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ドラゴンフライ  作者: マサラ
最終章 第二幕 東京 暮葉ドームライブ編
159/284

第百五十八話 暗黒沈静

 2045年 某月 某屋敷寝室にて


「やあ、こんばんは(たつ)


「あ、パパ。

 うす」


「さぁ今日も始めて……

 って(たつ)?」


「なぁにぃ~~?

 パパァ~~……?

 キシシ」


 先日の話をまだ引き摺ってる様だ。


「今日は避難所に帰って来た所からだね」


 もう無視して話を始める事にした。


 ###


 横浜市 南区 避難所


 ガヤガヤ


 辺りは騒がしく人が動いていた。


 大量の洗濯物を運ぶ人。

 段ボールを抱えて運ぶ人。

 遊んでいる子供。

 みんな様々だ。


 ここで不思議に思った事がある。

 僕が前に見た避難所の映像と言うのはみんな頑張って生活してはいるものの顔は何処か悲壮感が漂っていたり、沈んだ表情だったりしていた。


 が、この南区の人達は比較的、活気がある気がする。


「はーいっ!

 炊き出し配りまーすっ!」


 ここで蓮の大声。

 そうか。

 時間的に夕食か。

 僕はパッタイを食べた時間が遅かったからそんなにお腹は空いていない。

 蓮は一生懸命配膳して僕に気付いていない。

 そんな蓮を見て…………


「蓮、ただいま。

 僕も配るの手伝うよ」


「あっ!?

 竜司っっ!?

 どうしたのっ!?

 今日は早いじゃないっ!

 ハイッ!

 どうぞっ!

 ハイッハイッ!」


 僕と話しながらもどんどん配って行く。

 大変そうだ。

 僕は長机を潜り、中へ。

 もう見ていられない。


「はーいっ!

 こちらでも炊き出し配りまーすっ!

 並んで下さーいっっ!」


 今日はおかず一品とおにぎり二つ。

 それと汁物か。


(おっっ!?

 ボーヤッッ!

 手伝ってくれるのかいっっ!?

 ありがとねっ!)


 前に会った威勢の良いおばさんが手早くどんどん炊き出しセットを作っていく。

 こりゃ大変だ。


「ハイッ!

 ハイッ!

 どうぞっ!

 熱いので気をつけて下さいっ!」


 僕も負けずにどんどん配って行く。


 やがて終了。


「竜司、ありがと。

 でもどうしたの?

 今日は早いわね」


「うん、今日は警護の仕事は無かったんだ。

 だから午前中は昨日逮捕したテロリストの取り調べと午後は暮葉と会ってた」


「そう」


 と、ただ一言だけ。


 あれ?

 もっと暮葉と会ってるとか言ったら動揺するかな?

 とか思っていたのに。


 どうしたんだろう。

 もう僕の事、どうでも良くなったのかな?

 ガチャガチャと食器などを片付け始める蓮。

 そんな蓮を無言で見つめてしまった。


「ん?

 竜司、どしたの?

 ……これそっちの棚にお願い」


 ボウルを僕に渡しながら尋ねて来る。


「あっあぁ……

 いやね……

 何か……

 反応が……

 淡白だなって……」


 ボウルと棚に直しながら、視線の理由を説明。


「ん?

 淡白ってどう言う事…………?

 もう、相変わらずここの奥、置きにくいわね……」


 屈みながら、調理用具を直している蓮。

 苦戦している様だ。


「いや…………

 僕が……

 暮葉と会ってるって言ったらちょっと動揺するのかなって思ってたから…………」


 ファサッ


 棚に調理器具を置き終えた蓮は、上から布巾を被せた。

 多分埃防止用だろう。

 すっくと立ち上がりほのかに笑いながら、こっちを見る。


「プッ……

 なぁに、そんな事気にしてたの?

 別にそんな事で動揺したりしないわよ。

 お互い様だし」


「お互い様?」


「うん。

 だって私は今、竜司と会ってる訳でしょ?」


 なるほど


「あ、そう言う事……?」


「うん、そう言う事。

 ホラホラ竜司っ。

 竜河岸の人達はまだ帰って来て無いんだから、もうちょっと手伝ってよね」


 そう言いながら紙皿の束を渡してくる蓮。

 テーブルに並べろと言う事か。


「うん」


 了承した僕は紙皿を並べて行く。

 そういえばおにぎりもおかずもまだ残っている。

 竜河岸の人達はまだ作業中か。

 紙皿を並べ終えた僕はおにぎりとおかずを載せていく。


「ありがとう竜司、どんどん載せてってね。

 そろそろ帰って来るわ……」


 そういって夜の闇を見つめる漣。

 やがて変化がある。


 ギュオッッ!


 次々と無数の薄黒い渦が空中に現れ出す。

 これは竜が出す亜空間だ。

 次々と現れる黒い渦の数は十以上。

 その様子は圧巻だ。


「あ~……

 今日もことうた(疲れた)ちや……」


 まず出てきたのは真緒里(まおり)さんと一人の竜。

 鱗が赤みを帯びた紫色。

 杜若色(かきつばたいろ)とでも言うのか。


「あ~しんど……」


「フフッ

 何だ(げん)

 笑い事っちゃねぇぐらい情けねぇじゃねぇか」


「踊さん……

 そないな事言うてもですね……」


 続いて亜空間から(げん)と踊七さん。

 ベノムとナナオが出て来る。

 そこから次々と亜空間から現れる竜河岸と竜。


 壮観な図。

 竜河岸救助隊の帰還だ。


「おっ!

 竜司くんじゃーんっ!

 お疲れっ!」


 真緒里さんが少し屈みながら、おどけて敬礼。

 さっき話してた言葉は何だろう。


「お疲れ様です。

 はい、これ炊き出しです」


「おいしそーっ!

 ありがとねっ!

 行こっ!

 しゃもじっ!」


【ちょいとおまいさん。

 アタシのゴハンはどこさね?】


「あぁっっ!?

