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第28話 これはさすがに想定外なんだけど!?

 実は王都に来る前にラギュースからこんな話を聞いていた。

 かつて即位前の王はとても情熱的で、国を盛り上げる事に意欲的だったのだと。


 しかしある日、前王から突然王位継承が行われる事になった。


 前王も相当に武の猛者だったらしい。

 それなりに歳老いてはいるが、若者にも負けないほどに強かったのだと。

 だから自らダンジョンまで赴いて魔物を退けるなんて事も多かったそう。


 そんな前王が突然の退位。

 ラギュースも前王の事をよく知っているから驚いたそうだ。

 「あの方がそうもたやすく地位を手放すとは思わなかった」なんて言うほどに。

 前王に貴族へと押し上げてもらった恩義があるから当然ね。

 

 ただ、その話を聞いてピンと来たの。

 まさか前王はダンジョンで寄生型魔物に憑りつかれてから変わったのでは、と。


 その質問にラギュースは渋々頷いていた。

 前王の引退したきっかけは、ダンジョン攻略時に傷を負ったからなんだって。


 つまり前王が寄生型魔物に憑りつかれ、苗床となってしまった。

 そして息子である現王に本体が乗り換えて今に至る、というワケ。


 前王はその後急死したために事実はわからないけれど、恐らくはこれが真相。

 しかもオリジナル個体だから人間に害をなす意思をより強く持っている。

 それが圧政を敷いた真の理由って事ね。


 おまけに言えば、この魔物は元が弱いから聖護防壁の影響を受けにくい。

 だから見つからずに今まで潜めていたと。

 まったく、面倒な奴が表に出て来てしまったものだわ。


「おのれぇミルカ=アイヴィー! よくも我が王宮を汚してくれたなぁ!」

「汚したのは貴方の方でしょう? 寄生虫の操り人形さん?」

「ッ!? ギッギザマ、気付いでッ!?」


 虫みたいな奴だけど、魔物なだけに小さくても知能はある。

 加えて宿主の知性も得るから、政治だろうとできてしまう。


 なのでこうやって核心を突けば相応の答えも返って来る。


「こ、国王陛下、一体何を言って――」

「だまれ役立たずがッ! せっかぐ拾ってやっだ恩を忘れでぇ!」


 きっと魔物も追い詰められている事に気付いているのでしょうね。

 だからもう体裁を整える理由もなくなったと。


 それでもう近衛兵さえ見限って罵倒しているわ。

 どっちも憐れなものね。

 

「もう貴方は袋のネズミよ。観念した方が楽でいいと思うけど?」

「そ、そうです! 陛下、どうか心をお沈め下さいませぇ!」

「ぐっぎぎ……!」

 

 それでも信頼を失わずにいられるのはすごい忠誠心ね。

 私だったら速攻でそのクロスボウをアイツに投げ付けそうなものだけど。


 でもね騎士様、あの男はもうその程度じゃ止まらないのよ。

 少なくとも、人のままな私や貴女の言う事なんて絶対に聞きはしない。


 ならどうでる? アウスティア国王……!


「ウ、ウ、ウゲッ、ウゴボロロォォォ!」

「な、ちょッ!?」

「ひ、ひぃぃぃ!! 口からなんか一杯出てきたぁ~~~!!?」


 なんて身構えていたら国王が突然、思いもしなかった行動に移した。

 なんと口から大量の黒い異物を吐き出したのだ。

 己の身体をも縮めてしまうほどに大容量でドバドバと。


 吐き出されたのは黒いオタマジャクシのような、粘液まみれの小さな魔物達。

 しかも吐き出されてすぐに地面をゆっくりと這い始めていて。


「イヤァァァァ!!!!! ここここれは無理ィィィ!!!!!」


 さっきの近衛兵がそれを見て慌てて逃げ始める。

 うん、わかる。私もすっごい逃げたぁい!


