挑戦の時
領地が少しずつ発展していく中で、目に見える成果が増えてきた。しかし、それと同時に、問題も次々と浮上していた。特に、周辺諸国との関係が気になるようになってきた。
隣国との戦争と休戦が繰り返される中、領地の立地が微妙に不安定になりつつある。避難民の流入が増加し、受け入れにも限界が見え始めていた。
「ここも、いつまで安全でいられるかわからないな」
リサと共に領地の外壁を強化する計画を立てているとき、俺は思わず呟いた。安定して食料を供給できるようになったとはいえ、周辺国との戦争が再開すれば、領地は果たして守り切れるのか。その不安が胸をよぎる。
「準備を整えておく必要がありますね。戦争に巻き込まれる前に、防衛体制を強化しないと」
「そうだな。防衛のための技術や武器を整える必要がある。工業技術を使えば、強力な防衛力を作ることができるはずだ」
俺は、まず城壁の建設に着手することにした。木材と粘土を組み合わせた簡易的な築造壁に始まり、数日をかけて、土を突き固めた上に丸太を並べ、城壁の基礎を築いていく。
「防御設備だけでなく、火器の開発も急がないと…」
火器といっても、銃のような複雑な構造の武器はまだ不可能だ。しかし、火薬の製造には成功していた。俺は火薬と竹筒を使った「火槍」の試作を進めることにした。火槍は、先端に火薬を詰め、点火と同時に火炎と爆音を噴き出す武器で、敵に対して心理的な威嚇効果も高い。
さらに、陶器の容器に火薬と金属片を詰めて密封した爆弾――「てつはう」に似た投擲武器も開発。これを使えば、集団で接近してくる敵に対して有効な一撃を与えられる。
住民たちには基本的な扱い方を教え、訓練を始めた。女性も年配者も、火槍を構え、てつはうの投擲訓練に励む。戦闘力というよりは「守る意志」の象徴としての訓練だった。
そんな矢先、隣国との戦争が再び勃発したという知らせが届いた。
「これは…まずい。今はまだ準備が整っていない」
リサと共に情報を整理し、俺はすぐに判断を下した。完全ではないが、最低限の防衛力はある。戦うしかない。
数日後、侵略者の軍勢が領地に迫った。こちらの準備は万全とは言えないが、堅固な城壁と、即席の火器を配備した防衛ラインはすでに構築されていた。
「火槍隊、準備!」
俺の号令と共に、竹筒を構えた住民たちが城壁の隙間から先端を突き出す。敵が射程に入った瞬間――
「点火!撃て!」
ボッ――!と炎が噴き上がり、爆音と共に火炎が飛び出す。敵兵は思わぬ攻撃に驚愕し、一部は足を止めた。続けて、てつはうが放たれ、轟音と破片が敵陣に降り注ぐ。
「この調子で守り切れ!」
住民たちの士気は高く、即席の防衛戦としては驚くほどの成果を上げていた。敵は火器の音と威力に動揺し、一時的に退却を始める。
数時間の激闘の末、敵の侵攻は食い止められた。領地は無事だったが、俺はこの勝利に酔うことはなかった。
「これで一時的には守られた。だが、次の攻撃に備える必要がある」
火槍とてつはうは、原始的ながらも明確な成果を上げた。次はより洗練された防衛兵器を開発しなければならない。住民の訓練、資材の確保、そして何より、この土地に「生きていける」確信を根付かせることが必要だ。
リサが俺の隣で静かに言った。
「今日は、私たちの力が証明された日です。でも、これからが本当の試練です」
「その通りだ。俺は――絶対にこの領地を守り抜く」
俺たちは、煙の立ち込める空の下で、次の戦いに備える覚悟を固めていた。