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プロローグ 奇跡の出会い

はっきり言って俺はクズだと思う。

そう自覚したのは十代の頃だ。

だが簡単にクズは治らないだろう。

所詮俺はただのしがないニートである。

そして今の俺の年齢は30代半ば。まあはっきり言って手遅れだ。

仕事をする気はない。

だから家を追い出されたのは自業自得であるし、そのことを恨んではいない。

そしてそのクズの人生の幕ぐらいは自分で降ろそうと思う。


「このビルでいいかな。 高さは十分だろう」


朽ち果てた廃ビルに入り、階段を登っていく。

階段を一段登るたびに人生の終焉のカウントダウンがなされていくようだ。

別に今までの人生に振り返るような思い出はない。

だから特にこみあげる感情も無かった。

空虚でガランドウの人生。

それが俺のものだ。

それなら終わらせてしまっても別にいいだろう。


屋上にたどり着くと、ビルの端に立ち下を見下ろす。

下から見上げた以上に高さは十分だ。

地面も舗装されたアスファルトになっている。

落ちれば確実に即死だ。


「死に切れないとかいう間抜けなことにはならないか。 よしっ」


俺は足を虚空へと投げ出そうとする。

このまま一歩を踏み出せば確実に死ねる。

そんな時だった。


「NOOOOOOOO!!!」

「んっ?」


突然の叫び声に振り返る。

するとそこには一人の少女が立って居た。


「ちょっと貴方! いったい何考えてるんですか? 落ちますよ」

「いや、落ちますも何もその為にここにいるんだが」

「ちょちょちょ! それ自殺ですか。そうですか! 目の前で自殺とか止めてくださいよ!」

「そういうアンタはなんでここにいるの?」

「そんなのは今はどうでもいいよ! 問題は自殺しようとしてる貴方でしょ! どうしたの? 何かあったら聞くよ」


少女は見た目からして美人だった。声も透き通っていて、聞き覚えがある。

その少女に見つめられると、不思議と話す気になった。


「俺はね。まあはっきり言って働いてない人なの。まあ俗に言うニートみたいなやつかな。で、働く気もないわけ。まあクズだよクズ。それで家も出ることになったし、それならここで人生の幕を降ろしてもいいかなって思ったの。34になるし、いい潮時でしょ。まあだから放っておいて。 目の前で死なれるのが嫌ならいいよ。アンタが去るまでは待つからさ」

「うわあ。本当にクズなんですね。その歳でニートとか引きますね」

「ハハハ! そうだろ。自分でも言葉にすると本当に呆れるよ」

「でもちょっと待ってください。 うーん……そうですね。仕方ありませんよね」

「何? なにか死ぬ以外の道があるって言うの?」

「そうですね。死ぬ以外の道もあります。それも結構魅力的な案ですよ」

「? 何があるんだい?」

「なに。簡単ですよ。私の家に来てください」

「おいおい、ふざけるなよ。大体あんたまだ十代だろ。家に来てって、あんたの親が許すわけ無いだろ」

「私は一人暮らしだから、親は関係ありません。それに十代といっても私は19歳だからもう大人です。あっ、部屋なら大丈夫ですよ。大きめのマンションを借りてるので空き部屋ならあります」


 少女は笑顔だった。

だが、俺はその提案に首を縦に振るわけにはいかない。


「正気か。15も年上の職も無い男と一緒に暮らしたいなんていう女がどこにいる。大体アンタほどの美人ならもっと条件の良い男と出会えるだろ。俺を家に入れるとかアンタの将来にも無駄な傷がつくだろ」

「うーん、条件の良い男だとかは考えていませんでした。それに私、こう見えてヲタクなんですよ。だから意外とモテないんです。それに実はですね。男の趣味も悪いんですよ。それに条件の良い人でもそういうステータスが高い人って絶対浮気するでしょ。そういう不誠実で嘘がある人のほうが私は我慢出来ないんです」


そういいながら彼女は俺の元へと近づいてくる。


「ああ、一応心配なのかもしれませんけど、お金の事なら大丈夫ですよ。私こう見えて、結構高給取りなんです。だから貴方一人を養うぐらい全然負担じゃないんです。多少の贅沢を許してあげるぐらいの甲斐性はあります」

「……やけに俺に都合が良い話だが、アンタにメリットはあるのかよ。慈善でするわけじゃないんだろ」

「メリットですか? うーん、考えたこと無いですけど……そうですね。じゃあ私を愛してください。24時間365日、私だけを。もちろん今すぐじゃなくていいです。時間をかけて一緒に暮らしながら、ゆっくり愛していただければ結構です」

「そんなことがメリットになるのかよ」

「なりますよ。裏切る心配がない相手との関係ほど安らげるものはありません」

「……だがそんなこと信じられ……」


言いかけた時、彼女は既に俺の間近にまで近づいていた。

そして――


「今は信じられなくても良いです。恋人が無理なら新しい保護者とかそんな感じに思ってもらえれば」


――俺の頭を両手で抱え、そっと胸に抱きしめた。

俺は抵抗が出来なかった。

だが不思議と安らいだ。


「……分かったよ。とりあえずアンタの世話になることにするよ」

「ええ、よろしくお願いします」


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