第百八十六話 画竜点睛
2048年2月某邸宅寝室
「やあこんばんは」
「あ、パパ。
うす」
昨日あんなに泣いていたのに今日は至って普通。
これもママ(暮葉)の歌の効果だろうか。
さすがだなあ。
「今日でね。
最終章第二幕が終わるよ」
「えっ?
そうなの?」
「うん、本当に第二幕は色々辛い話してゴメンね……」
「…………うん。
でもママがどんな感じでアイドルやってるのかとかも解ったし聞けて良かったよパパ」
「ホントに昨日はビックリしたね。
急にママが入って来るんだから」
「あれ?
そうなの?
僕は不思議に思ってたんだよ。
ずぅっとこうやってパパは僕に話を聞かせてくれてるけど、何でママは入って来ないんだろうって」
「それは僕が一人でやるって言っておいたんだよ。
でも昨日は入って来た。
それだけ龍の泣き声が大きかったって事だね」
「なっ…………
パッ……
パパッ!
昨日僕は泣いてなんかいないよっ!」
やはり両親の前で泣き腫らすのは恥ずかしかったんだろう。
「うんうん。
龍は泣いてない泣いてない。
強い子だもんね」
「ホントだよっっ!」
「はいはい。
じゃあ今日も始めて行くよ……」
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「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁっっっっ!」
僕は泣いた。
兄さんの胸で泣いた。
何から出た涙なのか?
中田を想って?
それとも人一人を殺してしまった罪悪感?
殺す手段しか選べなかった自分の未熟さ?
解らない。
解らないと言うより頭が回らない。
ただ僕は胸中の大多数を占める深い哀しみの傷を癒す為、ただ泣いた。
大声で。
膨大に湧いた感情を吐き出すかの様に泣いた。
兄さんは黙っていた。
黙って太い腕を僕の背中に回し、抱き寄せ、ただただ僕の慟哭を聞いていた。
「うっ……
ううっ……
うっ……」
五分程泣き、出る物も枯れ果て嗚咽しか漏れなくなった。
「…………よく…………
頑張ったな…………
竜司……」
ぽつりと一言呟いた兄さん。
この一言が多分に残っていた心の大きな哀しみの雲を散らせた。
その理由は頑張ったと言ってくれた事。
頑張ったと言う言葉の意味は困難を乗り越えやり抜いたと言う意味。
そうか、僕はやり抜けたんだ。
そう思えた事が哀しみが霧散した原因。
兄さんがくれた言葉は“よくやった”じゃ無かった。
よくやったと言う言葉は僕の作った結果に対してかける言葉だと僕は思うんだ。
だけど頑張ったと言う言葉は僕の行為に対してかける言葉。
今、考えたら僕は他人に肯定してもらいたかったのかも知れない。
僕が取った選択は間違っていたのか?
他に何かいい方法があったんじゃないのか?
自己否定の考えが巡り、感情を捨て去ってまで闘い抜いたのにそれじゃああんまりじゃないか。
そう思って悲観していた部分も多かった。
そこに優しく頑張ったと言葉を与えてくれた。
だから僕の中の哀しみは霧散したんだ。
泣き止んだ僕はゆっくりと兄さんの胸から顔を離す。
「兄さん…………
僕は…………
自首するよ……」
理由はどうあれ殺意を持って殺人を犯したのは事実。
ならば人として罪を償わないといけない。
「…………ちょっと待て…………
確かにお前の事だ……
自首するって気持ちも解らなくは無いがな……
相手はテロリスト……
万が一起訴されたとしても正当防衛で決着だ……」
「で……
でも……」
「そもそも起訴するって言ってもな……?
可能性としてあるのは居るか居ないかわからねぇ中田の親族だ……
確かに殺人罪は非親告罪だから告訴が無くても検察官で起訴出来るがな。
テロリストの首謀者を殺した事を起訴する奴なんか居ねぇだろ……?」
兄さんが僕を説き伏せる様に話す。
「う…………
うん……」
さすが兄さん。
僕の気持ちを汲んだ上で完璧な理論武装を敷いている。
もしかして何処かに反論の余地はあるのかも知れないが、僕には思いつかず納得せざるを得なかった。
「それよりも……
殺人を犯してしまった事よりも……
お前が護り抜いた者……
護りたかった者に目を向けてやれ……」
そう言ってふいっと身体をずらす兄さん。
「竜司……」
後ろには僕らのやり取りを心配そうに見つめていた暮葉が居た。
「暮葉…………
終わったよ……」
僕は微笑を携えながら暮葉に小さく語りかける。
暮葉に歩み寄ろうとした瞬間……
フラ
僕はフラついた。
「竜司っっ!」
ガシッ
倒れそうな所を柔らかい温もりに支えられる。
暮葉が受け止めたんだ。
何時しか体内の黒い魔旭も消えていた。
えらく早い。
呼炎灼戦の時は一昼夜ぐらい持っていたのに。
これは僕の中で闘う意思。
いわゆる闘争心が消えたからだろうか?
同時に襲って来たのは極度の怠さ。
この感じは今まで味わった事の無い怠さだ。
「竜司ッッ!!?
大丈夫っっっ!?」
「うん…………
何とか…………
身体は物凄く怠いけど……
話すぐらいは出来るよ……」
大魔力注入を使用した時の様な首から下の感覚が無くなっている訳じゃ無い。
触れている暮葉の温もりは感じる。
この怠さは魔力酔いでは無い。
おそらく曽根戦、中田戦と続く連戦。
その中で魔力を大量使用した事で生じる身体への負担。
それが一気に噴き出して来たんだろう。
ついでに言うと水虬のリポDは別に体力が回復する訳じゃ無かったんだ。
ただ身体の疲れを感じなくするだけ。
漫画やアニメで出て来る様な魔法薬なんて存在しない。
極めて即効性があるだけ。
「暮葉…………
全部終わったけど……
ライブに戻らなくて良いの……?」
「あぁっ!
