第1話 スキル授与と追放
ガタン、と石畳に膝をついた。
――俺は、異世界に転生したらしい。
……劣悪な環境の中、金属音が響くあの工場。休日出勤、長時間労働、機械油にまみれた日々。最後の記憶は、ラインの異常を直しに入った機械の中、突然落ちてきたアームの下敷きになったことだった。
その次に目を覚ましたのが、このどこかファンタジーじみた空間。
ここは「エストレア王国」。転生した俺――名を「ユウト」と与えられた――は、貴族の次男として生まれた。だが、それも今日で終わる。
「――スキル授与の儀を始める。静粛に」
神殿に響く司祭の声。祭壇の上に立ち、ひとりずつ名前を呼ばれていく少年少女たち。スキルの光に包まれ、祝福の言葉を浴び、歓声が上がる。
「ユウト・グランディール」
俺の番が来た。
胸の奥で何かが震える。これは運命か、それとも再びの試練か。
スッと意識が空に引き上げられ――視界が白に染まる。
そして次の瞬間。
《授与スキル:工業技術Lv1》
……は?
神殿に戻ると、沈黙が場を支配していた。
「……なんだ、それは」
「聞いたこともない」
「“工業”……? 職人スキルか?」
貴族たちはざわめき、司祭ですら困惑した顔をしている。俺だけが、そのスキル名を見て震えていた。
――やっぱり、持ってきたんだ。俺の世界の技術と知識。
それを確信した瞬間だった。
だが、誰もそれを理解できるはずがなかった。父は失望をあらわにし、兄は嘲笑った。
「こんな外れスキルの者をグランディール家の名に置いておけるか。ユウト、貴様は今日限りで破門だ」
そして、与えられたのは、北の荒れ地。人も住まず、草木も育たぬという捨て地。
だが――俺は、うつむかなかった。
(いいだろう。なら、ここから始めてやる)
この手にあるのは、“工業技術Lv1”。ブラック企業で叩き込まれた知識と技術。そして、何もないからこそ、何でも作れる自由だ。
革命の火種は、今、石ころだらけの地に落とされた――。