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第35話 今だけは不甲斐ない大人達に任せましょう

「……う、ここは……」


 目が覚めたら、知らない部屋にいた。

 まだぼんやりとしてわからないだけかもしれないけれど、多分そう。

 白くて綺麗で、さらりとしたカーテンがなびく部屋なんて知らないから。


「あら、起きたのねぇ」


 すると、こんな声がそっと聴こえてきて。

 誘われるように振り向いたら、ぼんやりとした女性像が映り込んだ。


「あ、()()()()()()()()んだね、母さん」

「あらぁミルカちゃん、もうママ呼びは卒業かしら?」

「……え? あ……」


 それで思うままにこう返してしまっていた。

 見えた女性像がふと、記憶にあった別人物と重なって見えてしまったから。


 デュランドゥの記憶の中にあったのだ。

 こうして傍に寄り添ってくれた「母さん」と呼ぶ人物の事を。


 でもママ上の言葉で我を取り戻し、眠気眼をこする。

 そうしてママ上の姿形もが見え始めて、今やっと安堵する事ができたんだ。


 私は無事に生きているのだと。


「ごめん、ちょっと意識が混濁してて」

「ふふっ、ミルカちゃんでもそういう事があるものなのねぇ」

「……私、どれだけ眠ってた?」

「二日間ね。まぁあれだけ動いてボロボロで、魔力も随分と使ったし、それを考えたらきっとむしろ早い方かしらぁ」

「そっか。みんなは?」

「無事よぉ、今は復興に向けて準備をしている所ねぇ」


 どうやらシャウグハイを倒したのも夢幻ではなかったみたい。

 しっかりと脅威を払って、今は随分と落ち着いているようだ。


 まぁでも手放しに喜んでいる余裕はないかもしれないけれど。


「そうだ。寄生魔物の状況を調べないと」

「あ、無理しちゃだめよぉ。そういうのは大人に任せなさい」

「でも一人でも早く助けないと」

「大丈夫。その点はイーリスちゃんがしっかり仕事してくれているから」

「えっ?」

「あの子が錬成学研究所で特効の薬湯を開発したから、それを飲めば一発よぉ。飲むだけで魔物が嫌がって飛び出してくるの! 既に街の人達には配り終えたし、もう心配はいらないわぁ」


 ただそれも取り越し苦労だったみたいね。

 そういえば叔母上は錬成術士だってことを忘れていたわ。


 なるほど、国家指定第一級なのは伊達じゃなかったって事か。

 戦うよりもこうやって薬を錬成する方がずっと得意なのかも。

 こんなにあなどりがたい人だったのかぁ。


 なんて、そう思い悩んでいたら、ママ上が早速マグカップを差し出してきた。

 なんか緑色のド濃いドロッドロの液体が入ったものを。


「という訳で、ハイこれ」

「お"ッ!? コレ匂いだけできっつ!?」

「ミルカちゃんも飲まなきゃだめよぉ? 寄生されてないとは限らないんだからぁ」

「ちなみに飲むと?」

「一日中苦みが口に残るわよぉ。あと寄生されてると鼻とか口とかお尻からメリメリメリィ!って色々出て来るわぁ」

「妙にリアルに言わないで!?」

「他の排出パターンもあったけど、聞く?」

「いらない!」


 でも薬湯について色々尋ねたらどんどんと躊躇が生まれそう。

 なので勢いのまま喉へと流し込み、強引に唾でゴクリと押し込んだ。


 ――ギッヅ! これおギッヅ!

 効果はあるのかもしれないけどまた気絶しそう!


「出る? 出ちゃう? メリメリ出しちゃう?」

「出な――オッゴォ!?」

「あらあらあら!」

「吐きそうなの! 子どもの身体にこれはキツいってぇ!」


 純粋に飲むのがキツイ。

 胃の中に押し込んでも強引に登って来るかのようよ。

 まるでこれがスライムなんじゃないかって思えるくらいにしつこいし。


 とりあえず深呼吸して落ち着かせて気分を整える。

 確かに苦みはすさまじいけど、これで検査もできるなら充分だ。


「ハァ、ハァ、ほぉらクリアー! 寄生されてないー!」

「あら残念、ミルカちゃんあれだけ取り付かれてたのに」

「子どもの幸運を残念がる母親がいる!?」

「ほら興味あるじゃなあい、いつも強気な娘がもだえ苦しむ姿を見られるって。可愛い娘だもの~色んな姿を目にしておきたいのよぉ~」

「マイペースにもほどがあるでしょお!?」


 あとはこのママ上トークを黙らせたい所だけど、これは諦めた。

 考えたって思考力の無駄だし、これでも心配して言ってる事だってわかっているし。


 この人はただ自分が思った事を素直に言っちゃうだけなんだ。

 それが酷い言い草だとかちっとも気にしないから。

 けど根底は優しいってわかってるから、もう気にしないようにしてる。


 それでママ上に適当にしゃべらせて、欲しい情報だけかき集めてみた。

 で、この二日間で起きた出来事をまとめると、こうだ。


○私はあの後すぐに治療魔術で治癒、高い生命力で無事に助かった。

○叔母上が寄生型魔物のサンプルを採取、即座に薬湯を開発

○ラギュース達が市民を誘導、現在は街に活気が戻っている

○薬湯を使用した結果、貴族の一部にも寄生された者がいた

○昨日の夜の時点で王都市民全員に薬湯投与完了

○現在は周囲の魔物駆除および街の検査実施中

○国政はしばらく残った執政官だけで執り行うとのこと

○まだ国王が魔物だった事は周知されていないが、いずれ行う予定


 二日間でやったとは思えないペースで、正直私も驚いている。

 だけど皆が協力してやったからここまでできたんだとママ上は嬉しそうに語っていたよ。


 叔母上やラギュース達だけではない。

 錬成学研究所の職員や冒険者ギルド、あのレスティもちゃんと働いていたそうだ。

 一部の市民も立ち上がって手伝ったりしていたらしい。


 その話を聞いて、何だかホッとしてしまった。

 まだまだこの国は捨てたものじゃないんだなぁって。


「だからミルカちゃんも今は休んでいてね。いずれまた役に立ってもらわないといけない時が来るかもしれないから」

「もう大ごとはこりごりだけどね。できるなら大人だけで色々と解決して欲しいかな」


 本当はここまでやるつもりはなかった。

 ただシルス村を守れればそれでよかったんだ。


 だけど、村一つを守る為にもここまでやらないといけなくて。

 もしかしたら、まだまだ何かをやらないといけない、そんな気がしてならない。


 だから今だけはママ上の言う通り、おとなしく布団をかぶる事にした。

 今だけは〝不甲斐ない大人達〟でも対応できる状態だから。


 彼等がどうしようもないって思った時だけ力を貸そうって、そう決意したんだ。




 ……とはいえ、世界っていうものは今なお動き続けている。

 この時もどこかで不幸が起きて、そこから私達の国を脅かそうとしている者がいるかもしれない。


 だから私が立ち上がる時はそう遠くない未来の事だとはわかっていた。


 なら今だけは。

 今だけは私が望むように生きたい。

 のどかで平和な故郷での毎日を過ごしていたい。


 そう願うまま、私達は王都を後にしたのだ。

 いつまでもその故郷を閉じたままにしておく訳にもいかないからね。


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