そだそだ!
竜司っっ!
私と一緒に来てっっ!」
いや、まあそりゃ……
ガレアも航空ショーする予定だしついて行く気持ちはあるけど何で改めて言ってるんだろう?
「うん……
こんな状態で良ければついていくつもりだけど?」
「みんなに竜司を連れて来るって言っちゃったんだっっ!」
へー。
みんなってお客さんの事かな?
何かピュアな暮葉らしい約束。
けど、これが僕を巻き込んだ約束と言う事をまだ解っていなかった。
「そんな事、言ってたんだ……………………
……………………ん?
僕を連れて来る…………?」
まさか
「みんなに私の旦那様だって紹介しないとっっ!」
え………………?
ちょっ!?
ちょっと待て!
紹介って事は僕がステージに立つって事か!!?
五万人ぐらい居る聴衆の前に!!
「ちょっ……!
ちょっと待ってぇっ!」
僕は極度の怠さが身体に湧いている中、必死に声を張り上げ制止。
「ええっっ!!?
確かケッコンする男の人の事を女の人は旦那様って呼ぶんじゃ無かった!!?」
違う。
そこじゃない。
「それは合ってる!
合ってるけどっ!
僕は五万人の前に立つなんて出来ないよっっ!
無理!
無理だって!」
僕は暮葉に掴まりながら必死にやめてくれと懇願。
「えー…………
でも私……
みんなに連れて来るって約束したのに…………
私ウソツキになっちゃう………………
シュン」
暮葉が頭上でションボリしちゃった。
「ハッハッハッ!
何だ暮葉さん、お前と結婚するってライブで言っちゃったのか。
そりゃぁ……
竜司よ…………
こんな美女を娶る身分としては責任を果たさないと駄目だよなぁ~……?」
兄さんが囃し立てる様に暮葉に乗っかった。
多分兄さんの事だ。
この段階でライブで結婚の報告をすると言う事がどれだけ世間を賑わす事になるかは解っていたんだろうと思う。
それでも敢えて乗っかったのは普段の僕ら。
中田の殺害を引き摺らずに日常へ帰ってる僕を見て安心したからだろうと今になって思うよ。
「もう……
兄さん、他人事だと思って……」
「だって他人事だろ?
それよりもどうすんだ竜司。
お前は自分の奥さんをウソツキにするのかぁ?」
「………………シュン……」
前にはニヤニヤしてる兄さん。
頭上にはションボリしてる暮葉。
変則的な四面楚歌。
ええい。
もうどうなっても知らないぞ。
「………………う~…………
わかった!
行くよ!
僕も一緒に行く!」
根負け。
僕は観念した。
五万人の前に立って暮葉と結婚する事を言う。
14歳の引き籠りには極めて。
果てし無く。
堆いハードル。
でも超えないといけない。
僕は暮葉の夫になるんだから。
「ホントッッ!!?」
ションボリしていた暮葉が一転満開の笑顔。
「ハッハッハッ。
ようし、よく言った竜司。
男として。
夫として。
一発かましてこい」
「もう……
兄さんったら……
わかってるよ。
ガレア!」
【ん?
何だ竜司】
「今から行く所があるから亜空間出して。
場所はこくり…………
この前みんなと飛ぶ練習した所だよ」
【飛ぶ練習?
あぁ確かアルビノがウタ歌ってる時に飛ぶってやつだったな。
それはいいけどよ竜司。
お前、身体の方は大丈夫なのかよ?】
「正直寝転んだら秒で眠れる程身体は怠いけど……
まぁ何とか……
暮葉の約束事は済ませないと……
ガレアは僕が寝ちゃってもきちんと飛んでね」
【そりゃ飛ぶよ。
あん時気持ち良かったもんよう。
んでいつの間にかどすとありんすも消えてんだけどどこ行ったんだ?】
そう言えば居ない。
僕が自然と全方位を解除していたからか。
「多分闘いが終わったからだと思うよ……
それより亜空間をお願い」
【ハイヨ】
ガレアの傍に亜空間の入り口が開く。
「じゃあ兄さん……
行って来るよ……」
「おう、後始末の事は俺達に任せて行って来い」
「うん、じゃあ行こうか暮葉」
僕らは亜空間の中に入る。
薄暗い道を進む。
やがて光が見えて来る。
そこを潜ると…………
人。
人。
人。
人。
見渡す限りの人の波。
僕らはその中心にいた。
何て迫力。
これが五万人の観客の圧。
凄まじい。
僕らはセンターステージに出て来ていた。
僕が何処に居るか。
それを認識した刹那…………
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッ!!!!
超大音声。
いや、大歓声。
視覚から来る圧倒的な人の波の次は聴覚を激しく揺さぶる超大歓声。
圧倒的な物量に包まれる事になる。
観客が戻って来た事に気付いたんだ。
一番奥ともなるとかなり距離はある。
にも関わらず良く解るな。
それもその筈。
見上げたその先には巨大オーロラビジョンに映し出されている僕と暮葉の顔があったから。
それも一基だけじゃない。
周囲を見渡すと備え付けられている巨大オーロラビジョン全てに僕らの顔がアップで映し出されている。
(キャーーーッッ!!
クレハおかえりーーーっっ!)
(クレハーーーーッッ!
こっち向いてーーーーっっ!)
(クレハーーーっっ!
その男の子が旦那様ーーーっっっ!?)
巨大な大歓声の塊の中。
意識して聞くと色んな声が混ざっている。
この大歓声は感情の塊。
陽の感情の塊なんだ。
人間の声には感情が載る。
感情と言うのは力。
その事を骨の髄まで理解出来る死闘だった。
刑戮連との闘いは。
僕が今感じている圧は聴衆の感情による圧だ。
そっと暮葉がゆっくりと右手を上げて、左右に振る。
まるで帰って来た事を告げる様に。
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッ!!!!!
