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第33話 大人はみんな自分勝手だ

 シャウグハイを追い詰めていたはずだった。

 もうすぐ勝てるはずだった。


 なのに今、私は今にも死にそうになっている。

 どうしてこうなってしまったんだろう?


 全身が痛い。

 意識が飛びそう。

 身体の自由も利かないし。


 というか、なんで私、こんなにがんばっているんだろう?


 だって私はまだ三歳児なのに。

 本来ならマルルちゃんと一緒に遊んでるはずなのに。

 村でのどかに過ごして、笑って楽しく暮らしているはずなのに。


 でも今はなんでかな、あんな大きい怪物と戦ってる。

 絶対おかしいよ、こんなの。


 ……だけど、もういいよね。


 だっていっぱいがんばったもん。


 ミルカもうつかれちゃった。

 

 だからみんな、おやすみなさ――


「ミルカちゃあんっ!!」

「ミルカ殿ォォォーーーッ!!」

「――ッ!?」


 けどこんな声がふと耳に届き、私の意識が覚醒する。

 私はもう遥か先の空の彼方で、聴こえるはずなんてないのに。

 しかも同時に、妙な光景までもが脳裏へと流れ込んで来た。


 焼け野原の荒野。

 不死者の歩き回る死都。

 生者が誰一人としていない世界。


 そしてそんな中に一人残された私。


 目前にいるのは、うめきながら徘徊する家族や友達「だった」者達。

 私はその光景を前にただ立ち尽くすしかなかったのだ。

 無力だったがゆえに招いた結末に絶望するしかなくて。


「まだだ、まだ、死ねない……! こんな結末は、認め、ないッ!!」


 でもその絶望が逆に、私の心を奮い立たせた。


 私が諦めればすべてが終わるから。

 その後、あの化け物が残った者達を蹂躙し、殺し、犯し、増えて溢れてしまう。

 そうなった世界はもはや破界神がいた時よりもずっと悲惨だ。


 生者のいない世界――それはこの星の終わり。

 そこにいたる分岐点(ターニングポイント)はまさしく今なのだから。


 それゆえに今、私は再び体に魔力をこめる。

 身体を潰していたドレスギアに指令を与え、再び形を整えさせながら。


 もう痛かろうが、流血していようがかまわない。

 あの化け物を止められるなら、この身体くらい……くれてやる!


 そう覚悟を決め、目下へ狙いを定めた――のだが。


「ぐっ、アイツ! この期に及んでまだ……っ!?」


 その時、なんとシャウグハイもまた動こうとしていたのだ。

 私へ向けて跳躍しようと、その身を深くかがめていたのである。

 視線をなお私へとぶつけながら。


 あんな巨体がぶつけられれば、小さな私なんて速攻でミンチだ。

 そんなのに武器化してぶつかっても質量差での負けは目に見えている。

 だからって避けてしまえば、奴はそのまま降り立った場所で蹂躙を始めるだろう。


 くっ、打つ手がない!

 万事休すか……!


 ――けど、そう思った時の事。

 突如として、シャウグハイの全身が突如として光に包まれる。


 網だ。

 光の網が現れて覆いかぶさったのだ。


 よく見れば、その網の元にはママ上と叔母上が。

 二人が協力して大規模の光の網を構築していたのである。


 しかもその網を、多くの者達が集まって引き、抑え込んでいく。

 シャウグハイのあの巨体をも沈め、抑え付けてしまう程に勢いよく。


 そんな彼等の視線が、私に向けられている気がした。

 まるで私へと期待を一心に向けんばかりに。


「なんでそんな……私なんかに期待を向けてさぁ……大人達はこれだからあッ!!」


 でも悪い気はしないかな。

 今という時だから、誰よりも象徴的な者が選ばれるのは当然だから。

 結果的に私が期待されるというのは、もう魔戦王の時から慣れている。


 だったらもう、象徴的にやりきってやるわよ!


「力を貸しなさい魔戦王デュランドゥ! あの化け物を滅殺する力を私によこせええええッ!!!」


 その覚悟の下、無我夢中で私は叫ぶ。

 ドレスギアを展開、変形させる中で。


 繊維がきしみ、金鳴音をがなり立てる。

 それでもなお強引に、私の望む形へと変わっていく。


 そうして目前にて象らせたのは――長く太い、一本の巨大螺旋砲塔。


 魔力を増幅するフリルを前面に押し出した、最大火力モード。

 その名も――


「〝フルフリル・クラストディスラプター〟……! これでやりきれなければ世界は、終わるッ!!」


 その砲塔を前にして私の心が訴える。

 奥底に仕舞われた魔戦王の魂を呼び覚ます為にと。

 

 そして彼は、しっかりと私に応えてくれた。


『そんな叫ばななくても聴こえてるぜ。忘れたか? 俺とお前は一心同体だって』

「わかってる! だからこそよ、だからこそ私は貴方に――」

『ならビビッてんじゃあねぇよ』

「――ッ!?」


 きっとデュランドゥは最初からすべて見ていたから知っていたのね。

 私に知識と記憶、力を与えながらもただ静かに居すわりながら。


 私が彼の力に恐れている事も含めて。


 ダンジョン攻略の時もそう。

 力を強く発揮すればどうしても彼の心が前面に出て来てしまう。


 私はそれが怖い!

 繰り返し魔戦王の力を使えば、いつかこの心が押し流されてしまうのでは、と。

 いつか彼の望んだ、心が入れ替わる時を迎えてしまうのではないか、と。


 だから結果的に、魔戦王の力を使う事に躊躇してしまった。


『バァカ、そんな事はしやしねぇよ。もうその身体はテメェのもんだ。俺がそう決めた』

「デュランドゥ……」

『だから恐れるな。意識を受け入れ、その上で受け流せ。己の身体で循環させ、魔力と共に放出しろ。その意識もまたお前の力になるのだから』

「……わかったッ!」


 だけどそれは私がただ一人で無意味に悩んでいるだけだったんだ。

 デュランドゥはそれも理解して、こう教えてくれた。

 彼はもう、私にすべてを委ねた後なんだって。


 よって今、私はありったけの魔力を右拳に籠めた。

 唯一動かせる場所へと、ただ一心に。


 私と、デュランドゥと、地上で待つ皆の想いを叶えるために。


「狙いは核。外すな、感じるんだ私。デュランドゥが導くままに!」


 遥か先の地上で皆が待っている。

 全身全霊でシャウグハイを抑え付けながら。

 その拘束ももはや限界に近いが、誰しも諦めてはいないんだ。

 

 だからありがとう!

 私は皆の願いを叶えてみせるよ!


「うあああいっけぇぇぇーーーッ!!!〝応えよ、星よ(ウーラ・ゼア)〟ァァァーーーーーー!!!!!」


 その想いの下、右拳を魔力装填部へと力一杯に叩き込む。

 すると瞬時にして螺旋砲塔が輝き始めた。


 充填、加速、増幅。

 発射プロセスが一瞬で循環し、最大容量にまで達したのだ。

 魔戦王の魔力があまりにも強力で濃厚で、純粋で抵抗なかったがゆえに。


 その結果、遂に超圧縮魔力が攻撃となって降り注ぐ。


 それはまさしく神光。

 空も大地も一瞬で貫かんばかりの一閃だった。




 そして渾身の一撃が今、シャウグハイの胴体真芯を貫く。

 神々しいまでの光景に誰しもが見惚れてならないその中で。


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