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今回とても短いです。
麻布の袋に滲む、赤黒い染み。まだすべては乾ききっていないことを示すかのように、袋が置かれた絨毯に紅い色が少しずつ広がる。
「ご命令いただきました品をお持ちいたしました」
頭を下げたまま、斜め前においた麻袋を示す。
「ご苦労」
一言かけて下がらせた後、侍従に麻袋を厨房にもっていき中身を料理頭に調理させるよう命じ誰もいなくなった謁見の間でしばし深い息をつく。
*
あの騎士が持ち帰った、血生臭くまだ温かいそれで作られたスープ。目の前にはソレがはいったスープ皿が置かれている。添えられるように、パン(・・)とワイン(・・・)が注がれたグラスも鎮座している。
(――これを食べてしまえば、もう、後戻りはできない)
そっと、匙をスープ皿へと向けスープの海へ沈めようとするが、その寸前で止まってしまった。
香りは普通のものであるはずなのに、しないはずの鉄錆の匂いが鼻をつく。目の前にあるのは、普段となんの変わらないはずのシチュー。なのに、手が、震える……。
「――んっぐ……!」
震える手を無理やり動かし、銀の匙にすくったスープを口に入れる。
こみ上げてくる胃液をもどしたい欲求を嚥下し誤魔化す。
(――吐くな、吐いてはいけない。私が、私が殺した、その責を、一生背負って生きていかなければ…………)
一口、一口、、、時折パンとワインを挟みつつスープを全て飲み干し。添えられていたパンとワインもすべて平らげた。テーブルの上には真っ白な皿と真っ赤な紅のついたグラスが一つ、残されるだけだった。
これで、これで私は、あの子とずっと一緒。
そして、誰よりも美しくあれる。
自室になんとか戻ったあと、先日とある豪商から献上された鏡へと問いかける。
「鏡よ鏡、この国で一番美しい者は」
《 この国で一番美しい者は、后です。后が一番お美しい 》
問いかけに対し、不思議な鏡は平坦な声音で答える。
その答えに安心し、私は寝台で泥のように深い眠りについた。