三島ヒロシの記憶「ピロッシ」
俺は美波雄二に会いに行っていた。
昨夜の自衛隊基地での会議から今までほとんど眠れていない。
魔物軍がこの日本に攻めてきていること。そしてその魔物軍の中に東郷夏彦がいたこと。
それを雄二に伝えるべきかどうかを悩んでいるうちに朝を迎えた。
雄二を危険な目に巻き込んでいいのか?ヤツのことだから、話せばきっと戦場にまでついて行くと言い出すだろう。だが雄二は知恵に優れ頭の回転も早く、そして東郷夏彦のことを誰よりもよく知っている。協力を仰げばきっと俺では気づけない妙案を出してくれる可能性が大だ。
朝日が昇り、辺りが完全にが明るくなった頃、俺は決断した。もしもこの事を話さないで魔物軍との戦いに行けば、俺が生き残ろうが、死んでしまおうが、雄二は決して俺を許さないだろう。そしてもしも俺たちが負けてしまえば、雄二の命も危険にさらされる。それならいっそ話してしまえ!。その考えに至った俺は、すぐに行動に移す。
そして今、雄二の部屋にいる。
「ヒロシくん、僕は君が話してくれた事、全て信じていいんだね?」
「ああそうだ、俺の話を全て信じてくれ」
「……わかった。それでその作戦はいつ決行されるの?」
「なにせ昨日今日の話だからそれはまだわからない。それに俺の策が取り入れらるとは限らないしな…」
「そうか、それじゃまだ準備する時間がありそうだね、それから大丈夫。君の策はきっと採用されるよ」
「ちょっと待て、準備ってなんの準備だ?」
「もちろん戦地に赴く準備だよ?」
「いやいや、お前は俺に知恵を貸してくれるだけでいいんだ。別に戦地に来なくてもいいだろう。それにお前は自衛隊の部外者だぞ、許可が降りるとは思えん」
「は〜なにを言うかと思えば君らしくもない…。いいかい、これがプログラムされた戦争ゲームなら電話でアドバイスでもいいさ。でも君が言う戦いは現実のものなんだろ?…敵の魔物も命懸けだ、なにをしてくるかわからない。その場で状況を見て、戦闘でぶつかり合う音を聞き、弾薬や血の匂いを嗅ぎ、地響きを感じ、そして自分や敵の血を舐める。五感をフル稼働させないと、いい知恵なんて出てこないよ!」
「……お前自分で言ってて顔が真っ青どころか真っ白になってるぞ」
「ああ、自分で言ってて物凄く怖くなったよ。でもね僕は間違ったことは言っていないと思うんだ。だから絶対に曲げないよ!」
「ん〜でもな〜こればかりは俺の一存では決められないんだ。作戦の立案者である俺ですら同行を説得するのに骨が折れたんだぞ……」
俺はなんと言って雄二を説得するか困っているとスマホの着信音が鳴る。
『ピロロロロ、ピロロロロ………』
「うわっ!びっくりした!!!」
スマホの着信音に驚いて、あぐらを組んで座ったままの状態で飛び上がる雄二。
器用なヤツだ…。
スマホの表示は大吾からだった。
「雄二…。スマホの音ぐらいでビビってて、戦場に行くだなんて本当に大丈夫か?まあいい、電話に出るからちょっと待っててくれ…」
ピロロロロ………ピッ
「もしもし大吾か?どうした?」
『あーヒロシ、悪いな、ちょっとトラブルがあってな、今から田所家に来れないか?』
スマホから聞こえる大吾の声は、トラブルがあったと言うわりには落ち着いていた。
「トラブル?大丈夫なのか?何があった?」
「ああ、大丈夫は大丈夫だ。今はまだ眠っているしな」
「眠っている?誰がだ?」
「ああ、すまんすまん。今朝、道で倒れた小鬼を拾ってな。死にそうだったんだけど今は落ち着いて眠っているんだ」
「小鬼っ!?ゴブリンのことか!?」
「ああ、そうだ」
「お前なぁ〜。そりゃ一大事だろ!まあいい、美羽も一緒にいるんだろ?それならゴブリン一匹ぐらいどうとでもなるだろうけど…。お前たちに任せておくのは心配だな、よしすぐに行くよ。タクシー拾ったらまた電話するから、詳しい話しはその時にでも聞かせてくれ。それでいいか?」
「ああ、そうしてくれ」
俺は大吾からの電話を切ると、雄二に向き直る。
「すまん!急用だ。この話はまた後日連絡するから」
