第七十七話 竜司と皆と闘いの跡
「やあ、こんばんは。
今日も始めて行こうかな」
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辺りは静寂を取り戻しつつあった。
すると次第に僕らに倒された人が起き出してきた。
(う~ん……
ここは……?)
(何でこんな所に……
イテテ)
ケガしている人もいる。
非常事態とは言え悪い事をしてしまったなあ。
この人たちが正気で起きてきたって事は矮子看戯は解除されたのか。
良かった。
「さて……
僕らはどうする?」
「どうしよう……?
とりあえず私はルンルを元に戻すわ」
超電磁誘導砲を立てかけていた蓮は手をかざす。
銃は黄色い光に包まれ、見た事のある竜に変わった。
ルンルだ。
【あー、キモチ良かったわぁん】
ルンルは何やらご満悦そうだ。
ファンファンファン
ウーウー
ピーポーピーポー
周りでは救急車、消防車、パトカーと騒がしくなってきた。
ここで警察に事情聴取はまずい。
下手したら家に連れ戻される。
「蓮っ!
ここから離れたい!」
「何どうしたの竜司?
そんなに焦って」
「警察はマズいんだ。
事情聴取とかで下手したら家に連れ戻される」
「あっ、そっか。
竜司は今、家出中だったもんね」
すると遥がこちらに近づいて来た。
もう五大大牙は浮いていない。
絢爛武踏祭は解除したのだろう。
「あー疲れたー……
って竜司お兄たんどうしたの?
寝っ転がって」
今回の魔力注入による後遺症は変わっていた。
頭はスッキリしているのに、体が全く動かす事が出来ない。
文字通り指一本動かす事が出来ない。
「何?
逃げないといけないの?
なら早く起きなさいな」
状況が解らない遥はあっけらかんとそう言う。
「起きたいのは山々だけど……
無理……
なんだよね……
ガレアー!」
【何だ竜司どうした?
寝っ転がって】
ガレアもあまり状況が解って無い様だ。
元々ガレアの魔力が原因だというのに。
「ごめん……
ガレア……
僕をおぶってくれないか……?」
【何だ立てねぇのか。
しょうがねぇなあ】
ガレアはそう言うと軽々僕を持ち上げ背中に乗せた。
しかしどうしよう?
どこへ行けば。
「遥、どこか隠れる事が出来る場所知らない?」
「フッフー、あるわよぉっ。
多分大丈夫なはず」
遥は自慢げにそう言う。
「じゃあそこに連れてってくれないか?」
僕が頼むと遥は携帯を取り出した。
「ちょっと待ってねー。
一応許可をもらわないと……
あ、もしもしキリちゃん?
悪いんだけどセカンドハウス貸してくんない?
うん……
わかってるわよぉ……
漫画のネタに使えそうなモノはあったから……」
遥が電話をしながら右親指と人差し指で輪を作る。
OKと言う事だろう。
というか電話はキリコ先生か。
「うん……
合鍵はいつもの所ね。
それじゃあ」
プツッ
「竜司お兄たんOKだって。
さあ早く行きましょっ!」
「ガレア、遥の後について行って」
【わかった】
僕ら四人は遥とスミスについていった。
のっしのっしとガレアの背中で揺られる事二十分弱。
あるマンションの前に来た。
僕らは中に入り階段を登る。
何周かグルグル回って通路を歩き、端の部屋に辿り着く。
「ええと……
カギは……
あったあった」
ガチャリ
玄関を開け中に入る。
大分広いマンションの一室だった。
おおよそ3LDKと言った所か。
すると蓮が。
「竜司待ってて。
お布団敷いてあげるから。
遥さん、お布団どこかしら?」
「こっちよ。
おいで」
パタパタ
足音が聞こえる。
遥と蓮が違う部屋に行ったのだろう。
すぐにパタパタと近づく足音が聞こえた。
少し布切れの音が聞こえる。
じきに蓮から声がかかる。
「竜司、お布団敷いたわ」
ありがたい
「ガレア、前に布団があるだろ。
そこに僕を寝かせてくれ」
【めんどくせぇなあ】
ガレアはこっちも向かず、背中に手を回す。
そして荒くれ物が荷物を降ろすようにドサッと僕を降ろす。
