しい道に戻れるじゃないかな!…あっごめん!わかったようなこと言って…」

「いや!その通りなんだ雄二!俺は今までの罪を全て償って、元の正しい道へと戻りたいと考えているだ!…もちろん、ちょっとやそっとで、今までの罪が消えるとは思っていない。だけど誠心誠意で罪を償っていけば、必ず正しい道に戻れると思っているんだ。しかも俺には女神様がついているしな!」

「女神さまぁ?…まっまさか(怒りの女神)じゃないだろうな…」

「ハハッ!それはどうだろうな?だけど俺は間違いなく女神様に出会っているんだ。そう、あれは一週間前ぐらいのことなんだけど、俺はお袋の見舞いのために病院に向かってたんだ。それでその病院のひとつ手前の角で、俺はその女神様と出会い頭にぶつかってしまうんだけど…、それがな…大吾ほどじゃないけど、そこそこ身長も体重もあるこの俺が、その女神様に吹っ飛ばされてしまったんだよ!しかも割と小柄な方の女神様は俺とぶつかったというのに、平然とその場に立っていたんだぜ!」

「へぇ〜、それでなんでその女の人が女神ってわかったんだ?」

「いや、すまん女神っていうのは俺が勝手に言っていることなんだけど…、でも女神的な施しを俺にしてくれたんだよ!」

「女神的な施し?なんだそれ?」

「まぁ聞け!それで吹っ飛ばされた俺に女神様は駆け寄り、心配そうに語りかけてくださりながら、怪我をさせたお詫びだと、あるものを俺にくださったんだよ!」

「あるものぉ?」

「そう、あるものとはな………、宝くじだ!」

「えっ?宝くじぃ!まさか、それが当選してたのか?」

「ビンゴだ!ヒロシ!なんと、その宝くじ、五千万円に当選してたんだよ!」

「「「エッ、えええぇ〜!ごっ五千万!」」」

「ああ!昨日がその宝くじの当選発表日だったんだけど、お袋と何度も見直しているから間違いない!…でもお袋も言ってたけど、俺も吹っ飛ばされたとはいえ、たかだかぶつかったぐらいで、この金額を受け取るのはいけないと思ったさ、でも、その宝くじを手渡してくる時、受け取るのを固辞していた俺に、女神様はこう仰ったんだ………。

『あらっいいのよ!遠慮しなくて。私のファッションを見てわかる通り、私はセレブなの。興味本位で宝くじを買ってしまったけど、もしも数千万円当選したところで、数千億の資産がある私にとっては、そんな端金、焼石に水なの。だから気にしなくてもいいのよ、それに私は貴方に怪我を負わせてしまったわ、この宝くじは貴方が受け取る権利があるの。違うかしら?』

って、俺に強引に宝くじを押し付けて、捲し立てるように仰って……、

『あら、もうこんな時間!地下鉄の時間があるの、急ぐからもう行くわね!』

と、最後のお言葉を残して、地下鉄の構内に潜り込む人たちの波に揉まれながら、女神様は消えていったんだ…。」

「う〜ん、それで先輩はその女神様の顔を覚えているのか?」

「いやぁ、それが女神様が仰る通り、お金持ち風の格好をされていてな、ツバがかなり広い帽子をかぶっておられて、高級そうな大きなサングラスをつけておられたから、素顔はみていないんだ…」

「そうか…、でも今の話、不可解な点がたくさんあるよね?」

「なんだよ雄二!女神様を悪く言うことなら、いくらお前でも許さないぞ」

「はぁ〜、裕太くん、頭脳明晰、冷静沈着と謳われる君が…。かなりその女神様に心酔しているようだね…」

「えっ?どうしてだよ?」

「いいかい?裕太くん、まず、これは君も疑問に思っているようだけど、明らかに体格に差がある二人のうち、大きな方が吹っ飛ばされて、小さな方は全く動じた様子がない、物理的法則から言っても不可解だよね?」

