表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

女神様の使い、5歳からやってます SSホワイトデー

作者: めのめむし

 クララはルッツ家を尋ねていた。

もちろんレーチェルと会うためだった。


「それで、あらたまっておはなしってなんですの?」

「もうすぐなのよ」


 その言葉に思い至ったレーチェルも頷く。


「「ホワイトデー!」」




「そうね、ミウちゃんはお返しは大体クッキーが多いって言ってたわ」

「そうですわね。クッキーがおおいとおっしゃってましたわ」

「「それで、クッキーって、どうやってつくるの?」」

「そこからなの、レーチェル」

「しりませんの? クララおねえさま」


前途多難であった。



「クッキーの作り方は料理長に聞くとして、肝心なことは……」

「かんじんなことは?」

「コンセプトを決めることよ」

「こんせぷと?」

「どんなクッキーを作りたいか。食べる人がどんな顔をして欲しいか」

「なるほど」

「私はみんなで危ない橋を渡りたい!」


不安になることを言った。



「えと、クッキーでしたわね?」

「ふふふ、クッキーよ」

「クッキーはふつうあぶないはしは、わたりませんわよ」

「普通わね。でも、ホワイトデーのクッキーくらいあぶない橋渡りたいじゃない」

「なぜ???」

「ホワイトデーくらいあぶない橋渡りたいじゃない」

「いいかたをかえても……」



「クララおねえさまはたまにネジがはずれますわ」

「え? 何か言った?」

「なんでもありませんわ。それで、なにをするつもりですの?」

「それはね……ぺジアンクッキーよ」

「なんですのそれは」

「ペジアは大陸の東の国よ。ペジアンはそこで流行っている度胸試しよ」



「どんなどきょうだめしですの?」

「クッキーで言うと、例えば10枚のクッキーを作ったら、その中に……」

「まさか、1まいだけハズレをいれますの?」


 レーチェルは自分の予想が外れていることを祈る。


「いいえ、1枚だけ当たりを入れるの」


 レーチェルの予想は外れた……が。




「な、なんでそんなことしますの! おねえさまにきらわれますわよ」

「え、それは嫌よ。ミウちゃんに嫌われたら生きていけない」

「だったら、そのわけのわからないどきょうだめし、やめてください」

「やめるわけにはいかないのよレーチェル」

「どうしてですか!」

「私たちのためだから」



レーチェルはクララの真剣な目に不本意ながら理由を聞くしかなかった。


「どう言うことですの?」

「ペジアンにはジンクスがあるのよ」

「ジンクス?」

「二人以上でやってみんな当たりを引いたら、その仲は永遠に続くの」

「と言うことは」

「当たりを3つ入れてみんなでやるのよ」



 レーチェルは息を呑む。


「……みんなでやりますの?」

「そうよ、みんなでやって当たりを引くの。そうすれば私たちは永遠に仲良しなのよ」

「まあ、ステキですわ」


 レーチェルが食いついた。


「でも……うまくいくのかしら」


 クララは自信満々で言う。


「大丈夫!」




「なぜなら、私たちには御使いのミウちゃんがいるから!」

「そうですわ。おねえさまのきょううんなら、きっとあたりをひきますわ!」

「そうよ。そして近くにいる私たちも当たりに決まっているのよ!」

「まちがいありませんわ!」


 なんの根拠もない「大丈夫!」だった。





「まずは材料集めよ。市場に行きましょう」

「はいですわ」


 二人は市場に来た。

市場には様々な食材が所狭しと並んでいる。

その中でも一番材料が揃ってそうな食材屋に来てみた。


「赤に黄色に緑に青。レーチェル見て、金色よ」

「これはにじいろですわ」

視覚的にも楽しかった。



「これは、この色合いを利用するべきね」

「どういうことですの?」

「この色のクッキーを作るのよ」

「え、クッキーのみためがこのいろってことですの?」

「そうよ」

「でも、そうすると、最初からどれがはずれかわかってしまいますわ」

