第三十八話 竜司、天涯と相対す
「やあ、こんばんは。
今日も始めて行こうかな」
「うん!」
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僕は氷織のマンションまで帰って来た。
「ただいまー……
って……
え?」
見るとガレアがカチカチに凍っている!
ホントにこの時はビックリした。
一体どう言う事?
そう思ったよ。
「ガレアァッ!?
これは一体……」
食卓に置かれた鍋。
具材は蛸の様だ。
ぼんやりと何となく合点がいった。
【ああ、おかえり。
いやね、ガレアがあんまり好き嫌い言うもんだからさ。
頭を冷やしてもらいたくってねえ】
「たくってねえって……
ガレアの事なら僕が謝りますから。
とりあえず、元に戻してください」
ヒビキがパチンと指を鳴らす。
ガレアを覆っていた氷は霧になって消えた。
【ハッ!?】
【頭は冷えたかい?
ガレア?】
【うん……】
ガレアがショボンとしている。
さすが白の王。
【竜司、飯は食ったのか?】
「いえ、いただきます」
今日の晩御飯は蛸鍋だ。
たこ焼きの時もそうだったがガレアは蛸が嫌いの様だ。
ガレアはすっかり元気を無くし、ゴロンと横になってしまった。
その日はゆっくりと食事が出来たよ。
「そうだ氷織ちゃん、近い日で平日に開いてる日ってある?」
「何言ってるんですか。
平日は学校に決まって……
ああ、そう言えば三日後が創立記念日でお休みです」
「わかった。
じゃあその日、僕と一緒に天涯教に行こう。
そこで脱会の意思を告げるんだ」
「わかりました」
氷織は無表情にそう答える。
三日か……
脱会の意思を示したら天涯の奴がどう動くか。
もう少し魔力の扱いが上手くなっていたい。
僕はこの三日間でどれだけレベルアップ出来るか……
そんな事を考えていた。
「ヒビキ、三日間の間に時間はとれる?」
【明日は仕事で無理だけど、残りの二日は大丈夫だよ】
多分天涯とは戦う事になる。
天涯もあの年だ。
催眠以外の切り札を持っていないとは言えない。
念には念を入れたかった。
「あ、そういえばヒビキは三日後はどう?」
【 三日後かい?
ちょっと待ってな……
あー、無理だね。
仕事だよ】
「分かりました」
という事は白の王の手助けはないという事だ。
僕一人でこの問題は片付けないといけない。
少し怖くなったよ。
でもやらなきゃ。
そんな気持ちだったなぁ。
結局その日はそのまま寝てしまった。
催眠を防ぐ方法はサングラスでいいだろう。
明日はガレアと連携をとる方法を考えなきゃそんな事を考えて寝てしまった。
三日はすぐに過ぎた。
さぁ今日は天涯に脱会の意思を伝える日だ。
僕は氷織を連れて総本部へ向かった。
向かう途中にコンビニでサングラスを購入。
着けてみた。
鏡を前に僕は結構いいんじゃないかって思った。
けど氷織が……
「似合いませんね」
と一蹴。
「ぐっ……
ほら氷織ちゃんもつけて」
ガレアはどうしよう?
「ガレア、目に魔力とかでガードつける事って出来る?」
【出来なくはねーけど何で?】
「催眠を防ぐためだよ」
【催眠?】
ガレア、四日ぶりのキョトン顔。
「催眠っていうのは相手の目に光とかを浴びせて思い通りに操るって方法の事だよ」
【じゃあ……】
ガレアの眼の辺りが優しい光に包まれる。
【はい、これで……
わぁっ!】
ドン
ガレアが壁にぶつかった!
「ちょ……
ちょっとガレア。
まだしなくていいから。
合図したらやったでいいから」
【はあい】
僕と氷織はサングラスをかけて総本部に到着。
さて、どうやって天涯を引っ張り出そうか。
「氷織ちゃん、何かいい案ない?」
「玄関に行って私が来たと言えば応じてくれます」
さすが大天人。
総本部は平日だけあって人はほんとにまばらだった。
まばらだと境内の広さが際立つ。
十分ほど歩くと物凄く大きい扉の前に来た。
表札を見ると……
吉田。
「吉田?」
「天涯さんの本名は吉田ヨシオです」
「あ、そうなんだ……」
何が極応神天涯だ。
タダの吉田ヨシオじゃないか。
ヨシって何回言うんだよ。
僕は少し呆れた。
ピンポーン
「はい」
「私です。
氷織です」
「あ、これは大天人様。
いかか致しました?」
「司教様に話があります」
「少々お待ち下さい」
玄関のドアが開き、黒スーツの男が出迎えた。
「こちらへどうぞ。
お連れ様も」
とにかく家は広かった。
僕の実家よりも広い。
大きな窓を覗くと庭にプールもある。
「天涯様、お連れしました」
「通しなさい」
ドアを開けると十二畳ぐらいのリビングだった。
奥の方でケイダと呼ばれていた竜が大モニターを前にゲームをしている。
【レベル上げだりー】
しかし竜の姿でよくコントローラーみたいな小さなものを持てるな。
と思い見てみると色こそ薄黄色だが手の形は人間と同じだった。
多分魔力で変えたのかな?
そこまでしてゲームがやりたいか。
「今日はいかがいたしました?