 いけないいけないっ

 ちょっと待っててねーっ」


 ぱたぱたと走って、自分の夕飯を置いた真緒里さんがまた戻って来た。


「竜司くんっ!

 竜のゴハン貰える?」


 竜のゴハンって前の野菜クズみたいな奴かな?


「あっちょっと待ってて下さい。

 蓮ーっ!

 竜のゴハンって何処ーっ?」


「あぁこっちよ」


 そういって青いポリバケツを開けた蓮。

 中身は大量の野菜クズやら肉片やらを炒めたもの。

 色合いからして濃い味付けなんだろう。


 …………それにしてもポリバケツて。

 更に驚くべきものでそれらを(すく)い始めた蓮。


 手にしている物…………


 それは柄杓(ひしゃく)

 しかも神社である様な木のやつじゃなく、墓の水やりとかに使う様な鉄製のガチのやつ。

 大きな紙皿にテンポ良くどんどん積み上げられていく野菜クズ。


 ポリバケツと鉄製柄杓(ひしゃく)

 まるで刑務所の配膳の様だ。

 確かに竜は大食いが常ではあるが、蓮の中で竜はどう言う位置なんだろう。

 見ると同じ様なポリバケツがいくつも並んでいた。

 もしかして全て竜用のご飯か。


「これぐらいかな……

 はい、出来たよ」


 あっという間に積み上げられた山の様な野菜クズ。


「う……

 うん…………

 うわ……

 重……」


 ズシリと手に重さが伝わる。

 一体何キロあるんだコレ。


「ま……

 真緒里……

 さんっ!

 お待たせしました……

 これです……」


【おやまぁ美味しそうじゃないかい】


 いつのまにか隣に来ていた杜若色(かきつばたいろ)の竜。


「私、こんなの持ってけないからしゃもじ持ってよ」


「あの……

 真緒里さん……

 さっきから……

 しゃもじってもしかして……」


「ん?

 しゃもじ?

 私の竜の事だよ」


「…………その竜の本名何て言うんですか……?」


「ん?

 しゃもじーっ

 アンタの本名って何て言うの?」


【アタシもうしゃもじに慣れちまったからネェ……

 忘れちまったヨ……】


「だって」


 いや、だってじゃ無しに。

 じゃあ何でしゃもじなんだ。


「じゃあ何でしゃもじなんですか?」


「この子の影が逆さにしたしゃもじみたいだったからだよっ!」


 な……

 なるほど。

 いや……

 なるほどなのか……?


【アタシも”しゃもじ”って言葉の響きが何だか気に入っちまってネェ】


 しゃもじは何だか時代劇に出て来る母親みたいな話し方だ。


「じゃーっ

 早く晩御飯食べよっ

 しゃもじっ!」


【ハイヨ】


 そう言って野菜クズを運んで行った真緒里さんとしゃもじ。


「蓮ーっ

 メシくれーっ!

 もう腹減って死にそうやわ」


 (げん)が蓮の所に炊き出しを取りに来た。


「フフ……

 (げん)、お疲れ様」


「ん?

 竜司じゃねぇか。

 今日は早いな」


 僕の所には踊七さんだ。


「あ、先輩。

 お疲れ様です。

 今日は警護の仕事は無くてオフだったんです」


「そうか。

 なら逆にこんな時間まで何してたんだ?」


「昨日捕らえたテロリストの取り調べと暮葉に会ってました」


「ほう……

 じゃあ後で話を聞かせてくれるか?」


「わかりました」


 こうして他の竜河岸に炊き出しを配り終える。


「はい、竜司の分よ。

 お疲れ様」


 そう言って残しておいてくれた炊き出しを笑顔で僕に渡す蓮。


「ありがとう、蓮」


 パッタイのせいであまりお腹は空いてなかったが純粋に僕の分を置いておいてくれた蓮の気持ちが嬉しかったから受け取る僕。


(おやぁ~~?

 こうして見るとアンタ達夫婦みたいだねっ!)


「おっ……!

 おばさんっ!

 やめてくださいよっっ!」


 先程は平然としていた蓮だったが、これは恥かしいらしく頬が真っ赤だ。

 いつもの蓮が見れた気がして何か落ち着く。


(ハハッ

 何だい照れなくても良いのに。

 この子ったら可愛いんだから)


「もうそんなんじゃないって言ってるじゃないですかっっ!

 ねっ!?

 竜司…………

 あれ……?

 竜司?」


 僕の顔を見て驚いている蓮。

 今度は逆に僕が平然としていたらしく、その顔を見て驚いていた。


「ん?

 蓮、どうしたの?」


「…………竜司……

 何でそんな普通の顔なの……?」


「あれ?

 そう言えば何でだろ?

 よくわからない」


 解らないとは言いつつも理由は解っていた。

 単純に夫婦と囃し立てられた照れ臭さよりも、今までの蓮を見れた安心の方が強かったのだ。

 そして何だか色々蓮も察したらしく……


「…………何かズルい……

 竜司のくせにっっ!」


 何か急にむくれてツンツンしだした蓮。

 今日はよく“くせに”とつけられるなあ。


「何だよっ!

 くせにってっ!

 蓮が勝手に照れだしただけだろっっ!」


「何ですってぇっ!

 今までだったら竜司も一緒に真っ赤になってたじゃないっっ!

 それが何よっっ!

 竜司だけ大人になったみたいじゃないっっ!」


「それはお互い様だろっっ!

 蓮だってさっき平然としてたじゃないかっっ!」


(ハッハッハ。

 アンタ達ィ~~?

 痴話ゲンカもその辺にしときな。

 十一月だってのに暑苦しくてたまんないよ)


「ハッ!?」


「ハッ!?」


「…………す……

 すいません……」


 二人同時に気付き、二人同時に謝る。


 僕と蓮は炊き出しを持って踊七さんや(げん)が居る所へ移動。


「おっ?