「実は、色は同じでも正反対の味が2種類ずつあるのよ」




「まあ、たしかにおなじいろのものが2しゅるいありますわね」

「そうでしょ。1つは甘くて美味い。もう1つは色々あるわね。

激辛が赤、激苦が緑色、激酸が黄色、激渋が茶色、激冷が水色、激魔が紫色……

激魔ってなに?」

「あー嬢ちゃん。劇魔ってのは魔力味って言って、最近発見されたんだ」




「そうなの。店主さん、どんな味がするのかしら」

「味見するかい?」

「いえ、結構よ。これを使ってみるわ。紫色でいかにもな感じなのよね」

「クララおねえさま、ほんとうにかいますの?」

「ええ買うわよ。店主さんその赤いのと紫色のと虹色のを甘いものと刺激的なものセットであるだけ頂戴」




「けっきょく、げきからとげきまとにじいろ、ふたつずつしか、かいませんでしたわね」

「ええ、思いついたの。みんなそれぞれ一色を選び、美味いか不味いかを取るのよ。

二つに一つ。これこそがミウちゃんが言っていたハンチョウバクチよ」


違うが突っ込む者はいなかった。




ホワイトデー当日。


この日になるまでに皇城の厨房からは頻繁に異臭騒ぎが報告された。


料理長は元はふくよかなイケおじだったが、今はやつれて見る影もない。


反面、入り浸っていたクララとレーチェルはツヤツヤで満足げな顔をしていた。





 クララとレーチェルは待ち合わせの広場に夕方前に着いた。


 二人が広場で待っていると、たくさんの箱や包み紙を持った者が前も見えないでヨタヨタと歩いてきた。

二人が誰かを確認すると、予想通りというか、美羽だった。


「ミウちゃん、どうしたのそれ」

「えへへ、みんなにもらっちゃった」




 美羽によると、バレンタインの後、住人の一人に聞かれて、ホワイトデーのことを言ったら、それが広まってお返しの山になったらしい。


 そうしている間にも……。


「ミウちゃんこれ」

「ミウちゃんいつもありがとうね」

「天使ちゃんお返しな」

「おねえたん、どうぞ」


どんどん増えていく





「す、すごいですわね」

「でも、ミウちゃんきんちゃんの異空間収納とか収納リングとかあるでしょ。しまわないの?」


 すると、美羽は照れ臭そうに笑った。


「えへへ、二人に見せて自慢したかったの」


 それを聞いた二人は目を丸くする。


「うふふ、かわいい」

「かわいいですわ」





 しばらくその場にいると、ようやくお返しに来る人がいなくなった。


「それじゃあ、私たちも」

「あっ、私行きたいところがあるの」


 クララとレーチェルは顔を見合わせる。


「「どこへ?」」


「着いてきてからのお楽しみ。行こ」


 二人は美羽の後についていくことにした。





 美羽に連れられて、着いたところは大聖堂の鐘楼だった


階段を上がりながら、レーチェルが聞く


「こんなところにあがっていいんですの?」

「ふふん、大司教に許可とったからね」

「ミウちゃんならではね」


 鐘楼の階段を登り切った時に現れたのは、目の前に見える皇城と、美しい夕日だった







 茜色に輝く皇城の向こうには、赤く染まった山脈が見える。

手前を大型の鳥の群れが飛んでいく。


早春の夕暮れ、うららかな風が心地いい。


「うわぁ、きれいですわ」

「本当ね。皇城をこうやって見るのは初めてだわ」


 クララとレーチェルは、美しい景色に目を奪われた。





「ミウちゃん、これを私たちに?」

「うん、何か考えてくれてそうだったから、私からも気持ちのプレゼントだよ」

「おねえさま、うれしいですわ」

「ありがとう、ミウちゃん」

「えへへ、喜んでくれてよかった」

「「とってもうれしい!」」


 それを聞くと、美羽はとても嬉しそうな顔をした。




「ミウちゃん、私たちからはバレンタインのお返しがあるわ」

「わたしたちがつくりましたの」

「えー、なにかなぁ」


美羽が笑顔で聞く


クララとレーチェルは二人で花柄の可愛らしい箱の蓋を開け見せてくる


真っ赤なクッキー、紫のクッキー、虹色のクッキーが2枚ずつ入っている




 

