第七十六話 竜司とガレア、市街戦突入 後編~決着
「やあこんばんは。
今日も始めて……
龍?」
「パパー……?」
龍がジトッとこっちを見ている。
多分先日の事を引っ張っているのだろう。
「昨日はごめん……
今日から普通に戻るから……
じゃあ始めるよ」
もう女の子視点で話すのは止めよう。
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ようやくラスボス登場と言った所か。
蹴りを放った杏奈が僕らの正面に降り立つ。
「チッ!
相変わらず忌々しいわねっ!
アナタの絶対防御線ッ!」
遥を睨みつける杏奈。
おそらく絢爛武踏祭発動中の遥への攻撃は周りの武器が防ぐのだろう。
「でも……
まあいいわ……
ここで終わりにしましょう……
竜司とクソ女とビッチ年増とクソ竜とオカマ竜とデブ竜っ!」
(マダムゥゥゥ)
操られている人々が集結し出した。
どこに居たのかどんどん集まってきて杏奈を先頭に大きな群れになっていく。
「フフフ……
矮子看戯を発動させて二時間弱……
僕達は五百人強って所かしらぁっ!
ウフフ……
五百人強対六人……
負ける訳ないじゃなぁい!」
杏奈は勝ち誇ったかのように高らかに笑う。
確かに数だけで言うと圧倒的にこちらが不利だ。
多分数人はまだ戦力増強に動かしているんだろう。
僕だったらそうする。
となると雑魚を倒してもキリがない。
僕は杏奈に尋ねてみた。
「この人たちを元に戻す方法は……?」
「ウフフ……
どうしようかしら……?
まあいいわ……
竜司には教えてあげる……
方法は二つ……
私を気絶させるか……
もう一つは……
竜司なら解るわよね……」
「ああ……
あと一つは解放の為の条件……」
「さすが竜司……
頭良いわぁ。
なら五百人強が全員爆発したらどうなるかもわかるわよねぇ……?」
先程十人弱であの威力だった。
あの爆発力で五百人が爆発したら、完全に栄は崩壊する。
「ウフフ……
わかった……?
竜司……」
「ああ、わかった。
要はお前をぶっ飛ばさないと駄目だって事だな」
結局監禁された頃から目的は変わっていない。
杏奈を倒すだけだ。
「さあ……
行きなさい僕達っ!」
(ガァァァァ!)
(オマエタチタオスゥゥ!)
五百人強が一斉に押し寄せる。
最初に口火を切ったのは遥だ。
「水蛇の恩恵ッ!」
遥の周りに浮いていた杖から蛇の様に水流が迫る人々に叩きつけられる。
吹っ飛ばされる人々。
しかしダメージは少ない様ですぐに立ち上がる。
続けて遥が叫ぶ。
「聖者より授かった雷牙ッ!」
遥は浮いていた槍を掴み地面に突き立てる。
バリィィッ!
激しい通電音と火花が起きる。
遥の前方の人々が焦げてパタパタ倒れて行く。
なるほど五大大牙最後の一本はあの槍か。
「どう?
蓮ちゃん、貴方も電撃使いのようだけど私もなかなかのもんでしょっ?」
「ええ、私のお株を奪われちゃったみたい。
でも私も……」
蓮の手から銀製ワイヤ―が射出。
先端の重りが生きているかの様に人々の群れを掻い潜り、蓮の手元まで戻ってくる。
「電通銀鎖ッ!」
ワイヤーの軌跡上に居た人々も倒れて行く。
二人とも強いなあ。
と、僕も負けてられない。
戦わないと。
「魔力注入ッ!」
ドクン
心臓が高鳴る。
僕はまず足に集中し、大きくジャンプした。
迫る人々を飛び越える形だ。
狙いは杏奈ただ一人。
大きなアーチを描く僕の身体。
もう少しで接触する。
その間際。
僕はもう一度叫んだ。
「魔力注入ッ!」
ドクン
再び心臓が高鳴る。
僕は両腕全体に魔力を集中。
空中から火の様な乱打を杏奈に浴びせた。
「うおおおおおおっ!」
「ウフフ……
魔力注入……」
杏奈も魔力注入を発動させたか。
しかし関係ない。
僕の乱打が杏奈に接触した。
が、軽く手で防御された。
僕が繰り出した乱打は自分で言うのも何だがかなりのスピードだったはずだ。
僕の乱打を超えるハンドスピードで難なく防御しながら杏奈は話しかけてくる。
「ウフフ……
竜司、一発では私に適わないから今度は手数で押すというのね……
考え方としては悪く無いわぁ……
でもまだまだ……」
僕は気にせず乱打を続ける。
が、両手を掴まれた。
やばい。
離れないと。
だが、ガッチリロックされた杏奈の手は僕を離さない。
杏奈はは僕を掴んだまま軽く僕を持ち上げる。
杏奈の頭上に僕の身体が来る。
おい、まさか。
「竜司ィ!
