表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

許嫁(いいなずけ)

『高宮』というのは、私の許嫁のことだ。


だから、高宮の名を出してハヅキが平然としていることが、悲しい。ハヅキの心が私にはないと改めて思い知らされるから、泣きたくなる。


初めから、わかっていたことなのにね。

私ばっかりが、好きだってことは。




「お嬢様、行ってらっしゃいませ」

「行ってきます、岡崎さん」

人の良さそうな白髪の運転手の岡崎さんに軽く会釈をして、歩き出す。


私の通う学校は、いわゆる『お金持ちの通う学校』で、玄関に横付けするために車の列ができる。その列に加わる前に、無理を言って、私は降ろしてもらうことにしていた。

岡崎さんは申し訳なく思っているようで、本当にここでよろしいのですか、と毎日飽きもせず聞いてくる。

そのたびに私は苦笑して、はいと答える。


非効率的なのだ。

待つ時間も長いし、一度列に入ってしまったら二十分は抜けられない。徒歩で行ったら七分で着くのに、と思った私は入学式の翌日からはそうすることにしたのだ。

黒光りする車の中から、好機な目で不躾に見られることにも慣れた。


それに、歩くのは健康にもいいし。



「よっ」

ド派手な、ナンセンスな飾り付けを施した車も多い。一方で、一見質素な、しかし一目で格が違うと分かる車から降りてきた人物に声をかけられた。


高宮だった。


相変わらず、背だけはひょろりと高い、華奢な体だと思う。

「『よっ』じゃない。ちゃんと食べてるの?」


高宮と並んで歩く。

手が触れそうな距離だったが、この男は相手に警戒心を抱かせることがない。

すべてが自然で、スマートだった。


「食べてるよ」

にゃはっ、と効果音がしそうな人を食ったような顔で、ごくたまに高宮は笑う。

これが高宮の嘘をつく時の癖だった。


「…まぁ、いいけど」

今日の夕飯は、これでもかってくらい食べさせよう、と密かに心に決めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