「イタッ……
くない……」
この状態になってからうすうす感づいていたけど、今僕は顔しか感覚が無い。
正確には顎から数センチ下からの感覚が全く無い。
まるで生首のような感じだ。
「さっ竜司。
冷えるといけないわ。
お布団掛けてあげるね」
蓮が掛け布団をそっとかけてくれた。
やっぱり蓮は優しい。
色々あったけどようやく僕は落ちつけた。
何か嬉しい。
僕は天井を見上げてる。
蓮が話しかけて来た。
「竜司……
強くなったんだね」
先程の杏奈との決戦の事を言っているんだろう。
「でも今こんな状態だよ。
今首から下の感覚は無いからね。
それよりも蓮の方が凄いよ。
電通銀鎖と超電磁誘導砲だっけ?」
「電通銀鎖はママのおさがり。
超電磁誘導砲はアニメを見てて思いついたの」
「アニメで?」
「思いついたって言うか。
アニメでやってた事、私にもできないかなあって」
蓮が言うには数少ない蓮の女友達から蓮みたいな子が主人公だと勧められ試しに見てみたんだって。
そのアニメは学園都市と言う街で超能力を使う女子中学生が活躍する話なんだそうな。
その中で出てくる主人公が電撃使いでレールガンを使う。
僕もそのアニメは好きでよく見ていたよ。
「へぇ、アニメを見てね……
でも撃ち方は全然違うね」
僕は笑いながらそう言った。
そのアニメではレールガンを撃つ時はコインを指で弾くポーズなのだ。
それを聞いた蓮は少し赤くなって……
「だっ……!
だってしょうがないじゃないっ!
私も何度かアニメと同じ感じでやってみたわよっ。
でも普通に帯電したコインが飛ぶだけなんだもん……」
蓮がゴニョゴニョ言っている。
可愛い。
「それでルンルを銃にするって事を思いついたの?」
「私一人じゃないけどね。
超電磁誘導砲について悩んでいる時に
ママが“あなたは枠に囚われ過ぎている”ってアドバイスもらってそれで思いついたの」
そんな話を聞きながら蓮がお母さんと上手くやっているようで内心安心していた。
「そう言えば竜司も度々使っていた魔力注入って……」
「ああ、それは奈良でヒビキって竜から教わったんだ」
すると遥が話題に入って来た。
「あれは外法の技ね。
使うの控えた方が良いわよ。
竜司お兄たん」
そんな事言っても強敵が現れると使わざるを得ないしなあ。
次は蓮が遥に話しかける。
「そう言えば遥さんの絢爛武踏祭凄かったですね。
ちなみにその赤い竜は何て言うんですか」
「フッフーン、でしょっ!?
エッヘンッ!
あ、この竜はスミスって言うのよっ」
「ありがとうねスミス。
竜司を助けてくれて」
蓮はスミスに向かって礼を言った。
【いえいえ軽いものですよ。
お礼は今履いている白いパンティ的な何かキボンヌ】
「はは……
そう言えば遥さん、スミスってどんな竜に分類されるの?」
「スミスはねっ
武竜なのっ!」
「武竜?」
それから蓮は遥の説明を聞いていた。
僕はというとただ天井を見上げていた。
首から下の感覚が無いから全く動かないのだ。
「明日へのたーめにー♪」
下で歌が聞こえる。
いや、下というのは僕から見た話で部屋で言うと奥だ。
これはアステバンのOP曲だ。
僕は色々察しがついた
「ガレア……
何してるの……?」
【ん?
だって多分竜司当分そのまんまだろ?
TVと見る機械もあったからアステバン見てんだよ】
全くこいつは。
ん?
というかガレアってDVDデッキ操作できたのか?
「ガレア、よくDVD見る事なんてできたね」
【だって旅に出る前、竜司が散々操作してたじゃねぇか。
あんだけ見てりゃ誰でも出来るっての。
ボタンも文字じゃ無くて記号が書いてあるしな】
おそらく再生ボタンの三角マークの事を言ってるのだろう。
「まあ、いいか。
おとなしくしててよ」
【はいよ】
僕はいつまでこのままなんだろう。
三重の時は確か一週間ぐらい眠りっ放しだったんだっけ。
何で三重の時と後遺症が違うんだろう。
三重の時との違いを考えてみた。
うーん、わからん。
「竜司どうしたの?