 竜司、おったんかい。

 今日は早いのう」


「僕は今日、警護の仕事は無かったんだよ。

 それを言ったら(げん)達だって。

 比較的復旧作業、切り上げるの早くない?」


「復旧作業はもう流れに乗っとるからな。

 道もあのネーちゃんやらが頑張ってくれとるから、あらかた治っとるしのう」


 そう言って(げん)がしゃくった顎の先には真緒里さんとしゃもじが楽しそうに食事を取っていた。

 それにしても物凄い復旧スピードだ。

 震災が起きてから一週間強ぐらいしか経っていないのに。


「それより、どうだったんだ?

 取り調べは」


「あ、はい。

 それについての話ですが……

 本当に気持ち悪いので食べてから話します」


「ん?

 何や取り調べて。

 竜司、お前パクられた(逮捕された)んか?」


「何言ってんの(げん)

 そんな訳無いじゃん。

 前に捕まえたテロリストから情報を聞き出してたんだよ」


「ほうほう、なら色々と情報お持ち帰りしたって事やな」


「まあね。

 でも本当に気持ち悪い話だからまず食事を先にしようよ」


 僕ら四人は楽しい食事開始。

 やがて終了。


「ご馳走様でした。

 ありがとう、蓮。

 美味しかったよ」


「フフフ。

 お粗末様でした」


「さぁ竜司よ。

 メシも終わった所で取り調べの詳細話せや」


 僕は午前中に聞いた内容を踊七さん達三人に話した。

 全て。

 警察の守秘義務があるって兄さんは言ってたけど、この三人は刑戮連(けいりくれん)と対峙する可能性がある。

 知っておいてもらいたい。


 全てを聞いた後、言葉を失っていた三人。


「オイ……

 マジか……

 そいつら一般人とちゃうんかい……?」


 と(げん)


受憎(じゅにく)……

 動物の死体を使うだと……

 笑い事っちゃねぇ……」


 と踊七さん。


「何で……

 竜司ばかり……

 そんな災難が降りかかって来るのよ……」


 と蓮。


 三者三様の反応。


「うん……

 (げん)……

 あの人達は一般人だ……

 僕が全方位(オールレンジ)で見たから間違いない……

 先輩……

 奴等は殺害を日常に組み込んでいる連中です……

 蓮……

 中田に関しては僕が引き起こした事だよ……

 これは僕が決着をつけないと……」


「マジか……

 シャレにならん連中やのう……」


「その曽根という女……

 多分義足……

 義足と言うのかどうかも解らねぇがな……

 受憎(じゅにく)で生成した左脚を使ってるんだろうな……

 別動物だと癒着が甘くなると言うなら多分人間の死肉か……

 笑い事っちゃねぇ……」


「竜司……

 だからと言って……」


「そう言うてもしゃあないやないか蓮。

 ワイらはワイらで対策練らな」


「とりあえず、警戒すべきはその(くち)と呼ばれる箇所だろうな」


「いやいや、踊さん。

 それよりも厄介なんは痛覚が無い言う点とちゃいまっか?」


「どう言う事だ?

 (げん)


「今の話やと恨気(かいき)っちゅうんは戦ってる最中でも溜まっていくもんでっしゃろ?

 やから最後、動けん様になった(なずみ)にやられた訳やし」


「なるほどな……

 下手にダメージを与えたら相手が強くなるかもって事か……

 となると理想は一撃で意識を寸断させるって事……

 (げん)達にとっては困難かもな……

 俺は魔力注入(インジェクト)貫通型ペネトレーションタイプだから何とかなるかも知れねぇが」


「踊さん、何でんの?

 貫通型ペネトレーションタイプて。

 言葉からして貫通って意味ですけど?」


「何だ。

 (げん)も知らねぇのか。

 魔力注入(インジェクト)ってのはな、ある程度習熟するといくつかの型に特化する事が出来るんだよ。

 竜河岸救助隊の中にも防御型(ガードタイプ)魔力注入(インジェクト)使いが居たぞ」


「うん、(おと)さんの魔力注入(インジェクト)敏捷性(アジリティタイプ)って言ってたよ」


「ぬお……

 マジでか……

 そないな事ひとっことも聞いとらんで……

 あのクソババァ……」


「タハハ……

 あと型分けって自然と分けられるのと任意で決めるのと二種類あるんだって。

 僕は自然に決まって力型(パワータイプ)


「よよっ……

 踊さんっっ!

 任意で決めんのってどないやるんでっかっっ?」


魔力注入(インジェクト)の型分けのコツは“意識”と“慣れ”だ。

 自分がなりたい型を決めたらそうなる様に意識……

 イメージしながら使うんだよ。

 あとは自然と使っていく内に慣れて行く」


「なるほどのう……

 何やかんや言うてやっぱり魔力っちゅう事でんな。

 基本は変わらんみたいや」


「そう言う事だ」


「で、竜司……

 私から一つ良いかしら?」


 ここで無言だった蓮が口を開く。


「なに?」


「私達はいつ協力すれば良いの?」


「う~ん……

 それに関してはまだ何とも……

 ドームライブで何かするってのは解ってるから12月の24日までには何か起こると思うんだけど……」


「そう……」


「一応、暮葉には先輩や蓮達が横浜に来てるって伝えた。

 会いたがってたよフフフ」


「そう……

 相変わらずかな……?

 暮葉は……

 私も会いたいな……」


 そう言って微笑を浮かべる。

 蓮も暮葉を憎からず思っている様だ。


 その日は式対策について話し合い、幕を閉じた。


 次の日


 僕は目覚め、いつもの様に朝ご飯の炊き出しを食べ今日も暮葉の警護に向かう。


「おはようございます」


「竜司、おはよう」


 まずマス枝さんが挨拶。


(ちょりーっす、竜司っちーっ!)


