6話 電車の中で
俺とサリーちゃんは駅のホームで電車を待っている。
「もうすぐですね遊くん」
「そうだね」
俺とサリーちゃんはあれからずっと手をつないでいた。
放すタイミングもなかったし、サリーちゃんの手は出来ればずっと握っていたい。
普通なら握手会でも数秒のものをずっと握っていられると思うだけでも幸せで死にそうになる。
「あっ、来ましたよ」
そうしているうちに電車がくる。
ちなみにマンションからの最寄り駅から目的地のモールの近くの駅までは3駅程度である。
つまり大体15分程度の道のりだ。
「結構混んでるね」
「この時間なら仕方ありませんよ」
俺とサリーちゃんは電車に乗り込む。
しかし結構な混雑具合に潰されそうだ。
「遊くんこっちです」
「ああ」
俺はサリーちゃんに手を引かれ、何とかドア際のところのスペースに陣取る。
サリーちゃんが壁に背を預け、俺が盾になる形だ。
「ありがとうございます。痴漢とか怖いので助かります」
「どうってことないよ。痴漢避けになるぐらい」
「でもまだですよ」
そういいながらサリーちゃんは俺の両手を取りサリーちゃんの背中の方へと誘導する。
「私の背中に両手を回してください」
「えっ!?」
突然のことに困惑する。
まるでサリーちゃんを抱きしめるみたいな形だ。
「遊くんが変な冤罪事件に絡まないためです。私の背中に両手を回せば確実ですよ」
「ありがとう。でもこれはさすがに」
この距離でこの態勢だと、まるで抱きしめてるみたいだ。
「顔が赤いですよ。遊くん。いいですよ。ギュッとしても」
「えっ。でも」
「私もぎゅってしたいです」
そういいながらサリーちゃんも俺の背中に両手を回す。
抱き合う形だ。
そうなると俺も誘惑には勝てやしない。
「分かった。サリーちゃんっ!」
俺は勢いよくサリーちゃんを抱きしめる。
力強く、けれど優しく、サリーちゃんの背中に回した両腕に力を籠める。
「幸せです。遊くん好きですよ」
「俺も好きだよ。サリーちゃん」
抱き合いながらサリーちゃんは俺の頬に自分の頬をくっつける。
「えへへ。こういうのどうです」
「サリーちゃんの頬、暖かいね」
「照れてるんですよ。こんなの初めてですから」
「俺もだよ。サリーちゃん、なんか俺さ。サリーちゃんのことやばいぐらい好きになってる」
「私も同じですよ。遊くん好きです」
こうして抱き合いながら目的の駅に着くまでの15分を過ごした。
出来れば永遠に着かないでほしい。
そう思えるほど幸せな時間だった。