どうして私を愛してくれないのぉっ!」
ドコォォォンッッッ!
杏奈は両手を振り下ろす。
激しく地面に叩き付けられる僕の身体。
地面の石畳が割れてるのが解る。
「ガハッ……」
僕は嗚咽を漏らす。
口に鉄の味がする。
おそらく血を吐いたのだろう。
「どうしてどうしてドウシテどうしてドウシテェェェェッッ!」
ドコォォンッッ!
ボコォォォンッッ!
バカァァァンッッ!
杏奈はまるで軽い棒切れを振り降ろすかのように何度も何度も僕を地面に叩き付けた。
最初は呻き声を上げていた僕だが次第に静かになって行った。
「竜司っ!」
ルンルの口から扇状に電撃放射。
杏奈は咄嗟に手を離し、バックステップする。
蓮が助けてくれた。
駆け寄る連。
「竜司っ!?
大丈夫!?」
「うう……
魔力注入……」
僕は魔力注入を発動させ身体を治療した。
よし回復。
僕は立ち上がる。
しかし回復したとしてもやはり真正面から杏奈と対決するのは分が悪い。
「チッ!
また私と竜司の甘い時間を邪魔がっ!
ホント邪魔ねェッ!
そのクソ女ッ!」
今度は蓮も言い返す。
「何が甘い時間よっ!
アンタが一方的に竜司を痛めつけていただけじゃないっ!」
何か僕が弱いと言われているみたいだ。
若干僕の心も傷ついた。
「ウフフ……
これだからケツの青いクソ女は……
これが私と竜司の愛の形なの。
部外者は黙っててくれるかしらぁっ」
そんな馬鹿な愛の形があってたまるか。
どちらかというと部外者は杏奈の方ではないか。
僕はその考えの一端が口に出てしまった。
「部外者はお前だろ」
それを聞いた杏奈の目が見開き、顔が素早く右に傾く。
「なァっ…………!!?
ウフフ……
まだ竜司は自分が強いと思い込んでいるようね……
魔力注入……」
傍に居るシスから目に見える程大きな魔力が杏奈の身体に取り込まれる。
発動した杏奈がこっちにゆっくり歩いてくる。
杏奈が踏みしめる度漏れ出る魔力によって地面の石畳が割れる。
僕は落ち着いてスキルを発動した。
「フー……
全方位」
緑のワイヤーフレーム表示。
今回は索敵が目的じゃない。
離れた敵に印をつけるためだ。
「標的捕縛」
杏奈の頭に青い菱型印が付く。
杏奈が近づいてくる。
ゆっくりと。
後五メートル。
この至近距離なら無傷とはなるまい。
「フー……
行くぞぉぉぉッ!
ガレアァァァ!
針鼠ッ!
シュートォォォォッ!」
僕の叫びを聞いたガレアが白色光に包まれる。
身体全体から無数の魔力閃光射出。
全て杏奈の頭目掛けて牙をむく。
ドガガガァン
杏奈の頭に全弾命中。
身体がよろけている。
煙に包まれて顔はよく解らない。
やがて煙が晴れる。
杏奈の頭から大量の出血が見える。
そして体もフラフラしている。
やった、ダメージはあったようだ。
「……アッハッハッハッハァッ!
どう?
見たクソ女。
これが竜司の私への愛なのよ。
閃光が一発一発当たる度に竜司の愛が流れ込んできたわ……」
しばらく黙っていたかと思うと高らかに笑い出し妄言を撒いている。
いや、愛してませんから。
愛なんてありませんから。
杏奈の妄言はまだ続く。
「……これだけ愛をもらっちゃあ、お返ししないといけないわね……
魔力注入……」
そう呟いたと思うと疾風のように杏奈が間合いを詰めてきた。
一瞬で側まで近づく。
「イ……
魔力注入ッ!」
咄嗟に僕は魔力注入発動。
「竜司っっっ!?
危ないっ!」
傍に居た蓮が僕の前に立つ。
「邪魔よっ!
クソ女ッ!」
杏奈が猛烈な勢いのまま左手で蓮を振り払った。
後ろに吹き飛ぶ連。
「キャアッ!?」
「蓮ッ!」
蓮の方を向いた瞬間、ぞくりと寒気がした。
僕の下からだ。
俯くと右手を握り爆発寸前の杏奈が居た。
「やぁねぇ、愛し合っている最中に他の女なんかに目を奪われて……
もっと私を見てよぉぉッッ!!」
ドゴォォォッッ!