 続いてタエさん。

 もう来ている。


「タエさん、もう来ているなんて珍しいですね」


(ちょっとちょぉっとぉ~~、竜司っちアタシを何だと思ってるのよォ~~。

 アタシは低血圧娘とかじゃないわよぉ~~

 マジ卍~~)


「いや、何となく最近眠そうに来るトコしか見てないので」


(最近はちょっとダンパでパリピだったからだよぉ~~

 普段は真面目なんだからぁ~~)


 この人一体いくつなんだ。


「そ……

 そうですか……

 すいません」


「おふぁよぉ~~

 ファァァア……」


 いつもの通り眠たそうな暮葉が来社。


「おはよう暮葉。

 眠たそうだね」


「昨日読んでた漫画が面白くて…………

 ムニャ……」


 どうやら深夜まで漫画を読んでいたらしい。


「おはようございます」


 ここで(おと)さんが来社。


「おはようございます(おと)さん」


「あら?

 竜司、早いのね」


 あ、(おと)さんに(げん)達の事を言っておかないと。


(おと)さん、警護について一つ提案があるんですけど聞いてくれますか?」


「あら?

 何かしら?」


「今、横浜に僕の友人が復旧作業で来てるんですよ……

 その人達も暮葉の知り合いで……

 それで今の状況を話したら自分達も警護に加わりたいって言ってくれて……」


 それを聞いた(おと)さんは驚いた顔で無言。

 そしてヤレヤレと言わんばかりに首を横に振る。


「フウ……

 竜司……

 貴方、解ってるの?

 暮葉さんの警護につくって事は刑戮連(けいりくれん)の連中とやり合うって事よ?」


 (おと)さんが説教モードだ。

 やはり最初聞けばそうなるよなあ。


「は……

 はい……」


「そんなテロリストからクレハさんを護る為に一般市民に協力を仰ぐなんて出来る訳無いじゃない。

 常識で物を考えなさい」


 (おと)さんがピシャリ。


「確かに……

 普通の一般人ならそうですが……

 三人とも竜河岸です……

 そして三人のうち二人は兄さんのテストを合格して呼炎灼(こえんしゃく)事件に協力してもらって、見事陸竜大隊の二人を逮捕まで導いてます……

 そして残る一人ですが……

 この人は呼炎灼(こえんしゃく)事件には関わってないですが…………

 確実に僕より強くて……

 使役している竜は(ロード)の衆、七尾(ロード・セブンス)……」


 それを聞いた(おと)さんはさらに言葉を失って固まる。

 やがて動き出し、懐からスマホを取り出して電話。


「もしもし……

 隊長ですか……?

 ええ……

 今は芸能事務所です……

 ええ……

 竜司も一緒なんですが妙な事を言い出しまして……」


 (おと)さんがかけてる先は兄さんだ。

 僕から言われた事を伝えている。

 話の言質でも取ろうとしているのか。


「ええ……

 はい……

 それは……

 確かに…………

 でも一般市民ですよ……?

 はい……

 はい……

 そうなんですか……

 わかりました……

 では……」


 ようやく電話を置いた(おと)さん。


「竜司……

 その呼炎灼(こえんしゃく)事件に関与した二人って言うのは鮫島元(さめじまげん)新崎蓮(しんざきれん)で間違いない?」


「あ、はい」


「わかったわ……

 その二人なら前例もあるし、協力を仰いでも構わないって話よ……

 本来なら特殊交通警ら隊から人員を割く所なんだけど年末と言うのもあってほとんど人は居ない状態になるのよ……

 あと心配してたのは七尾(ロード・セブンス)についてね……

 竜司、大丈夫なの……?

 奴等は竜界で天災って呼ばれてる連中なんでしょ?」


 なるほど。

 人員が割けないのはあの訳が分からない金科玉条の為だろう。

 ナナオに関しては会った事無いとそりゃ怪しむよなあ。


「あ、その点は安心して下さい。

 使役している竜河岸ときちんと主従関係築いてますし、第一その七尾(ロード・セブンス)自体地球が物凄く好きですから……

 地球って言うか仔犬ですけど……」


「仔犬?

 何それ?」


 (おと)さん、キョトン顔。

 この人のキョトン顔が見れるなんて思わなかったな。

 さすが(ロード)の衆。


「あ……

 えっとですね……

 使役している竜河岸が飼っているペットがいまして…………

 ぽちぽちって言うんですけど……

 そのぽちぽちを七尾(ロード・セブンス)は溺愛しています」


「え……

 何それ……?

 本当にその竜、(ロード)の衆なの……?」


 まだキョトン顔が取れない(おと)さん。


「証拠に尻尾は七本ありますから多分本物ですよ」


「そ……

 そう……

 竜って本当に意味不明ね……」


「今はぽちぽち、西宮に居ますから溺愛ぶりは見れないですけどね…………

 プッ……

 見て無い所だとでちゅまちゅ言葉で接するんですよ」


「ちょっと待って竜司…………

 隊長の言ってるイメージとかけ離れ過ぎて……

 頭痛くなって来た……」


 こめかみを抑えながらソッポを向く(おと)さん。


「な……

 何かすいません……」


「私達は金科玉条があるから当日割ける人員はまだわからないわ……

 その竜司の言う人達、一度顔合わせの為連れて来てくれないかしら?」


「あ、はい。

 わかりました。

 今日帰ったら伝えときます」


「お願いね。

 なるだけ早い方がいいわ」


「わかりました」


 今日は雑誌の取材三社とCM撮り二本。

 そしていつもの様にダンスレッスンらしい。

 僕らは出発。


 結果的に今日は刑戮連(けいりくれん)の連中は現れなかった。

 だが、終わる頃にはヘトヘトになっていた。

 体力的な疲れと言うよりは精神的な疲れ。

 いつ襲って来るか解らないテロリストの影を警戒しつつ、ずっと気を張らせていないといけない。

 これは疲れる。


「じゃあ……

 お疲れ様でした……」


「竜司っっ!

 あのね…………

 そのね…………」


 モジモジしている暮葉。

 疲れている身体に一つの清涼剤。


「ん?