暮葉の手の動きに呼応するカの様に歓声の勢いが増す。
ど、どうしよう。
出ては来たもののこんな桁外れに場違いな場所なんか来た事が無い。
横浜の集団私刑の時ですら数千人。
僕がステージに立つ事を了承したのはこの経験があったから。
5万人と言ってもあの私刑の時に毛が生えたぐらいだろうと高を括っていた。
けどそれは間違い。
大きな間違い。
単純計算でおよそ25倍。
それだけの人数が放つ感情。
そんなものを目の当たりにして冷静な判断なんか出来る筈が無い。
ただただ戸惑うだけ。
だけど暮葉は……
ゆっくりと花道を歩き出した。
その先にはメインステージ。
メインステージに向かって歩き出した。
【何だこいつら。
ワーワー騒ぎやがって】
「僕らを歓迎してくれてるんだよ」
【そのカンゲーってのは良く解らんが、何か俺を褒め称えてる感じがするな。
カッカッカッ。
いいぞ、何かいい気分だ。
もっと俺を褒めろ人間】
何か既に5万人の大歓声に慣れたガレア。
愉悦に浸っている。
さすが竜。
図太い。
ゆっくり。
ゆっくりと歩を進める暮葉。
時折、観客に向かって笑顔で手を振りながら、ようやくメインステージまで戻って来る。
「ちょっとここで待っててね竜司」
僕はメインステージの真ん中で寝かされた。
そのまま暮葉は舞台袖に向かって小走りしていった。
多分スタッフに僕らの帰還を告げに行ったんだろう。
僕は極度の疲労による怠さで立つ事も叶わない。
僕はされるがままメインステージの真ん中で寝かされていた。
こんなライブ見た事無い。
人がステージの真ん中で寝かされているライブなんて前代未聞だ。
(おい……
クレハの旦那、大丈夫かよ……?
よく見たら服もボロボロじゃねぇか……)
(ホントだわ……
旦那もさっき映っていた妙な生き物と闘っていたけど……
それから他の所で闘ってたのかしら……?)
(闘うって何だよ…………
ここは平和な国、日本だぜ……?
そんな漫画みたいな事が現実に在るって言うのか……)
ザワ……
ザワザワ……
僕がただ一人、メインステージの真ん中で寝かされている。
その異様な状況に聴衆もざわつき出す。
だからどうしたらいいんだってば。
僕は身体を動かす事も出来ず。
恐ろしく怠い状況の為、ただただ寝かされているのみ。
ザワ…………
ザワザワ…………
聴衆のざわめきが治まらない。
何だか凄く。
物凄く居た堪れない気分。
早く。
早く戻って来て暮葉。
(あっっ!!)
一際目立った大声。
(クレハだっっ!
クレハが戻って来たぞっっっ!)
良かった。
暮葉が戻って来た。
「お待たせ竜司」
眩い照明の逆光になって薄暗く見える暮葉の微笑み。
重力に逆らわず垂れる綺麗な銀髪が揺れる。
思わず見惚れてしまう程、綺麗。
「よいしょっと……」
ひょい
僕を軽々持ち上げた。
自身の肩に手を回し、僕を引き上げた。
「えとえと……
どうしよう……
竜司、私に掴まる事は出来る?」
「う……
うん……
何とか……
それよりもさっき何しに行ったの……?
心細くてしょうがなかったよ……」
「ウフフごめんね。
これを貰いに行ったのとみんなにただいまって言って来たの」
そう言いながら僕の右手と一緒に持っているマイクを振る。
「みんなどんな感じだった……?」
「何だかみんな私達が戻ってきて物凄く安心してた」
スタッフはみんな曽根を目撃している。
刑戮連がどれ程の化物かは知っているから当然だ。
「マ……
マス枝さんは……?」
「まだ寝てた。
ホントにどうしちゃったんだろ?
あんなに楽しみにしてたのに」
キョトン顔の暮葉。
いや、お前が原因だろ。
「タハハ……
マス枝さん……
ご愁傷様……」
「今からみんなにただいまをするねっ!」
ニコニコ顔の暮葉が見つめる先は5万人の大観衆。
遠目に見える巨大オーロラビジョンには暮葉に支えられている僕らがアップで映っている。
物凄く恥ずかしい。
そんな恥ずかしい僕を尻目にマイクを口に近づける暮葉。
「みんなーーーーっっっ!
ただいまーーーっっ!」
マイク越しに暮葉の声が国立競技場全体に響き渡る。
(おかえりーーーっっ!!)
その声に呼応する様に聴衆が一斉におかえりコール。
示し合わせた訳でも無いのに何故タイミングバッチリなんだ。
そんな声を受け、暮葉は終始ニコニコ顔。
「みんなライブ中断してごめんねーーっっ!
けどもう大丈夫っっっ!
竜司が全部ぜーんぶっ!
解決してくれたからーーーっっ!」
ちょ。
個人情報。
(クレハーーーっっ!
その人が旦那様ーーーっっ!!?)
それで当然の様に観客席から質問を投げかけて来る聴衆。
まぁもともと送り出した理由が僕を助ける為だししょうがない部分はある。
これがアイドルと婚約すると言う事か。
僕にはもう個人情報なんて言葉は存在しないかも知れない。
「うんっっっ!
そーだよーーーっっ!
この男の子が私に結婚してくれって言った人ーーーっっ!!」
いかん、このまま黙っていると赤裸々なプロポーズ時の話もしかねない。
なら…………
「暮葉…………
僕に話させて……
マイクをこっちに……」
「うんっっ!
わかったっっ!」
ニコニコ顔でマイクを僕の口へ寄せて来る。
(おぉっっ!!?
