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第39話 救世計画、始まります

 アウスティア王国が世界を救う為に動き出した。

 この情報はまたたく間に多くの国々へ拡がったみたい。

 たったそれだけで、諦めかけていた者達にも生きる望みを与えた事でしょう。


 しかし戦いはまだ始まってすらいないわ。

 生まれた希望が潰える前に、私達はすぐにでも実績を積まなければならない。


 そこで私はアウスティア女王に就任したその翌日、部隊を率いて北の隣国『グライオス共和国』へと出国した。

 ここはアウスティア王国に並ぶほどの広大な国土を持つ、かつて敵国として争った事もある強国である。


 ただグライオスの国土は現在、魔物に四割ほども奪われている。

 さらに食料生産拠点などを重点的に狙われたため、国力が国土以上に著しく低下しているようだ。


 そこで私は出国の前にトゥルディーヨへと指示を出した。

 まずはアウスティア王国を総生産拠点へと変えるという提案を。

 シルス村など各農村の農民の一部を指導員とし、多くの市民に農業を勤しませる事にしたのである。


 幸いアウスティア王国は魔導人形のおかげで魔物が激減してほぼ平和に近い。

 子どもが街の外を一人で出歩いても平気なくらいに。

 そんな今だからこそ、街の外を開拓するには持ってこいなのだ。


 他にも魔導人形の生産工場を国の北側に造る指示も出した。

 より前線に近い方が補給もずっと早くなると見込んで。




 ――その判断は的確だった。

 私達が出兵して一ヵ月が経った頃にその成果がもう現れたのだ。




 その頃、グライオスの国土は既に九割がた解放できていた。

 しかし物資が乏しく、兵糧も魔導人形も底を突き始めていて。

 同じくグライオスの者達も疲弊していたために補給もままならなかったのだが。


 そこでトゥルディーヨが自ら補給部隊として現れ、窮地を救ってくれた。


 食料はおよそ一ヵ月で育つ早育ちの芋などを重点的に生産。

 魔導人形も今あるだけの素材を使い、量をとにかく作ったそうだ。


 おかげで、届けられた物資は私達だけでなくグライオスをも救ったのである。


 その後、私達は早急にグライオスの上層部と話し合った。

 ただしほんの数分だけ、私達の意思を伝えるだけにとどまったが。


「私達は見返りなど求めていない。世界を魔物から取り戻す、その為に貴方達も力を奮ってくれればそれでいい」


 彼等は当然困惑していたものだ。

 アウスティア王国といえば強権で強欲だなどと国外で噂されていたみたいだから。


 けどその意志は充分に伝わったと思う。

 グライオスの頭領はその私の言葉に頷き、強い握手を交わす事ができたから。


 