 けど逃げられない負傷兵は悲惨だ。

 這って逃げようにもまもなく魔物に憑りつかれ、悲鳴を上げながら寄生されていく。

 しかもこんな大量に取り込んだら魂なんて一瞬で消し飛ばされてしまうわ!


「ア"ア"ア"ア"!!!」

「ウグ、ガァァァ!!!」

「一体何が起きているの!?」


 そんな兵達だけでなく、国王までもが奇声を上げ始めた。

 さらには背後で気絶していた一部の近衛兵までもが立ち上がり始めていて。


 その途端、私の予想をはるかに超えた出来事が巻き起こる。


「ギュエエエエ!!!」

「ギッギッギョォォオ!!」


 なんと皮を破り、中から黒い何かがズルリと出てきたのだ。

 触覚や無数の牙を持ち、光沢のある羽根をも有する甲虫のような。

 そうでありながらも人のと同じ腕と脚を持つ、人並みの大きさの生物が。


「これはまさか、寄生型魔物の成体……!?」

「ギッ、ギギッ……!」


 その様子だけを見ればとても知性を感じない。

 だけど確実な敵意をこちらに向けているのはわかる。

 背後では気絶したままの兵士を踏み殺しているヤツさえいるから!


 わかってやってるんだ。

 自分の仲間じゃない、これは敵なのだ、と。


 なんて事なの……こんな奴等、魔戦王の記憶にも無い!


「ななななんなのコレェェェェ!!!?」

「そこの貴女! 死にたくないのであれば援護なさい!」

「は、はひっ!!」


 ただこれは決して不思議な事ではない。

 魔物は日々進化し続け、新しい形態・強さを手に入れているから。


 この魔物だって今の危機的状況から脱するために急激な進化を遂げたのだろう。

 だとすれば、今さら聖護防壁の移転を望んだのも、耐性を得るために弱体下での進化を狙っての事なのでしょうね。


 けどあまりにも規格外だわ。

 複数の魔物が混ざって一つになるなんて。

 それも幾つもの個体が同様に進化するのはあまりにも非常識過ぎる。


 ――となると、もしかしたら!


 そこで私はものの試しに炎の魔術を周囲へ放出する。

 すると案の定、這って来ていた小さな魔物達が次々と蒸発していった。


「や、やったぁ! さすが〝ダンジョン殺し〟ミルカ=アイヴィー!」

「なにその異名!? そんな可愛くない称号つけられてたの私!?」


 この寄生型はおそらく、スライムなど不定形型の一種。

 それが生物の神経や魂にまで接続できるように進化したと考えられる。

 だから進化の方向性が定まっていて、同じ性質に変われたんだ。


 ただ炎に弱い特性は変わっていないみたい。

 身体の水分を蒸発させれば、この手の相手は簡単に倒せるから。


 でもどうやら効くのは寄生体だけみたいだけど。


「「「ミィ~ルゥ~カァァァ!!」」」

「ご丁寧に名前だけは覚えてくれたみたいね……!」


 人間から変身したタイプには炎魔法が全く通用しなかった。

 それどころかわずかに魔力をはじく節さえ見られる。


 そう変わったのはおそらく、相手が魔法を主体として戦う私だから、かしら。


「どっどどどうするつもりですか!?」

「そんなの決まってる! 応戦よ! アンタも近衛兵ならしっかり戦いなさい!」

「そ、そんなぁ! 配属されてまだ一ヵ月も経ってないですぅ!」

「なら勝手に死ね!」

「それもイヤーーー!!」


 しかしそんな理屈など魔物には関係無い。

 彼等はわざわざそのプロセスを意識する必要など無いのだ

 適応し、進化し、敵を仕留める――ただそれだけでいいのだから。


 ゆえに今、魔物達が一気に私達の方へ走って向かってきた。

 炎が自身に効かない事に気付いたからだろう。 


 これはちょっと分が悪いかもしれないわね。

 二人でこれだけの数、さばききれるかしら。


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