「ああ、そうなんだ、でも女神様がなせる技といえないか?」

「まあ、確かに本当に女神様ならそうだよな…。で、雄二、他の不可解な点はなんだ?」

「これも女神様だからと言われれば、そうか、となることなんだけど、その女性は裕太くんにあげた宝くじが五千万円に当選していることを知っていた節があるよね」

「どういうことだ?」

「その宝くじは特賞が当たれば、1枚で3億円なんだ。その宝くじの当選発表は昨日あったんだろ?じゃあ、一週間前の時点なら『もしも3億円当選したところで…』と言うべきところを、わざわざ二つ以上下の『もしも数千万円当選したところで…』と言っているんだ。僕には、その女性はあらかじめ五千万円に当選することを知っていたように思えるんだ…」

「だろ?だろ?俺が言う女神様は本当の女神様なんだよ!」

「まあ、そこまでは『本当に女神様だったんだ』で解決される不可解さなんんだけど…」

「なんだよ…、まだあるのか?」

「そのぉ…、その女性いや、もう女神様でいいか。その女神様は自分は数千億の資産がある大金持ちだと宣言しているのに、なぜ一般市民に紛れてわざわざ混み合う地下鉄を利用したのか。そんな大金持ちなら待機させている運転手付きの高級車で移動するって誰もがそう思うよね?」

「まぁ、それもそうだけど、時間的に車で移動すると遅刻しそうだから、地下鉄なら間に合うと判断して、地下鉄を選んだとも考えられるだろ?」

「う〜ん、まあまだ違和感があるけど、そういう考え方もできるね、でもね…」

「え〜!まだあるのか?」

「ああ、その女神様は日本語の使い方を2箇所間違えているんだ…」

「ああ!それは俺も気づいたぞ!『セレブ』と『焼石に水』のところだろ?」

「そうなんだヒロシくん、まあ、『セレブ』に関しては本来、著名人とか有名人を指す言葉で、お金持ちを意味する言葉ではないんだけど、今の多くの国民がそういう使い方をするから、そこはスルーするとして『焼石に水』の使い方はどうしょうもなく間違っているよね」

「いやいや、待て、あの時女神様は地下鉄の時間を気にして焦っておられたんだ、ちょっとした言い間違いだったんだよ!」

「裕太先輩、きっと雄二が言いたいことはそういうことじゃ無いんだよ、その女の人は、ほぼほぼ女神様で間違いないと思うけど、そんな、そそっかしい?っていうか、ちょっとオツムの足りない女神様に裕太先輩を任せていいのか?ってことが言いたいんだよ。なぁ、雄二?」

「ヒロシくん……、何も僕はそこまで……」


ビチャッ!


「わっなんだ!何かが俺のおでこに落ちてきた!」

「どうした!ヒロシ?」

「わっ!とっ、鳥のフンが俺のおでこに!なんでこんな夜中に?フクロウでもいるのか?」

「ハッハハハッ、それみろヒロシ、おまえが女神様を愚弄するからバチが当たったんだよ!」

「く〜クッソー、言わせてもらうけど、このフンはタマタマだよ!オツムの足りない女神にこんな芸当できるわけないだろ!」


ビチャッ!


「「「「…………………………………」」」」

「………裕太先輩、先輩があった女神様は、かなり高位の存在だと思うぞ、そして苦難に立ち向かう先輩に救いの手を差し伸べる、慈愛に満ちた女神だったんだ…、きっと見目麗しい方だったんだろうな!よかったな、先輩!」

「あっああ……、そうだな……ヒロシ。俺はラッキーだったよ……」

それからしばらく、四人は周りをキョロキョロと伺いながら、自分のおでこを気にしていたが、これ以上何も起こらないことを確認して、脱線してしまった話を元に戻した。


「それで、その当選した五千万円の宝くじだけど、お袋と話し合って、癌の治療に全額回すことにしたんだ。おそらく治療費はそれで全て賄えるはずだ!」

「おおっ!それはよかったな!きっとお袋さんも元の元気な姿を取り戻すよ!」

「ああ!そうだな!俺は裕太先輩ん家に遊びにいった時、お袋さんからお菓子をもらったり、裕太先輩がちょっと家を出てる時も、かまってもらったことを今でも覚えてる。きっとその頃のように元気になる!よかった!」