「えっと、これは何かな?」


 クララはドヤ顔で言った。


「ペジアンクッキーよ!」


ペジアン……それは美羽の知識にもあった。


「い、一応聞くけど、当たりは?」





 美羽の笑顔が固まる

とても食べ物に見えない

美羽は恐る恐る聞いた


「3枚よ。私たちがそれぞれの色を一枚ずつ食べるの

半分はとても美味しいあたりよ。半分は……それはどうでもいいの」


 美羽は慌てた


「どうでもよくないよね。なんか刺激的な色だし。死なないの?」






「だ、大丈夫よ……多分」


 クララは目を逸らす


「で、ですわ」


 レーチェルは語尾しか言わない


「ぜ、全然大丈夫そうじゃないよね。え? え? これってホワイトデーなのよね」

「そうこれはホワイトデーなの。お返しよ」

「私、バレンタインの時に変なものあげたー!?」






「うわあああん」


 美羽が泣き出す。

まさか泣かれるとは思わなかったクララは焦って、何もできない


 そこでレーチェルが動いた。


「なくひつようなんてありませんわ。おねえさま!」

「グスッ、だって、私嫌われてるんだもん」

「きらってるわけありませんわ。むしろぎゃくです」





「逆? 私嫌われてるんじゃないの?」

「すきだからこのクッキーなんですわ。ね、クララおねえさま」


 呆然としていたクララがハッと我に帰る。


「そ、そうよ。ミウちゃん。ぺジアンクッキーにはジンクスがあるの」

「ジンクス?」

「そう、みんなで当たりを引けば」

「引けば?」





「私たちはずっと一緒にいられるのよ」

「ずっと一緒に?」

「そうですわ、おねえさま。わたしたちはおねえさまといっしょにいるためにこれをつくりましたの」


 レーチェルが美羽の手を取る。


「そうなの?」


 そして、クララが美羽の手を取った。


「そうよ。私たちのために作ったの」






 美羽が笑顔を取り戻す。


「そっかぁ。当たりが出たらみんないっしょにいられるんだ……でも」

「何?」

「ハズレが出たらどうなるの?」


 美羽がコテンと首を傾げる。


「大丈夫! ハズレが出ることなんてないわ」

「なんで?」

「ミウちゃんがいるからよ」

「え?」

「「え?」」






「私、普通に外れるよ。この間も市場でくじを外したし」

「「え?」」


 クララとレーチェルが心底驚いた顔をする。


「あはは、なぁに、その顔。むしろなんで外れないと思ったの?」


 美羽が二人を見ておかしそうにコロコロと笑う。


「クララおねえさま、ということは……」





クララが俯く

その顔は蒼白である。


「ご、ごめんなさい。私、なんて浅はかなことを……」


クララがぽつりぽつりと涙をこぼす。


「おねえさま、ごめんなさい。せっかくのホワイトデーなのに……」


レーチェルの目からも涙が溢れた。


「あはは、泣いてないで食べようよ」





「当たりが出たら、ずっと一緒にいられるんでしょ。私はこの虹色クッキーもらい!」


 美羽が虹色クッキーを手に取る。


 クララとレーチェルが涙はそのままに美羽をまじまじと見る。


「だって、ミウちゃん。ハズレかもしれないんだよ」

「やってみないとわからないでしょ。さあ、選んで」





 クララとレーチェルは美羽に言われるがままにクッキーを手に取った。


 クララが真っ赤なクッキーでレーチェルが紫のクッキーだ。


 「あはは、みんなクッキーじゃないみたいな色だねぇ」


 あっけらかんと笑う美羽にクララとレーチェルはようやく笑顔になった。


「さあ、クララ」




「うん。……それじゃあ、みんな。私たちがみんな一緒にいるために勝負よ。同時に食べよう」