「何を言っているんだい?大吾くんのところだろ?僕も一緒に行くに決まっているじゃないか」
「ゴブリンがいるんだぞ。お前大丈夫かぁ?……」
「大丈夫だよ。だってそのゴブリンだって夏彦がらみだろ?だったら僕は一部始終最後まで見届ける義務がある」
雄二のメンタルは薄氷のよう薄いが、なのに夏彦がらみとなると最後まで立ち向かおうとする。まぁいい連れて行こう。
こうして俺と雄二はすぐにタクシーを拾い、田所邸を目指した。
田所邸の目の前でタクシーを降り、チャイムを鳴らすが何も応答がない……。
玄関のドアノブを引くと施錠していなかったようですぐに開く……。
俺は雄二に目配せをして慎重に家の中に入る。俺の意図がわかったのか、雄二も足を忍ばせ、音を出さないようにそっとついてくる。
リビングから数人の声がかすかに聞こえてくる……。
田所邸はどの部屋も防音仕様だ。特にリビングはホームパーティやホームシアターを大音量で楽しむため、防音効果は有名音楽スタジオと同等クラスだ。なのに、廊下まで音が漏れ聞こえてくる……。
リビング内で何が起きている…?何か言い争っているのか…?
覚悟を決めて、そっとリビングのドアを開く。
「「「「ワハハハハッ!!!」」」」
「ヒィー!ギョギョギョ!ってなんだよぉ!ワハハハ!」
ドアを開いた途端、笑い声が廊下中に響き渡る。
俺が開いたドアはゆっくりと全開され、そこで呆気に取られて呆然と立ち尽くしている俺を認め、田所のお父ちゃんが声をかけてくる。
「おー!ヒロシじゃないか、そんなところで突っ立ってないで、早くこっちにきて座れよ!」
「あっヒロシくん!聞いて聞いて。この子ったら面白いの!この子の友達がねっ、間違ってお尻を蹴飛ばされて湖までヒューて飛ばされて、ドボンっと落ちちゃうんだけどね、浮き上がってきたらナント!魚を咥えて出てきたの。それで間違って蹴っちゃった男の人が「ギョギョギョ!」て叫んだらしいの!ブッ!ねっ?面白いでしょ?」
美羽は俺を見つけると、半笑いで矢継ぎ早に話しかけてくる。
「はははっ…そいつはとんでもなく愉快だな……」
いったいなにが面白いんだ?……と思ったが、予想外の展開と美羽の勢いに負けて、ついそんな言葉を口にしてしまう。
そんな間抜けな返答をする俺を、でっかいローテブルを挟んだ、これまたでっかいソファに腰を下ろした5人が、コーヒーカップを片手に、満面の笑みで見つめてくる。
手前から田所のお父ちゃん、大吾、美羽、田所のお母ちゃん…そしてゴブリン…。
「んっ?ゴブリン?」
思わず声が出た俺に大吾が答える。
「そうだよゴブリンだ。この子が電話で話したゴブリンで名前はピロッシて言うらしいんだ。ヒロシとピロッシ。なんだか似たような名前だなって、盛り上がっちゃってさぁ。なぁピロッシ?」
「えっ?この人がヒロちゃん?え〜初めましてピロッシっす!」
「…………あ〜ピロッシだったか?とりあえずお前は黙っててくれ。俺はコイツらに聞きたいことがある」
えっナニ?って感じで、5人が5人とも同じようにちょこんと小首を傾げて俺を見つめてくる。
「えっナニ?じゃねーよ!なんでお前たちは敵であるゴブリンと楽しくお茶してるんだ!?」
「なんだヒロシ!?ピロッシは敵なのか?」
「なに言ってんのあなた、ピロちゃんが敵なわけないでしょ!ピロちゃんはただのゴブリンなのよっ!」
「そうだよな。ただのゴブリンが敵のゴブリンなわけないよな!」
「ハァ〜〜〜〜〜〜〜〜!」
能天気なお父ちゃん、お母ちゃんの会話に深いため息と強烈な頭痛が襲ってくる。
「まぁ、まぁ、ヒロシ、落ち着けって。俺がちゃんと説明するから…」
俺を宥めようと大吾が話し出す。
「お前がタクシーからかけてきた電話を切った後すぐに、ピロッシが意識を取り戻してな。もちろん俺と美羽は警戒したよ。だけど目が覚めたピロッシが突然お腹を抱えて苦しそうにするから、「どうした!?」と尋ねるとコイツが「お腹が減って死にそうっす…なにか食べ物を恵んでもらえないっすか?」って言うもんだから……」