「そうだね!きっと女神様も味方してくれる!絶対に元気になるよ!」

「ありがとう!みんな………」

「……じゃあ、次は裕太先輩の番だな」

「ああっ!そうだな、さっきも話したが、俺は元の正しい道に戻るために、明日、お袋に全てを打ち明けて、その後その足で警察に自首しに行こうと思っている」

「「「うんっ!」」」

「こう決心ができたのは、大吾やヒロシ、雄二がこの旅行にさっそってくれたおかげだと思っているよ、本当にありがとう。それでだ、これからが本題のおまえたちへのお願いだ。まずは、大吾とヒロシにだけど、おまえたちが懇意にしている、高坂刑事だっけ、俺は自首するならその人に自首したい。なにせおまえたちから高坂刑事の話をよくきていたから、この人ならと思っていたんだ。どうだろう、おまえたちには迷惑をかけるが、高坂刑事のところまで同行を願えないだろうか?」

「もちろん同行するに決まってるじゃないか!なぁ大吾?」

「そうだな、当たり前のことだな」

「僕もついていってはダメかな?」

「いいのか?雄二。おまえには別の頼みごとがあるんだけど…」

「いいに決まってるじゃない!是非僕も同行させて。で、その別の頼みごとって?」

「それは、今回の異世界の問題のことだよ。今回、異世界の日本側への交渉案を考えたのは、ほとんど俺たちふたりだったろ…。きっといろんなところから、事情説明などで、呼ばれることになると思うんだ。でも、俺は明日、自首してしばらくは拘置所に入ることになる、そして裁判が終われば、良くて少年院、悪くて刑務所行きになるだろう。俺がそんな状態の中、異世界の問題をおまえひとりに押し付けることになる。そのお詫びと、そしてなんとか異世界の問題を解決に導いて欲しいという頼み事だよ」

「そうか、確かにそうなるかもしれないね、でも大丈夫だよ!裕太くんの分まで僕は頑張るし、大吾くんやヒロシくん、三人衆や大谷くん、塩谷くん、そして力強い女子軍団もいる!みんなで協力して、必ず異世界問題を解決に導いてみせるよ!」

「そうかっ!それを聞いて安心したよ!ありがとう!」

こうして、裕太先輩の俺たちへの頼み事を全て聞き終え、俺たちは明日に備えて、寝床に着くことにした。俺は、どうか裕太先輩が正しい道に戻れるように祈りながら眠りについた……。




チュン、チュンチュン……。

スズメの鳴き声で俺は目を覚ます。

上半身だけ体を起こして周りを見渡すと、裕太先輩とヒロシ、雄二も今目覚めたようだ。

今まで寝ていたのは俺たちだけで、他のみんなの姿が見えない。


「やっと起きたのね、さぁさぁ、とっとと起きて!そこも掃除するから」

「昨日の夜、四人だけでコソコソやってたでしょ?だから今まで寝かせてあげてたの、そろそろ起こそうと思っていたから丁度よかったわ」

サチコとユキが俺たちに、そう話しかける。

そうか、俺たちがそっと部屋を抜け出したこと、みんな知っていたんだな…。

みんなの気遣いに感謝しながら、顔を洗いに洗面所に向かう途中、部屋の中を見渡す。どこもかしこも、隅々までピカピカになっていた。唖然としていた俺たちに、美羽が話しかけてくる。

「すごいでしょ!ちょっと早起きして、大掃除しちゃった」

「そうなのか?すまない!俺たちも手伝えなくて…」

「いいのよ、だって、兄ちゃんたち四人はこの後、異世界の問題とはまた違う困難に立ち向かうんでしょ?」

「まさか、聞いていたのか?」

「聞くわけないじゃない!でもわかるのよ!だって私たち仲間だから。それぐらいの察しはつくわ」

「そうか…、ありがとう。いずれおまえ達にも全てを打ち明ける時が来るだろうけど、悪いがそれまで待っていてくれ…」

「ええ、わかってるわ、だから頑張ってね!」

俺たちは、みんなの心遣いに深く感謝しつつ朝食をいただく。今日も飯がうまい!