旦那様が何か話すぞっっ!!?)
(クレハの選んだ旦那様ってどんな声をしてるのかしらっっ!)
(見た感じ、結構スタイルは良さそうだけどねっっ!)
僕が話す事を察した聴衆が更に沸き立ち、思い思い好き勝手な事を言っている。
こうなったら隠しててもしょうがない。
暮葉にバラされるぐらいなら自分で言った方がマシだ。
それにしても僕の通称は旦那様になりそう。
僕はゆっくりと口を開き、話し始める。
「えーー……
こんな格好で失礼します……
本日、暮葉のドームツアーにお越し頂いた皆さん初めまして……
僕が今、暮葉から紹介があった……
だっ……
旦那……
様の皇竜司と申します…………
厳密には結婚じゃ無くて婚約なんですけど…………
まだ14歳なので……」
静寂。
一瞬時が止まったかのような静寂。
(エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッッッッッッッッ!!!!)
国立競技場が割れんばかりの驚き、どよめき。
一体何があった?
僕、そんなにヘンな事言っただろうか?
(見えなーーーいっっ!!
私、高校生だと思ってたーーーっっ!!)
(私、大学生っっ!!)
(俺、背広っぽいの着てるからてっきり社会人だと思っていたよっっ!)
あぁ、なるほど。
湧いていたのは僕の老け属性にか。
5万人が驚く程ってそんなに僕って14歳に見えないのかな?
「わわっ!?
どうしたの皆っ!
何で急に驚いたのっ?」
突然の大音量に暮葉も驚いている。
「僕の顔が14歳に見えないからみんな驚いているんだよ」
「なあにソレ?
よくわかんない」
暮葉、キョトン顔。
しばらくどよめきが続いていたがやがて止む。
更に僕は話を続ける。
「本日は……
せっかく楽しみにしてくれてたライブがこんな事になって本当に申し訳無く思ってます…………
けど安心して下さい。
みんなの暮らしを脅かすテロリスト集団は僕と…………」
チラリと暮葉の顔を見上げる。
「暮葉と…………
警察関連やその他の協力で全員撃退しました…………」
(きゃーーーんっっ!
見つめ合っちゃってーーーっっ!)
(よくやってくれたっっ!
お疲れ様っっ!
旦那様っっ!)
黄色い声援や労いの言葉が聞こえて来る。
だから僕の名前は皇竜司。
竜司だってば。
もしかしてこれは踊七さんの3子供パターンだろうか?
通称旦那様固定説が現実味を帯びて来た。
「ありがとうございます……
本来だったらきちんと皆さんの前に立って自己紹介したい所なんですが……
何分テロリストのリーダーが……………………
…………………………
強敵で…………
正直今は話してるだけでやっとの体たらくです…………」
聴衆は一転して無言。
そうか、この人達は曽根を見ている。
加えて避難した後の東京ドーム戦もライブ映像で見ている。
どれだけの化物が襲撃をかけて来たかは解っているんだ。
しかも僕が連れ去られた所も見ているんだろう。
一体どんな心境で見ていたのだろうか?
それにしてもかなりショッキングな映像の連続だったけど場繋ぎの為とは言え、よく流す気になったなあ。
(気にする事ねぇぞっっ!
旦那様っっっ!)
(そうだそうだっっ!
旦那様は俺達を護る為に闘ったんだっっ!
今ぐらいクレハに寄りかかっても構わないぜっっ!)
(14歳って言ったら中学生じゃねぇかっっ!
そんなガキンチョがあんなバケモノと闘って勝ったんだっっっ!
大したもんじゃねぇかっっ!)
5万人から僕の擁護する言葉や労いの言葉が口々に飛び交う。
本当にこの旅は不思議だ。
つい一か月ぐらい前まで横浜で僕は悪魔だの鬼畜だの人でなしだの散々罵られていたのに。
今はこうしてたくさんの擁護、労いの言葉を受けている。
もともと家での疎外感に耐え切れず旅に出た僕だったが、本当に人間って色々いるって言う事だろうか?
(クレハーーーっっ!
旦那様が愛する奥さんの為に頑張って来たのよーーっっ!
何かしてあげないのーーーっっ!?)
場は変化し、何だか暮葉を煽る様な形になる。
「ちょっ……」
(キャハハッッ!
旦那様今ちょって言ったーっ!
キョドっちゃって可愛いーーっっ!)
何か僕に黄色い声援が飛んでいる。
「ん?
オクサンってケッコンした女の人の事を言うのよね?」
(その通りでーーーすっっ!)
肯定する聴衆。
にしても暮葉。
わざわざそんな疑問をマイク越しに言わなくても。
「ねぇ、みんなーーーっっ!?
何かしてあげてって何したら良いのーーっっ!!?」
しかも聴衆と会話を続けている。
何て自由なんだ暮葉。
(クレハーーッッ!
労ってやりゃあ良いんだよーっっ!)
(よく出来ましたってやってあげたら旦那様喜ぶわよーーーっっ!)
「へえ……
そうなんだ。
なら…………」
コトッ
マイクを床に置いた暮葉。
ナデナデ
僕の頭を撫で始めた。
ナデナデ
優しく僕の頭を撫でている暮葉。
「よく出来ました。
竜司くん、貴方は頑張りました。
えらいえらい」
ナデナデ
そう言いながらニコニコ顔で僕の頭を撫でている暮葉。
正直キツい。
洒落にならんぐらい恥ずかしい。
その様子を黙って見ている観客。
どうしたんだろうと顔を向けるとみんなほんわかした顔でこっちを見ている。
こいつら和んでやがる。
頬が熱くなってくるのを感じる。
止めさせたいが出来ない。
怠くて身体が動かせない。
「く……
暮葉…………
あの……
頭撫でるのはもう良いから……
マイクを……」
「ん?
