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ドラゴンフライ  作者: マサラ
最終章 第二幕 東京 暮葉ドームライブ編
162/284

第百六十一話 枕戈寝甲

「やあこんばんは。

 今日も始めて行こうかな?」


「ねえパパ……

 何だかすっごい久しぶりな気がするんだけど……」


 ※前話、前々話は竜司は知らない話なので(たつ)には話していません。


(たつ)

 時々そんな事言うけど、どうしたの?

 昨日話したじゃない。

 それで目立った話が無かったって言ってたよ……」


 子供だから致し方ない部分はあるのかも知れないが、割とダメージを受けてたんだよな。


「う~ん……

 そうなんだけど……

 何だろ……?

 コレ」


「さあさあ、今日も始めていくよ」


 ###


 蓮と警護に行った日も特に刑戮連(けいりくれん)の動きは無かった。

 (なずみ)があれだけの事をしておいて、全く動きが無いのは本当に気持ちが悪い。


 気になってた飲食店店員の行方不明もこの日を境にプツッと止む事になる。

 止んだ理由は二日後の(おと)さんの話で解ったんだけどね。


 二日後。


 今日は踊七さんと警護だ。

 本当は(げん)なんだけど、復旧作業の都合とかで変わったんだって。


「今日はダンスレッスンあるのかな?

 あのダンスは参考になるから見たいんだけどな」


「え?

 でも先輩のダンスってヒップホップ系でしょ?」


 僕もダンスジャンルはそんなに詳しくは無いけど、多分暮葉のダンスはロック系かポップ系だと思う。


「バッカ竜司。

 いくらジャンルは違えどもだな、同じダンスである以上盗む所なんていくらでもあんだよ。

 それぐらい貪欲でないとWorld of Danceは獲れねぇよ。

 笑い事っちゃねぇ」


 このWorld of Danceと言うのはアメリカの有名なダンス大会の事だ。

 そして踊七さんの夢でもある。


「あ、そう言うものなんですね」


 そんな話をしながら、渋谷のUNION事務所に到着。


 東京都渋谷区 UNION事務所


 ガチャ


「おはようございま~す」


「おはよう竜司」


 と、マス枝さん。


「竜司っ!

 おはよっ!」


 と、笑顔の暮葉。


(竜司っち、ちょりーっす。

 ……って今日はゲンチじゃ無いのかァ……

 残念)


 と、タエさん。


 ちなみにゲンチっていうのは(げん)の事。

 会って一週間ぐらいしか経ってないのにもうあだ名をつけている。

 グイグイ詰めるなあ。


「タハハ……

 それで本日の予定はどんな感じですか?」


(えっと……

 今日はァ……

 午前にダンスレッスンでェ~~……

 後は文京シビックセンターでェ~~

 ライブの打合せっスねぇ~~)


 ライブの打合せ。

 とうとう来た。

 本番まであと一週間ぐらいしか無いから当然か。

 て言うか遅すぎるぐらいだ。


「もう日が押し迫ってるのに、今頃から会議なんですね」


「竜司。

 貴方、何言ってるの?

 会議は顔合わせも含めると一ヶ月半ぐらい前からやってるわ。

 今日は暮葉が必要だから呼んでるだけよ」


「あ……

 すいません……」


「おっ?

 今日はダンスレッスンがあるのか。

 良かった良かった」


 と、踊七さんはご満悦。


 ガチャ


「おはようございます」


 ここで(おと)さんがやってきた。

 来るなり……


「竜司、踊七さんも……

 ちょっと……」


 僕ら二人を呼びつけた。


「はい」


「何ですか?」


 僕らは(おと)さんに呼ばれ、部屋の外へ。


やつら(刑戮連)が動いたわ……」


 ポツリと(おと)さんの一言から口火を切る。


「え…………?」


 僕は言葉を失う。

 だって一昨日、昨日、今日と警護は平和そのものだったから。


「ど……」


「どう言う事ですか?」


 僕の台詞に被さる様に踊七さんが尋ねる。


「竜司……

 先日、飲食店員の行方不明がいくつかあるって言ったわよね……」


「……はい……」


「あれ……

 予想通り、刑戮連(けいりくれん)の犯行だったわ……

 隊長も私からの報告受けた時にそれを睨んでて……

 ウチの隊員を派遣したそうなの……」


 何やら口調が重い。

 もしかして良い結果じゃ無かったんだろうか。


「そ…………

 それで……

 どうなったんですか……?」


「………………………………ごめんなさい…………

 逃げられたわ……」


 何も言えない。

 何も言えなかった。


(おと)さんが謝る事じゃ無いでしょう。

 笑い事っちゃない。

 それよりもっと詳細を教えてくれませんか?」


 言葉を失っている中、冷静に情報を収集しようとしている踊七さん。

 本当に憧れる。


「わかったわ……

 まず犯人は渇木髄彦(かつきすねひこ)

 そいつが受憎(じゅにく)()()()()と募らせるために起こした犯行……

 ウチからはゴリさんが向かった」


 ゴリさんってあのスキル使ったら被害がシャレにならないって言ってた人だ。


「ゴリさんと言うのは?」


「あぁ、踊七さんはまだ会った事無いわね。

 ウチの隊員の事よ」


「なるほど」


「それでゴリさん一人で手に負えなくなって鞭子(むちこ)が応援に行ったのよ」


 あのフリフリミニスカートの怖い人。


「それで……

 取り逃がしたんですか……?」


「厳密には“取り押さえる所に邪魔が入って逃げられた”が正しいわね」


「???…………

 ちょっと待って下さい。

 確か刑戮連(けいりくれん)って仲間を助けたりはしない集団じゃ無かったでしたっけ?」


「何故そんな行動を取ったのかは私達でもわからないわ……

 でもゴリさんが言うには確かに紫色の腕が伸びて、渇木(かつき)を攫って行ったって……」


「私、思うんですが……

 利己主義の集団だったとしても状況が合致すれば仲間を救う可能性はあると思います」


 ここで踊七さんから意見。


「どう言う事かしら?」


「例えば……

 中田が画策している作戦に渇木(かつき)が必要だったとしたら?

 自身は作戦達成が目的な訳で、そこに向かう為の必要な人材と考えたらどうでしょう?」


「なるほど……」


 さすが踊七さん。


「確かにそれは言えるわね」


「と、なると中田が何を考えているのか気になる所ですね……

 化物と言っても三人ではたかが知れてるかも知れませんが……」


「油断は禁物よ、踊七さん」


「ええ、わかってます。

 ただ、私はまだ対峙した事が無いのでピンと来ないと言うのが正直な所ですね」


「あの…………

 ゴリさんのスキルって……

 どんなのなんですか……?」


 僕は被害がシャレにならないスキルと言うのが気になったので尋ねてみた。


「ん?

 ゴリさんのスキルは声よ声。

 あらゆる周波の声を対象に浴びせるの」


「声……

 ですか?

 それでそんなに被害が出るとは思えないんですが……」


「何言ってんの竜司。

 声……

 と言うか音を舐めてない?

 ゴリさんのスキル浴びたら身体の全筋肉が弛緩して動けなくなるのよ。

 しかも声だから射程も長いしね」


「え…………

 でっ……

 でもっ……

 魔力注入(インジェクト)で……」


 それを聞いた(おと)さんがフウと溜息。

 隣の踊七さんもヤレヤレと言った表情。


「あのね竜司……

 いい?

 確かに魔力注入(インジェクト)の身体強化は凄いわよ?

 でも別に魔力で膜を張ってる訳じゃないでしょ?

 いくら内蔵魔力を全て防御に振ったとしてもゴリさんのスキルの前では無駄よ」


「そう言う事だ竜司。

 魔力注入(インジェクト)はあくまでも技術。

 万能じゃねえ」


「え…………?」


「更にゴリさんは超音波も体内で生成して超音波メスも放つ事が出来るのよ」


 超音波メス。

 聞いた事がある。

 特撮でやってた。


 確か金属や大型建造物も切断できる威力を持つって。

 それで音速で放たれるから回避も難しいって。


 ブルッ


 僕は身震いを起こす。


「そ……

 それは凄いですね……」


「これだけじゃ無いのよ。

 ゴリさんのスキルって。

 奥の手が本当にヤバくて……

 隊長は当分家に帰れそうにないわ……」


「え…………?

 何で…………?」


「出た被害の後始末よ。

 前に一度使った時は北海道の大雪山が一部消失したんだから」


 もう何か凄すぎて訳が分からない。

 と、ここでもう一つ疑問が沸く。


「で……

 でもそんな威力のスキルなら何故、飴村(あめむら)さんは一緒に戦えるんです?」


「あの子のスキルが特別なのよ。

 置換(レプレイス)って言ってね。

 範囲内の物質と他場所の物質を入れ替える事が出来るのよ彼女は」


 要領が得ない。

 何故置き換えただけでゴリさんと一緒に戦えるんだ。


「でも、置き換えたからって音は響くんじゃ無いんですか?」


「彼女の場合は置き換える量も自在なのよ。

 だから人型に範囲を指定して中の元素と他の微量の元素と置き換えて真空状態を作ってるの」


 なるほど。

 真空状態で身体を覆ってしまえば音は遮断できる。


「そ……

 そのスキルも凄いですね……」


「ゴリさんと鞭子(むちこ)

 二人合わせてC.D(カタストロフ・デュオ)ってその界隈じゃ有名なんだから」


 カタストロフ・デュオ。

 文字通り破壊の二人組。

 何て恐ろしい異名だ。

 って言うかその界隈ってどこ?


