新たな技術と未来への一歩
反乱の鎮圧から数日後、かつて反乱側についていた魔法使いの一部が投降を申し出てきた。
「私たちは騙されていたのです。あの儀式は“癒し”ではなく“呪い”だった」
彼らの言葉に嘘は感じられなかった。魔法という存在そのものを否定するのではなく、使い方を誤った結果が今回の悲劇を招いたのだ。
「ならば協力してもらおう。魔法と工業の力が手を取り合えば、もっと大きな成果が得られるはずだ」
俺は彼らに、工業技術との融合研究を提案した。賢者たちは驚きながらも、可能性を感じていた。
新たな研究が始まった。
魔力を安定化させる水晶と、電力を変換・蓄積する初歩的なバッテリーを組み合わせた「マナ・コンデンサー」。これにより、魔力によって機械を駆動させることができる装置が誕生した。
「これがうまくいけば、エネルギー問題も大きく変わるぞ」
この技術は、まだ試作段階ではあるが、火力発電に頼らずともエネルギーを得られる可能性を秘めていた。領地の発展に新たなブーストをかける発明だった。
戦いで傷ついた領地は、少しずつ復興し始めていた。魔法使いたちの協力もあり、破壊された農地は再び耕され、医療魔法の支援によって住民たちの健康状態も改善していく。
「ここはただの村じゃない。未来を切り開く工業都市になる」
俺は新たな都市計画を立ち上げた。単なる回復ではなく、未来を見据えた発展が必要だった。
上下水道の整備、人力や風力を利用した灌漑装置の導入、燃料式の照明設備による簡易な夜間インフラの整備が開始され、都市らしい形が見え始める
灌漑装置とは、農地に水を供給するためのシステムであり、ここでは人力で水を引くための装置が導入された。水車や手動ポンプなどの仕組みを使って、井戸から水を汲み上げ、それを農地に供給することができるようになった。このシステムの導入により、農業の生産性が向上し、干ばつによる被害を軽減することが可能となった。
工場跡地では、軽工業に近い生産活動が始まった。
リサたちが管理する衣料品工房では、魔力糸と呼ばれる素材を用いた衣類が人気を博していた。また、反乱で生じた瓦礫や廃材を再利用して建築資材を加工する施設も稼働を始める。
「物資がないなら、工夫すればいい。無から有を作るのが、俺たちの技術だ」
工業技術Lv1の限界を超えつつある手応えを、俺は感じていた。
そんなある日、一人の少女が領地に現れた。身なりは粗末だが、背中には魔導国の紋章がある。
「……あなたが、この領地の領主ですか? お願いがあります」
彼女は、魔導国の内戦から逃れてきた亡命者だった。内戦の影響で、近隣諸国の緊張が再び高まりつつあることが伝えられる。
「また戦争の火種が……」
平和が訪れたと思ったのも束の間、世界は再び不安定さを増していた。
その夜、俺の体に異変が起きた。工業技術Lv1のスキルが、音もなく変化する。
【スキル『工業技術Lv1』の成長条件を達成しました】
【新たなスキル『工業技術Lv2:蒸気と動力』が解放されます】
文字が脳裏に浮かぶ。ついに次のステージに進むときが来た。
「よし……ここからが本番だ」
産業革命の幕は、ようやく開けたばかりだった。