 暮葉、どうしたの?」


「また明日ねッッ!」


 輝かんばかりの笑顔を僕に向ける暮葉。

 まるで綺麗な花束を贈呈されたかの様。

 心がフワッと軽くなる。


「うん、また明日ね」


 こうして僕は、南区の避難所に帰る。


 帰って来ると避難所は本日の活動を終えており、明かりは数点しかついておらずしんと静まり返っていた。

 これが僕の現状、日常である。


「さあ、ガレア今日もお疲れさん。

 みんな寝てるから静かにね」


【別に疲れてねぇけどな】


「疲れてなくてもお疲れ様って言うんだよ人間て」


【それってアレだろ?

 シャコージレーって奴だろ?】


 シャコージレー?

 あぁ社交辞令か。

 大概ガレアも言葉覚えて来たよな。


「そうだよ。

 良く知ってるねガレア」


【俺だって人間についてベンキョーしてんだぜ】


「フフッ

 おみそれしました」


 僕らはそろりと体育館に戻り、ゴソゴソと毛布にくるまり寝てしまった。


 次の日


 僕はゆっくり目を覚ます。


 ガヤガヤ


 周りのみんなは起きてスペースの片づけや物資を運びこんだりしている。

 えらいもので、もう硬い床で寝ても身体が鳴らなくなっている。

 スーツのジャケットを羽織り、起きる準備。

 ふと俯くとヘロッヘロにくたびれたアウターが目に映る。


「あちゃぁ…………

 これ、またマス枝さんに怒られるかな……」


 僕はスーツの手入れ方法なんて知らないし、第一このスーツは借りものだ。

 とりあえず着替え終えた僕はガレアを揺り動かす。


「ホラ……

 ガレア起きて」


【竜司うす】


 相変わらずガレアは寝覚めが良い。

 そのまま僕はガレアと外へ出る。

 運動場では蓮がコードをルンルに巻き付けていた。


「蓮、おはよ」


【竜司ちゃん、チャオ】


「おはよう蓮、ルンル。

 いつも大変だね」


【ん?

 まあアタシとしては適度に電力消費出来るから結構気に入ってるのよん。

 人間って言う所の温泉みたいなモノねん。

 動けないのは難点だけどね】


 バチンとウインクするルンル。

 顔がデカい為、やはり可愛くない。


「タハハ……」


「ハイハイ。

 喋ってないで電気出して。

 竜司、放電するから離れて。

 危ないから」


「うん」


 ルンルの鱗に手を添える蓮。


 バチィッ!


 放電火花が散っている。

 ちょっと強くないか?

 家庭用電力だぞ。


「ちょっとちょっと。

 ルンル、もうちょっと弱めなさいよ。

 何でアンタ最初の放電、いつも強いのよ」


 やはり強かったのか。


【しょうがないじゃないん。

 アタシ最近高血圧なんだから。

 寝起き一発景気よく放電させなさいよ】


 高血圧?

 竜なのに?

 多分竜って血は流れてるんだろうけど……


 あれ?

 流れてるのか?

 色々考えてみる。

 そう言えば竜が血を流してる所なんて見た事無い。

 竜のエネルギーは魔力だ。


 多分身体を動かすのも魔力なんだろう。

 と、なるともしかして血って流れて無いのか。

 なら高血圧って何だ。

 結構長く考えた末、出した結論は世知に長けたルンルが表現として高血圧と言っただけ。

 身体の作用としては人間の高血圧とは違うんだろう。


「いいから。

 このままだとみんな使えないでしょ」


【はぁい】


「うん…………

 いい感じ……

 もうちょい。もうちょっと……

 ハイ、OK。

 みなさーーんっっ!

 準備出来ましたーーっ!

 もう大丈夫でーすっっ!」


(蓮ちゃん、毎朝すまないねえ)


 そう言いながら変電器にコンセントを付ける中年男性。


「いえいえ、こんな事でお力になれるなら」


(そっちの茶色い竜にもお礼を言っといてくれよ。

 俺達じゃあ竜の言葉は解らんからよ)


【あらん、このシヴいメンズ優しいじゃなぁいん。

 ブルース・ウィルスみたいな頭もなかなか素敵じゃなぁい】


 バチンと再び可愛くないウィンク。

 確かにこの中年男性は禿げ上がってるけどもよ。


「え……

 えー……

 私の力が役に立って嬉しいと言っています……」


 蓮が苦笑いしながら通訳。

 とりあえず今日は踊七さん達を連れて行かないと。


「蓮、何か僕に手伝える事ある?」


「あ?

 手伝ってくれる?

 じゃあジャガイモの皮、剥いて欲しいな」


 ドサッ


 段ボールに大量のジャガイモ。

 もしかしてコレ全部使うのか……?


「これ……

 全部……?」


「うん、そうよ」


 あっけらかんと蓮が答える。


「ちょ……

 ちょっと多過ぎない……?」


「ここの避難所、全員の朝ご飯作るのよ。

 これぐらい普通。

 私も手伝うから。

 はい、ビーラー」


 何だか鉄製の髭剃りみたいなのを渡された。

 何だろうこれ。


「蓮、これ何?」


「ん?

 皮剥く為の調理器具よ。

 扱いに気をつけてね。

 時々手の皮、ビッとやる人もいるから」


 そう言いながらビニール手袋をはめる蓮。

 調理をするからだろう。


 シュッ

 シュッ

 シュッ


 テンポ良くどんどん皮を剥いてボウルにジャガイモを入れていく蓮。


 見ていて何となく解った。

 このビーラーと言う器具。

 刃が狭い感覚で二枚付いている。

 この刃の間に皮を入れる感じで剥くのか。


 僕も倣ってビニール手袋をはめる。


 シュッ


 試しに剥いてみる。

 おや?

 思った以上に力を使わない。

 スルスルと剥けて行く。


 もしかして……

 これ……

 快感かも知れない……


 シュッ

 シュッ

 シュッ


 だんだん慣れて来て、どんどん剥けていく。

 これは気持ちいい。


 スカッ

 スカッ


 ジャガイモを掴もうとした手が空を切る。

 あれ?

