荒れ地との邂逅
護衛もなく、馬車一台と最低限の食料だけを与えられ、俺は北の領地へと追い払われた。
王都を出て三日、ようやく辿り着いた先は――
「……本当に、なんもねぇな」
見渡す限りの荒野。枯れかけた雑草が風に揺れている。小高い丘と、崩れた石垣の跡。
森はなく、水場も見えない。動物の気配も薄く、空だけがやけに広く感じられた。
俺一人きりだ。荷馬車の御者も、物を降ろすとさっさと王都へ引き返していった。
とりあえず荷物を確認する。食料三日分、干し肉と硬いパン、水。簡易な鍬とスコップ。
野営用のテントすらない。ここから“生きろ”と? 冗談にも程がある。
「……やるしか、ないか」
ブラック工場に比べりゃ、空気はきれいで静かだ。誰にも怒鳴られないし、納期もない。
むしろ、“何もない”からこそ、俺のスキルで作り上げるにはうってつけの環境だ。
(さて。工業技術Lv1で、何ができる?)
スキルウィンドウを開くと、浮かび上がる一覧。
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[工業技術Lv1:概要]
・手動工作技術(木材加工、簡易金属加工、器具製作)
・生活設備(掘っ立て小屋、かまど、井戸掘り)
・道具作成(鋸、鍬、ハンマー、簡易工具)
・燃料利用(薪、炭の生成と使用)
・簡易設計図の作成
「よし……最低限、生きるための“道具”は作れるな」
その日、俺は最初の夜を迎える前に、簡易な小屋の基礎を組み始めた。
――この地に、灯りをともす。
俺だけの、“産業革命”が始まる。