そう?
なら…………
ハイ」
「ゲフンゲフン…………
あの……
皆さん、ライブはこれから再開しますので……
楽しんで行って下さい…………
暮葉との婚約などについては後日記者会見を開くと思いますので……
そこで詳しく説明させて貰います……
それでは失礼します…………
暮葉……
僕をガレアに乗せて」
「うん」
ドサッ
僕はガレアの背中に載せられる。
「出来るだけ起きていて袖からライブの様子を見てるから…………
頑張ってね……」
「うんっっっ!」
暮葉は元気な返事。
「ガレア、こっちの方向に歩いて行って……」
【ん?
もう良いのか?】
「うん」
(あぁー……
これはクレハ側も旦那様にメロメロね……)
(旦那様ーーっっ!
お疲れ様ーーっっ!)
ドスドスと舞台袖にはけていく僕ら。
「この辺りで良いよガレア……
降ろして……」
【おう】
ドスッ
ガレアらしくぶっきらぼうに降ろされる。
(おいリュウッッ!?
おめー大丈夫なのかよっっ!!?)
逆立った金髪を揺らせながらスラッとした男性が話しかけて来る。
【おいジュンゥ~~……?
おりゃぁよぉ~~……
もう出番終わったからもう帰りてぇんだけどよォ~~……】
男性の隣に居た渋柿色の鱗を持つ、独特な話し方をする竜。
ジュンさんだ。
「ジュンさん……
まあ何とか無事なんですけど……
起こしてくれないですか……?
今、自分で起き上がれなくて……」
(おぉっっ!?
おお……
わかった…………
ホラ、これでいいか?)
ジュンさんは僕を起こし、壁にもたれさせる。
横から暮葉の動きが良く見える。
「ありがとうございます……
これで良いです」
(しっかしリュウよ?
オメースゴくね?
あのクレハと?
結婚すんのかよ?
一体どうやってアイドルなんかと知り合うんだよ?)
相変わらず疑問形が多い人だ。
【おいジュンゥ~~……
帰ろうぜぇ~~……
帰ってメシ食って寝ようぜぇ~~】
「ゴローさんゴローさん。
こう言う時?
人間って言うのは?
最後まで居るもんなんだよ。
そーする事によってヒトのレンタイカンみたいなんが産まれんだよ。
なぁ?
リュウ?」
「タハハ……
いや……
まあ、はい……」
■ジュンペイ
暮葉のドームツアーの竜河岸スタッフメンバー。
一般公募で参加。
痩せ型で髪型は逆立った明るい金髪。
髪型と目尻のタレ具合から有体に言うとチャラい竜河岸。
竜司とは東京ドームから観客をピストン輸送する際に知り合う。
竜司の事をリュウと呼ぶ。
通称ジュン。
使役している竜は名をゴローさんと言う。
鱗は渋柿色。
口調が独特で竜儀の式でやって来た当初からコレだったらしい。
口調が完全に北の国からの黒板五郎だった事からゴローさんと命名。
竜河岸としてのスキル、竜の種別や能力は不明。
参照話:百六十四話。
「さぁーーっっ!
次はこの曲だよっっ!
みんなで合いの手よろしくーーっっ!」
暮葉のMCが聞こえる。
凄く怠い。
気を抜いたら寝てしまいそうだ。
でも寝たくない。
寝ちゃ駄目だ。
暮葉がやって来た事。
やってる事。
それを見ていないと駄目だ。
(おい!
そろそろ準備だ!
急げ!)
舞台袖が慌ただしくなって来た。
竜と人間がドタバタと動き出す。
【おっ!?
お前っっ!
確か一緒に飛んだよなっっ!?
そろそろ出番だぞっ!】
一人の翼竜がガレアに向かって話しかけて来る。
そろそろ翼竜の航空ショーか。
「ホラ……
ガレア……
出番だって……
行って来なよ……」
【おう、そうか。
ほんじゃー、一飛び行って来るわ】
そう言ってドスドス歩いて行ったガレア。
(竜司君)
変わって僕に声をかけて来た男性が一人。
パリッとしたスーツを着こなし、髪型は清潔な短髪黒髪。
切れ長の目の上にメガネが載っている。
勅使河原さんだ。
「あ……
勅使河原さん……」
(色々驚いてるからどう声をかけて良いか解らないけど……
とりあえずお疲れ様)
「はい……
お疲れ様です」
(…………君が最初僕の依頼を断ったのはクレハさんの護衛があったからなんだね……
多分僕と会った段階でテロ行為は予測出来てたんじゃ無いのかい?)
それに対して僕は無言。
どう答えて良いか解らなかったからだ。
(…………まぁ、いいよ。
言えない事は言わなくても。
フフッ……
しかしまさか君がクレハの旦那様なんて。
あ、14歳だから婚約になるのかな?)
「あ、はいそうです……
僕の事を旦那様って呼んでるのは単に暮葉が先走ってるだけで……」
(フフフ……
まあさっきのやり取り見てるとクレハが君の事好きって感じが伝わって来たよ………………
あ、はい)
ここで勅使河原さんが立ち上がる。
(はい…………
配置OKですか?
なら、手筈通りのタイミングで竜を一斉に飛ばして下さい)
「そろそろ出番ですか……?」
(うん、いよいよ僕の夢が叶うんだ。
じゃあ僕はこれで。
もっといい場所で夢の光景を見届けたいからね)
そう言い残し勅使河原さんは立ち去った。
■勅使河原綾里
暮葉ドームツアースタッフ。
一般人。
ライブの竜河岸オーディションや演出等。
そしてドームツアーの目玉である翼竜による航空ショーを担当する。
この複数の翼竜による航空ショーは幼い頃に見た鮮烈な光景がキッカケで長年夢見て来た企画。
翼竜は比較的国内で数が少ない為、ガレアにも打診が来た。
参照話:百六十一話
やがて僕の顔に優しい光が差し込む。
その光は翠色、黄色、赤、青、紫と様々な色彩を放っている。
(おおおおおおおおおおおっっっっ!)
