第24話 意外に私、慕われている?
王国軍が自慢するままに展開させた(自称)オリジナル魔導人形達。
一〇〇〇体にも及ぶ軍勢は対峙するだけでも壮観なものね。
おまけにリーダーも将軍級と、きっと一騎当千に違いないわ。
そう自慢するほどの己の実力。
多勢に無勢と言わんばかりの戦力。
さらには自慢の魔導人形軍団まで。
たかが小娘一人相手ならもったいないほどの過剰戦力でしょう。
だ が あ ま す ぎ る。
私はミルカ=アイヴィーだぞ?
魔導人形を一から開発した第一人者だぞ!?
「では一つ、雌雄が決する前に一つお聞かせくださいませ」
「なんだ、言ってみろ」
「その自慢の戦力というのは、一体どこへ行ってしまったのでしょうか?」
「なにぃ……?」
その自信の下に、私がそっと指先を兵士達の方へと向ける。
そんな私に誘われてバルバーレが振り向いたのだが。
彼の視界に映ったのはもはや兵士達ではなかった。
厳密に言えば、兵士達を蹂躙する魔導人形達。
一〇〇〇の軍勢が一斉に寝返り、主達をミンチにしていたのである。
たちまち響く悲鳴、鈍い打撃音。
その惨状を前にして、バルバーレはもはや唖然とするばかりだ。
「……え"っ?」
「もしかして貴方、わたくしが魔導人形の開発者である事を知らなかったんですかぁ? だったらぁ、魔導人形の構造をよく知ってる訳でぇ」
「な、なに……!?」
「どうせ魔導式にも手を加えてないんでしょう? なら命令を書き換えるなんてお手の物ですのぉ」
「な、なんだとォ……!?」
そう、魔導人形は既にすべて私の手中。
滑稽将軍が自慢げに語っている間に乗っ取っておいたってワケ。
その事実にいまさら気付いても後の祭り。
バルバーレが大斧を手に取るも既に遅かった。
一〇〇〇の魔導人形がもう一斉に彼へと飛び掛かっていたのだから。
「うッおおお――ぶっぎゃああああ!!!!!」
「あらあら、最後の叫びの実に醜いこと」
この圧倒的戦力差の前には、いかに歴戦の武将といえど敵いはしない。
自慢の大斧が役立つどころか、馬から降りる事さえ叶わなかったのである。
しょせん、他力本願で戦う者なんてこの程度でしかないのよ。
最初から自分だけで戦っていればまだ勝機はあったでしょうに。
――ま、だいたい〇.一%くらいだけどね。
ともかく王国の遠征軍はこれで軽く一掃完了。
あとはこの逆襲として私が王国に殴り込めばいい。
そのまま国王をとっちめればシルス村に手を出そうとは思わなくなるでしょう。
ただその場合、私が国の反逆者となるけれど。
例え愚か者でも国王――国の代表である事に変わりはない。
そして国も国王一人で運営している訳ではないから、頭を潰したから無罪とはいかないのだ。
けど罪を負うのは私一人でいい。
もう私は一人で生きていく事もできるから。
だから私はこの戦いに誰にも加担させるつもりはなかったんだ。
――だったのに。
「「「うおおおおーーー!!!」」」
「なッ!?」
それは私が王国軍を蹴散らした直後の事。
突如として場に雄叫びが響く。
それで振り向けば、思わぬ者達の姿が視界に映った。
ラギュースとヴァルグリンドナイツである。
なんと彼等が剣や槍を振りかざしながら、丘より馬で駆け降りて来たのだ。
ただその勢いも私の前で落ち、とうとう立ち止まる。
唖然とした顔付きで、上げていた腕をゆるりと降ろしながら。
「ミルカ殿、これは一体……」
「それはわたくしの台詞です。どうして皆さんはここへ来たのですか!?」
「決まっているだろう!」「ミルカ殿を助けに来たのだ!」
「というワケ。皆、ミルカの事が好き」
「エルエイスまで!?」
「さっきそこで合流した」
どうやら彼等は私を助けに来てくれたらしい。
意外な援軍に、私もさすがに驚きを隠せなかった。
「ご主人様、無事だったのですね! せっかく盾くらいにはなろうと思ったのにぃ!」
「ミルカちゃあん、抜け駆けはダメよぉ」
「ママ上と叔母上まで!? どうして!?」
さらには続いて意外な人物までが歩いてやってきた。
村に置いてきたはずのママ上と、領主に預けた叔母上もがやってきたのだ。
「ふふっ、実は隣町に行くポータルがうちにはあるのよぉ。それに乗って出てきたってワケ!」
「私が歩きでおつかいに行かされた意味ィ!!!!!」
ママ上は相変わらずふわふわしたまま。
言っても聞かない性格なのをすっかり忘れていた。
なのでもう反論する事を諦めたわ!
「あと叔母上、人前ではそう呼ぶなとあれほど」
「申し訳ありませんご主人様! お仕置きは後で存分と――じゃなくて。お義父上には既に事実を伝えてしまいました。ワタクシめが従順なメス犬なのと、魔導人形量産計画についての真実も!」
「じゃあなんで生きて――」
しかも叔母上が衝撃の告白までしてきたもので、頭が混乱してきた。
叔母上には誓約戒の首輪があるから私に不利な事はできないはずなのに、と。
けど直後、私は気付いてしまったのだ。
叔母上の首からはもうあの首輪がすっかりと消えていた事に。
普通の革首輪は付けていたけれど。リード付きで。
「ですが話したのは決してご主人様をおとしめるためではありません。お義父上が一連の貴方様の活躍に疑問を感じ、真実を求めたがゆえ。それもご主人様を助けたいと強く願っていたからこそなのですっ!」
「まぁそういう事だミルカ殿。君がどうしてそこまで強いかはわからないが、その計算高い頭脳と比類なき力、そして皆を守りたいという強い心を持つ者を私は放っておきたくはない」
「ラギュース閣下……」
「まぁ息子との事に関してはこれから改めて話し合えばいい。すべてが終わった後でな」
どうやら叔母上はもう私に心から従っているようだ。
こうして勤め先を裏切ってまで助けへと来るほどに。
むしろラギュース達に真実を伝えて動かした機転は私も舌を巻くほどね。
そんな本気を見せられたら、観念せざるをえないじゃない。
「……はぁ、まったく。誰も彼も自分勝手なんだから」
「王国に一人で立ち向かおうとするミルカ殿には敵いませぬよ」
「そう、そうね……ふふっ、皆様のご協力心より感謝いたしますわ」
でもおかげで吹っ切れた気がする。
何もかも自分で背負おうとしていたのが馬鹿らしいって。
だって皆、こうして一緒に罪を背負おうとしてくれているのだから。