都市の胎動と外の脅威
「これ、もう“村”って規模じゃないよな……」
クロエが地図の上で指を走らせながら、ポツリと呟いた。
ユウトの領地は今、かつての荒れ地とは似ても似つかない姿へと変貌しようとしていた。蒸気機関の本格稼働によって工房の生産力は跳ね上がり、量産と精密加工が可能に。プレハブ住居に加え、蒸気ポンプを使った給水・排水インフラが街区単位で整備され始めた。
煙突から上がる白い蒸気、地面を走るトロッコ、忙しく往来する荷車と人々の声。
それはもう、れっきとした都市の胎動だった。
「じゃあ、次は都市設計だな」
ユウトは、広げた設計図に新たな区画を描き加えていく。住居エリア、工業エリア、行政エリア、そして中央にそびえる予定の“鉄塔”を中心とした都市インフラの青写真。蒸気と鉄、そして人の営みが交差する“動力都市”を目指していた。
「街路は車輪を基準に幅を統一、地下に配水と排水の管を通す。あと、街灯……夜間も作業できるようにしたい」
「じゃあ、油か、蒸気式の発光機かな」
リサが明るく答えた。クロエは苦笑いを浮かべて、リサに目を向ける。
「リサは相変わらず現実的だな」
「夢だけじゃなくて、実現できるかどうかも大事よ」
リサが自信たっぷりに言うと、ユウトは微笑みながら答えた。
「いずれはガス灯や電灯も視野に入れる。……ま、そこはもう少し先か」
そんな中、領地の門に一団の訪問者が現れた。
擦り切れたローブ、魔術の印が刺繍された装飾。魔導国からの亡命者だった。案内された会議室で、彼らは静かに頭を下げる。
「我々は、あの国に未来を感じられなくなった。だが……貴殿の地には、希望がある」
「俺たちは異端とされ、迫害されてきた。だが、技術と知識を交換できるなら、協力したい」
ユウトは一瞬だけ迷い、それから頷いた。
「歓迎するよ。ただし――力を合わせる気があるならな」
その夜。
クロエとリサ、そしてユウトは高台から街を見下ろしていた。蒸気の音と光が、闇の中でも確かに脈動していた。
「これ……守れるの?」
クロエが心配そうに訊ねる。
「だから作るんだよ。壁と、目と、牙をな」
ユウトは、手元のノートに新たな構想を書き込んでいた。鉄道による防衛網、蒸気駆動の監視塔、対侵入用の簡易兵器。
「文明には、守る力が必要だ。便利さを奪われないために」
リサも頷きながら言った。
「都市の成長は加速するけど、危険も増える。準備は怠れないわね」
クロエは少しだけ微笑み、
「じゃあ次は、“都市を守る技術”ってわけだ」
「そうなるな」
そして、夜の風が吹いた。
遠く、領地の外――密かに、軍靴の音が響き始めていた。
ユウトは気づかない。ただ、自分の都市を描き続けていた。
この作品は一旦、筆を置いています。
現在、新しい構想のもとすべてを書き直しています。
完成までは時間がかかりますが、本気で取り組んでいます。
いつかまた、進化した物語でお会いできたら嬉しいです。