大歓声も聞こえて来た。
翼竜の航空ショーが始まったんだ。
この翠色はガレアの魔力光だろうか?
優しい光だなあ。
(おおっっ!?
何か!?
凄くね!?)
近くでジュンさんも興奮している。
---
「みんな……
今日は来てくれて本当にありがとう…………
色々あったけどライブがどうにか無事に終えられるのは…………
このライブに協力してくれたスタッフさん達と…………
そして私を送り出してくれたみんなと…………
私の旦那様っっ!
竜司のお陰ですっっ!
本当にっっ!
本当にありがとうっっ!」
ハッ!?
僕は少し眠ってしまっていた様だ。
既にライブは最後に差し掛かっていた。
(きゃーーーーっっ!
クレハーーーっっ!)
(クレハーーーっっ!
旦那様とお幸せにーーーっっ!!)
(クレハーーーっっ!
ずっと応援するからーーーっっ!)
聴衆からの大歓声が響く。
「では最後にこの曲を聴いて下さい……
竜と人が眠る街……」
静かに。
優しく前奏が流れ始める。
これは前に幼稚園で披露した曲だ。
タイトル:竜と人が眠る街
作詞・作曲:加藤鷹
ひいらりひらりと舞い散る桜。
出会った頃を思い出す。
全く違うキミだけど。
姿が違うキミだから。
こんなにも愛おしく感じるのかな?
さあ帰ろう。
家に帰ろう。
キミの待つ街に帰ろう。
ラララ今日もキミと眠る。
明日もこうして居れたら良いのにな。
たくさん食べるキミの為。
たくさんシチューを作ってあげよう。
赤ちゃんみたいなキミの事を。
目をキラつかせるキミの事を。
驚かすぐらいの量を作ろう。
さあ帰ろう。
街に帰ろう。
キミの待つ家に帰ろう。
ラララ今日も陽が落ちてく。
明日もこうしてキミと過ごしたいな。
薄れゆく意識の中、不思議とハッキリ聞こえたこの歌。
優しい暮葉の歌声が耳に滑り込んでくる。
ホッとする曲だよな。
何だか家に帰りたくなる。
そんな優しい曲。
あぁ、良かった。
みんなにこの曲を聴かせる事が出来て本当に良かった。
眼に映るのは暮葉、バックに居るたくさんの竜。
そしてファンの一部分。
みんなで大きく手を振っている。
竜も人も一緒になって同じ動き。
袖に居るから観客は全員見えないけどみんな手を振ってくれてるのかな?
そうだったら嬉しいな。
この風景を護りたくて僕は頑張ってたのかな?
だったらこれで良かったのかな?
…………何だか疲れた。
酷く疲れた。
闘いも終わり、ライブも終わって緊張の糸が切れた。
いや、糸が切れたと言うか解れた感じ。
そのまま僕は静かに音も無く倒れ込み、眠ってしまった。
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「はい、今日はここまで。
これで第二幕は終了」
「…………パパ……
ママって結構自由だよね……?」
「タハハ……
ま、まあ元々竜だから……」
「あと僕、老けてるって良く解んないけどどう言う意味?」
「老けてるって言うのはね年齢よりも年を取って見えるって事だよ」
「この時のパパって14歳だよね?
じゃあそれよりも年上に見られてたって事?」
「そう言う事。
今は年齢より若く見られる事が多いんだけどね」
「ガレアの航空ショーはどんなのだったの?」
「僕は袖から見てたから生ではよく見てないんだけどね。
あとでライブDVDを見たら綺麗だったよ物凄く。
こう…………
緑、赤、青、紫と色んな光がキラキラ輝いてね」
「へーっっ!
パパッッ!
僕もそのDVD見たいっっ!
見せてっっ!」
僕はこの段階でしまったと悔やむ。
龍の事だからDVDを見たがるのは自明の理じゃ無いかと。
「………………ごめんね……
そのDVDはもう無いんだよ……」
「ええっっ!?
何でっっ!?」
「龍……
よく考えてごらん……?
確かに今話している事は僕の若い頃にした経験の話だけど……
今は竜なんて一人も居ないでしょ……?」
「うん」
「これはある事がキッカケで竜が地球から去ってしまったからなんだ。
だから今地球上に竜が居た事実を記した本や映像は一切残ってないんだ」
「ええっっ!?
そうなのっ?
ネットとかに落ちてたりもしないのっっ?」
「多分無いと思う」
「そうなんだ…………
残念……」
「ごめんね……
さあ次からは最終幕だよ。
長かったこの話も最後。
ここまでずっと聞いてくれてありがとうね」
「そうなんだ。
何か寂しいなあ。
でもパパ寝ちゃったじゃん?