 段ボールを見るとあれだけあったジャガイモがもう無い。

 全てつんつるてんに剥かれてボウルの中だ。


「蓮、もう無いの?」


「もう無いわよ。

 プッ……

 何?

 竜司、ジャガイモ剥きハマっちゃったの?」


「うん……

 何かコレ、すっごい気持ちいい」


「気を付けなさいよォ~~……

 ちょっと慣れた人がよくやるのが、目測誤ってココに指当てちゃって……

 ビィーッってっっ!

 血がドバーーーッッ!」


 ゾワッッ!


 足元から寒気が立ち昇る。


「ヒエッ……

 やっ……

 やめてよぉっ!」


「ハハッッ!

 冗談冗談っ!

 さぁ次はジャガイモを八等分ぐらいに切っていってくれる?

 はい包丁。

 これも扱い気をつけてね」


(ふぁ~~~…………

 おや?

 蓮ちゃん、相変わらず早いねぇ。

 おや?

 ボーヤも一緒かい?

 手伝ってくれてありがとうね)


 眠たそうに威勢の良いおばさんがやって来た。


「あ、いえいえ。

 私はジャガイモの味噌汁作ろうと思ってますが、おばさんは何作るんです?」


(確か昨日、竜河岸さんが持って来てくれた物資に豆腐がいっぱいあっただろう。

 それ使って山口のけんちょうでも作ろうかねえ)


「けんちょう?

 何ですかそれ?」


(豆腐と大根と人参をゴマ油で炒めた山口県の郷土料理さねっっ)


 そう言えばこのおばさん、山口県から来たんだっけ。


(……まー贅沢は言ってられないけど……

 何で冷蔵庫も無い避難所に豆腐持ってくるかねえ……

 まあいいや、アタシ取って来るわっ!)


 確かにそれはごもっとも。


「いってらっしゃい」


 そう言って一旦場から離れて行ったおばさん。

 僕は僕で任された仕事をこなさないと。


 ストン


 結構ジャガイモって堅い。


「あぁっ!

 ダメダメッッ

 竜司ッ!

 左手はこうよ。

 ニャンコの手」


 そう言って五本の左指を畳み、拳を倒してほっぺの近くへ。

 いわゆるネコのポーズを取る蓮。

 何か凄く可愛い。


 可愛いのだが、今そのポーズは必要無いだろ。


「プッ……

 蓮……

 そのポーズ……

 いる?」


 冷静で的確なツッコミにボッと赤面する蓮。


「ほっといてよっっ!

 な……何かコレ教える時こうしちゃうのよっっ!」


「フフッ……

 何それ。

 ヘンなの。

 まあ……

 やってみるよ。

 ニャンコの手……

 ニャンコの手……」


 言われた通りに左指を畳んだ状態でジャガイモを押さえてみる。

 なるほど。

 こうする理由は指を切らない為か。


 ストン

 ストン


 だがジャガイモの硬さは変わらず、切りにくい。


 ストン

 ストン

 ストン


 蓮はと言うと、流石手際が良い。

 どんどん切っていく。


「さて……

 竜司、そのままジャガイモ切っててね。

 私、ワカメの準備するから」


「あ、うん」


 わからず返事したけどワカメの準備って何だろう。


 ザラザラーーッッ!


 何やら大きい袋を二つ空け、中身を大きなボウルに移している。

 何だか細かくて黒っぽい物。

 あれ、何だろう。


 トポトポ


 ペットボトルの水を注いでいる。

 いかんいかん、蓮の作業に気を取られている場合では無い。

 僕は僕の作業を進めないと。


 ニャンコの手……

 ニャンコの手……


 ストンストンストン


 ジャガイモを切る。

 段々慣れて来た。

 ペースも上がる。

 残り一個。


 ストンストンストン


 よし、切り終わった。


「うわっ!?」


 気が付くと目の前に夥しい数のジャガイモが山の様に積まれていたのだ。

 余りの量に思わず声が出てしまう。


「あら?

 竜司、全部切り終わったの?

 ご苦労様。

 後は私がやるからもう大丈夫よ」


「そう?

 じゃあお願いするよ」


 既に寸胴に水を入れ、火をかけている。

 中に数枚の昆布。

 何やら茶褐色の粉末が入ったスティック状の袋を数個空けて中へ。


 そしてワカメの準備と言っていた大きなボウルの中身を見て驚いた。

 大量のワカメがわっさわっさと増えている。

 そうか、あれが乾燥ワカメか。

 増えると言うのは聞いてたが、ここまでとは。

 大型のボウルからはみ出ているぞ。


 とりあえず後は蓮達に任せ、僕は外へ。


【なールンルー。

 おめー毎日何してんだよ】


 黄色い柵に囲われたルンルを不思議がってガレアが話しかけている。


【人間の為に電気を提供してるのよ。

 フフン、ガレアちゃんはお子ちゃまだからボランティア精神なんてわかんないかもねん】


 ボランティア精神を理解する竜、ルンル。


【オコチャマ?

 オコチャマって何だよ。

 俺は竜だぞ】


 ガレアがキョトン顔。

 何だかよく解らない会話。


「はーいっっ!

 炊き出し出来ましたーーっっ!

 今から配りまーすっっ!」


 やがて朝食完成。

 僕も配膳手伝おう。

 僕はまた配膳所の中へ。

 先程使用したビニール手袋をはめ直す。


 今日のメニューはジャガイモの味噌汁と山口の郷土料理と言うけんちょう。

 そしてご飯。

 見ると大きめの紙皿にご飯とけんちょうを一緒に盛っている。


「はーいっ!

 こちらでも配りまーすっっ!」


 僕の声と共に列が別れる。

 他の主婦の人も手伝ってくれ、どんどん朝食を配って行く。


「おっ?