「「「いっせーの〜」」」


 サクッ!もぐもぐ


「思ったよりも、美味しい……辛っ!?」


 クララが口を両手で押さえて顔をふる。


「あついあついあついですわ〜!?」





 レーチェルが自分の胸を何かを消すように叩いている。


 そして、美羽は


「苦っ!? いや渋っ!? 違う、すっぱ!? あ、つめた!?」


 激辛と激魔以外全ての味覚を堪能しながら、うずくまる。


 3人の絶叫が10分以上続いた。






「ふー、ふー、まだ口の中が辛いわ」


 クララはベロを出している。


「あついですわ。すごくあついですわ」


 レーチェルはまだ寒さが残る季節なのに肌着になる。


「ああーーーー、なんか色々な嫌な味が交互にくる〜」


 美羽は口を抑えてさまざまな味覚に襲われるのを耐えている




「ひどい目にあったわ」

「ひどかったですわ」

「ほんとひどいねぇ〜」


 3人それぞれ自分のひどい体験を思い出している。


「あはは、結局みんな外れちゃったねぇ〜」


 美羽の声にクララとレーチェルは落ち込む。


「ん? なんで、落ち込んでんの?」

「「だって……」」




 クララとレーチェルが再び涙目になる。


「「ごめん」」

「しーーーー」


 二人が謝ろうとしたのを、美羽の両手の人差し指が二人の口を塞ぐ。


「楽しかったでしょ……だから」



「二人ともありがとう」


 そういう美羽の笑顔は夕陽に照らされて美しかった。




「ミウちゃーん」

「おねえさま〜」


結局泣いてしまった二人の肩を美羽は優しく抱く。


「よしよし、二人とも泣き虫なんだから〜」

「ミウちゃんに言われたくなーいー」

「おねえさまほどじゃないですわ〜」

「あはは、それほどでもないよ」

「「ほめてないー」」




 二人が泣き止んだところで、美羽が二人にマグカップを渡す。


湯気が立ってて、まるでいれたてのようだ。


「これって……」

「ホットチョコレートだよ。飲むと落ち着くよ」


 美羽はすでに自分の分を飲み始めている。


クララとレーチェルも口をつける。


とても美味しい。甘さが沁みてくる。







二人が落ち着いたのを見て、美羽が話し始める。


「結局3人とも外れちゃったねぇ」

「「……うん」」

「でもさ、私たちはさっきまでよりも、もっと仲良くなったよ。そうでしょ」

「「……うん」」

「だからさ……」


 美羽が二人を見て言う。




「大成功だったね! ベジアンクッキーもホワイトデーも!」

「「うん!」」


クララもレーチェルも笑顔になった。


「これにて、一件落着!」

「前から思ってたんだけど、それなんなの?」

「そうですわ」

「内緒」

「ええー、なんなのよー」

「なんですのー」

「教えなーい」




3人が鐘楼できゃっきゃと騒いでいた頃、広場では……。


「「ミウ様はどこだ?」」

「「せっかくホワイトデーのお返しで僕を(私を)あげるのに」」

「君などミウ様はいらないよ!」

「こちらのセリフです」


 エルネストとカフィがいた


相変わらずの仲の良さだったが、今日もズレていた





「うーん、おねえさま〜」

「レーチェル酔っ払ってるの?」

「クララ、紫のクッキーって、もしかして魔力味?」

「そうよ」

「ああ、魔力味は子供が食べると酔っ払っちゃうんだよね」

「そうだったの!?」

「私の宿で一緒に寝るよ。クララも一緒に寝よ」

「うん!」


3人仲良く寝たのだった

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