そっからどうなるの?」
「フフフ……
それは明日からのお楽しみ。
さあお布団に入って寝なさい」
「うん、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
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いつもドラゴンフライを読んでくれている読者の皆さん。
皇豪輝です。
ここからは最終章第二幕の顛末について語らせて貰います…………
ってこんな堅苦しい挨拶は俺らしくねぇよな。
じゃあこっからはいつも通りの口調でやらせてもらう。
本当は竜司に話して欲しかったんだけどな。
まあ被害損額の話や刑戮連の話なんかもあるから俺がさせて貰おうと思う。
まず刑戮連の連中だが……
一人死亡した。
死亡した犯人は曽根嫉実。
獄中で衰弱死だ。
これは響や蓮ちゃんが悪い訳じゃ無い。
確かに身体をほとんど欠損してはいたが、俺が確保した渇木はまだ生きてはいるからな。
曽根はおそらく恨気を募らせる対象が周りに居なくなったからだと考えられている。
曽根の恨みは美女に対して湧くものだ。
そんなものが独房なんかで居る訳無いからな。
式使いはエネルギーである恨気が無いと生きる屍同然だ。
そのまま衰弱死してしまったと言う事だ。
もちろん食事は差し入れてはいた。
一日三回。
麻酔を打って眠らせた後、拘束衣の口部分だけ外して麻酔が切れた頃にロボットアームの遠隔操作で半ば強制的にな。
けど駄目だった。
口に食べ物を入れた途端全部吐き出しやがる。
いくら食べさせても全て吐いてしまう。
何度やってもそうだからどうするかと考えている内に衰弱が進んで亡くなったと言う事だ。
泥と渇木に関しては生きてはいる。
泥はリッチーの日常茶飯事にかかり過ぎて今ではかけなくても素直に何でも話す様になっている。
前の禍々しい性格から豹変してしまった。
これは日常茶飯事の弊害だと考えている。
このスキルは相手の警戒心を全て取り払い、重度にかければこちらの質問に虚偽せず全てつまびらかに話す。
精神系のスキルの中でもトップクラスの強力なやつだ。
それを何度もかけられたもんだから素直な自分が本当の自分だと思い込む様になっているんだ。
普通なら模範囚として普通の集団室に移されてもおかしくないぐらいの豹変ぶり。
だが、泥は式使い。
式に関しては全て解明された訳では無い。
事は慎重に慎重を重ねても足りないぐらいだ。
これは俺の見立てだがおそらく泥が特殊独房から出る事は無いだろう。
一生。
それだけ式使いが正体不明で脅威。
臭い物には蓋。
お茶を濁す。
その場凌ぎで取り繕うのが日本って国だからな。
現在特殊独房で拘束出来ているのならそこから環境を移す事は無いと言う事だ。
渇木に関しては曽根と同様食事を取らせても吐き出してしまう。
が、生きている。
これは渇木の恨気の募り先が食べ物や飢餓の為だ。
おそらく極度の空腹で恨気が湧いてそれを生命維持に使っているんだろう。
とりあえず残った刑戮連二人に関しては府中刑務所の特殊独房で拘束されている。
続いて…………
被害だが…………
これは考えるのも嫌なぐらい甚大だった…………
ハァ……
まず……
泥の最初の襲撃で山手通り一部破損。
そんなものは全然可愛いものだ。
続いて新宿御苑ほぼ全域が砂で埋まった……
ゴリさんが発動させたじっと動くなのお陰で……
■じっと動くな
ゴリさんこと轟吏のスキル。
弛緩咆哮を最大出力で放つ奥の手。
範囲内の無機物の分子結合を解き、砂もしくは粉に変えてしまう。
有機物には効かない。
名称はロッシーニ作、歌劇”ウィリアム・テル“のフィナーレで歌われるアリアから。
辛うじて残っていた植物の撤去作業がようやく完了した所……
作業員に竜河岸が居るとは言えまだまだ元通りになるまで時間がかかりそうだ……
旧御涼亭や旧洋館御休所等の重要文化財系や歴史建造物系の復元に関してはもっと時間がかかるだろうな……
それよりも抗議文や関係各所からの書類がシャレにならん量になっている……
はぁ……
続いて……
東京ドーム……
これも酷い……
ほぼ半壊状態……
外周壁、床の破損。
ドームに風穴。
グラウンドも荒れに荒れてボコボコ穴が空いている……
そして最後……
小石川後楽園……
これは全壊……
公園の木々や草花、川。
それらが全部吹き飛んでクレーターになっていた……
隅など多少は残っている部分があるが全壊と言って差し支えないだろう。
多分これらの事務処理で俺……
年超すだろうな……
ハァ……
今がシーズンオフで助かった……
竹中工務店に依頼すれば来年のペナントレース開幕までには間に合うだろうが……
■竹中工務店
江戸時代前期1610年創業。
工務店という言葉を作り、それを初めて社名としたのは同社であり、現在では社名、一般名詞として広く使われる。
スーパーゼネコン5社の一つ。
これまでに施工した建築物は東京タワー、日本武道館、五大ドーム球場をはじめ、全国有名美術館や商業施設、さらには病院、オフィスビル、ホテルなど多数に渡り、施工実績の多さは抜きんでて国内トップを誇る。
(あくまでも劇中での話です)
その施工実績を産み出したのは東京本店に存在する竜河岸部のお陰。
土木系で唯一竜河岸のみで構成された施工部門。
それが竹中工務店が誇る竜河岸部である。
スキルを使用して工期の大幅短縮を実現している。
例で言うと東京ドームの工期が半年弱と言う驚異の短さ。
※実際は起工1985年5月から竣工1988年3月と工期3年弱かかってます。
全てもろもろの修繕費…………
ざっくり言って多分500億ぐらい行くぞこりゃ……
竜被災復旧予算だけじゃ納まらねぇ……
予備費まで食い込む……
いや……
そもそも予算使用の承認降りっかな……?