 竜司やないけ。

 おはようさん」


 (げん)が僕の列に並んでいた。


「おはよう(げん)

 はい、朝食だよ」


「あんがとさん。

 ほなな」


「おう竜司、おはよう。

 朝からご苦労さんだな」


 隣りの列では踊七さんが並んでいた。


「おはようございます先輩」


 朝食を受け取って去って行く踊七さん。

 こうして朝食の配膳が完了する。


「竜司、これで完了よ。

 お疲れ様。

 私達もご飯にしましょ」


「うん、ガレアーーっ!

 ご飯だよーーっ!」


【おっ!?

 メシかメシーッ!】


 ドスドスと嬉しそうにガレアがやって来る。


 大きい紙皿を用意して巨大なポリバケツからひょいひょい柄杓(ひしゃく)で野菜クズを盛って行く蓮。

 やはりこの絵面はインパクトあるなあ。


「はい、ガレア。

 召し上がれ」


【おっ蓮っ!

 あんがとなーっ!】


 嬉しそうに大きな紙皿を軽々と運んで行くガレア。


「あ、待ってガレア。

 先輩達が居る所に行ってね」


【へいよう】


「僕らも行こっか?」


「うん」


 僕らも炊き出しを持って(げん)達に合流。


「おう竜司。

 お疲れさん……

 モグモグ……

 ズズズ……」


 (げん)達は既に食事を始めており、ご飯を頬張りながら味噌汁を啜っている。


「今日のおかず、変わってるな。

 蓮ちゃん、これは何て言う料理だ?」


「山口出身のおばさんが作ったんです。

 郷土料理でけんちょうって言うんですって」


「へえ……

 精進料理っぽいけどなかなかに美味いな……

 モグモグ」


 僕らも食事を始める。

 やがて終了。


「ふう……

 美味しかった。

 ご馳走様。

 さて、みんな」


「ん?」


「何だ?

 竜司」


「昨日、(おと)さん……

 特殊交通警ら隊の人に先輩達の事話したんです」


「あ、そうなんだ。

 で、何て言ってたの?」


「みんなと会いたいだって。

 それで早い方が良いって言ってて。

 だから今日、時間取れないかなって思って……」


「ワイらはもう復旧作業も流れに乗って来とるから多分言うたらイケると思うけど。

 のう踊さん」


「あぁ、俺も構わねぇぞ」


「私は……

 炊き出しの準備してるから……

 おばさん達に許可貰わないと。

 ルンルは連れてけないけど良いのかな?」


 あ、そうか。

 ルンルは電力の提供がある。


「蓮ちゃん、刑戮連(けいりくれん)の連中とやり合うんなら竜は必須だぜ」


「そうですよねぇ……

 どうしましょう?」


「救助隊の人達に大型蓄電池の打診をしておくよ」


 なるほど。

 何も今日すぐに襲撃されるかは解らないんだ。

 蓄電池を充電して備蓄しておけばいいって事か。


「ありがとうございます。

 じゃあ私、おばさんに言って来るね」


「うん、行ってらっしゃい」


 そう言って場を離れる蓮。


「ほんで竜司よ……

 今回もまた(にい)やん時みたいにテストあるんかいな?」


 パシィッ!


 勢いよく胸元で両拳を合わせる。

 相変わらずのバトルマニア。


「それはどうだろ?

 多分無いんじゃないかな?

 兄さんに電話して許可貰ってたみたいだし」


「何や……

 つまらんのう……」


 明らかなガッカリ顔の(げん)

 本当に血の気が多いなあ。


「竜司ーっ!

 良いってーっ!」


 蓮も戻って来た。

 どうやら許可を得られたらしい。


「じゃあ、俺も救助隊に言って来る」


 次は踊七さんが場を離れる。


「先輩、いってらっしゃい」


【ムウ……

 時に小僧よ……】


 ここで意外な人物()が話しかけてきた。

 ずっと静観していたナナオだ。


「あ、ナナオさん。

 どうしました?」


【我は良く解らんのだが……

 今日は何処かに出かけるのか……?】


「あ、はい。

 先輩達にある竜の警護を頼みますので……

 その責任者と顔合わせです」


【竜の警護…………

 変わった事をするのだな……

 その竜は稀に見る弱さなのか……?】


「いえ。

 多分弱いって事は無いと思うんですけど、その竜がやってる職業がちょっと特殊で……

 あ、ちなみにその竜は人型に変化してます」


【ムウ…………

 やはり世は広い……

 誇り高い竜の姿を捨ててまで人に傾倒している竜がいるとはな……】


 誇り高いか。

 そんな感じは暮葉からはしないけどな。


 考えてみると、僕が会った人型の竜はヒビキと暮葉とバキラだけだ。

 ヒビキに関しては事情が事情だしなあ。

 バキラは恥ずかしがってたし。


「すいませんナナオさん。

 本日はご足労頂くと思いますが」


【なに……

 構わんよ小僧……

 我もその人型の竜とやらに興味がある……】


「マザーの城に居たんですけどね。

 アルビノって言う竜なんですがご存じありません?」


【知らぬな…………

 我も含め……

 (ロード)の衆は他の竜にあまり関心を持たぬのでな……

 我が覚えている竜と言えば…………

 マザー……

 ボイエルデュー…………

 カイサリス……

 あとはライゴウぐらいだ……】


 ボイエルデューは赤の王の名前。

 呼炎灼(こえんしゃく)が使役している竜。

 カイサリスは確か黒の王。

 お爺ちゃんの竜だ。

 最後のライゴウって言うのは聞いた事無いな。


 それにしても、じゃあ何で人間界(こっち)に来たんだって話だ。


 竜儀の式に参加する竜の理由としては大きく分けて三パターン。


 まず、蓮の様に親から受け継ぐパターン。

 そして、親が使役している竜の知り合い等で連れて来るパターン。

 あとはガレアの様に竜界が嫌でマザーに打診して来るパターン。


 ナナオは一体どのパターンで来たんだろう。

 他の竜に興味が無いのなら友達とかも居なさそうなのに。

 今度聞いてみようかな。


「竜司ーっ!

