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スパイ・バディ

作者: 長井カツヤ

 サムとベンの二人は、名コンビのスパイである。

 

 しかしサムは敵に捕まってしまった。そこで待ち受けているのは、世にも怖ろしい拷問である。

 

 果たしてサムの運命は──?!



 5分で読めるコメディ小説です。



 太い幹にロープをしっかり繋ぐと、「さあ、急げ。お前から行け」とサムは振り返っていった。

 ベンは銃を構え、走ってきた森の中を見張っている。ひっそりとしていて敵の追跡は免れたように思われた。

 諜報員スパイの二人は息のあったコンビだった。互いに信頼も厚く、どんなミッションも抜かりなく完遂することから危険な潜入活動に抜擢されていた。

 

 ベンは機密データが入ったリュックを背負い、命綱のハーネスをカチッと胴体に嵌めた。それから滑車を掴み、「サム、お前もすぐ来いよ」そう言って地を蹴り渓谷を渡っていった。

 強い谷風が吹き上げてくる。ベンのからだは風に阻まれ思うように先へと進めない。後に控えるサムは無事ベンが渡り切るのを見守っていた。

 その時である。獰猛な犬の吠える声がした。


 ──駄目だ。逃げられない。


 とサムはナイフを取り出した。


「ベン、あとは頼んだぞ。必ずデータを持ち帰れ」


 相棒が反対の崖に到達するのを見届け、サムは自ら退路のロープを切った。その決断にサムはなんの躊躇いもない。祖国に忠誠を誓い、任務のためなら己を犠牲にするのも厭わない。命を捨てる覚悟はいつでも出来ている。

 サムは瞬く間に追っ手に包囲された。両手を挙げ、その場に腹這いになると、からだに縄をうたれ拘束された。敵の捕虜となり連れ去られていった。





 すぐにサムの取り調べは始められた。

 日も差さない薄暗い部屋で、粗末なイスに座り手は背中の後ろで縛られている。むろん工作員の装備は全て奪われ、サムは簡素な下着姿であった。

 敵の上官らしき男が尋問した。


「盗んだものを言え。正直に白状すれば、命の方は考えてやってもいい」


 温情をチラつかせ落とすつもりだろう。だがその手には乗らない。命の保証は罠と判じサムは突っぱねた。


「無駄だ。俺はなにも喋らない。俺から情報を引き出すのは不可能だ」


 上官は長身から見下ろし、品定めするようにサムの周りを歩いている。


「どうやらお前はよく訓練されたスパイらしい。だがこっちにも、その固い口を割る用意がある。フフフ、いつまで耐えられるかな」


 自分に待ち受ける過酷な運命を悟り、サムは床に唾を吐いた。


「やれるもんならやってみろ。俺はお前らの拷問に屈するほどやわじゃない!」


 と啖呵を切ったが、上官も目の前のテーブルにドンと拳を突き立て凄んだ。


「いいだろう、好きにしろ。だが後で吠え面かくなよ」


 尋問は早々に打ち切られ、サムは勾留室に監禁された。

 

 あのときは強がってああいったものの、正直サムの心中は穏やかではなかった。責め具や行為を想像しただけで緊張感は増し、喉はからからに渇いてしまう。

 あるいは俺の想像だにしない未知なる苦しみがあるのかもしれないと、何もされないまま三日が過ぎ、ずっとそればかり考えている。

 思っていたほど捕虜の扱いは模範的で、毎日あたたかい食事も出てくる。しかしそれがまた嵐の前の静けさのようで、サムは恐怖と不安を感じずにはいられなかった。


 例の上官がやってきた。上官は鉄格子に向かっていった。


「どうだ、少しは話す気になったか?」


「なにをだ?」


 壁に背をつけ、膝を抱え項垂れていたサムは顔を上げた。


「痩せ我慢はよせ。もうお前もつらいはずだ」


 一体なんの話をしているのか、サムは眉を寄せ意味をはかりかねた。


「知ってるぞ。しっかり食べてるそうじゃないか」


 サムは顔面が蒼白になった。


「毒かっ、くそっ! 食事に毒を入れたのか?!」


「バカ言え、毒など使わなくとも、お前ごとき追い込むのは簡単だ」


 そう言われ、サムは献立を思い返してみた。だが不審に感じたものは何もなく、小さく首を振り目を伏せ沈黙した。

 思い悩むサムを見て、上官は薄ら笑いを浮かべた。優越に浸って、「いいだろう。ならば教えてやろう」と上官は腰に手を置き、胸を反らしていった。


「まず一日目、その日お前が食べたコッペパンはバターを少量しか使っていない。口の中がパサパサになったはずだ。次にニ日目、ハンバーガーのビーフは大豆ミートだ。どうだ味気なかったろう。そして三日目、その日のメニューは入社半年の新人シェフが調理した。腕が未熟だ。ハッハッハッ、たまらないだろう。どうだ参ったか」


 サムは目が点になった。


「そして今日はもっとひどいぞ。なんと、デザート抜きだ! 早く白状して楽になれ」と上官。


 このあとも拷問というか、微妙な嫌がらせは毎日続けられた。そのなかでもサムが一番こたえたのは、「この味覚バカがっ!」と罵られたことだった。





 ある深夜、サムは銃撃戦で目を覚ました。銃声と怒号が飛び交うさなか、親友の声を聞いた。


「サーム、どこだァーー?!」


 それは紛れもなくベンが呼ぶ声だった。

 救出作戦はベンたちの活躍により成功裏に終わった。脱出の際、サムは足に銃弾をもらったが、命にはなんら別状ない。かすり傷程度のものだ。

 

 爆炎を残し、救出チームのヘリは敵のアジトから飛び立った。

 傷の手当を終えたサムは頼もしい仲間たちに囲まれ、上空ですがすがしい風を受けている。長かった監禁生活が終わり自由を手に入れた。サムはほっと安堵し、胸いっぱいに外の空気を吸い込んだ。まさか生き延びてまた本国に戻れるとは思ってもいなかった。感極まり胸が熱くなっている。サムは礼をいった。


「すまない。よくきてくれた、ベン」


「良かった。無事でなによりだ、サム」


 二人は見つめ合い、そうして固く友情の握手を交わした。まもなく地平線から昇った朝日が、かけがえのない相棒バディ二人を包み込んだ。


「ところでサム。お前、ひどい拷問にあっただろ。なにを喋った?」


「いや、俺は何も喋ってない」


「そんなはずはない。隠すのはよせ。これは国家の安全にかかわる重要なことだ」


「本当だ、俺は敵に何も漏らしてない!」


 とサムは真剣な顔で訴えた。


 だが、ベンはチッと舌打ちした。急に人相を変え、「吐かないなら仕方がない、つくづく痛い目に遭いたいようだ」と冷酷な顔を覗かせた。


「おい、医療班」


 ベンは過激に命令した。


「こいつの傷口に塩を塗れ!」

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