そこまで話して大吾は責任転嫁するようにお母ちゃんを見る…。
「そうよ、お腹を減らしている子供を見過ごすことなんで出来ないわ!私が食べ物を出したのよ。だけどまだ朝食の準備が済んでいなかったから、とりあえずこれでも摘んでおきなさいってお菓子を出してあげたの。そしたらこの人が………」
お母ちゃんは、またもや責任転嫁するようにお父ちゃんを見る…。
「いやいや、俺なのかっ?…いやでも確かにお茶にしようと言い出したのは俺だけど…。俺はほらっ深夜まで執筆してたから遅くに夜食を食って腹が減ってなくてな。たまにはこんな朝食もよかろうって…。あ!それに大吾と美羽は朝食すませてたし散歩帰りだったから「お茶?いいね〜」て喜んでいたよな?」
そう言って救いを求めるように大吾と美羽を見る。
「ハァ〜、もういいよ、わかったよ。それでそこのゴブリン、ピロッシは今の所危険はないんだな?…まぁ腹でナニを企んでいるかはわかんねーけど」
「ナニを言うの?ヒロちゃん!ピロちゃんはいい子よっ!」
「そうっすよヒロちゃん、おいらはいい子っすよ!」
「お前が言うな!それにヒロちゃん言うなっ!」
はぁ〜どうやらお母ちゃんはピロッシを随分気に入っているようだ……多分ここにいる俺以外の全員も…。んっ?俺以外?あっ雄二がいたのを忘れてた!
雄二の存在を忘れていた俺よりも早く、大吾が雄二に気が付く。
「おっ雄二!お前も来てたのか?」
ドアの影に身体半分だけ隠した雄二が、真っ白になってそこに立っていた。恐らく本物のゴブリンにビビっているのだろう…。
大吾の言葉にその場にいるもの全員が一斉に雄二に顔を向ける。
「「ヒッ!」」
まただよ……。
雄二と初めて会う人は、たいがい雄二を見た時に小さく悲鳴を上げる…。
「大丈夫!大丈夫!こいつちゃんと生きてっから。」
悲鳴をあげたお父ちゃんお母ちゃんを落ち着かせる。
「ゴブリンのピロッシを見た時もさほど怖がらなかったお父ちゃんお母ちゃんをこれほど怖がらすなんて…。雄二、お前なにか特別なスキルでも持っているのか?」
おいおい大吾!悪気はないんだろうけど、思ったことなんでも口にすんなっ!
「べっ、別に怖がったわけじゃないぞ!ただビックリしただけだ。決して幽霊がいるっ!て思ったわけじゃないぞ!……えっとそうか君が雄二くんか!さあこっちにきてソファに座りなさい。母さんお茶出してあげて」
お父ちゃんフォロー入れているつもりだろうけど本心はダダ漏れだ…。でもそうか!初めて雄二を見た人は、雄二のことを幽霊だと勘違いするんだな。俺は雄二が死んでいるようだから驚いていると思っていた。今後の「雄二を普通に紹介する作戦」のヒントになるかもしれないな…。
「こっこんにちは。おっお邪魔してます…」
雄二は大吾とお父ちゃんに挨拶しただけで、なんのリアクションもとらず、ただただピロッシを警戒しながらソファに浅く腰掛けた。
尋常じゃないぐらいビビっているのに、ちゃんと立ち向かうところがコイツのスゴイところだ。
「さて、それじゃメンツも揃ったことだし、ピロッシの尋問といきますか!」
「ちょっと待って!そんな尋問だなんて物騒な…ピロちゃんを警戒するヒロシくんの気持ちもわかるけど…なんて言うか。あっそうだ!その前にピロちゃんの「ギョギョギョ」の話しを聞いて!お願い!そうすれば肩の力も少しは抜けるはずよ」
「そうだな、美羽の言うとおりだ。ヒロシ、お前はピロッシのことを疑ってかかっているようだな。そんな先入観の塊で話しを聞いても、見えるものも見えなくなるぞ」
美羽とお父ちゃんが畳み掛けるように俺の説得にかかる。
「ギョギョギョ?ああ…それならさっき美羽から聞いたじゃないか」
「違うのよ!私から聞くのと、ピロちゃん本人から聞くのとでは…だからお願い!」
結局、美羽たちに押し切られて俺はピロッシから「ギョギョギョ」の話しを聞くこととなる。
そして5分後…………。
「ヒィ〜!!やめろ〜ピロッシ!俺を殺す気かぁ〜?」
俺はリビングの床に転げ落ちその場に蹲っていた。
笑いすぎて腹が捩じ切れそうだ!
