迷探偵は名刑事 〜なんてったって密室編〜
世間は平和と言いつつ世の中に不幸は蔓延している。
人は生きている限り誰かの死に出会う。
現場の保存・鑑識の仕事を邪魔しない・重要参考人に失礼な事をしない。鉄則、いやさお約束……
まるで子供のお守りをさせられている気分の和戸村芳雄は、いつものとおり胃が痛い。原因はこの人〈本願寺・リッキー・優太〉その人である。
言わずもがな二人は刑事。事故で不幸があった場合、事件性を考慮する為に形式的に現場へ赴くのだが……
本願寺という男は無類の探偵好き、決して推理が得意な訳では無く、探偵が好きなのだ。
今迄に数多くの事故現場で、傍迷惑な探偵ごっこに付き合わされた和戸村は、幾度となく鑑識に怒られ、犯人扱いした関係者の方々に訴えられそうになるものの、実際事件だった数回のお陰で、優太と言う立派に図々しい名前の刑事を真っ向から否定する事はしなかった。只々鑑識に頭を下げ、事情聴取に気を遣い、自由なリッキーから目を離さぬよう、毎度毎度神経を張り巡らせては擦り減らし、一日の無事を願うばかり。
憧れた刑事ドラマとは程遠い現実。そして本日の現場は最悪な条件。資産家の自宅での事故死、しかも密室……〈本願寺・リッキー・優太〉の目は輝いている。
和戸村が第一発見者の家政婦さん(34)へ形式的な事情聴取を終えると、鑑識に煙たがられた本願寺が近付いて来る。お茶を淹れに行く家政婦さんの背中に声をかけようとする本願寺の行く手を和戸村が阻む。
「駄目ですよ本願寺さん。」
「何がかな?」
「余計な質問、失礼な疑問、犯人扱い、です!」
「ワトソン君。我々が疑う事を忘れてしまっては街の平和は守れなくなってしまうのだよ。」
「私、ワ・ト・ム・ラ、としては本願寺さんに大人しくして頂いたほうが平和なんですが。」
厳しい表情に抑えた声量、どうやら和戸村は本気らしい。勿論、先月の〈あわや名誉毀損〉の事もあるだろうが、和戸村は〈切れ長の瞳の女〉に弱い。
「しかしねぇ、なんてったって密室だよ?事件の匂いしかしないじゃないか。浪漫がないなぁ。」
「我等が鑑識・科学捜査班は優秀です!今は形式的な事情聴取で充分。万が一、事件の疑いがあった場合は虚偽の応答をした方が不利になりますし、密室だからこそ事件の可能性が無いんです。」
だがその後、本願寺の仮説を考慮した鑑識と科学捜査班のお手柄により、事故は事件として扱われ、重要参考人の証言の矛盾が発覚し、〈切れ長の瞳の女〉は逮捕される。