「「「「おじちゃん、おばちゃん、お世話になりました!」」」」

「いいえ、なんのお構いもできなくて、ごめんなさいね、よかったらまた遊びにきてね!」

「ああ!そうだな、家ん中があんなにピカピカになるんなら、週一で来てもらっても構わんぞ!」

「「「「アハハハハ!うん!またお邪魔しま〜す!お元気でねぇ〜」」」」

俺の親戚たちへ挨拶を交わし、再会を約束して、みんなはマイクロバスに乗り込んだ。

「あ〜楽しかったな〜大吾!また来年もこようぜ!なぁ、いいだろ?」

「ああ、そうだな、来年も計画するとしよう」

「「「「「「「「イッエ〜イイ!!!」」」」」」」」

帰りの車内もとっても賑やかだ!


そのうち、サチコとユキが裕太先輩と雄二に声をかける。

「あのぉ〜、またまた、ごめんなさいだけど、ここちょっと教えて…」

行きの車内とは違い、今度はみんなで裕太先輩と雄二に周りに集まり、それぞれの授業を真剣な面持ちで聞き入っている。

「やっぱ、裕太先輩の教え方、うめーわ!今まで理解できなかったことが、すんなり頭に入ってくるぜ!」

横山が関心した声を上げる。

「ねぇ!ねぇ!裕太先輩!学校の先生になったら?めちゃめちゃ向いていると思うの!」

「そうだな!勉強だけじゃなくて、なんか悩み事とか真剣に聞いてくれるだろうし」

「あぁ〜あっ、私の学校に裕太先輩みたいな先生がいたらいいのにぃ!」

「ハハハッ、そうか?それじゃ学校の教師を目指そうかな?…いや、実をいううと昨日のバスの中で将来の夢の話をしてただろ?俺はその時思ったんだ、なれるとしたら学校の先生になってみたいなぁって…」

「「「「いいじゃん!いいじゃん!目指しなよ!絶対いい先生になるよ」」」」

「そうだな!いっちょ目指してみるか!」

「「「「「「「「イッエ〜イイ!!!」」」」」」」」

どうやら、裕太先輩が戻る正しい道は「学校の先生」に決まったようだ。なんだか俺までワクワクしてきた!


