密会
高宮は、恋に興味というものがないらしい。というよりも、『人間』自体を嫌っているふしがある。それには、軽く口には出せない理由がある。
とにもかくにもその理由により人間不信に陥った高宮は、私と契約することを選んだ。
お互い、自分を守るために婚約者のするふりをする…。
中学生入学と同時に交わしたその契約は、あまりにも狡猾だった。
それでも高宮はよく告白される。その場に私を連れて行くのがお決まりで、気まずいことこの上ないのだが、高宮は知らない人と2人っきりになることを酷く嫌うと知っているので、私は黙ってついて行く。
それでも、高宮が誰かを好きになれる日を、私は夢見ている。
自分の半身のような高宮には幸せになってほしいのだ。
私が、好きな人との幸せを叶えられない代わりに。
「サツキ、俺、もう…」
「ん?ダメだよ。ほら、ね?」
私の目の前で高宮がうなっている。私は優しく微笑んでみせる。
高宮の前には、チーズバーガー、きんぴらごぼうバーガー、シェイク、ナゲット、アップルパイ、その他もろもろのファーストフードが軽く山盛りになっている。
「ほら、食べて。私のおごりだよ」
私たちはとあるファーストフード店に来ていた。
山積みになった食べ物を前に高宮はどんよりしている。
「…俺のおごりにするから、サツキこれ全部持ち帰ってよ」
「持ち帰れないよ。ファーストフードに行ったって知られたら怒られる」
「お前ん家も面倒くさいよな」
高宮の家族を思い浮かべる。柔和で優しそうな人たちだ。それに比べたら確かに我が家は面倒くさい。
「執事さんには何て言ったの?」
和食を取り扱う、予約がなかなか取れないと噂の老舗の名前を言う。ハヅキにはそこに行くと説明した。
「帰りは、俺ん家の車でいいよな」
「お願い」
高宮とファーストフード店に行くのが、私の楽しみの一つなのだ。