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今度は今までと同じ老婆ではなく美女の姿をとり、籠に真っ赤に熟れて美味しそうな林檎を用意した。それは、あの、有名な罪の象徴である魅惑の果実。青林檎を毒で真っ赤に染め上げ、それはそれは美味しそうに仕上げた。
『これで、この毒の林檎を一口でも口にすれば、体中に毒が回りおぞましい姿に…………』
毒林檎を籠に盛り、森へと急ぐ。
そしてもうある気慣れた森を進み、目的地では相変わらずのんきな姿で変わらぬ様を表す女の姿があった。どうやら帰ってきた他の住人の手によって手当がなされ、僅かな傷しかつかず少量の毒しか回らなかったことが災いし、どうやらその命を取り留めたようであった。
櫛を取り除くため、髪をバッサリと短く切ったようではあったが。その髪にはなぜか、あの女を最初に締め上げたはずのヒモが結ばれている。
ざわつく心を押さえつけ、なんでもないフリをしながら女の前に姿を見せる。
〖 お嬢さん、もしよかったらこの林檎はいらんかい? 〗
「まあ! なんておいしそうなリンゴ!」
この森で住むようになってから、甘いものなど一度も口にしていなかった女は久しぶりの甘い果実の香りに我慢ができず。真っ赤に熟れた林檎を丸ごと一つ、己の口内に押し込みました。
すると、林檎が喉を塞ぎその所為で息が詰まり、しかし口の中の林檎を吐き出すことはせず、もがき苦しみ、その場に倒れ込んでしまいました。
〖 ―――ふふふふ……、ふふふふ 〗
意気揚々と、やっと悲願叶ったことに笑みが我慢できず行きとは別に浮足立つ心のまま城へと戻る。
これで、これでもう、私を煩わすものは何もないと。
城の自室で久しぶりに口にした、白葡萄はいつも以上に甘く、瑞々しく、口内を満たす。
森の小屋では……
后が去ってすぐ、忘れ物に気がついた小人の一人が家に戻ってきたのだ。
家の中に入り倒れている女を見つけた小人は驚き、慌てて女に近寄れば顔を大きく膨らませ呼吸が止まっていることにさらに驚き
口に詰まっていた林檎が飛び出し、女は呼吸を取り戻し止っていた息が吹き返したのです。
しかししばらく呼吸が止まっていたせいか、まだ目は覚めず眠ったまま。
女はその後運命の導きか、お忍びで狩猟にやってきていた隣国の王子に見初められることになったのです。そして女も王子に惹かれ、紆余曲折の末結ばれることになりました。
姫となった女は己の夫となった王子に、城にいる自分の父と恐ろしい魔女の話をしました。
王子は王から初陣の話をされていることもあり、姫のいた城を魔女から取り返し姫の父を助けることで初陣を果たそうと考え実行に移しました。
戦火の果てに魔女は捕まり、王は助け出されました。
捕らえられた魔女は魔を払うべく火刑に処され、熱く焼けた鉄の靴を履かされ立てなくなるまで踊らされ。そして立てなくなった後、木の十字架に磔られ業火にその身を焼かれたのです。
姫は後に王となる夫とともに、何の憂いなく幸せな結婚を始めることができたのです。