行きと同様、楽しい時間はあっという間に過ぎ、集合場所で解散場所の「クバルン号像」にたどり着いた。

みんなは何かを察してか、それとも県外の高校に戻ると思っているからか、しばらく会えない裕太先輩との別れを惜しんでいた。

「ねぇ、裕太先輩、こっちに帰ってきたら絶対にまた遊ぼうね!」

「裕太先輩、勉強おしえてくれてありがとう!絶対に志望校に受かってみせるからね!」

「そうそう!私もサチコと同じ高校に受かるつもり!そしたら、裕太先輩とまた遊べるチャンスが出来るわ!その時はまたよろしくね!」

「裕太先輩が兄ちゃんの友達で本当によかった!また遊ぼうね」

女子軍団が挨拶を交わし終え、今度は男子軍団が裕太先輩に群がる。

「裕太先輩!今度あったら、また新聞について熱く語り合おうぜ!」

「次に会えるときは、もっともっとおすすめのラノベ情報を用意しておくから楽しみにしててね!」

「裕太先輩さぁ、さっき真剣な顔で先生を目指すっていったっしょ、感動したよ、俺も一流の大工を目指しているんだ、先輩見習って頑張るよ!」

「俺は建築士を目指しているんだ、是永同様、俺も裕太先輩に心打たれたよ!俺も頑張るから、先輩も頑張れよ!ほれっヨコ!最後だぞ、伝えたいことがあるんだろ?」

「あっあのぉ〜先輩、昔の話だけど、運動の苦手な先輩を馬鹿にしてごめんなさい!それから俺も建築関係の道を目指してるんだ。先輩が家を建てるなら、是非任せてくれ!」

「なんだ?ヨコ?そんな昔のこと気にしてねーよ!それからみんな本当にありがとう!俺にとってこの旅行は一生忘れることのできない、大切な思い出となったよ!みんなとは、きっと、またどこかで絶対に会えるはずだ、そんときはこちらこそヨロシクな!」

そして俺たち四人は他の仲間達と分かれてその場を離れていく、裕太先輩の姿が見えなくなるまで、仲間達は裕太先輩に手を振っていた。




仲間達との別れの後、裕太先輩の最初の苦難への関門、お袋さんがいる、病室前に俺たちはいた。


裕太先輩は深く深呼吸をして病室に入って行った。

俺たちは廊下側で病室のドアを薄く開いて中の様子を伺っている。

裕太先輩がお袋さんに今まで自分が犯してきた罪を洗いざらい打ち明け、そして今から警察に自首することを伝えた。

「裕太、頭を下げて、私がいいと言うまでそのままでいなさい、いいわね…」

穏やかに聞こえるが、なんだか迫力あるその言葉に、なぜだか俺たちもビビり上がった。

そして、裕太先輩が言われるままに、頭を下げると……。


ゴツッ!


「いっって〜ぇっっ!」

裕太先輩はお袋さんから強烈なゲンコツをもらって、かなり痛がっているが、そのままの姿勢を崩さない。

すると今度は、お袋さんの手が先輩の頭の上に伸び、優しくなではじめた。

「最初のゲンコツは罪を犯した、あなたへの罰…」

「そして、これは、道を正そうと決意した、あなたへのご褒美よ…」

そう言いながら、しばらく頭を撫でていた。

「さあ、行きなさい。友達を待たせているのでしょ?」

ゲッ!バレてた?さすが裕太先輩のお袋さん、なんでもお見通しのようだ。

「いい?私は死なないわ、それどころか、あなたが罪を全て償って帰ってくる頃には、昔のように元気になっててみせるわ。だからあなたは安心して償いに専念するのよ。いいわね?」

「ああ、わかったよ、母さん。俺は全ての罪を償って必ず正しい道に戻ってみせる。誓うよ!」

「そう、それじゃ信じて待つことにしますかね、じゃあ、いってらっしゃい裕太…」

「いってきます!」

そう言って裕太先輩は真っ直ぐに病室のドアに向かって歩き出す、その間一度もお袋さんを振り返ることなく…。




そして俺たちは、裕太先輩の次の苦難への関門、高坂のあんちゃんがいる、俺たち地元の警察署の少年課のドアの前にいた。

ここはまず、俺に任せてくれと、ヒロシが少年課のドアを開く。

「こんちは〜!!高坂巡査部長いらっしゃいますか〜!!」

「はあ〜い!少々お待ちくださ〜い!」

ヒロシの挨拶に応え、奥から女性警官の明るい声が響く。

しばらく待っていると、女性警官ふたりに両脇を抱えられ、足をブラブラさせながら、高坂のあんちゃんがこちらにやって来た。

毎度、毎度、高坂のあんちゃんはこうやって俺たちの前に登場する…。なにかお約束ごとでもあるのだろうか?