何か考え込んでいるみたい」
蓮が微笑みながら上から覗き込む。
「いやね……
魔力閃光を使った時の後遺症の違いについて考えていたんだよ」
「ふうん、どう違うの?」
蓮は更に聞いてくる。
「うーん、三重の時は一週間ぐらい寝てたらしいよ。
そして今回はコレだよ」
「使い方に違いってある?」
「三重って最後、ガレアに乗ってレースしたんだけど」
「竜司……
何やってるの?」
蓮が呆れている。
「成り行きでそうなったんだよ。
そのレースって出場者全員竜河岸だったんだけど」
「ますますわかんない。
何そのレース」
蓮が呆れ顔から不思議そうな顔になっている。
成り行きで出たけどやっぱりあのレースって変だったんだ。
「そのレース中にかなりの回数使ったなあ。
ゴールの直後気を失ったし」
「何でレースで魔力を使うのよ。
まあいいわ。
それで今回とそのレースとの違いは何かしら?」
「一番の違いは魔力の大きさだね」
蓮が根本的な事を聞いて来た。
「そもそも魔力注入って何なの?」
「あぁごめん。
それの説明がまだだったね。
要するに竜から魔力を抽出してそれを体内に取り込む技だよ」
「魔力を……
そんな事して体大丈夫なの……?
あ、そっか」
蓮は僕の有様を見て理解したようだ。
遥も話題に加わる。
「竜司お兄たん、使うの控えないと駄目だってば」
「でっ……
でもっ
使うたびに慣れていってる感じはあるんだよっ」
「でもねぇ……
そう言えば竜司お兄たん、何で名古屋に?」
結構長く居るがそういえば遥には説明してなかった。
「僕は旅の途中だよ。
横浜に行く途中で寄ったんだよ」
「学校はい……
まあその部分はいいわ。
でもこの先も何があるか解らないじゃない。
魔力注入以外の戦い方を考えた方が良いわよ。
これ以上使い続けると杏奈みたいになる」
元々杏奈は遥のファンで遥も十二歳の頃から知っているらしい。
十三歳の時、中学校の先輩に恋をしてからおかしくなっていった。
そして年末に事件を起こした。
その時に遥が邪魔をした時から忌み嫌うようになったんだと。
歌も元々遥がやっていたのを真似して始めたそうな。
ちなみにその可哀想な中学校の先輩は引っ越してしまったらしい。
トラウマになっていなければいいけど。
「そうだったんですね……
じゃあその事件の時に魔力注入を?」
「かもね。
もう少し前かも知れないし。
本人から聞いてないから解らないけど」
「その事件の時の杏奈はどうだったんですか?」
「その時はこんな化物じみては無かったわよ。
私の絢爛武踏祭で十分渡り合えてたし。
矮子看戯もせいぜい百人ぐらいだったわ」
何となく杏奈の事を考えた。
結局、杏奈は自分の気持ちが強すぎて相手から拒絶されるんだ。
拒絶されると自分が辛いからあの手この手で振り向かせようとする。
杏奈が何となく哀れに思えてきた。
もちろん百%同情だけど何でこんな気持ちになるんだろう。
一服盛られたり監禁とかされたのに。
僕は少し考えた。
わかった、多分おかしくなったキッカケが僕と同じ部分があるからだ。
僕も家族から拒絶されて辛いから取った方法はこちらからも拒絶だ。
要するに関わりを断って引き籠もったって事だ。
杏奈は選択肢を間違えて周りを傷つける方向を選んだ。
僕も一つ間違えてたら杏奈みたいになっていたのだろうか。
「杏奈……
どうなったんでしょう?」
「多分あのままなら警察に確保されるでしょうね。
まだ長期保護観察処分は解けていないはず。
警察側も五年前の事件は知っているし年齢的に考えて逮捕……」
逮捕。
その言葉を聞いてますます悲しくなった。
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「はい、今日はここまで」
「パパー、首から下がわからないってどんな感じ?」
「うーん、正座とかしてると足がしびれてくるだろ。
しびれても気にせずそのままいると足の感覚が無くなる事って無い?
それの全身版だよ」
「僕足しびれたらすぐ正座止めるから解んない」
説明失敗。
でもあの感覚はなった者にしかわからない。
「おっとそろそろ時間だ。
さあ……
今日はもうおやすみ……」