杏奈の渾身の右ストレートが僕の腹に炸裂。
「グボァァァァッ!!」
僕の身体は吹き飛び大の字に倒れた。
意識が混濁する。
僕は何をやっているんだ。
杏奈と戦っているんだ。
何で?
杏奈がしつこいからだ。
今日は蓮と会うってのに……
蓮?
そうだ蓮は僕を護るために……
プチン
僕の中で何かが切れた気がした。
ここで久しぶりに来ました。
若い頃の僕は頭に血が昇りやすい性質だ。
僕はキレた。
静かにキレた。
「杏奈……」
僕は空を見上げながら杏奈に話しかけた。
「あら?
私本気で殴ったのに話せるのね……。
さすが私の未来の旦那様」
話せるのは魔力注入の魔力を全て腹に集中させていたからだ。
腹を殴るのは解っていたから。
「……僕には覚悟が足りなかったんだと思う……
そりゃあ、ビビるよ……
最初にやった魔力注入で気絶しちゃったんだから……」
「竜司……?
一体何の話をしているの……?」
僕はゆっくり起きる。
「僕が甘かったのが原因って事だよ……」
僕は倒れている蓮の方を見る。
「蓮……」
僕は自分の不甲斐なさに嫌気がした。
「でももういいっ!
僕はキレた!
戦いの後で身体がどうなろうと知った事かっ!
遥ーッ!
蓮の事は任せたぞーっ!」
戦っている遥に大声で呼びかけた。
「ええ!
わかったわっ!」
僕は覚悟を決めた。
それは魔力注入のレベルを上げる事を意味する。
確かヒビキが言っていた。
竜同士の戦いは一度に出せる魔力量によって左右されると。
僕のガレアがあんな呪竜如きに負けるものか。
「ガレアァァァァ!
行くぞぉぉぉッ!
魔力注入ォッ!」
大きな魔力の球がガレアの身体から出てくる。
このサイズは初めてだ。
大丈夫か僕の身体。
いや、迷うな。
今は前の敵を倒す事だけ考えろ。
大きな魔力の球が僕の身体に入る。
ドッッックン
今まで聞いた事無いぐらいに心臓が大きく波打つ。
やはり僕にはまだ早かったか。
ドッッックン
再び大きく波打つ心臓。
意識が途切れそうだ。
駄目だ!
途切れさせるな!
僕が巻き込んで蓮が……!
本当なら今頃蓮と楽しく名古屋の街を散策していたはずなのに……
誰のせいだ……
アイツだ……!
「GYAAAAAAAAAッ!」
僕は言葉なのかわからない叫び声を上げた。
「りゅ……
竜司……
どうしたの……?
目がまるで竜みたいに……」
僕の豹変を見て、杏奈も驚いている。
意識が巡る。
身体も熱い。
殴りたい。
何かを無性に殴りたい。
誰を殴る?
杏奈だ。
僕は杏奈を殴る。
僕は杏奈にゆっくり近づいて行った。
踏みしめると石畳が割れる。
ひび割れはあきらかにさっきの杏奈より大きい。
ビシィッ!
ビシッ!
石畳が割れる音が大きく響く。
「ヒッ……
イ……ッッ!
魔力注入ッ!」
僕の異様な雰囲気に恐怖を覚えた杏奈。
たまらず魔力注入発動。
だがそんな事は関係ない。
僕は杏奈を殴る。
ただそれだけだ。
手の届く距離まで近づいた。
僕が右拳を握る。
そしてゆっくり構える。
そして全ての思いを込めて腹にアッパーを放つ。
ドゴォォォォォォォォォンッッッッ!!
「ウゴァァァァァァッ!
キャァァァァッ!」
僕の天を突くアッパーは杏奈の腹を捕えた。
巨大な衝撃音が響く。
天高く舞い上がる杏奈の身体。
僕の怒りは収まらない。
僕は軽く地面を蹴った。
一瞬で僕の身体は杏奈の上を行く。
僕の素早さに驚いている杏奈の顔が確認できた。
しかしそんな事は関係ない。
僕は両足で思い切り腹を踏ん付けてやった。
物凄い勢いで落下する僕と杏奈の身体。
「ゴヘァァァァ!
キャァァァァッ!」
落下する最中回転も加えてやった。
錐もみ状に落下し地面に着弾。
ドコォォォォォォォンッッッッ!