「…………我々としてはどうしましょう……?」


 僕は刑戮連(けいりくれん)の底知れない脅威に不安になり、これから先の指針について(おと)さんに尋ねた。


「……竜司、我々の仕事は何?」


 (おと)さんの目が少し鋭くなり、じっと僕の方を見る。


「え……?」


 急な鋭い視線に戸惑い、咄嗟に答えられない。


「我々の仕事は要人警護。

 クレハさんに来る脅威から護り切るのが仕事よ。

 我々のやる事に変わりは無いわ」


「…………はい……」


 何となく怒られた感じがしたので少しションボリしてしまう。


「フウ……

 まあ不安になるのも解るわ。

 警護しながら私も電波超傍受(オービット)で情報を集めるから……

 あぁ、あとゴリさんが持ち帰ったものがあってそれを鑑識に回してるの。

 もしかして有効な手段が手に入るかも知れないわ」


 鑑識?

 よく刑事もので聞く、化学的に分析する部署だ。

 一体何を持ち帰ったんだろう。


「一体何を持ち帰ったんですか?」


受憎(じゅにく)の腕よ」


 それを聞いた僕の脳裏に(なずみ)の生成した気持ちの悪い紫色の腕が過り、(おぞ)ましさで身体が震える。


「この解析が上手く行けば、何らかの対抗手段が生まれるかも知れないわ」


 ガチャ


 話が終わったので、僕らはまた事務所内へ戻る。


「あ、戻って来たわね。

 さっそく行くわよ」


 マス枝さんの音頭により、僕らは出かける。


 Studio mission


 ダンススタジオに着いた僕ら。


(あーっ!

 ガレアきゅんっ!

 待ってたわーっ!)


 波留(はる)さんがまた袋いっぱいにばかうけを用意してガレアを出迎える。


【おーっ!

 ばかうけーっ!

 今日もいっぱいばかうけくれんのかーっ!】


 ヒシと抱き合う二人。

 ガレアももう波留(はる)さんをうっとおしいとは思ってないみたいだ。

 まあ会う度会う度ばかうけいっぱいあげてるもんな。


 ん…………?


 ガレアが何か妙な事を言い出したぞ。

 一瞬聞いて何か違和感。

 そして頭の中でガレアの台詞を思い起こし理解した。


 コイツ……

 波留(はる)さんの事をばかうけって呼んでやがる。


 何だろう。

 ガレアの中では波留さんがばかうけを生成してるとか思ってるんじゃないだろうな。


 そんなこんなでレッスン開始。

 既にライブで披露するダンスは踊れているので本日はおさらいの様な形。


 しかし…………

 汗を飛び散らせながら…………

 真剣な眼差しで…………

 踊ってる……

 ポニーテールの暮葉って………………


 素敵だよなぁ~~


「うお……

 竜司……

 お前、笑い事っちゃねぇぐらい気持ち悪い顔してるぞ……」


 僕の顔を見た踊七さんが若干引き気味で所感を述べる。

 多分僕の顔はだらしなく、鼻の下がダルダルに伸びきっていたんだろう。


【ムウ…………

 小僧…………

 何と気持ち悪い顔なのだ……】


 ナナオにも言われてしまった。


「そそっ……

 そんな事無いでしょっ!」


 ゴシゴシゴシゴシ


 緩み切った鼻の下を元に戻す為、しきりに人中辺りを擦る。


(ハイッ!

 OKッ!

 クレハッ!

 大丈夫な様ねっ!

 あと本番は今みたいに連続で踊る訳じゃないから、集中を途切らさない様にね)


「フーーーッ……!

 はいっ!」


 大きく息を吐き、元気に返事をする暮葉。

 やっぱりまだダンスでは疲労する様だ。


「暮葉、お疲れ様」


 僕は荷物からミネラルウォーターを出し、暮葉に渡す。


「ありがとっ!

 竜司っ!」


 パキッ


 蓋を開け、水を飲む暮葉。

 顔を上に向けた為、汗が顎を伝い、首筋へ垂れる。

 やっぱり素敵だ。


【ムウ……

 何と間の抜けた顔だ……

 我が産まれて幾星霜……

 これ程の情けない顔は見た事無い……】


 ナナオが何か小難しい言葉を使って僕を酷評している。


「そ……

 そんなに情けないかな……?」


 ペシペシ


 僕は自分の頬を叩きながら顔を引き締める。


【時に踊七よ……

 何故、小僧はあの様な情けない顔をしているのだ……?】


「ん?

 あぁ、これは暮葉さんが笑い事っちゃねぇぐらい可愛いからニヤけてるだけだ。

 こんな可愛い子が自分の婚約者なんてとか考えてるんだろ?」


【その婚約者とは人間の言葉で(つが)いと言うものであろう……?

 そして見た所、あの娘は竜では無いか……

 あの小僧は我々の同胞と(つが)いになろうとしているのか……

 酔狂な事だ……】


(つが)いってお前…………

 違ェよ、人間の言葉では夫婦って言うんだ。

 (つが)いだと他の動物みたいになっちまうだろうが。

 笑い事っちゃねぇ」


【フム…………

 しかし状態としては同じ事であろ……?

 人間用の言葉が用意されておるのか……

 やはり矮小な生物よな……

 この狭い地球で自分らが特別だとでも思っているのだろうか……】


 何か踊七さんとナナオが僕を肴に妙な話をしている。


「馬鹿野郎。

 そもそも(つが)いって言葉自体を考えたのは人間じゃねぇか。

 言葉を産み出したのが人間ならそれを使った表現に特別も平凡もねぇだろがよ。

 笑い事っちゃねぇ」


 負けじと踊七さんも言い返す。

 って言うか相手は(ロード)の衆だぞ。


【ムウ……

 確かに踊七の言ってる事にも一理ある……】


 納得しちゃった。

 ナナオ、それでいいのか。

 いや、まあ物騒な事にならないならそれに越したことは無いんだけど。


 しかしまあ踊七さんもよく(ロード)の衆に馬鹿野郎なんて言えるなあ。

 それだけ仲が良いと言う事なんだろうか。


【と言う事は……

 小僧は、夫婦の(つが)いであるあの竜の娘の美しさに当てられ……

 あの様な情けない顔をしたのか……】


「あのあのうるせえ奴だな。

 まあそう言う事だ」


【ククク……

 やはり人間とはかくも面白い生物だ……

 本当に色々な事を考えおる……

 小僧……?】


 ここで僕に話を振って来るナナオ。


「えっ……?

 ぼ……

 僕ですか……?」


【貴様以外に誰がおる……

 小僧……

 貴様は本当に竜と夫婦になろうとしておるのか……?】


 更に僕に尋ねて来るナナオ。

 こんな状況初めてだ。

 どうしよう。

 どう答えたら正解なんだろう。


「……………………はい…………

 僕は暮葉と結婚します……」


 大きな意思を込めて、真っすぐナナオの目を見て答える僕。


【フム…………

 眼に強い意志を感じる……

 それだけ決意は堅いと言う事か……

 発言から察するにその()()()()と言うものが夫婦になる為の儀式の様なものか……

 しかし解っておるのか……?

 竜と人間とでは子を為すやり方が全く違う……

 あの竜の娘と(つが)いになって……

 果たして子孫を作れるのかどうか……】


「やり方…………」


 一瞬ナナオが何言ってるか理解できなかった。

 そして全てを理解した瞬間、顔が真っ赤になる。


「そそそっっ……!

 そんなのやってみないとわからないですよっ!!」


 あまりの恥かしさにどもりながら答えてしまう僕。


【フム…………

 また顔が変わったな小僧……

 コロコロと表情が変わる奴だ……】


【ん……?

 ポリポリ……

 何か今ケッコンって聞こえたな……

 ポリポリ……

 何処だ?

 ケッコン何処だ?】


 ここへガレアがばかうけを齧りながら話に加わる。


「竜司、ヘンな顔してどうしたの?」


 更にすっかり着替え終わった暮葉がキョトン顔で聞いて来る。


「コラ、ナナオ。

 何かややこしくなりそうだからこれ以上竜司を弄んじゃねぇ」


 ここでようやく踊七さんからストップが入る。

 助かった。


「はいはい、文京区へ行くわよ」


 マス枝さんに促され、僕らは文京シビックセンターに向かう。


 東京都文京区 文京シビックセンター


 目的地へ到着。

 車から降りる僕ら。

 駐車場から少し歩くと、物凄く大きな建物が聳え立っていた。

 効果音にするならデデーンと言った感じ。


【何だココ。

 でっけぇ建物だな竜司……

 ポリポリ】


 階数はそんなにないが敷地の広いその建物を見てガレアもビックリしている。

 って言うかいつまでばかうけ食べてんだコイツ。


 中に入る僕ら。

 黙ってマス枝さんの後をついていく。

 向かった先は三階。

 ある部屋の前に止まる。


 第一会議室


 コンコン


(はい)


 中から声。


 ガチャ


 扉が開く。

 中から出て来たのはスーツ姿の男性。

 清潔な短髪黒髪。

 切れ長の目の上にインテリっぽい眼鏡。

 どことなく大人な雰囲気。


「おはようございます。

 ユニオンです」


(あ、マス枝さん。

 お待ちしておりました)


 その男性に招かれて僕らは中に入る。


 ガヤガヤ


 中はかなりの人がごった返していた。


(あっ!

