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第36話 落ち着いたのにまた来客です

 村に戻った私とママ上は無事に家族と再会。

 もちろん薬湯を皆に配った上で結果も報告する事ができた。

 さすがに皆も、予想を超えた展開に驚きを隠せないみたいだったけど。


 なお子どもに薬湯を与えるのは少々難儀だったので混乱魔術を使う事に。

 それで苦味を甘味と錯覚させて飲ませてあげたのだけど、そうしたら今度は大人達までがそれをご所望で。


 しかしその中でもマルルちゃんだけはやはり優しかった。

 一人だけ子どもなのに「苦いの、我慢するね」って私に配慮してくれたから。


 まぁ薬湯飲んだ時の顔は一生忘れられないくらいに歪んでたけど。


 という事もあって、帰還初日はさっそく魔力を使い過ぎてもうヘトヘトよ。

 これなら普通に私が検査してあげた方がよかったわ。




 そんな訳で、あれから二週間の時が過ぎた。

 



 季節はまだ冬の真っただ中。

 けど今の内に休耕地をおこすなど、農民のやる事は多い。

 冬から春にかけて育つ作物もそろそろ手を付けないといけないしね。


 だから私ももう帰ってきたら泥でドロドロ。

 これは昔からだからもう馴れているので平気だけど。


 ただ冬は日が落ちるのも早いから、仕事もすぐ終わり。

 明るい内に家に帰って、家事の手伝いをして夕ご飯だ。

 あとは自主的に魔導人形の開発設計をやったり、工場を視察したりとか、私だけのやる事はそれなりに多い。


 なのでご飯を口にしながらこの後の予定を組む。

 私のいつもの日課である。


 ただ、どうやら今日はその日課を許してはくれないらしいけど。


「失礼、ミルカ殿はいらっしゃるか?」

「あらトゥルディーヨ卿、こんな夜分に貴方のような方がいらっしゃるなんて」


 私の日常に水を差したのはまたあのトゥルディーヨ。

 プレザンモーニングを邪魔し、王様との一件の橋渡しをした滅殺候補の一人ね。


 ただその男も今は私に敬礼して敬意を表してくれている。

 だから我がファミリーズディナーを邪魔した罪は一割だけ免除してあげるわ。


「今宵は血祭パーティのお誘いに? それとも滅殺がお好みかしら?」

「い、いえ、決してそのような事では……どうかお怒りをお沈めください」

「ではせめて食事の邪魔をしないでいただきたいかしら。貴方もどうです?」

「あらぁいいわねぇ! あ、断ったらママ怒っちゃかもぉ」

「ぜぜ是非ごちそうになります!」

「やったー! きぞくさまとごはーん!」


 どうやら国王との一件でこの男も随分と潔くなったみたい。

 まさか主が怪物だったなんて思いもしなかったでしょうし。


 なお、このトゥルディーヨは寄生されてはいなかった。

 おまけに言うと復興にもしっかりと誠心誠意協力していたし、政治にも前向きだったから、どちらかと言えば善人に近い。

 上から目線なのはどうやら育ちからの性格なようだ。


「生まれてこのかた地方の食事にはありついた事がありませんでしたが、これもなかなか良いですな。こう深みのある味わいというか、見た目ではなく味そのもので勝負しているという趣向を感じます」

「でしょぉ~? これ自慢の料理なの~!」

「何の食材をおつかいで? ぜひとも参考にさせていただきたい」

「ライトウェイプイールよぉ」

「ライトウェイプ……え?」

「魔物の、ライトウェイプイール。近くのダンジョンからよく出て来るのよぉ。もうこの村の名産食材ねぇ」

「……」


 けどママ上はその上から目線に指を突き刺し返すレベルですごいわ。

 どんな食材であろうと絶品料理に仕立てるから話題に事欠かない。

 特に最寄りダンジョンの魔物はいつも食卓に並ぶくらいよ。

 どれも弱くて捕まえやすく、そのくせ素でおいしいから。


 ただそのせいでトゥルディーヨは黙らされ、黙々と他の穀物料理を口にし始めた。

 惜しいなぁ、イールの煮込みすごくおいしいのに。プリップリで。


 こんな感じで食事を楽しみ、ついでに衛兵にも振舞ってあげた。

 トゥルディーヨが不安そうに眺める中、衛兵達は美味しそうに食べてくれたよ。

 本当は明日の分だったけれど、喜ぶ所を見るのは気分がいいから良しとしよう。


 それで食事を終えた所でようやく本題へ入る事に。

 私達一家を前にし、ダイニングテーブルを挟んでトゥルディーヨが語り始めた。


「それでミルカ殿、先日の件では改めて謝罪をしたい。アウスティア王国の代表として」

「もぉ~その事はいいわ。結果的にうちの村も救われた訳だし」

「では個人的に謝罪をさせて欲しい。大変な無礼を、申し訳なかった」


 きっと、私を呼んだ時の事からをずっと気にしていたのだろう。

 あの時から私を見下し、好奇な目で眺めていたりもしたから。

 国王も止められなかったから無力さも痛感しているのでしょうね。


 だからか、頭を下げるその姿は誰よりも紳士的で誠実だった。


「……わかった。許すわ。本当は滅殺するつもりだったけど」

「あ、ありがとうございます」

「で、用件は何なのかしら? まさか謝罪だけが目的じゃないでしょうに」

「さすがミルカ殿、ご察しの通りです」


 とはいえそれだけでこの辺境へ来るほど執政官とは暇ではないだろう。

 となると、私に伝えなければならない事があるのだと思う。


 例えば「新たな火種が見つかったから何とかして欲しい」とかね。


「で、次はどこのダンジョンを潰すの? 西? 北? うちの近くはまだダメよ。ライトウェイプイールがいるから」

「いえ、話というのはですね……実は先日、我々王国政府で話し合いがありまして。この間の出来事から『何が問題だったのか』という提起があったのです」

「それって……!?」


 けどどうやら、また政治的な意味合いで問題が噴出したらしい。


 ――この手の問題は厄介だ。

 政治家とか貴族は簡単に事実をゆがめ、とんでもない結論をひねり出すから。

 市民の声だなんだと言って平気でね。


「それで協議の結果、我々は一つの決定を下したのです」


 そのせいであの英雄たる魔戦王も処刑される事になった。

 もうそんな理不尽な決定なんて下されたくはないわ。


 だから私は少し不機嫌になっていた。

 多分、顔でわかるくらいにね。


 さぁどんな決定をしたのかしら。

 場合によっては、今すぐコイツをぶちのめしてやるわよ。


「ミルカ殿には明日より、この国の国王となっていただきたいと!」


 ……え?

 ……はい?

 待って、どういう事?


 私が国王って、一体全体どういう事よォォォォォォォォォーーーーーー!!!??


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