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第34話 応えよ、星よ

「あの輝きは、ミルカちゃんね!?」

「すごい、なんて圧力なの!?」

「おお、あの光はまさしく奇跡だ!」

「さすがだね、ミルカ」


 皆の声が不思議と聴こえて来る。

 地上にまで魔力光が達したおかげで、意思が伝達してきたからだろう。

 それだけ、この一撃には圧倒的すぎる魔力がこめられているんだ。


「ギッギィィィーーーーーー!!?」


 おかげで魔耐性を持つシャウグハイの身体さえ貫けた。

 胴体真ん中にぼっこりと大穴を開けてしまうほどに。

 よほど激痛が走っているのか、叫びがもはや尋常じゃない。


「けどこの規模じゃダメよぉ。身体を貫いてもぉ、すぐに再生されちゃうわぁ」

「ええーっ!? じゃあどうすればいいのよ姉さん!?」

「それは私にもわからないわぁ。だってミルカちゃんの考えている事ですもの~」


 ただ、確かにこのままではシャウグハイを倒すなんて不可能。

 ママ上の言う通り、放射が治まった時点でアイツはすぐに再生してくるだろう。


 ただし、この一撃だけなのならば。


「でも信じているわぁ。あのミルカちゃんの事だからきっと、二手三手どころか十手くらい考えているはずですもの~」

「さすがご主人様ァ!」


 さすがねママ上、全部お見通しみたい。


 そう、これは一撃ではない――二撃よ。

 今放ったのはしょせん〝呼び水〟にすぎないのだから。


「星よ応えなさい。私達の想いを聞き届けて。まだ生きていきたい、そう願う私達を見捨てるのはまだ早いのよッ!」


 そして今の一撃に込められた想いが大地を巡った時、それは起きた。


 突如、大地から光が溢れ出したのだ。

 それもシャウグハイを包み込まんばかりに巨大な光の柱として。


 ただこれは攻撃的な輝きではない。

 その証拠として地上にいる人々が光を浴びても何も起きていなくて。


 シャウグハイの巨体だけが持ち上げられ、輝きに包まれていく。


 それだけじゃない。

 今度はシャウグハイの中からも露光し始めたのである。

 その身体に亀裂までをも生じさせながら。


「これは攻撃なんかじゃないの。星に私の意思を届けるためのメッセージレターに過ぎない。〝あの化け物の中に聖護防壁を張りたい〟というね」


 そうさせた正体は聖護防壁。

 星の力を使ってシャウグハイの体内に高レベル密度の結界を構築したんだ。


 しかもそのレベルは――最大の6。

 触れた者、内包する者をすべて飲み込み、潰して消し去る超圧縮空間(ブラックホール)

 もはや防壁などとは到底呼べない恐ろしい代物を作ってやったのよ。


 おかげでシャウグハイの身体が徐々に飲み込まれていく。

 不定形であるはずの身体をバキバキと崩し、内側へと吸い込まれるように。

 触手を伸ばそうとしても、伸ばした先から吸い込まれていくのだ。


 聖護防壁はもう奴を逃さない。

 シャウグハイという存在そのものを捉えた以上は。

 例え眷属を分離しようとも、その魂を追跡して飲み込むだろう。


 その予測通り、遂にシャウグハイの全身が暗黒点へと喰い尽くされた。

 あとは私が手を叩いて防壁解除する事で、すべてが終結する。




 そう、私達は勝ったのだ。

 あの脅威的な化け物をみごと消し飛ばしたのである。




 本当は屈服させてもみたかったけど、力不足だから仕方ない。

 だからこれからも成長していかなきゃ、ね……。


 そう思っていたのだけど。


「あ……やば……」


 途端、私の身体から力抜けていく。

 魔力も感じなくて、魔戦王の声も聴こえない。

 限界を超えて放ったから、何もかも持っていかれてしまったみたいだ。


 ドレスギアはもう壊れて崩れてしまった。

 今の一撃に耐えきれなかったんだろう。

 つまりもう私は落ちるしかないってコト。


 きっとこのまま落ちれば、私でも潰れておしまいね。

 でもママ上も叔母上ももう魔力が尽きて動けない。

 ラギュース達が走ろうにも、この位置じゃ落ちる場所には間に合わない。


 やっぱりだめかぁ。

 どうやら私はここまでみたいね。


 ……まぁでも、いっか。皆も守れたし。

 デュランドゥとの約束は守れなかったけど、きっと許してくれるよね。

 本当なら彼の功績も残してあげたかったんだけどなぁ。


 とはいえ後悔は無い。

 絶望の未来を回避できたから。

 皆はきっとこれからも幸せに暮らせるだろうから。


 私は、それだけでもう――満足です。




「あっぶなぁ~い! もうなんて所から落ちて来るんですかー!」

「えっ?」




 けどそう覚悟して目を瞑った時だった。

 私の後頭部にはなんだかポヨヨンと柔らかい感触が走って。


 それで咄嗟に目を見開いてみたのだけども。


「まぁでも間一髪です! よかったぁ~これで借り返せたぁ!」

「アンタ……レスティ!?」


 なんと目の前にいたのはあのレスティ。

 近衛兵でありながら私に屈してさっさと逃げたあの小娘である。


 しかも驚くべき事に、彼女は空を飛んでいた。

 その背中に生えた白い翼で悠々と仰ぎながら。


「ちょ、何その翼!?」

「あ、私天使族なんですよ~普段は縮めて服の中なので使えないんですけどね」

「そんなの聞いてない……なんで世にも珍しい天使族がここにいるのよぉ」

「最近天界は不況で職もなくて、出稼ぎですねー」

「世知辛い!」


 まさかレスティが天使族だったなんて。

 意外過ぎてもう何が何だか。


 いや、それは多分もう頭に血が回ってないからね。

 ダメだわ、もう意識が……。


 そこで私はふと、レスティの顔に付いたままのツバ跡を指でぬぐう。

 ほんの些細な恩返しと、汚してしまった事への罪滅ぼしにと。


 だけどそこでもう視界が途切れてしまった。


「ああっ、ミルカさん!? おお起きてくださ――」


 鼓動が小さくなっていくのがわかる。

 呼吸ができなくて、それでも不思議と苦しくなくて。

 むしろ心地良いと思える中で、「はぁぁ~」と息が抜けていく。


 そうして私は、完全に意識を失ってしまったのだった。


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