 クレハちゃーんっ!)


 聞いた事のある嫌な声。

 見ると下品な金髪メッシュのロン毛を揺らし、これ見よがしに着けた高そうな指輪がついている手を振りながら、いかにもチャラそうな男が声をかけてくる。


 加藤鷹(かとうたか)だ。


 モヤ


 やっぱり嫌な気分がする。

 嫌な気分と言うかモヤモヤとしたスッキリしない感じ。

 この男が暮葉の名前を呼ぶだけで心の中がモヤモヤする。


「あ、加藤さん。

 おはようございまーす」


 暮葉が営業スマイルで挨拶。


 嫌な気持ちが沸くとそれを解消する為に人は動くものだ。

 僕は暮葉と加藤の視線上に割り込む形で立ち位置を変える。


「わっ……

 竜司、どうしたの?」


 暮葉がキョトン顔をしている。

 かなり近い距離に軽く驚いている暮葉の顔。

 大きな眼から覗く深紫の瞳が真っすぐ僕を見ている。


 フワッ


 暮葉の身体や髪から香る華の匂いが優しく鼻腔を撫でる。

 甘い香りで心までとろけそうだ。

 スッと長い鼻。

 雪の様に白く、キメの細かい肌。


 身体全体から強烈に発せられる暮葉の可愛さにやられ、黙っている僕を目をパチクリさせて不思議そうに見つめる暮葉。


「いや……

 相変わらず可愛いなって思って」


 ハッと我に返って素直な気持ちを告げる僕。

 普段だったら恥ずかしくて言えそうもない台詞だけど、嫉妬してる対象が居てモヤモヤとする気持ちを解消する為に動く人間て驚く行動をするものなんだなあ。

 また一つ勉強になった。


 そんな僕の台詞を聞いて、今度は暮葉に変化がある。


「………………!!?」


 頬が見る見る内に赤くなっていく。


「あれ?

 暮葉、どうしたの?」


「アレッ…………

 アレアレッッ!?

 私ッ……!

 どうしたんだろっっ!?」


 急な変化に戸惑い、顔をペタペタ触ってる暮葉。


「フフ…………

 暮葉、どうしたんだってば」


 慌てふためく暮葉が何だか可愛らしくて、微笑みながら更に尋ねる僕。


「何だかヘンなのっ……

 竜司に可愛いって結構言われてるのにっ……

 何だか顔と胸が物凄くポカポカする……」


「前にも言ったでしょ?

 それは僕の気持ちが暮葉に伝わったって事だよ」


「そっかっ!

 前に言ってた竜司の好きって気持ちが伝わったのねっっ!」


 ザワザワ


 暮葉の大声に周りがにわかに騒ぎ出した。


(何だ……

 クレハって彼氏が居たのか……)


(でも、本人は解ってない感じだけどな……)


 何だかキナ臭い呟きも飛んでいる。


「わーっ!

 暮葉ッッ!

 声っ!

 声が大きいよッッ!」


 僕は慌てて暮葉の口を塞ぐ。


「ンググ…………

 プハッ……

 竜司っ!

 何するのよっ!」


「テメーら…………

 イチャつくのもいい加減にしろよ……

 そして竜司……

 アンタ……

 外では彼氏面するなって言っただろうが……」


 怖っ!


 後ろから怨嗟を載せた静かなマス枝さんの声が聞こえる。

 アンタ、怖すぎるよ。


「ハイィッッ!

 すすっ…………!

 すみませぇんッッッ!」


 僕は恐怖の余り、もの凄い勢いで謝る。

 そして僕とすれ違う瞬間……


「帰ったら覚えておけよ…………

 ボソッ」


 だから怖いってアンタ。

 そのままツカツカと前へ行く。


「うわー……

 マス枝さんってすっげぇ怖ぇんだな……

 笑い事っちゃねぇ……」


 マス枝さんの迫力に踊七さんもひいている。


「えー、皆さん。

 本番も押し迫ってきました。

 まだ()()()()()竜河岸さん達はまだ到着しておりませんが始めさせて頂きます」


 前でマス枝さんが話し始め、会議が始まる。


 ん?

 今何かヘンな事言わなかったか?

 メンバーの竜河岸?

 メンバーって何だ?


 そんな僕の疑問をよそに会議は進行。


「…………あくまでもこのライブのコンセプトは人と竜の親和です。

 もっと竜が平和を望んでいると言う事と竜の凄い力をアピール出来る演出が…………」


 へえ、このライブそんなコンセプトだったんだ。

 ふとホワイトボードを見るとこんな事が書いてあった。


 Kureha Dome tour Life with dragons


 ツアーのタイトルかな?

 ライフウィズドラゴンズ……

 竜達と共の生活って事か。


 確かドームツアーの目玉曲は竜と人が眠る街だったっけ。

 本当に人と竜が仲良くなる様に考えてるんだな。

 暮葉を竜側の旗頭にしようと考えているのかな?


 コンコン


 と、そこへノックの音。


(はい)


 先程僕を出迎えてくれた男性が応対。


(いやーすいません遅れまして……

 コイツが新作の佃煮食べるって聞かなくて……)


【何だよ俺が悪いのかよ】


(いえ、まだ始まって一時間ぐらいしか経ってないから大丈夫ですよ。

 どうぞ)


 あれ?

 竜の声も聞こえる。

 聞いた事無い声だ。


 とか考えてたら男性が一人と赤い竜が一人入って来た。

 それを皮切りに続々入って来る。

 男性、女性どの人も竜を連れている。


 その数、人間約十五人。

 竜、約十五人。

 瞬く間に会議室は人や竜でごった返す。


 ガヤガヤ


 まさに会議室は異種族の()()()と化す。

 あちらこちらでピョイピョイ長い首が伸びている。

 そしてありとあらゆる色の鱗が視界に広がる。

 赤、青、黄色、白、黒、紫と目が痛くなる程だ。


【何だ何だこいつらっ。

 どっから湧いて出やがったっ!?】


 さすがのガレアもこの状況に驚いている。

 この混雑具合ではばかうけも満足に食べれない状態。


「ガレア、大丈夫?

 それと知ってる竜いる?」


【うんにゃ。

 見た感じ知ってる奴はいねぇな】


「はい、ようこそ竜河岸の皆さん。

 お待ちしておりました」


 いつしかマイクを持っているマス枝さん。


(いえいえー

 遅れてすいませんー)


 最初に入って来た竜河岸の男性が受け答え。


「えー……

 人間スタッフの中では本日初めてご覧になる方もおられますでしょうが、この竜河岸さん達と竜にはライブに協力してもらいますー。

 なお会場移動に関しては竜の亜空間を使用する予定ですー」


 ガヤガヤ……

 ガヤガヤ……


(何だ……?

 竜の亜空間って……?)


(俺、聞いた事あるぞ……

 竜ってのは別空間を開く事が出来るんだって……

 それで移動とかもするんだってよ……)


(へえ……

 移動……

 何それ?

 凄く早かったりする訳……?)


(何か地球の裏側まで三秒って言ってたぞ……

 知り合いの竜河岸が昼休みにパリの限定スイーツ買って来て食ったってよ……)


(何それ……?

 ドラ座衛門のいつでもドアじゃん……)


(ハハッ……

 俺も同じ事考えたわ)


(でもなるほどな……

 そのよくわからん移動手段で国立競技場まで移動させる訳か……

 場所を変えるって移動時間とか考えてんのかなって思ったけど……)


 窓際に居た人間スタッフの話に聞き耳を立てる僕。


 え?

 竜の亜空間をライブに使うの!?

 ってか国立競技場って何?

 一体何時間ライブするの?


 って言うか一つのライブで会場を変えるなんて聞いた事が無い。

 確か東京ドームって満員だと六万人近くなるぞ。

 そんな大人数の移動なんて可能なんだろうか。


 って言うかチケット代金はどうなってるんだろう。


 スタッフの話に驚く事や疑問が山程出て来た。


「あと、サガワさん。

 竜河岸オーディションの方は進んでますか?」


(あーはいー……

 サポートしてくれる人も優秀なので今日で完了しますー

 多分後、五、六人は確保できる予定ですー)


「よろしい。

 では竜河岸さん達は第二会議室に移って下さい」


(はぁ~い)


 ゾロゾロと竜河岸と竜がこぞって外へ。

 そして暮葉も外へ行った。


 あれ?

 これって僕らはついて行かないと駄目なのかな?


「貴方達、何やってるの?

 別室へ移動よ」


 (おと)さんとスニーカーが隣の部屋に動き出す。


「じゃあ、俺達も行くか」


 踊七さんとナナオも外へ向かう。

 やっぱり僕も向かわないといけないのか。

 警護対象が移動するから僕らも移動すると言う事だろう。


「ガレア、行こう」


【ん?

 何だ?