ふと雄二を見てみると、あれだけ真っ白だったのに今では真っ赤になって「ギョギョギョって!ギョギョギョって!」と言いながら爆笑していた。
俺と雄二以外のヤツらも、話しを聞くのは二度目というのに、目に涙を浮かべながら大笑いしている………。
ドンッ!バアァンッ!!!
その時、突然リビングの扉が勢いよく開き。
「お前たち無事かっ!?」
立花のオヤジさんと自衛官数人がリビングに雪崩れ込んでくる。
オヤジさんと後ろにいる自衛官は拳銃をかまえ、いつでも発砲できる体制だ。
「ちょっ!ちょっと待った!待った!」
俺は慌てて飛び起き、両手をあげて待ったをかける。
「いったいどうなっている?…」
オヤジさんと自衛官の人たちは俺と同じように呆然とその場に立ち尽くしている。
「何度も呼び鈴を鳴らしたんだぞ!それなのに何も応答がないから…」
「まぁ、まぁ、慎ちゃん落ち着いて…。自衛官の皆さんもそんな物騒なものはしまってください。ここに危険は全くないから。ちゃんと説明するから」
お父ちゃんもソファから立ち上がると両手を広げてオヤジさんたちに話しかける。
「そうだ!ゴブリンはどうしたっ?」
「お父さん落ち着いて。ゴブリンも危険ではないから」
オヤジさんの問いに美羽が答える。美羽と大吾はピロッシを守るようにピロッシの前に立ちはだかっている。
「まぁ心配して急いで来てもらってて悪いが、とにかく座ってくれ。」
「はいはい、皆さ〜ん。コーヒー入りましたよ〜」
いつの間に向かっていたのか、お母ちゃんと雄二が人数分のコーヒーカップを乗せたトレイを持ってキッチンからリビングに入ってくる。
その様子にオヤジさんたちも、ナニがナンダかと言うような顔をしながら、渋々とソファーに腰を落とす。
「「「「「「「「「「ズズッず〜…………………」」」」」」」」」」
リビングにいる全員、ただただ黙ってコーヒーを啜る。
その沈黙を見計らって俺は口を開く。
「オヤジさん、頼みがある……。」
「なんだヒロシ?」
「ナニも言わずにそこのゴブリンの「ギョギョギョ」の話しを聞いてくれないか?」
「ギョギョギョ?なんだそれは」
「まぁいいから、騙されたと思って言う通りにして欲しい。そうすればここにはなんの危険も無いってことが理解してもらえると思うから…」
そう言うと俺はピロッシ目配せする。ピロッシも心得たとばかりに深呼吸をして、心を落ち着け、話しの準備をする。
オヤジさんたち自衛官の皆さんは、まるで今からこの世の終わりの話を聞くような面持ちで、真剣にピロッシと向き合う。
そして5分後……………。
ゴロゴロッゴロッ!
オヤジさんはリンビングの床を転げ回っていた。
ゴンッ!!!
あっテレビ台の角に頭をぶつけた!
