東京悪夢物語「隣人の音」
東京悪夢物語「隣人の音」
私の住んでいるアパートはボロい。
築50年は経っている。壁は剥がれ、雨漏りもする。
かなり住みづらいが、家賃28000円。都内でこんなに安いアパートは他にない。我慢するしかない…
ガガガガガ、
ギャーーァーー
うるさい、
今日も、隣人のゲームの音がする。
ガガガガガ、
ギャーーァーー
この音はバイオハザードだな。よくも懲りずに毎日やれる。
この音を聞かされる身にもなってほしい。頭がおかしくなる。この壁が薄いアパートでは筒抜けだ。
しかし、午後10時になるとピタリと止まる。何故だか解らない。
まあ、深夜まで聞かされるよりましだ。
だが、
もう反対側の隣人の音の方が問題だ。
ピチャピチャ、ピチャ
クチュクチュ、クチュ
何の音だかわからない音が聞こえる。大きな音ではないが気持ちが悪い。
何かを食べているような、何かをしゃぶっているような?
その音は、決まって深夜2時から聞こえる。
私は、その二つの音に悩まされ続けている…
ある日のこと、
ガガガガ、ガ、
ギャーーァ………ァ………ァ、、、
音が止まった。
バイオハザード隣人の音が静かになった。
「とうとう壊れたな、やりすぎるんだよ」
これで、穏やかな日々が送れる。
よかった、よかった、
後は、反対側の音だけか。
すると、
シュ、ぷふぁー
バイオハザード隣人が、ベランダでタバコを吸い始めた。
このアパートは禁煙だ。ベランダでも絶対禁止。ルールを守れよ!
ぷふぁー
タバコの臭いが部屋に漂う。
臭い、
ガラガラガラ、ガラ
ピンポンピンポン、ピンポンー
激しいチャイムの音。
バイオハザード隣人の部屋の方から聞こえてきた。
ガチャ、
ドアの開く音。
「いい加減にして下さい!タバコの臭いが部屋に入ってきます」
女性の怒った声。
「うるせぇなぁーベランダだぞ。ちょっとぐらいいいだろう」
「ここはタバコ禁止のアパートですよ。絶対やめて下さい」
「うるせぇなぁー」
バタン、
ドアを閉める音。
ダッダッダッ、バタン
足音は反対側の部屋へと入って行った。
反対側の隣人は、女の人だったんだ。
私は、引っ越してから一度も見かけた事がなった。ずっと部屋で仕事をしているのかな?もう一年にもなるのに、
ここの住人ではかなり、古い方らしい…
数日後、
バイオハザード隣人の音は、まだ止まったままだった。
静かな日々、あの悲鳴や銃撃音は聞こえてこない。
しかし、
それ以来、バイオハザード隣人はベランダでタバコを吸い続けていた。
窓を閉めても臭ってくる。
臭い、
ガラガラガラ、ガラ
ピンポンピンポン、ピンポンー
激しいチャイムの音。
また、バイオハザード隣人の部屋の方から聞こえてきた。
ガチャ、
ドアの開く音。
「いい加減にして下さい!また、タバコの臭いが部屋に入ってきます」
女性の怒った声。
「うるせぇなぁー引っ込んでろ、ババァ!」
「殺されてぇのか、てめぇ!」
バタン、
ドアを閉める音。
「ゔっゔっゔっ………」
ギリギリギリ、ギリーー
「ゔっゔっゔっ………」
ギリギリギリ、ギリーー
妙な音がし始めた。
何か、爪でドアを無理矢理こじ開けるような、
ギリギリギリ、ギリーー
ここのドアは鉄製だぞ。女性の力で開けられるわけがない。
ギリギリギリ、ギリーーーバン、
「うわわっ、」
バイオハザード隣人の叫び声がした。
ガガガガガ、
ギャーーァーー
ガガガガガ、
ギャーーァーー
………
………
静かになった。
何だ、バイオハザードが直ったのか?
それ以来、バイオハザード隣人の姿は見かけなくなった…
一ヶ月後、
大家さんが、バイオハザード隣人の荷物の処分をしていた。
「どうしたんですか?」
「ああ、突然いなくなったんだよ。家賃も未払いで」
「夜逃げってやつかね〜困ったもんだ」
私はハッとした。
バイオハザード隣人は、あの反対側の隣人ともめてから居なくなったのだ。
あの反対側の隣人と…
ピチャピチャ、ピチャ
クチュクチュ、クチュ
今だに、反対側の隣人の部屋からは音が聞こえる。
何かを食べているような、何かをしゃぶっているような?
私は、その音に、
今も悩まされ続けている…