 移動か?】


 僕もガレアと一緒に隣の部屋へ向かう。


 第二会議室


 ガヤガヤ

 ザワザワ


 そこには色とりどりの竜と側に竜河岸がガヤガヤと騒いでいる。

 人間のスタッフが向こうに残ったせいか若干スペースに余裕はある。

 が、やはり竜の巨体。

 存在するだけで圧迫感がある。


 前に男性が立つ。

 あ、この人はさっき僕らを応対してくれた人だ。


(えーそれでは亜空間で六万人を送る際の打ち合わせを始めまーす)


(はぁーい)


 こうして打合せは進む。


 東京ドームの出入口に各竜河岸と竜を何組か配置する事になる。

 何せ六万人。

 一組の竜河岸と竜だけでは対処しきれないからだ。


 一箇所で数組の竜河岸達大きめの亜空間を開き、そこから国立競技場へピストン輸送していくそうな。

 確か東京ドームは文京区。

 そして国立競技場は渋谷区。


 今、地図アプリで確認したが距離にして五キロ。

 そして大都市東京の混雑具合とかから考えると亜空間での移動は物凄い強みになる。

 何せ亜空間には渋滞や混雑、距離すらも関係無いのだから。


(あと、サガワさん。

 今日の最終オーディションに翼竜は来られてましたか?)


(えっと……

 ちょっと待って下さいね……)


 手荷物から資料を取り出すサガワと呼ばれた男性竜河岸。


(えーと……

 今んとこ……

 あと二十人来て……

 四名が翼竜ですね……)


 翼竜って少ないのかな?


 見渡すと十五人も竜が居るのに、翼竜は三人しか居ない。


 そう言えばベノムもルンルもマッハも陸竜だ。

 グースは……

 どうなんだろ?

 竜の姿を知らないからわからないや。


 ダリンやドックは翼竜と言うよりかは蛇竜や和竜って言葉が似合いそうだし。

 母さんのダイナは確か翼竜だっけ。

 やっぱり翼竜の数って少ないんだな。


(フム…………

 やっぱり少ないな…………

 あ、そこの君)


 何か考えている所に男性が僕を見て、声をかけて来る。


「え…………

 ぼ……

 僕ですか……?」


(うん、君。

 君はクレハさんの関係者だろ?)


「えっ……

 ええまあ……」


(それで隣にいる竜は君の使役している竜かい?)


 更にガレアに目線をズラす男性。

 ガレアは翼竜だ…………

 まさか……


「は……

 はい……」


 パンッ


 両手を合わせて拝み出した。


(頼むッッ!

 君の竜にライブの協力、お願いできないかな?)


 やっぱり。


 僕の方を向いた時から嫌な予感はしてたんだ。

 て言うか普通に考えて駄目だろ?


 今、僕は刑戮連(けいりくれん)から暮葉を護る為に来てるんだ。

 もしライブなんかに出て、その間に襲ってきたらどうするんだ。

 (なずみ)との戦いで痛感した。

 刑戮連(けいりくれん)と一戦交える時は絶対ガレアが居ないと有り得ない。


「えっと…………

 勿体ないお話ですが……

 お断りさせて頂きます…………」


(えぇっ!?

 そんな事言わずにィッ!

 もちろん協力して貰ったらギャラは発生するよ?)


「お金の問題じゃ無いんです」


 どうしよう。

 何かしつこいぞこの人。

 マス枝さんは刑戮連(けいりくれん)の事は伝えてるんだろうか?


 いや……

 多分、この反応を見る限り、言って無いんだろう。

 伝えてない理由は必ずあるはずだからそれを僕が破る訳にはいかない。


(だとしたら、一体何が問題だと言うんだい?

 スケジュールの部分かな?)


「まあ広い意味で言うと…………

 そう言う感じです……」


 僕はどうとも取れる様なズルい言い方をした。


(何だい歯切れの悪い言い方だな。

 僕も夢がかかってるから簡単に引き下がりたくは無いんだ。

 断ると言うのなら僕を納得させて欲しい)


「そ……

 そんな事言われても……」


 困った。

 なかなか引き下がってくれないぞ。

 警護の事は言う訳にもいかないし……

 どうしよう。


 ん…………?

 この人の夢って何だろう。


「あの……

 今、言った……

 夢って……

 何ですか……?」


(え?

 僕の夢かい?

 一般人が抱く些細な夢さ……

 それは……)


勅使河原(てしがわら)さーんっ!

 打ち合せ始めなくていいのーっ?」


 と、そこへ暮葉から声がかかる。


(おっと、いけない。

 打合せ始めないと……

 じゃあ夢の話はまた休憩の時にでも……)


「はい、わかりました」


 こうして勅使河原(てしがわら)と呼ばれた人は前に行き、打合せ開始。


 今日の打ち合わせは各々どのゲートに向かうかと後から来るオーディション組は明日の朝、合否が通知される。

 それで本日最終オーディションなんだって。


 本番まで一週間ぐらいしか無いのにまだやるのか。

 とか考えてたら後で聞くとそれにも理由があるらしい。


 要するに勅使河原(てしがわら)って人の夢の為に引き伸ばしてるそうなんだ。

 それでも色々な段取りを含めると本日が最終らしい。


 オーディションは各地で開催されて現地の竜河岸を募るんだって。

 本日来てる竜河岸はツアー全てに参加する人達。

 スタッフさん達はHP(ホームページ)組って呼んでる。


(えー……

 あと……)


 勅使河原(てしがわら)さんが資料を捲りながら確認している。


(あー……

 そうそう。

 夢野遥(ゆめのはるか)さんは明日東京に来られるそうですー)


 ズルッ


 僕はずっこけた。


 え?

 夢野遥(ゆめのはるか)………………

 ってまさか…………?


【はるはるーっ】


 あまり思い出したくない声が僕の脳裏に蘇る。


「あの…………

 僕にも資料見せてもらって……

 いいですか?」


(ん?

 いいよ。

 はい)


 僕は向けられた資料を確認。

 そこには宣材写真の様な知り合いの顔写真が貼られていた。


 名前:夢野遥(ゆめのはるか)

 年齢:永遠の十七歳

 スリーサイズ:B72 W59 H76


 オイ、夢野遥(ゆめのはるか)って芸名だぞ。

 コイツの本名は権藤房代(ごんどうふさよ)で年齢も四十二だ。

 また無機質なワープロ文字で打たれている所がスベってる感が半端ない。

 しかもスリーサイズで書かれた数字は妙にリアル臭いのがまた何とも言えない。


 そして……


 竜:スーダン・ミゼット・スイフト 武竜


 ハイ、この行で確定した。

 ()()夢野遥(ゆめのはるか)()()夢野遥(ゆめのはるか)だ。

 何でこいつらが居るんだ。

 名古屋でもやるんだから名古屋で参加しろよ。


「あの…………

 この人…………

 僕の知り合いなんですが……

 何で今日の打ち合わせに参加して無いんですか……?」


(あぁ、この子はライブのオープニングアクト担当だからね)


 オープニングアクト?

 要するに前座か。

 何か凄くなって来たな暮葉のドームツアー。


 それにしても(はるか)、着実に夢に向かって行ってるんだな。

 前座でも六万人の前で歌えるんだからそりゃ応募するか…………


 ん?

 歌?

 歌うんだよな……?

 何となく怖さと切なさがジワリジワリと湧いて来る。


 堪らなくなり勅使河原(てしがわら)さんに聞いてみる。


「あの…………

 勅使河原(てしがわら)さん…………

 (はるか)って…………

 歌いますよね……?

 竜と踊って終わりとか……

 そう言う事じゃ無くて……」


(ん?

 そりゃ前座だから歌うよ。

 キチンとマス枝さんがオーディション立ち会って決めた子だし)


 ほっ……

 良かった。

 僕は胸を撫で下ろした。


 (はるか)は名古屋で毎日ボイストレーニングに勤しんでいるそうだ。

 こうして打合せは進む。


【へー、お前がクレハかー。

 本物見るの初めてだー】


【そうよ、ライブではよろしくねっ!】


 暮葉が竜語を話してるの久々に聞いたな。

 何かオーディション組の竜と話している。


 かと思えば……


【あぁああぁあぁああ…………】


 ガタガタ震えている竜もいたりする。

 目線の先にはナナオ。


【ん……

 小僧……

 どうかしたか……?】


 ナナオからしたら竜も僕も小僧か。


 ナナオを見つめたままガタガタ震え、ぺしゃぁっと床に座り込みアワワアワワと目を真ん丸としている。

 その様に何か懐かしさみたいなものを覚えた。


 あ、そうだ。

 ガレアだ。

 かつての赤の王の名前を聞いた時のガレアだ。


 別に危害を加える訳じゃないのに何でだろ?


 ……………………あ、わかった。

 そう言えばナナオは(ロード)の衆だ。

 ぽちぽちとのやり取りや、さっき普通に話していたからすっかり頭の何処かに忘れていた。


 いけない。

 確かにその態度は当然なんだけどナナオは大丈夫って事を教えてあげないと。


「すい……」


「すいません、こちらの竜の竜河岸はどちらの方でしょうか?」


 僕が動き出す前に踊七さんが動いた。


「は……

 はい……

 私ですが……」


 手を挙げたのは中年女性。

 自分の竜の見た事無い態度に戸惑っている様だ。


「申し訳ありません。

 私の使役している竜が少々驚かせてしまったみたいで。

 ご安心下さい。

 この竜は安全ですから」


【ヒィッ……

 でっ……

 でもっ……

 (ロード)の衆だろォッッ!?

 その七本の尾…………】


 踊七さんが言っても聞かないみたいだ。


「う~ん…………

 ナナオよう、お前って竜界でどんな暮らししてたんだよ……?

 笑い事っちゃねぇ」


【ん……?

 何の話だ……?