「なんだよヒロシ?なんか俺に用か?……おっ大吾じゃないか!元気にしてたか?」

高坂のあんちゃんは毎度、ヒロシにはそっけない、これも何かのお約束ごとのようだ。

「あんちゃん…実をいうと、あんちゃんに自首したいと言ってる友達を連れて来たんだ…」

「自首?…」

そう訝しげにいうと、あんちゃんは少年課のボス高岡課長の席に向けてサッと顔を向ける。

俺たちもつられて、あんちゃんの視線の先にいる、ボスを見ると、ボスはゆっくりと深くうなずいている。

「まあ、ここじゃなんだ、奥の取調室で話を聞こうか…」


そして場所を移して数分後…。

「なっ、なにぃ〜パッ、パルフェルト商事だと〜ぉ!」

裕太先輩の事情聴取の最中、それまで黙々と話を聞いていたあんちゃんだが、裕太先輩の口から出た「パルフェルト商事」という言葉に高坂のあんちゃんは飛び上がらんばかりに驚いている。

「その話は俺ひとりで聞けるようなことじゃない。ボスや記録係も連れてくるが、構わないか?」

「えっ…ええ、かまいません」

事情がわからず困惑している裕太先輩がかろうじて返事を返す。


「そっそれから、おまえ達の付き添いはここまでだ!申し訳ないが、退席してもらうことになる。それといいか、よく聞いてくれ、ここで聞いたことは一切外部に話しちゃダメだぞ!あまり詳しくは言えないが、もしも裕太くんの証言でうまいことになれば、裕太くんの減刑に大きく役立つことになるとだけ言っておく。もしも、おまえ達が外でここでの話をしてしまうと、裕太くんはそのチャンスを棒に振ることになるかもしれないんだ。いいな!もう一度言うぞ、絶対にここでの話は誰にもするな!いいな!」

「あっああ!わかった!絶対に誰にも言わない。約束する!」

「大丈夫だ!絶対に言わない」

「もちろん僕も絶対に言いません!」


俺たちには訳がわからないままだが、高坂のあんちゃんがこれほどまでに言うのだ、絶対に誰にも言わない。

ことが大ごとになりそうな雰囲気だったので心配して、ふと、裕太先輩を見る。すると裕太先輩はにっこりと笑って、大きくうなずいてみせた。どうやら「俺は大丈夫だ」の意思表示のようだ。

俺たちは裕太先輩へのお別れも言えず、取調室から追い出された。




警察署からの帰り道、俺たちは無言のまま家路へと向かう。

ついさっき起こったことを、三人で話しをしたかったが、ここにはたくさんの人がいる。迂闊なことが言えない俺たちは、ただただ黙って歩くことしかできなかった。

「まあ、とにかくことは上手い方向に進んでいると信じて、俺たちは吉報を待つことにしようぜ!」

かろうじてヒロシが当たり障りのない言葉で俺たちに話しかける。

俺と雄二は、ヒロシの言葉に大きく頷く。

どうか女神様、裕太先輩をお守りください。どうか良き方向にお導きください。

その時の俺は女神様に祈ることしかできなかった…。




その日の夜、俺は夢を見た。

その夢を見る前までは、裕太先輩のことが気がかりで、浅い眠りと覚醒を繰り返していた…。

その夢の中では、俺はただひとり自分の教室の中にいた。

すると、誰も座っていない席から俺を呼ぶ声が聞こえてくる…。


『よぉっ大吾!今回はいろいろとありがとな!』

「いや、俺はみんなの言う通りにしただけで、別に大したことはしてないぞ」

『ハハッ、大吾くんらしいね…でもね、君がいるだけでみんなはとても安心するんだよ…』

「そうなのか?それならいいんだが…」

『それからおまえ、裕太のことが気がかりなんだろ?…でも安心しろ!全ては良い方向に動いている。もう大丈夫だ!』

「そっそうなのか!」

『ああっ大丈夫だよ!僕たちが保証するよ、だから君は安心してゆっくり眠っていいんだよ…』

「そうかぁ〜、よかった………………」


こうして俺は、なぜだか心の底から安心して、深い眠りに落ちていった………。

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