咲苗ランキングの真相
【十二月二十四日(土)】<その13>
「さてと、私は帰るわね。いつまでも一緒にいるのは悪いし」
「悪いだなんて。あたしはそんなふうに思いません。一緒にご飯に行きましょう」
咲苗が真紀を誘う理由は気を使ったとかそういったことではなく、友人として一緒に過ごしたいという意味合いなのだと思う。だけど、真紀は俺たちに気を使って……。
「悪いっていうのは、あなたたちに悪いっていうのもあるけど、居心地もそうだし私の心にも悪いってこと。見せつけられるのはさすがにつらいんだから」
気を使っているというのは半分くらいだったようだ。
「ボクも帰ることにするね。最期にアイと話したいんだ。良かったら真紀もどう? 君を応援してくれたアイにお礼くらい言ったら?」
「お礼もなにも、アイさんの悪戯で私は晴翔くんと付き合いそびれたんだから!」
「だったらなおさら一緒に行こう。そのお詫びにアイに御馳走してもらおうよ。そのくらいのことアイならわけないだろ?」
またしても純奈はいやらしく笑った。
「やれやれ。今日が最期だと思えばそれくらいはしてあげるよ」
「ってことで、晴翔たちは楽しいクリスマスイブとクリスマスを! ボクと真紀はアイとデートだ」
アイさんに御馳走してもらうってことは……?
「ちょっと待って。それってアイさんに会うってことだろ? だったら俺たちも!」
「ダメダメ、これは敗者に贈られる残念賞なんだから。だけど、晴翔が咲苗ちゃんをあきらめるなら連れていってあげるよ」
「ぐっ」
アイさんにひと目でも会いたいという思いが込み上げる。その一瞬の思いを察してか、咲苗は俺の腕に抱きついた。
「もう浮気ですか?!」
咲苗の理性破壊兵器を押し当てられたことで、その天秤は大きく咲苗に傾いた。
「では、晴翔くん。末永くお幸せに」
「長くなくてもいいわ。咲苗ちゃんに見切りを付けたら言ってね」
「真紀、素が出てるよ」
三人を見送った俺と咲苗は彼女らと反対に歩き出す。
咲苗とは小さな一歩を積み重ねて今に至った。だから、これからはその歩みをもう少し大きくしていこうと思う。もちろん彼女が望めばだが。
俺たちはそのままデパートの飲食店に入った。普段は選ばないような少しだけ豪華そうなところに。
「こっちに座るの?」
向かい合わせのソファー席で咲苗は俺の隣に座った。
「とうぜんです。こんな日に向かい合わせで座るカップルがいると思ってるんですか?」
俺も隣に座りたい気持ちはあるのだが、人前となるとなかなかに恥ずかしい。そんなことを気にしない咲苗の方を向いて俺は言った。
「あらためて言うよ。ありがとう」
「どうしたんですか? 選んでもらったのはあたしですよ」
咲苗はそう言うが、俺には気になっていることがあった。
「だってさ、咲苗ランキング三位の俺でホントに良かったのかなって」
この俺の言い分を聞いて、咲苗は首をかしげた。
「なんで晴翔先輩がランキング三位なんですか?」
「だって、一位が会社の同じチームの先輩で、二位がダンスサークルの奴で、四位がよく行くカフェの店員だって言ってたから」
「あぁ、だからですかぁ」
咲苗は笑いながら三位をあきらかにした。
「三位はですね、近所に住むイケメンの小学生です。将来有望なんですよ」
「だったら俺は五位なの? まじで? 俺でも四人からの選択だったのに」
「なに馬鹿なこと言ってるんですか。先輩はチャンピオンです。ランキングトップです! もしかして、そんなことを気にしてたんですか?」
「してたさ。咲苗をあきらめようかって考えが頭の片隅に湧くくらいにはな」
「えー、あぶなかったですぅ」
「チャンピオンならそう言ってくれよ。一位があの先輩だった時点で俺の心は折れかけたんだぜ」
そんな俺に咲苗は抱きついてきた。
「言ってませんでしたけど、ラウンジで告白されたんですよ。もちろんハッキリ断わりましたけど」
「そういうの、もっと早く伝えてくれる? 俺の心ってわりと脆いから」
「これからはあたしが守ってあげますから安心してください」
その夜は、咲苗と一緒に俺の家で過ごした。
「ビッグニュースって?! ホントかよおめでとう。でも、寂しくなるな」
「だったら一緒に住んじゃいます? そしたら毎日会えますから」
彼女のビックニュースを聞いて、ささやかながらお祝いをした俺たちは、そのあともなんやかんやとしあと、日付が変わる前に寝てしまった。
そして次の日の早朝のこと……。
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