 踊七よ……】


「お前にビビッてこの竜が腰抜かしてんだよ」


【フフ…………

 まぁ……

 我の魔力は少々大き過ぎるからな……

 竜界(向こう)では(いさか)いが起こると辺り一面しばらくは焦土と化しておったが……】


「何だよそりゃ。

 笑い事っちゃねぇ……」


 そう言いながらズボンのポケットに手を入れる踊七さん。


「念のため持って来ておいて良かった……」


 そう言って取り出したのは何やら一枚の紙。

 何だろうあれは。


 それをナナオに見せた踊七さん。

 するとすぐに()()が何かわかった。


【ぽぉっ……!?

 ぽちぽちぃぃぃっっ!?

 しばらく遊んであげてないでちゅがぁっ!

 寂しくないでちゅかぁっ!?】


 ビタン

 ベタン

 バタン


 七つの尾を床に打ち付けながらその紙を持ってゴロゴロ転がり出したナナオ。

 あれは多分ぽちぽちの写真だろう。


「お解り頂けましたでしょうか?

 御覧の通りの竜で……」


 そんなナナオを意にも介さず、怯えてる竜とその竜河岸に釈明する踊七さん。


【ホ……

 ホントだ…………】


 頭を抱えていた竜はようやく顔を上げる。


竜界(あちら)でナナオと面識はあるのでしょうか?」


 踊七さんが竜に語りかける。


【いっ……

 いやっ…………

 話で聞いただけ…………

 遭ったら終わりを覚悟しろと…………】


「なるほど。

 言わばおとぎ話のレベルって事ですね。

 所詮は又聞きした事。

 話と言うものは尾ひれがついて大きくなるものです」


 ビタン

 ベタン

 バタン


 饒舌に喋る踊七さんの目線の先には依然として転がっているナナオの姿。

 いつまでやってるんだろう。


「ホラ、見て下さい。

 あれが危険な竜に見えますか?」


【そ……

 そうか……

 じゃあアイツの言ってた事はウソだったんだなっ!】


 安心したのか途端に調子を取り戻す竜。


「この子がこんなに怯えるから一体どんな危険な竜だと思ったけど……

 何だか愛らしいわねぇフフフ。

 一体あなた、何を見せたの?」


 使役している竜河岸のおばさんも安心したらしい。


「あぁ、あれは飼っているペットの写真です。

 ウチの竜、溺愛してまして」


「あらまぁウフフ。

 私も見てみたいわ」


【ハッッ!!?】


 ようやく我に返ったナナオ。

 即座に姿勢を正す。


【ゲフンッ…………!

 ゲフンッゲフンッ…………

 と……

 時に小僧よ…………

 我は何かおかしかったか……?】


 いつもの口調に戻ったナナオ。


「いや……

 まあ……

 別に…………」


【ならば良い……】


「ほれ、ナナオ。

 早くそれ返しやがれ」


 ナナオの手からぽちぽちの写真を取る踊七さん。


「どうぞ。

 これが我が家のペット。

 ぽちぽちです」


 そう言いながら竜河岸のおばさんに写真を見せる。


「おやまぁ!

 貴方の竜じゃ無いけどこれは可愛いわねぇウフフ」


 ナナオでは無いが途端に色めきだった。


【ム……

 女……

 なかなか見る目があるではないか……】


「あら?

 そうかしら?

 あ~ん、私も犬飼おうかしら?」


 そう言いながらぽちぽちの写真を眺めている。


「竜司……

 前に貴方が言ってた事、本当だったのね……」


 後ろから(おと)さんが話しかけてきた。


「でしょ?

 僕からしたら(ロード)の衆って言ってもただの犬好きな竜ですよ」


「隊長の深刻な物言いからはちょっと想像つかないわね……」


「兄さんがビビり過ぎなんですよ」


 三十分後


(はーい、では少し休憩入れまーす)


 打合せで小耳に挟んだんだけど、何でもHP(ホームページ)組の竜はバックダンサーとして踊るらしい。

 一体どんなライブになるのやら。


(お待たせ、さあちょっと外に行こうか)


「あ、はい」


 勅使河原(てしがわら)さんの誘いに乗り、僕は外へ向かう。

 廊下の端の方へ。


(えっと……

 何だっけ?

 あ、そうそう僕の夢の話だね……

 小さい頃にね……

 夕方、道を歩いて帰っていたんだ。

 物凄く夕日が綺麗な日でね。

 周りがオレンジ色に染まるぐらいの。

 僕は何の気なしに空を見上げたんだ。

 黄金色の空をボーッと眺めてた……

 そしたらヒュゴォって感じの空気を切る様な大きな音が聞こえてね。

 そしたら物凄い勢いで翼竜が飛んで来たんだ。

 紅い空を薄っすら飛行機雲で線引く感じでね……

 それで大きく開いていた翼がキラキラ光っててね……

 翼竜はそのまま夕日に向かって飛び去って行った……

 もう鮮烈で……

 その頃の僕は幼稚園ぐらいだったから世の中に竜がいるっていうのをあまりよく解って無くてね。

 初めて見た翼竜がそれだったんだ……

 あの綺麗な姿は今でも目に焼き付いているよ……

 あんな景色をもう一度見たい……

 これが僕の些細な夢さ)


「なるほど……

 勅使河原(てしがわら)さんの小さい頃の思い出が……」


(あれ?

 自己紹介したっけ?)


「あ、いえ……

 皆さんがそう呼んでるのを聞いていたので」


(フフッ……

 君って見た目通り、耳ざといんだね)


「見た目通りって?」


 昔の僕ならここでムッとぐらいなってたんだけど、今の僕は全く波風が立たなかった。

 何故なら怒れないから。

 聞いたのはただ純粋な興味。


(だって君、オタクだろ?)


 ここに来るまで結構色々な事があって僕の雰囲気からオタク要素ってのは無くなってると思っていたが、全然そんな事は無かった。


「ええ、まあ……

 あ、僕は皇竜司(すめらぎりゅうじ)と言います。

 宜しくお願いします」


 僕は右手を差し出す。


(僕の名前は勅使河原綾里(てしがわらりょうり)

 よろしく。

 ……でどうかな?

 君の竜にライブ、協力してもらう話は?)


「う……

 う~ん……」


 少し迷っていた。

 勅使河原(てしがわら)さんの夢を聞いてしまったから。


 竜が飛ぶ姿に強い憧れを抱く気持ちも同意できる。

 僕の脳裏には竜界で初めてガレアに乗った時の途轍もなく広大で雄大な大地の絶景が浮かんでいた。


 あの景色は翼竜であるガレアが見せてくれたもの。

 見たものは違うにせよ、ある種の親近感みたいなものを勅使河原(てしがわら)さんに抱いていた。


(出番は国立競技場だけだし、あくまでも現時点ではリザーブ(控え)って形でもいいんだけど……

 どうかな?)


 なるほど。

 後半だけか。

 そりゃそうか。

 東京ドームは竜が飛ぶには手狭だろう。


 多分勅使河原(てしがわら)さんのやりたい演出と言うのは翼竜による航空ショーだろう。

 自衛隊みたいな。


「あの……

 勅使河原(てしがわら)さんがやりたい事って翼竜の航空ショーですか?」


(そうなんだ!

 たくさんの翼竜が大きく翼を広げて東京の夜を飛び回るんだっ!

 魔力をキラキラ光らせながら……)


 テンションが上がった勅使河原(てしがわら)さん。

 本当に見たいんだな。

 でもその光景は確かに凄そうだ。

 僕も見たい。


「じゃ……

 じゃあわかりました……

 あくまでもリザーブ(控え)って事なら……

 あとガレアに……

 あ、僕の竜はガレアって言うんですけど。

 ガレアが断ったら無しで良いのなら……」


(うんっ!

 それでいいっ!

 ありがとうっ!

 竜司君っ!

 よぉ~し、これで八人……

 あと二人は欲しいな……)


 おい、何故もうガレアを頭数に入れている。

 リザーブ(控え)って言ってるじゃないか。


 こうして僕と勅使河原(てしがわら)さんは部屋に戻る。


 そして打合せは進み、気が付いたらもう夜の八時半。

 途中サガワさんと数名はオーディションの為抜けて行ったり、暮葉が軽く歌いながら、竜のダンスのポジション確認をしたりと色々あった。


 驚いたのは竜の動きのキレ。

 素早く機敏に動くのだ。

 竜の巨体に似つかわしくない。


【あー違う違う。

 この時は私がクルッと回るから……】


【フムフム……

 それじゃあこんな感じか?】


【アハッそうそう。

 そんな感じそんな感じ】


 暮葉が要望や間違いを指摘する。

 それをフンフンと聞いている竜。

 やっぱり竜って言うのは基本素直なんだな。


 ふと僕は疑問に思ったので聞いてみる。


「ねえ、皆さん全く乱れない綺麗な踊りですけど何でですか?」


 動きのキレや機敏さもそうなんだけど、何に一番驚いたかってそのユニゾン具合なんだ。

 オーディションの為に出て行った竜も含め、総勢十五人の竜。


 それが一糸乱れぬ動きでダンスを披露。

 群舞の魅力は数による意思の拡大・拡散と言うのを聞いた事がある。

一体一体が大きい竜が伝える曲の楽しさやドキドキの空気は相当なものだろう。


【ん?

 そりゃいっぱい踊ったもんよう。

 これって人間の言葉でレンシューって言うんだろ?

 あと俺達()にはテレパシーがあるからな】


 練習ってこの十五人全員集まってやってたのかな?