ベキベキベキィィィィッッ!
大きな着弾音の中、杏奈の肋骨が折れる音が聞こえた。
まだまだ。
身体から降りた僕は杏奈の襟首を掴み空中に放り投げた。
「キャァァァァッ!?」
杏奈が重力に任せ落下してくる。
僕は狙いを定め思い切り杏奈の左頬に渾身の右ストレートを放つ。
顔は女の命と言うが僕はもう杏奈を女と見てなかった。
バコォォォォォンッッッ!
「ゴベァァァァァァ」
よもや女とは思えない声を叫びながら真横に吹き飛ぶ杏奈。
十五メートル程飛びゴロゴロ転がって蹲る。
とどめだと思った瞬間。
ドッッッックン!
心臓が高鳴った。
ドクンドクンドクンドクン!
心臓が速く力強く波打つ。
僕はその場に倒れてしまった。
「げ……
限界か……?」
「竜司っ!
大丈夫っ!?
しっかりして!」
蓮がこちらに走ってくる。
僕を抱き起こし心配そうな顔を見せる。
「蓮……
無事だったんだ……
良かった……」
僕は蓮の手を震えながら握った。
暖かい。
本当に無事だったんだ。
「ごめんね蓮……
ちょっと無理しちゃった……」
「竜司……
そんな力があったなんて……
驚いたわ……
さすが私の未来の旦那様……」
遠くで杏奈の呟き。
こいつまだ諦めてなかったのか。
「何……?
クソ女無事だったの……?
チッ!
あーもームカつくわぁぁぁ!
もうこうなったらシスの目を開けてやる……
竜司も死ぬかも知れないけどそれも良いかもね……
永遠に私のモノになるんだから……」
ヤバい。
シスの目が開くと確か目に映るもの全てが呪い殺されることになる。
「蓮……
逃げろっ……!
今すぐここから離れるんだ!」
「竜司、どうゆう事?」
「シスって言うのは杏奈の隣に居る目を瞑っている竜の事。
シスの目が開くと目に映るもの全てを呪い殺すんだ……
蓮……
早く逃げて……
僕は君に死んでほしくない……」
僕は蓮に死んでほしくなかった。
すると心配そうな僕を見て蓮は笑ったんだ。
「竜司……
心配しないで……
私が全てに決着をつける!!」
蓮が勇ましく立ち上がる。
「私の新スキルで!!」
新スキル。
杏奈の方を向いた蓮は確かにそう言った。
「新……
スキル……?」
「ええ……
ソレを喰らったら人間である以上立ってられないはず……
でも、竜司……
恥ずかしい部分もあるから笑わないでよ……」
一体何をするというのか。
蓮はルンルの方を向く。
「ルンルッ!
こっちへ来てっ!
アレをやるわよっ!」
【わかったわん】
ルンルが側に来る。
蓮がルンルの肩に手を置いて目を瞑った。
身体が黄色く輝く。
どんどん光量が強くなる。
【あぁん!
キタキター……!
エ……
エクスタシィィィ!】
膨らむ光の中ルンルがそう叫ぶと光が止む。
あれ?
ルンルが消えた。
どこだ?
【蓮?
準備OKよぉん】
ルンルの声が聞こえる。
蓮の方を見ると何か持っている。
銃だ。
しかも物凄く大きくて長い。
金色にも似た光を放つ輝く銃だ。
銃の所々で放電が起きている。
もしかしてアレがルンル!?
「なあにそれっ!?
今さらクソ女が何をしても遅いわよっ。
もう少しでシスの目が開くわ……」
確かにシスの瞼が少し持ち上がっている。
ヤバい、もう一刻の猶予も無い。
「そんな事は私がさせないっ!
行くわよっ!
これがっ!
私の第三のスキルッ!」
蓮が引き金を引く。
「超電磁誘導砲よっ!」
キュンッ……
全てが一瞬だった。
ルンル銃から何かが射出された。
眼で追う事も出来ず、杏奈の居た所に着弾。
ドカァァァァァァァァァァァァンッッッ!!!
大きな爆発が起こる。
辺りは爆撃された後のような自然音しか流れていない。
蓮を見るとバチバチ放電している。
蓮……
凄い。
###
「はい、今日はここまで」
龍を見ると顔が輝いている。
「パパッ!
凄いよっ!
蓮さんっ!
僕も撃ってみたいっ!」
良かった。
昨日の穴埋めは出来た様だ。
しかし物騒な事を考える子だ。
「それは龍がいっぱい勉強して大人になって自分で作ってみると良い……
じゃあ今日はおやすみ……」