そのサングラスは……?」
「ただのファッションです。
お気になさらずに。
今日は氷織ちゃんの脱会の意思を伝えるために来ました」
「……ほうほう、それはそれは……
理由を聞かせて頂いてもよろしいですか?」
「こんな所に氷織ちゃんを置いておけないからです」
「また、こんな所とはずいぶんな物言いですね」
「ええ詐欺集団ですから。
詐欺の片棒を担がせるわけにはいきません」
「では竜司さん、あなたは詐欺だ詐欺だと仰るが具体的にどういった点からそう思われたか伺いたい」
「まず托身の業です。
あの信者たちが作ったお金は誰の手元に行くのですか?」
「それは宗教法人の運営費として使わせていただいてます」
嘘つけ。
自分の懐に入れてるだろ。
だからこんな豪邸を建てれたんだろ。
僕は天涯の申し開きを無視して話を続ける。
「そして、並河さんを初めとする被害者が多いという点から天涯教は詐欺集団と結論付けました」
「並河……
知りませんねえ。
とにかくあなたは危険な思想の持ち主の様だ。
天竜の洗礼を受ける必要があるみたいですね。
ケイダ!」
【はぁい】
天涯が立ち上がった。
「ガレアっ」
僕は小声で合図した。
天涯が手を翳した。
「私に従いなさい……
私に従いなさい……
私に従いなさい……」
翳した手が光り、明滅する。
光で催眠を施すのは解っていた。
だからサングラスが威力を発揮すると思っていた。
けど……
「あぁっ…………
何故だっ……
サングラス……」
身体が思うように動かない。
何故だ?
わからない。
この体が鈍いのは催眠が効いている証拠だろう。
ぶるぶる震えながら隣を見た。
氷織ちゃんも同様の反応だ。
「ハッハッハ愚かなり!
私のスキル催眠光波はそんなサングラスみたいなチャチなもので躱せるものではありませんよ」
「ガ……
ガレア……」
【竜司ー?
見えんからわからんぞー】
「ガ……
ガレア……
何でもいい……
やれっ!
やってしまえっ」
僕の合図でガレアが右に尻尾を振った。
吹っ飛ぶ僕と氷織。
ガシャーンッッ!
花瓶やら壺やらが割れた。
「はぅぁっ!
六億の壺と一億の花瓶がァッ!」
何で金持ちはこうゆうのに金をかけたがるんだ。
「いてて……」
どうやら金縛りめいたものは解けた様だ。
氷織は……
「な……
何ですか一体……」
無事だ。
催眠もかかっていない様子。
「何!?
そんな脱出法が……
しかし同じ事っ……
もう一度、催眠光波で……」
天涯が手を翳す。
僕はその一瞬を見逃さない。
バキン!
ガレアの胸辺りから出た閃光が僕の指差した天涯の手を捕えていた。
「魔力閃光」
「痛いっ!
……血がァッ!
私の高貴な血がぁっ!」
天涯の手が血まみれだ。
変な風に小指も曲がっている。
「くそうっ!
このガキっ!
このガキっ!
こうなったら氷織の脱会なんて認めるものか。
お前を亡き者にして改めて催眠光波をかけてくれるっ!
もう脱会する気持ちなんて起きない程のやつをなあ」
だんだん天涯のバケの皮がはがれてきた。
「そんな事させないっ!
魔力閃光ォッ!」
ガレアの胸から三発の閃光を放った。
「ぬあぁっ!」
天涯の前に六角形の壁が現れた。
壁に当たった瞬間閃光が乱反射した。
ドドゥッ!
部屋の壁に激突して爆散。
「うわっ!
氷織ちゃんっ!」
僕は咄嗟に氷織ちゃんを抱えた。
「竜司さんはロリコンの上スケベなんですか?」
脇に抱えた氷織は無表情にそう言う。
抱えた時に僕の手が胸を触る形になっていたんだろう。
氷織は人の善意を……
こう言う気持ちを氷織に抱くのは何回目だろう。
でも、天涯の家が壊れるのは構わないが氷織に被害が出るのは避けたい。
「こっちで決着をつけよう。
お前も家を壊されたくないだろ」
「このガキは目上に対する敬いも知らないのか……
フヒッ……
よし乗ってやろう」
僕は庭に出る。
「あの……
降ろしてくれませんか?」
「ああ、ごめん」
「全く……
人の身体を何だと思っているのですか?」
氷織は腹の埃をパンパン払いながら悪態をつく。
「竜司さんはロリコンでスケベ。
ロリコンは未確定でもスケベは確定です」
「ハハハ……」
僕は呆れた顔で笑った。
物凄く乾いた笑いだったよ。
すると天涯が……
「このガキィ!?
先ほどは目上の人間をお前呼ばわり!
そして今は無視!
とことん目上の人間への敬いが無いですねえ……
フヒッ……
矯正してやる……
矯正してやる……」
僕とガレア、天涯とケイダが向かい合った。
「極応神天涯!
竜河岸だ!」
「お前は吉田ヨシオだろ?
皇竜司!
竜河岸だ!」
「その名で私を呼ぶなぁぁぁぁ!!」
天涯がキレた。
そして、僕と天涯のケンカが始まる。
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「さあ、今日はここまで」
「パパー。
何でこの人って名前難しいのにしてるの?
吉田ヨシオの方が覚えやすいのに」
「何でだろ?
僕も解らないや。
多分、偉そうな名前にしないとカッコがつかないとかじゃないかな?
さあ、今日はここまで。
おやすみなさい」
続く。