 何か公園の広い所で一生懸命あーでもないこーでもないと言いながら踊ってる竜を想像すると何か微笑ましい。


「よく十五人も時間の都合が合いましたね。

 お仕事とかは大丈夫だったんですか?」


【ん?

 何言ってんだお前。

 竜の俺達に仕事なんかある訳ねぇだろ。

 コバヤシは働いてたみたいだけど俺達はずっとレンシューしてたよ】


 この竜が言ってるコバヤシって言うのは(マスター)である竜河岸の事だろう。

 確かに今まで考えてみると仕事的な事をしてた竜はみんなマスターに従って手伝ってるって感じだったな。


 凛子さんのグースとか母さんのダイナ。

 父さんのバキラとか名古屋で会った消防士の竜とかもそうだよな。

 確かエラプって言ったっけ。

 あと陸竜大隊の竜なんかもみんなそうなんだろうな。


 “仕事”っていうものを心酔し、誇りを持ってやってる竜っているのかな?


【あー……

 ここは私がララーーーって感じで歌うからこんな感じで歌うからそれに合わせてみんなでこんな感じで動いたら……

 スッゴク素敵じゃないっっ!?】


【おっっ!!?

 さすがアイドルだなっっ!?

 …………で結局アイドルって何だ?】


 暮葉が何か振り付けの要望を出している。

 そうだ、暮葉がいた。

 そう言えば暮葉も竜だ。


 暮葉は多分自分のやってる事に誇りを持ってるだろう。

 ただ“誇り”って気持ちを理解してるかは謎だけど。


 こうして打合せは進み、終了したのは夜の十時前。

 凡そ九時間近く打合せをしていた事になる。


「それじゃあ竜司、踊七さん。

 お疲れ様でした」


「二人ともお疲れ様」


「踊七さんっ!

 お疲れ様っ」


 (おと)さん、マス枝さん、暮葉と挨拶。


「お疲れ様です。

 皆さん」


 そして僕の方を見る暮葉。

 急にモジモジし出した。


「えっと…………

 そのっ……

 あのっ……

 竜司っ………………

 また明日ねっっ!」


 え?

 何だこの子。

 すんごい可愛いんですけど。


 まだ“また明日”という台詞を言うのが恥ずかしいらしい。

 恥ずかしさを頑張って言ってる感じが凄く可愛い。

 死ぬほど可愛い。


 僕の感覚じゃあ“また明日”って言う何気ない言葉でも竜の暮葉からしたら恥ずかしいんだろうな。

 不思議だ。


「うん、また明日ね」


 こうして僕らは別れた。


「それじゃあ俺らはもう直接西宮に戻るわ」


「あ、はい。

 わかりました。

 ガク君達や眠夢(ねむ)さんによろしく」


「おう。

 ほんじゃあ帰るかナナオ」


【ウム……】


 ナナオの亜空間に消えて行った二人。

 つくづく便利だよな亜空間て。


 そう言えば、横浜で地震があってから西宮には行ってないな。

 ガク達や眠夢(ねむ)さんは元気だろうか。


「さぁ、ガレア。

 僕らも戻ろうか。

 亜空間出して」


【ホイヨ】


 こうして僕らは南区の避難所に戻って来る。

 この辺りまで来るといちいち言わなくても何処に戻るか解ってる様だ。

 って言うか僕は何時まで避難所に居ても良いのだろうか。


 横浜市南区 避難所


 戻って来ると(げん)と蓮が自分の竜を連れて帰る所だった。


「二人ともお疲れ様」


「あ、竜司。

 お疲れ様」


「おっ竜司やん。

 お疲れさん。

 踊さんはどないしたんや?」


「先輩は直接西宮に帰ったよ」


「ほうか。

 んで今日はどやったんや?」


「どやったって?」


「敵の情報や」


「あぁ、進展があったと言うか無かったと言うか……」


「何やそれ」


「そう言った部分も明日話すよ」


「ほうか。

 解った」


【ファァァァ…………

 (げん)……

 眠い……】


 久々にベノムの声を聞いたな。


「悪いな竜司。

 ベノムがオネムやからもう帰るわ。

 ほんじゃあな」


「竜司、また明日ね」


「うん、また明日」


 こうして蓮と(げん)は帰って行った。


 スンスン


 すると何かガレアが鼻を鳴らしている。


「ガレア、どうしたの?」


【何かヘンな匂いがするな…………

 と……

 思って……

 な……

 クンクン……

 どこだ……?

 この匂いどこだ……?】


 ガレアがフンフン長い首を振りながら鼻を鳴らす。

 そして僕の身体に近づいた時に止まる。


【あ、ここだ。

 竜司、お前から何かそっぺぇ匂いがするぞ】


 そっぺぇって何だ?

 よくわからん。

 でも匂いの発生源が僕!?


「えぇっ!?

 そっ……

 そうかなっ……?

 ……クンクン……」


 特に匂うと言う訳では無い。

 でも何かで見た気がする。

 自分の異臭は本人では気づかないと言う事を。


 多分ガレアが言ってるんだから僕の体臭は凄いんだろう。


 何でだ?

 何故匂う。

 僕の身体。


 考えろ。

 考えろ僕。


 …………あ、そう言えば…………


 思い当たるフシが一つある。


「僕………………

 最後に風呂、入ったんいつだ……?」


 思わず口に出てしまう。


 確か……

 横浜で地震が来て……

 この南区避難所に来てから…………


 一度も入ってない。


 あぁ、これだ。

 絶対これだ。

 てかガレアもホームレスの匂いは素無視するくせに、僕の体臭には引っかかるのか。


 どうしよう。

 近くに銭湯なんかあったかな?


 いや、駄目だ。

 今、横浜は目下復興中だ。

 銭湯があったとしても営業していない可能性もある。


 どうしようどうしよう。

 あっそうだっ。

 亜空間だ。


「ガレアッ!

 亜空間をお願いっ!」


【ん?

 どっか行くのか?

 寝るんじゃねぇのかよ。

 ……スンスン……

 そっぺぇな……】


 そっぺぇそっぺぇうるさいなぁ。


「このそっぱい臭いを消す為に風呂に行くんだよっっ!」


【んでどこ行くんだよ】


「三…………」


 三重と言いかけるがここで止まる。

 何故ならガレアに地名なんか解る訳が無いからだ。


【何処なんだよ】


 ガレアからの催促。


「えっ……

 えっと……

 ホラッ!

 あったじゃないっ!?

 二人でお風呂に入ってさっっ!?

 風呂上がりの儀式教えてやっただろっっ!?」


【ん?

 どこの事だ?】


「ホラホラーッッ!

 あっただろっ!?

 マッ……

 マクベスが居た所の近くでッッ!

 こんな感じでコーヒー牛乳持ってさっ!」


 僕は必死で身振り手振り込みで説明。


【あぁ!

 あっこかっっ!?

 ングングプハーのとこかっっ!?】


「そうそうっっ!

 ングングプハーのトコだよっっ!」


 多分風呂上がりで飲むコーヒー牛乳の儀式をングングプハーと表現するのはガレア独特の言い回しだろう。


【ホラヨ】


 ガレアが亜空間を出す。

 中に飛び込み、すぐに出口。


 四滝温泉 満殿の湯


 そこには煌びやかに輝くスーパー銭湯。

 何だか懐かしい。


 一瞬で三重に来た。

 さすが亜空間だなあ。


 しかも夜の十一時と言うのにまだ営業している。

 さぁさっそく風呂に入ろう。


 一時間後


 僕はガレアと一緒に風呂に浸かり、サッパリとして出て来た。

 もちろんコーヒー牛乳の儀式は行って。

 ガレアも気持ち良さそうだった。


【お?

 竜司。

 もうそっぺぇ匂いしないぞ】


 僕の身体に顔を近づけたガレアはそんな事を言っている。

 風呂に入ったのだからそりゃそうだ。


「そりゃ風呂に入ったからね。

 さあ帰って寝よう」


【帰るって場所はあっこでいいのか?】


「うん、お願い」


【ホイヨ】


 ガレアの亜空間を潜り、南区の避難所に舞い戻って来た。

 先程は遠くに数人ぐらい居たがもうしんと静まり返っている。


「ガレア……

 もうみんな寝てるからそおっとね……」


【おう】


 そのまま静かに体育館に入り、自分のスペースで寝てしまった。


 次の日


 僕は目を覚ます。

 何か物凄くスッキリしてる。

 こんないい目覚めは久しぶりだ。

 着替え終わるとガレアを起こす。


【竜司うす…………

 ってお前竜司か?】


 あれ?

 ガレア寝ぼけてるのかな?


「何言ってるの。

 僕に決まってるだろ」


【何でだろ?

 何か昨日とは違う顔してる気がするんだよな】


 どう言う事だろ?

 これはお風呂の効果かな?

 そう言えば昨日の眠りは物凄く深かった様な。

 夢を見る余地も無いぐらい。


 それだけ僕の身体が疲れてたのかな?

 ガレアがそっぱいそっぱいって言うぐらいだし。

 結局そっぱいってどんな匂いだろ?


 僕はガレアを連れて校庭へ。

 既にルンルは電力供給を始めていた。


「あ、竜司。

 おはよう」


 炊き出しを作っていた蓮が笑顔で挨拶。


「おはよう蓮」


 僕はまた炊き出し作りを手伝う事に。

 やっぱりジャガイモの皮むきは快感だなあ。


「あ、蓮?

