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わだかまり②

 あの帰り道から、予感はしていた。

あんなに真面目な顔をして切り出すものだから、分からない訳がない。

航はずっと気付いていたんだ、よそよそしくなった自分に。

彼はそれを自分が野蛮だとか、まともではない振る舞いをしてしまったからと負い目を感じていた。

そう言われた時、自分がすごく情けなくなった。

――もしかして自分は、航を助けられなかったことに負い目を感じていたのではなく、そうやって違う航を見てしまったから、ずっと幼馴染だったのにも関わらず、拓海や京子の様に手を差し伸べず自己保身に走ったのではないか。

けど、普段通り話しかけることで、それを精一杯悟られないように。

航はそれに助けられたと言うけれど、私にそんな言葉などかけられる資格もない。


「私はね、卑怯だよ。ずっと航が怖かったのかもしれない」


「うん」


返事をする航の表情は強張り、私の言葉をすがるように待っている。


「航が言うように、私は良い人じゃないよ。だって自己保身に走っただけなんだもん。最初はね、なんであの時助けられなかったのかなって、そういう引け目を感じてたの。けど、今航に言われて、そういう感情もあったのかもって。あの時人が変わった様に見えた航が怖かっただけなんじゃないかって」


ずっと中学校の時から整理も出来ず抱えていた感情だ。もう何が正解かもわからぬまま言葉をつなげた。

とても彼の顔なんて見れやしない、だってあの時のことを否定するような台詞なのだ。

あの事件の中身は見ず、彼の取った行動に対しての否定なのだ。

どちらにせよ私は、結局自分の事しか考えてないように思えた。


「いや、当たり前じゃないか?誰だって目の前で暴れだしたら怖いだろ!」


その声の当本人を思わず見ると、まったく深刻そうには見えなかった。

拍子抜けだった。


「拓海だってあの時の俺はやばかったっていうし、俺だって自分が怖かったよ。それが異性なら尚更じゃないか?」


「あ、え?いや、私自分の事しか考えて無いんだよ?」


「それでも渚はほかの奴と違って邪険には扱わなかった」


ぴしゃりとそう言い放った航は、私を落ち着かせるように、優しい、落ち着いた声で話を始めた。


「俺は今でも覚えてるよ、謹慎明けの時一番最初に学校で話しかけてきてくれたのは渚だった。授業進んだ分のノートも渚が取っててくれたんだろ?先生から毎日渡されてたよ。なんでそんな渚を俺は、自分勝手な奴だって思わなきゃ行けないんだよ」


「だって、私、拓海みたいに止めにも入らなかったし、京子みたいに噂の火消しをしたわけでもないし」


「適材適所でしょ、けどちゃんと、渚は渚の出来ることをしてくれたじゃんか」


「私は、私も何かしなきゃって!それしか出来ること無くて」


「そんな言い方すんなよ!俺はさっきも言った通り本当に助かったんだ。だから最初言ったように俺は感謝を伝えたいだけだよ。ちゃんと今まで言えなかったから。幼馴染だからってうやむやにしたくない」



本人からそう言われて、初めて肩の荷が下りたように感じた。

航と話すときに感じていたプレッシャーというか、負い目というか。


「そんな、泣きそうな顔するなよ。どっちかっていうと、今までこの話をしなかった俺の方が悪いだろうが」


「だって!ずっと考えてきたんだよ?あの時見てたのに、声の一つも上げられなくて。幼馴染なのに、そもそもいじめられてるのだって助けられなかった!」



何だかんだ理由を着けてきたが、きっと自分は心の内が暴かれるのが怖かっただけなのだと思う。

今の航は、そういう自分を受け入れたうえで、どうってこないって伝えてくれているのだ。

いつの間にかベッドを降り、航の目の前に座っていた。

しかしそうは思えても、自分の感情のやり場も分からず、ひたすら相手の膝を叩いた。

 


「痛い、痛いって!俺としてはあれはいじめだと思ったことは無いからな。腹が立ったのもあの時だけだし、その後あいつからは何もされなかったからな。俺が気にすんなって言うんだから、気にすんな!」


そう言って、私の手首を掴み、膝を叩くのを辞めさせた航は、額に軽く手刀をした。


「なによー!なんなのよー!」


「本当にごめんって。渚がそこまで考えてくれてて嬉しいよ」


正直、展開が早すぎて感覚が追い付かない。

こうもあっさり、今までの事が解決して良いのだろうか、自分が悩んでいた時間とは何だったのか。

そもそも、ちゃんとあの時話せていればこんなことにはならなかった。おそらくこれは今の二人の共通認識だと思う。


「渚が怖いって思うなら、これから無理して俺と関わらなくていいと思う。けど、俺だってもう暴力なんて解決の仕方は絶対にしないし、俺の事をそう思えるって言うのなら、またこっから仲良くしていきたいよ」


「思わないよ、思うわけないじゃん!」


したり顔の航が妙に悔しく、また膝を叩く。

今度は止めず笑って受け止めていた。


「これからは、ちゃんと!色々話してね?幼馴染なんだから」


「分かったよ。こんな風に泣きそうになられても困るからな!」


航もほっとしたようで、少し深い息を吐いた。

この数年の悩みが、物の数十分で解決してしまった。

世の中の不条理のを味わったような気分だが、それは決して悪い気分ではない。


「色々話してねって言った序に聞くけど」


「なんだ」


「この前、拓海が私に授業の終わりに話しかけてきてたでしょ?あれ、何だったの?」


ハッと顔を浮かべ、視線が部屋中を泳ぐ。


「それは、言えん!」


早速幼馴染から約束を破られたのだが、こういう気安く冗談が言える関係をまた築いていけそうな、そう思わせる時間になった。


「まあ、拓海に聞くからいいんだけど?」


「それは勘弁してくださいよ!」


先程の話し合いの最中より、深刻そうな顔をしている航に、思わずいたずら心が沸き、どんな条件を出して遊んでやろうかと思い、にやついた顔を見せないよう部屋を出て逃げるのであった。













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