 こうして一国を救えば、後はネズミ算式に事が進む。

 グライオスを協力国として、二面作戦を展開した事によって。




 グライオスにはまずアウスティア王国と同じ生産サイクルを構築してもらった。

 食料と魔導人形の素材生成など、戦略物資の確保を基本として。


 それと同時に、西と東にある隣接諸国の二面救助作戦も決行。

 グライオス軍と競うかのようにして小国を次々と解放していく。

 もちろん助けた者達に今なすべき事を伝えた上で。


 すでに滅ぼされていた国もあった。

 食料を求めた内紛で自ら命を絶った者達だっていた。

 そんな痕の残る廃墟を見て、私達は自分達がどれだけ裕福であったかを知る。


 しかしそれでも足は止まらなかった。

 まだ救える国は世界にいくらでもあるのだから。




 それからおおよそ三ヶ月後。

 私は四歳となったが、家族の下に帰る事も無く戦いに明け暮れていた。

 戦場で祝ってもらったし、芋ケーキはとてもおいしかったから満足だったけどね。




 その頃にはもう十の国が解放できていた。

 それと同時に、無事だった別の国からも援助を得る事ができたのだ。

 私達の活躍を耳にして立ち上がったのだという。

 とても嬉しい話だと思う。


 なのでその足で、援助をしてくれた国をも救った。

 その国もまた強国ではあったが半分も国土を奪われていたからこそ。

 とはいえ、すでに連合軍と化していた今の私達を止められる敵などいなかったが。


 国を救えば救うほど、私を取り巻く兵士が増えていく。

 志なかばで倒れる者も多かったが、それでも戦いを望む者の方がずっと多かったのだ。

 誰しもが魔物に抑圧され続けた感情を吐き出したくて。




 そうして進撃を進め、生産力も増強し、更には季節が夏へと突入する。

 大生産時代の到来である。




 その頃にはもう誰しもが農業・工業に勤しんでいた。

 大人のみならず、老若男女にかかわらずと。

 アウスティア王国を中心に、多くの国々が遠征物資を整えようと意欲的に取り組み続けたのだ。

 

 その結果、国土を開放した国々が一気に息を吹き返した。


 報告によれば、王都周りが作物で覆われるくらいになっているらしい。

 皆が全力で農業に取り組んだ成果である。


 ただ、もちろん病害などもあるみたい。

 作物の量が多いだけに、被害もそれなりに多いとか。

 けどそこも叔母上ら錬成術士達が必死に対処しているらしく、解決は時間の問題だろう。


 しかもそういった対策情報はすぐに各国へ広がる事になる。

 そんなネットワークが構築されたというのだから私でも驚いたものよ。


 救世計画は魔物との戦いだけではない。

 生活を守る事もまた私達の役目でもあるのだから。




 それで気付けば、救世計画が始まって一年。

 たったそれだけで、現大陸のほぼ全土から魔物の脅威を払う事ができていた。




 その頃には魔導人形ももう簡易量産から正規量産モデルに復元。

 おかげでダンジョン攻略もはかどり、魔物の増殖もほぼほぼなくなっていたわ。

 残っているのは食材になるような弱い魔物が産出される所だけね。


 もちろんそういう所の管理も忘れない。

 各地のダンジョンに関所を設け、防衛用の魔導人形も設置させたり。

 ママ上からの手紙で「ライトウェイプイールが管理されちゃって残念」って小言が来てしまったけれど。


 でもたった一年でここまで整備が進んだのならすごいものだ。

 前までのぬるま湯に浸りきっていた世界とは思えないくらいに意欲的で。


 だからこそもうこの大陸は大丈夫――そう思えたんだ。

 なら次に進む事もできる、ってね。




 そう、私達はまだ止まるつもりは無い。

 別の大陸もまた魔物の脅威に晒されているからこそ。




 その頃、私はひいおばあちゃまとも連絡が取れるようになっていた。

 大妖精王国ペェルスタチアとの協力関係をも構築していたのだ。


 そんな彼女達に望んだのは、別大陸の状況の情報提供。


 実はペェルスタチアには各国に移動できるポータルがある。

 孤島であったこの国に、デュランドゥが恩を返そうとして敷いたものが。


 ゆえにどこよりも早く移動が叶うため、すぐに確実な状況を知る事ができる。

 まずどこから海を渡って攻めるべきかを見極めるのに必要な情報ね。


 そしてそのおかげで私達は渡るべき場所が見えた。


 そこで私は一度国に帰り、隣国グライオスの頭領と共に協議。

 各国の精鋭を集め、残り二大陸の解放を分割体制で一挙に推し進める事を決定する。




 その結果、私達アウスティア王国軍は東の大陸――ガウリヨン帝国が支配していた地へと向かう事となった。

 魔戦王デュランドゥの故郷の地である。




 この時、私はもうすぐ五歳になろうとしていた。

 時が流れるのは早いもので、鏡を見ればもう大人にも見える。

 仲間達にはとても凛々しいとさえ言われたよ。


 そう、可愛かった私はもういない。

 今の私は〝救世の美女王〟などと呼ばれるほどの成長を果たしていたのだから。


 ならばこの大きな胸を張って、かつて世界一と称された国へ赴くとしよう。

 魔戦王デュランドゥ……貴方の想いも引き連れて。


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