 お酢ってある?」


「ん?

 あるけどどうしたの?」


「いや、ガレア語を翻訳しようと思って」


「???

 翻訳?

 それで何でお酢?」


 蓮がキョトン顔をしている。

 僕はガレアが昨夜しきりに言っていたそっぱいの意味を確定させようと考えていた。

 まあ多分予想通りだと思うけど。


「いいからいいから」


「よ……

 よくわからないけど……

 はい」


 蓮は下から大きな瓶を取り出し、机に置く。

 中には透明な液体。

 適当な小さい器に注ぐ。

 少量なのに鼻腔を突き刺す刺激臭がさっそく香って来る。


「ありがとう。

 これぐらいで良いよ」


「何しようとしてるか全くわからないわ」


「まあまあ。

 えっと…………

 ガレアーーーッッ!」


 ルンルと話しているガレアを手招きと大声で呼びつける。


 ドスドス


 ガレアがやってきた。


【何だよ竜司】


「これ飲んでみて」


 僕は少量のお酢が入った器をガレアに渡す。


【ん?

 何だこれ?

 ………………グビッ………………

 そっぺぇっっ!

 そっぺぇっっ!

 何だこりゃっ!?】


 ガレアが目を瞑って広い唇を波立たせている。

 これで確定。

 ガレアの言うそっぱいって言うのは酸っぱいって意味だな。


 それにしても竜でも酸っぱいものを口にすると人間に似たリアクションをするんだな。


「はい。

 もういいよガレア」


【ムカーーッッ!

 竜司ッッ!

 何なんだよお前はっっ!

 急にそっぱいもん飲ませてッッ!】


「コラッ!

 ガレアッッ!

 埃が立つから暴れちゃダメでしょっっ!」


 ガレアの怒号の後、蓮の怒号も響く。


【だって蓮、こいつがよう】


 何か泣き言みたいなのを蓮に言っている。

 こんなガレアはあまり見ないな。

 けどガレアが怒るのももっともか。

 しょうがない。


「蓮?

 先にガレアへ朝ごはんあげてもいいかな?」


「ん?

 いいけど。

 ハイ」


 蓮は物凄く大きな紙皿を僕に渡す。

 蓮がやってた通り奥のポリバケツから柄杓(ひしゃく)で野菜クズを大量に持って行く。

 瞬く間に山盛りの野菜クズが出来上がる。


「まあまあガレア。

 これ食べて良いからさ?

 機嫌直してよ…………

 っとっ」


 ドスン


 ガレアの前に山盛りの野菜クズを置く。


【あっ!?

 これ食って良いのかっっ!?

 しょうがねぇなあ。

 許してやるぜ】


 こう言う単純な所もガレアの良い所だと思う。


「食べても良いけど、隅で食いなよ。

 作業してる人達の邪魔になるから」


【おうっ!】


 嬉しそうに野菜クズを持ってドスドス離れていく。


「フフッ。

 ガレアってば相変わらずなのね」


「ガレアだからね」


 こうして炊き出し作り再開。


「あ、そうそう。

 蓮?

 今日ね、(はるか)さんがこっちに来るよ」


「あれ?

 そうなの?

 何で?

 観光?」


「違うよ。

 暮葉のライブの前座なんだって」


「へえ。

 暮葉のライブって名古屋ではしないの?」


「名古屋でもするんだけどね。

 多分、遥さんは全てのライブで前座を務めるんじゃないかな?」


「一緒に回るんだ。

 大変ねえ」


「そうだね。

 それで今日は蓮が警護するだろ?

 だから一緒に迎えに行こうかなって」


「うん、いいわよ」


 やがて他のおばさん達も作業に参加し、炊き出しは出来上がる。

 蓮の号令でみんな並び始める。

 どんどん配って行く。


 列の中に踊七さんや(げん)も並んでいた。

 やがて配膳完了。


「ふう。

 竜司、手伝ってくれてありがと」


「うん。

 じゃあ僕らも朝ごはんにしようか」


「うん」


 取り置いていた炊き出しを持って踊七さん達の元へ。


「おう、竜司。

 おはよう」


「おはようさん」


「先輩、(げん)

 おはよう」


 僕らはいつものように朝食開始。

 やがて完了する。


「ごちそうさま」


「あー食った食った」


「ふう、お腹いっぱい。

 蓮、ありがとうね」


 僕らは食事を終えて、昨日の得た情報の共有に移る。

 先日あった飲食店員行方不明事件は刑戮連(けいりくれん)の犯行だった事。

 追い詰めて取り逃がした事。

 追っていた人は特殊交通警ら隊でも凄いスキルの持ち主だった事。


 多分渇木(かつき)を連れ去ったのは中田では無いだろうかと言う事。

 受憎(じゅにく)の腕は持ち帰って鑑識に回していると言う事。

 それらの点について話した。


「マジか……

 取り逃がしたんかい。

 んでも話聞いとるとそのゴリさんっちゅうやつのスキルはヤバいと思うんやけどのう」


「うん、僕もそう思う。

 ね?

 (げん)

 これでわかったでしょ?

 刑戮連(けいりくれん)の連中は本当にヤバいって……

 あんなの一人じゃ絶対敵いっこない……」


「そうだぞ(げん)

 刑戮連(けいりくれん)の連中は殺人を平気で犯す連中だ。

 そんな奴等が都内に潜伏しているんだ。

 とっとと捕まえとくに越したことはねぇだろ?

 力試しがしたいなら捕まえた後、他でゆっくりやればいい」


「わかっとりますがな踊さん。

 ワイも殺人を平気でするやつ初めてちゃうし。

 それがどんだけヤバいかはよう知ってますわ」


 一体何処でそんな奴と闘り合ったんだろう。


(げん)……

 そんな人と一体何処で知り合ったの……?」


「知り合いとちゃうわ。

 ケンカ相手や。

 族のアタマ張っとる奴でな。

 まあヤバいやつやった。

 仲間でも平気で刺しよるしの」


 ブルッ


 身震いをする僕。

 大阪ってそんな土地なのだろうか。

 だとしたら怖すぎる。


「そ……

 それでその人はどうなったの?」


「ん?

 ワイが震拳(ウェイブ)を四発ほど叩き込んで、アバラほとんど叩き折ったって、今は()()()()かムショとちゃうか?」


「ふ……

 普通の病院じゃ無いんだね……」


「ソイツもそやけど、その族も腐っとってのう。

 強盗やら恐喝やら何でもやるヤツラでな。

 警察も追っとったらしいわ。

 んで最近少年法が改正されたから無期刑喰らっとんちゃうか?」


 (げん)のこう言う物騒な昔話を聞くのは初めてだが本当に怖い。


「お…………

 お礼参りとか無かったの……?」


 僕は不良漫画でよくあるシチュエーションとして挙げてみる。

 が、僕はどうやら(げん)を甘く見ていた様だ。


「あ?

 竜司、ワイやぞ?

 そんな手ぬるいマネするかい。

 族のメンバーは一人残らず右から地獄見せたったわい。

 あんだけボコられてお礼参りなんか考える奴おったら見てみたいわ」


「そ……

 そう……」


 僕は(げん)の凄さにただただ言葉も出ない。

 これが関西一の不良になると言う事か。


「もう(げん)ったら。

 ワンパクなのもいい加減にしときなさいよ」


 いやいや蓮よ。

 これはワンパクなんて可愛いものじゃないだろ。


「これに関してはワイ悪ないやろ?

 ソイツら、マジでシャレならん奴等やったんやで?

 むしろようやったと言われてもええぐらいや」


「それにしたってねぇ……」


「へぇ、(げん)

 お前も似た様な事やってたんだな」


 と、ここで踊七さん。


「踊さんもでっか?

 イワした連中はどないな奴等だったんですか?」


「まあお前みたいに自分からケンカ吹っ掛けるとかじゃないんだけどな。

 いわゆるアレだ。

 降りかかる火の粉を払うって奴だ。

 東京行ったりした時にチーマーとかとちょっとな。

 全くああ言う奴等は何か知らんが勝手に突っかかって来やがる。

 笑い事っちゃねぇ」


「ホンマですよねぇ。

 ワイらはただの善良な一般市民や言うのに……」


 いやいや。

 善良な一般市民は族を一チーム壊滅させたりしませんから。


 こうして朝食を終え、僕らは出発の準備をする。


「それでは行ってきます。

 ルンルが居ない間は蓄電池でお願いします」


(わかったよ。

 気を付けて行っておいで)


「はい、ありがとうございます。

 ホラ、ルンル。

 行くわよ」


【はぁいん。

 出来れば渋谷じゃなくってぇ……

 歌舞伎町に行きたかったわん】


 確か歌舞伎町ってオカマがいっぱいいる所があったんだっけ。


 僕らは渋谷の事務所を目指し、出発した。


 渋谷区 UNION事務所


 事務所に行くとみんな既に出勤していた。


「おはよう」


 と、マス枝さん。


「おはよう竜司、蓮さん」


 と、(おと)さん。


「おはよっ!

 竜司っ!

 蓮っ!」


 と、朝から元気な暮葉。


(ちょりーっす)


 と、相変わらずのタエさん。


「おはようございます。

 皆さん」


 挨拶を済ませた僕ら。


「竜司…………

 ちょっと…………」


 マス枝さんが僕を呼びつける。


「は……

 はい……」


 何となく目が鋭い気がする。

 言われるまま僕とマス枝さんは外へ。

 昨日、(おと)さんと話し合った辺りまで。


 向かい合う僕とマス枝さん。

 しばらく無言。

 何か圧が凄い。

 無言の圧力が怖い。


 どうしよう。

 どうしたらいいんだろう。


「あ…………

 あの…………

 何か……?」


 堪らず僕から口火を切る。


 ギンッッ!