「イタッ!……クッ!クックックッ……アハハハハハッ!ギョギョギョって!ギョギョギョって!ブハッ!ブハハハハッ!」
同行した自衛官の皆さんも職務中であるからと思っているのか、ソファの上で身体を丸めて、笑いを必死に堪えている。
リビング全体が笑いに占領されている中、俺は大笑いしながらも、ふとある考えに至る…。
「まさか…この爆笑の原因。ピロッシがなんらかの魔術を使っているのか?……」
《《クックックッ………。ハァ、それは違うぞヒロシよ》》
「「「青鬼のおじちゃん!?」」」
青鬼のおっちゃんの登場で、リビングを占領していた笑いがピタッと止まる。
「なんだよ、また聞いていたのか?おっちゃん……」
《いや、すまぬ、すまぬ。だがいつでも聞き耳立てているわけでは無いぞ。ヌシらにもプライベートというものがあるからな。我がヌシらの様子を見にくるときは、そこな兄妹が身の危険を感じた時だけだ。ふたりの心が危険を察知して心が乱れた場合のみ、我の心と同調するようにしているのだ。今回もその乱れを感じたので様子を見に来た》
「ふ〜ん、なるほどね。それでおっちゃんは違うって言ったよな?何が違うんだ?」
《ああ、ヌシはピロッシの魔術を疑っておったが、それが違う。ピロッシは魔術を使うために必要な魔素を蓄積する臓器がかなり小さい。それはピロッシがほとんど魔術を使えないということを示している》
「そうなんだぁ、ちょっと安心したよ…それじゃピロッシはただ単にお笑いのセンスがいいってことだけなんだ…」
《うむ、だがそれだけでは無いぞ。そこなピロッシは魔術が使えない代わりと言ってはなんだが、特殊な能力を有しているぞ》
「特殊な能力?」
《そうだ、ピロッシは極めて稀有な能力「言霊使い」の能力を有しておる》
「言霊使い……」
《言霊使いとは、己が発した言葉に己の感情を強くのせることができる能力だ。例えば、今回のように皆を笑わせたのは、こやつが面白いと感じたことを皆に共感してほしいと強く願ったために、発した言葉にその感情が上乗せされ、皆の可笑しいと思う感情が増幅されために余計に笑ってしまった。というところだろうな》
「お笑い芸人にとっては喉から手が出るほど欲しい能力だなぁ…」
《だが、笑いだけでは無い。こやつが信じて欲しいと心から願う人物に真実を伝えると、それを受け取った人物はその言葉に嘘は無いと感じてしまう。しかしその逆もある。こやつが騙そうと強く思って発した言葉には、そのまま騙そうと言う感情が乗ってしまうので、いくら真しやかな話でも、受け取った人物はどうしても疑念の感情が湧いてしまう》
「ということは、コイツの言葉に疑念を感じなければ、それは全て本当のことを言っている。とういうわけなんだな!」
《そうだ、そして最後にこの能力の最大の利点は言語能力の圧倒的な優位性だ。こやつはたとえ、全く理解できない会話でも聞いているうちに理解できるようになる。書物などの文字に対してもその能力は発揮され、見たことのない文字でもただ眺めているだけでその文章が理解できるようになる。こやつが異世界で生まれ育ったにも関わらず日本語を使いこなすのはその能力のおかげだろう》
「へ〜それは凄いな!」
俺は賞賛を込めてピロッシを見る、それにつられてみんなもピロッシの方をみるが、当の本人はなんだかモジモジしていた。
「どうしたトイレか?」
「ちがうっすよ!…ただ、さっき青鬼って言葉を聞いて…。もっもしかしてこの念話のお声の方は、皇帝陛下じゃなくて…もしかして青鬼神様でしょうか?」
《……いかにもその通りだ。お前たち魔物が言うところの神である》
「やっやっぱり!!!うっうううう…!ご主人様ぁ……」
そう言うとピロッシは膝を床につき、胸の前で手を組み、首を垂れて泣き出してしまった……。
「どっどうしたの?ピロちゃん!」
「グスンッ、大丈夫っす!青鬼神様お願いです、どうかおいらを仲間に入れてください!!」
《いきなり仲間と言われてもな。どう言うことか聞かせてもらおう…》
急に泣き出し、仲間に入れてくれと懇願するピロッシに流石の青鬼のおっちゃんも事情がわからず困惑している。
笑ったり、怒ったり、泣いたりと、目まぐるしく変わる状況に困惑しながらも、全員ソファに深く座り直し、ピロッシの話しを聞くことにした…………。