刑戮連の被害は厳密には竜がしでかしたものじゃねぇしな…………
ハァ……
それを通すのも俺の仕事か……
■竜被災復旧予算
日本国政府が国家予算から竜による被害への復旧の為に設けられた歳出。
本予算で500億。
予備費で500億。
合計1000億円規模の歳出。
こう言った竜に対する特別とも言える予算が設けられているのはひとえに言って日本と言う国が竜に対する施策が後ろ向きであるのが原因。
有体に言えば竜さん、お金は私達が出しますからどうか大人しくしていて下さいと言う気持ちの表れ。
加えて竜河岸と言う人種は高収入の者が多い。
高収入と言う事は納税額も大きいのだ。
そんな竜河岸達にとりあえず外面だけ良い顔をしておけと言う気持ちから。
現実は竜河岸の分布は偏り、差別による陰湿な虐めが発生している実情である。
ちなみにかの杏奈による栄の街暴動事件の修繕費もここから出されている。
続いてその他の特殊交通警ら隊メンバーについて話しておこう。
まず響。
こいつは退院した後、俺と一緒に事務処理だ。
あいつの受動技能、隔離領域はこう言う時の為に使うもんだ。
■隔離領域
響の受動技能。
脳内に情報保存・処理用の隔離領域を複数設置。
人間は脳の3割しか使って無いと言われているが響は隔離領域により57%まで使用している。
それに伴い、思考スピードが桁違いに早い。
参照話:百五十四話
まあ響が居たとしても全て処理を終えるのはかなり日数がかかるがな……
それぐらいシャレに……
シャレにならん量だ……
あとカズと綴。
この二人は刑戮連事件にはそんなに関わって無いからな。
カズはきっちり代休取って、その後別事件の為他県に行った。
綴も泥にかけた吸血の後遺症から回復したら任務で他県へ飛んだ。
リッチーは府中刑務所から動こうとしなかったな。
ずっと泥に日常茶飯事をかけ続けていた。
こんなに楽な任務は無いっつってな。
全くアイツは……
まあそのお陰で泥の性格が180度変わったんだけど。
後はゴリさんとキャンディ。
二人共、恨気に侵された影響で衰弱してたから一週間程入院。
入院時は結構酷かった。
それだけ中田の眼刺死が強力だったって事だな。
比較的ゴリさんは回復早くて一日も経たず意識は取り戻していた。
そのままベッドで報告書をまとめていたよ。
まだベッドから降りて歩く事も出来ねぇってのにこの報告書は隊長の助けになるって言ってな。
相変わらず職務に真面目な人だ。
キャンディに関しては疲労が激しかった。
何日か意識は戻らなかった。
魔力注入に加えてスキルの使い過ぎだな。
ゴリさんも奥の手使ったから結構魔力を使った筈なのに回復が早いのは何でだろうな?
そこは俺にも良く解らん。
まあ退院したらいつものやる気のないキャンディだったよ。
俺達に関してはそんな所だ。
暮葉さんに関しては無事ドームツアーを終えた。
初日に来たお客さんに関しては東京ドームでのライブが台無しになったからな。
全日程終了した後、補填ライブみたいなのを国立競技場でやっていたみたいだ。
ドームライブ途中からワイドショーは正体不明のテロリストからの襲撃と暮葉の婚約発表でもちきりだった。
ドームツアーを終えた後はすぐに合同記者会見。
発表する人間は俺と竜司。
暮葉さんとそのマネージャーだ。
何で俺が居るかと言うと結婚する事を発表したのが刑戮連の襲撃があったライブだったから。
刑戮連についての公式発表も合わせて行った。
詳細に関しては割愛するが組織名に関しては一切伏せて、竜に対して多大な恨みを持つ人間で構成された集団とだけ発表。
もちろんドラゴンエラーが発端とも言って無い。
言えば竜司達に飛び火する可能性があったし、そもそもあの事件、公式ではまだ正体不明ぐらいしか発表していない。
後この記者会見で初めて公式として竜河岸のスキルの存在を初めて発表した。
刑戮連の式に合わせてな。
竜河岸のスキルに関してはまだ政府から公式に存在を認めてなかったんだ。
信じられねぇだろ?
どんだけ竜に対して後ろ向きなんだっつう。
けど実際は俺達竜河岸はバンバン使ってる訳だから、見ているみんなからしたら何を今更って話なんだけどな。
今回、俺の口から竜河岸のスキルについて発表したのは理由がある。
それは刑戮連の式。
あいつらはスキルとは別種の異能を扱うからその差別化を図る為だ。
俺達はテロリストじゃ無いって感じでな。
俺の会見の前はもう終始和やかな記者会見だったよ。
俺の時には批判的、攻撃的だった記者も和んだ質問をするぐらいで。
それも暮葉さんが作る空気がそうさせてんのかもな。
まあそれはそれとして……
当の竜司は……
フフッ……
えらいカッコイイ事言ってたよ。
あの宣言を聞いて暮葉さんへの気持ちを疑う奴なんかいねぇってぐらい堂々としてたぜ。
内容に関しては最終幕の冒頭辺りで話すと思うからもう少し待っててくれ。
結構話したな…………
あ、そうそう。
竜司だ。
最後、眠って終わったと思うがそれに関しては何の心配も無い。
ただの過労で眠っただけだ。
2日程眠ったら回復していた……
いたが……
明らかにおかしい……
一言で言うなら歪……
俺が向かう時に見た馬鹿デカい魔力光で察しはついてるがな……
おそらく……
竜司は使ったんだろうな……
呼炎灼の時のあの力を……
爺様が言ってた絶招経を使用した武道家は人間味が希薄になって行ったって意味が解る気がする……
竜司はよく笑いよく泣く様になった……
これだけだと普通だと思うかも知れないが……
何て言うんだろうか……
まるで笑う事と泣く事しか知らない様な……
その他の感情を無くしてしまった様な……
そんな印象だった。
多分この歪さは一見したら解らない。
何とも言えない気持ち悪さを竜司から感じる。
竜司は今そんな状態だ。
と、まあこれがドラゴンフライ最終章第2幕の顛末だ。
次からはいよいよ本編ラスト。
最終章最終幕だ。
間に静岡での閑話を挟む形にはなるがな。
舞台は2018年。
年が明けてから。
災厄は海外からやって来る形になる。
最後にクソ長いこのドラゴンフライを今まで読んでくれてありがとう。
作者に変わって礼を言わせてもらう。
それじゃあ最終幕で会おう。