 鋭い。

 物凄く鋭い目で僕を威圧するマス枝さん。


「何か…………

 だと?

 テメー……

 昨日何やったか…………

 覚えてねーのか……?」


 あ、下品な口調だ。

 こりゃマス枝さんキレてるな。

 でも何に怒ってるんだろう。

 思い当たるフシが見当たらない。


「な…………

 何か……

 僕しましたっけ……?」


「………………あれ程……

 外で彼氏面すんなっつっただろ……」


「あ………………」


 あ、その事か。

 昨日帰りに何も言われなかったからすっかり忘れていた。


「あ…………

 じゃねぇだろぉっ!

 テメェッ!

 私の描いた暮葉のサクセスストーリーィッ!

 滅茶苦茶にする気かぁっ!」


 うわ、凄く怒っている。

 これはもう何を言っても聴かないな。

 ここはもう徹頭徹尾謝ろう。


 バッ!


 僕は深く頭を下げる。


「すいませんでした。

 僕も暮葉の仕事を邪魔するつもりはありません」


「ガミガミガミガミィィィッッ!」


 沸点に達したマス枝さんの怒号が響く。

 もう何を言ってるのかもよくわからない。

 とりあえずヒシヒシ伝わって来るのは怒りの感情。


「すいませんでした」


 僕は姿勢を変えず、謝り続けた。


「ガミガミガミガミ……

 くぁwせdrftgyふじこlpォォォォッッ!」


 いつになったら終わるのだろうか。

 そろそろ腰も疼いて来た。


「…………って事よぉっ!

 わかったァッ!!?」


「はい、すいませんでした」


「次やったら東京湾に沈めるからなぁっ!」


 ようやく終わった。


 これって脅迫だろうか?

 この声からするとマジで東京湾に落としかねない。

 まあ僕もすんなり落とされるつもりはないけど。

 本当に暮葉に夢を賭けてるんだなあ。


 ようやく部屋に戻って来れた僕。

 入って来るなりみんな絶句して僕を見つめている。


「あ……

 あの……?」


「竜司…………

 大丈夫?」


 まず僕を労わってくれたのは蓮。


「あ……

 あぁ大丈夫だよ」


「あの人…………

 怒ると物凄く言葉が汚くなるのね……」


 と、(おと)さん。

 いやいや、貴方も相当ですから。


【あのオンナ、スッゴイ怒ってわねん。

 あーゆーのテレビで見たわん。

 そん時はオンナが男を刺してたわねん】


 サラッと怖い事を言うルンル。


「竜司……

 大丈夫……?」


 最後は暮葉。

 物凄く神妙そうな面持ちで聞いて来た。


「ありがとう暮葉。

 僕は大丈夫だよ」


「あんなに怒ってるマス枝さん……

 見た事無い……」


「それだけ暮葉に期待してるって事だよ。

 だから頑張ってみんなが憧れるトップアイドルになってね」


「うんっっ!

 私、頑張るっっ!」


 フンスと気合を入れる暮葉。


 でも正直このドームツアーが成功したら更に暮葉は有名になるだろうな。

 それぐらいの凄さがこのライブにはある。

 そう思う。


 あ、そうだ。

 (はるか)の事を言っておかないと。


「あ、そうそうマス枝さん」


「竜司、何かしら?」


「前座の夢野遥(ゆめのはるか)さんが本日来るじゃないですか?

 僕と蓮の知り合いなんですけど迎えに行っても良いかなって思いまして」


「あら?

 そうなの?

 …………そうね……

 ライブの説明とかもあるし……

 (おと)さん」


「はい」


「警護は少しの間一人でも大丈夫かしら?」


「昨日今日と集めた情報では多分私一人でも問題無いかと思いますが……」


「だそうよ。

 いってらっしゃい」


「はい、ありがとうございます」


「竜司、持ち場を離れるのなら携帯はいつでも出れる様にしておきなさいよ」


「わかりました」


「じゃあ今日も行くわよ」


 今日はダンスレッスンと歌だけだそうな。

 両方ともおさらい。

 何でも本番まで感じを忘れない為だそうだ。


 Studio mission


(ガレアきゅんっ!

 おはよーっ!

 はいっ!

 ば・か・う・けっ!)


【おーっっ!

 ばかうけーっ!

 今日もいっぱいくれんだなーっ!

 ちょうど食い終わったとこなんだよーっ!】


 嬉々としてばかうけを受け取り、ヒョイヒョイ亜空間に格納していくガレア。

 て言うか今まで貰った大量のばかうけ、もう食ってしまったのか。


「あの人……

 ばかうけさんって言うの?

 変わった名前ね」


「違うよ蓮。

 あの人は波留夏美(はるなつみ)さん。

 ガレアが勝手にばかうけって呼んでるだけ」


「あ……

 そう……」


 蓮が呆れている。

 そりゃそうだ。


 こうしてダンスのおさらいが始まる。


(そうっ!

 その感じっ!)


 波留(はる)さんも付き合って踊ってくれている。

 汗を飛び散らせて真剣に踊る暮葉。


「こうして見ると……

 本当にアイドルなんだなあ……」


 ぽつりと呟く蓮。


「少しは見直した?」


「うん……

 だって暮葉って普段は良く言ったら天真爛漫。

 悪く言ったらただのアホの子だったじゃない?

 だから悪いんだけどアイドル活動って言っても可愛さだけでやってるお気楽なものだと思ってたわ……

 でもあの顔見てると本当に真剣に取り組んでるんだなって……」


 真っすぐ見つめる先には真剣にステップを踏む暮葉の背中。

 それにしてもアホの子て。

 解らなくも無いけど。


(はいっ!

 ラストォッ!)


 ダダンッッ!


 力強く床を踏み、ポーズを決める暮葉と波留(はる)さん。


「ハァッ……

 ハァッ……」


(ハァッ……

 ハァッ……)


 肩で息をする二人。

 真剣に踊ったからだ。


(よしっ!

 暮葉っ!

 完璧っ!)


「よし……

 最高の仕上がりだわ」


 ダンスの出来にマス枝さんもご満悦だ。


 プルルルルル


 ここで携帯が鳴る。


「もしもし」


 マス枝さんの携帯か。


「ええ……

 はい……

 着きましたか……

 それではこちらから迎えに行かせます。

 時間は…………

 今十二時半なので十三時半に丸の内中央改札で待ち合せましょう……

 はい、それでは……」


 プツッ


 電話を切るマス枝さん。


「竜司、蓮さん。

 (はるか)さんが到着したそうよ。

 十三時半に東京駅の丸の内中央改札へ向かって。

 合流したら電話を頂戴。

 貴方達はそのまま事務所に帰って来て」


「わかりました。

 それじゃあ蓮、行こうか」


「うん」


【あらん?

 蓮、何処かに行くのぉん?】


(はるか)さんを迎えに行くのよ」


(はるか)ってあのパンチの効いたオシャレかましてた子よねん。

 あの子、こっち来んのぉん?】


「パンチってアンタねえ……

 そうよ、だから竜司と迎えに行くのよ。

 ホラ、アンタも来るのよルンル」


【はぁいん】


 迎えに行く人数は僕と蓮、ルンルの三人。

 ガレアはいつもの様にお留守番。

 これは(おと)さんからの提案。


 やはり刑戮連(けいりくれん)の様なバケモノと一度対峙していると不測の事態に備えておきたいものらしい。

 竜を半分以上離れられると一抹の不安がある様だ。

 そして暮葉との面識を考えるとルンルが行って、ガレアが残る事になる。


「じゃあ、行ってきます。

 ガレア、(おと)さんの言う事聞きなよ」


【ん?

 コイツの言う事聞くのか?

 いいよ別に】


 そう言って(おと)さんを指差すガレア。

 (おと)さんは特に何も言わない。

 まるで竜とはこう言うものと言わんばかり。


 十三時二十五分


「ここで良かったよね……」


「丸の内中央改札が待ち合わせ場所ならここで良いと思うけど」


 中央改札と言う割には物凄くちっさくてこじんまりとしている。

 名前負けして無いかここ。

 僕らは言われた通り改札口の手前で待っていた。


【はるはる~~

 小生は東京に来たのですから一度アキバと言う所に行ってみたいですぞ】


 あ、脳に響く聞き覚えのある竜の声。

 声のした方を向くと目に飛び込んで来た金髪ツインテールとフリッフリの衣装。


 間違いない。


 夢野遥(ゆめのはるか)だ。


 ###


「はい、今日はここまで」


「ねーねーパパー?

 この(はるか)って名古屋のアイドルおばさん?」


「そうだよ(たつ)

 よく覚えていたね…………

 ってアイドルおばさんって……

 合ってるけども」


「何で来たの?」


 取りようによっては物凄く冷たい一言にも聞こえる。

 だがおそらく(たつ)は純粋に疑問なんだろう。


(はるか)も武道館でライブをするって言う夢があったからね。

 その夢への足掛かりになればって思ってたんだよ」


「ふうん」


 何だか納得したような納得して無い様な。


「じゃあ、今日も遅い……

 おやすみなさい」

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