 許可貰って来たぞーっ!」


「ありがとうございます先輩。

 じゃあそろそろ行きましょうか。

 ガレアの亜空間で先導します」


「おう、ベノムーッ!

 行くぞーっ!」


 無反応のベノム。

 尻尾をくるんと巻いてまるでネコの様に寝ている。


「コラァッ!

 起きんかいッッ!

 ベノムッッ!」


 のしのしと側まで駆け寄る(げん)

 ようやくのそりと長い首を持ち上げたベノム。


「あぁっ!?

 二日酔いで頭が痛いから欠席ィッッ!?

 ふざけた事ぬかすなァッ!

 ワレ、酒なんか飲まんやろぉっ!!

 オオゥッ!?

 膝の皿が割れたから動けへんっっ!!?

 ワレ、竜やろォッ!

 んなん一瞬で治るわァッ!!」


 相変わらずの(げん)とベノム。

 毎回思うがよく言ってる事が解るなあ。

 あとだんだんベノムの言い訳も芸が細かくなって来た。


 ようやく手を引っ張ってベノムを呼び寄せた(げん)


「待たせたのう……

 あーしんど……」


「フフッ

 相変わらずベノムって寝坊助なネコみたいね」


「使役してる身にもなれや蓮……」


「ガレア、亜空間をお願い」


【竜司、どこ行くんだ?

 メシか?】


 お前さっきたらふく食べただろ。

 ベノムも大概だけどガレア(こいつ)ガレア(こいつ)で話聞いてないなあ。


「そんな訳無いでしょ。

 何言ってんの。

 暮葉の所だよ」


【何だ。

 ホイヨ】


 ガレアの側に亜空間が現れる。


 僕とガレア、(げん)とベノム、踊七さんとナナオ。

 そして蓮は亜空間を潜る。

 少し歩いて出た先は渋谷区。


「ほほーっ

 ここがよう聞く渋谷ゆうとこか。

 ワイ、初めて来るわ」


 (げん)が驚いている。

 出来ればみんなで観光と行きたいけどそうも言ってられない。


(げん)、こっちだよ」


 芸能事務所 ユニオンビル


「ここだよ」


「新築か。

 結構立派なビルだな」


「じゃあ入りましょう」


 僕らは中へ。


「うわ……

 本当に暮葉ってアイドルなのね……」


 玄関ロビーに掲げられた巨大ポスターを見て言葉を詰まらせている蓮。


「こっちだよ」


 僕は二階に案内する。


 コンコン


 ドアをノック。

 いつもはこんな事せずに入るが今日は別だ。


(はーいっ)


 中からタエさんの声。

 いつも真面目に出勤してるってのは本当らしい。


 ガチャ


(あれ?

 竜司っち…………

 ててっ!

 何々ーーっ!?

 今日はめっちゃ多いじゃんっっ!

 全員竜司っちのマジトモーっ!?

 BFFーっっっ!?)


 何だかタエさんがえらい色めき立っている。

 後で聞いた話によるとBFFって言うのはBest Friend Foreverの略なんだそうな。


「ええ、みんな友達です。

 暮葉の警護に協力して貰う為に連れて来ました」


「何を騒いで…………

 ちょっとっ!

 竜司っ!

 部外者を中に入れるなんて何考えているのっっ!」


 入口での騒ぎを見たマス枝さんが声を上げる。

 しまった。

 マス枝さんには(げん)達の事を説明していない。


「違いますよマス枝さん。

 この方々は全員暮葉の友達で竜河岸です。

 今日は警護の助っ人の為の顔合わせです」


「助っ人?

 そんな話聞いてないわ」


 クイと眼鏡を上げるマス枝さん。

 完全に警戒している。


「おい竜司、何やこのオバハン」


「オバッ…………!!?」


 マス枝さんの顔が一瞬で引きつる。


「あぁああぁ……

 (げん)、ゴメンだけどちょっと黙ってて。

 ややこしくなるだけだから。

 この人は安藤マ……」


「私はまだ二十代後半よォぉォぉォぉッッ!!

 クキェェェェェッッッ!!!」


 僕の説明を遮り、切実な想いを金切り声で叫びながらマス枝さんが(げん)に飛びかかった。

 こんなマス枝さん見た事無い。

 凄く怖い。


「うおっっ!!?

 何やぁっ!?

 何かごっつ怖いィッッ!!」


「これは(げん)が悪いな。

 笑い事っちゃねぇ」


「そうですよね踊七さん」


 踊七さんと蓮はウンウンと頷く。

 全く止める気は無い模様。

 (げん)は顔をもみくちゃにされている。


 ケンカ自慢の(げん)でも女性相手では上手く立ち回れないみたいだ。


「ふう……

 全くしょうがねぇな……

 笑い事っちゃねぇ」


 ポン


 軽くマス枝さんの肩を持つ踊七さん。


「仲間の非礼は私がお詫びします。

 我々も物見遊山で芸能事務所を訪れた訳では無いんです。

 竜司から今暮葉さんに起きている脅威を聞いて、一助になればと馳せ参じただけです。

 あと、竜司の話では責任者の方には話は通しているらしいのですが……」


 さすが踊七さん。

 きちんと何故来たかを理路整然と説明した。

 本当に憧れる。

 こんな男に僕もなりたい。


「ハッッ!?」


 踊七さんの話を聞き、ようやく我に返ったマス枝さん。


「し……

 失礼……

 取り乱してしまいまして……

 貴方は話が分かる様ね」


 ようやく場が沈静化しかけた所で蓮が肘で(げん)を小突く。


「ホラ……

 (げん)も謝りなさいよ……」


「なっ……

 何や蓮……

 イタッ……

 わかったわいっ!

 わかったから小突くなや……

 スイマセンデシターオネーサンー」


 完全に棒読みの謝り方。


「立ち話も何だから、こちらへどうぞ」


 さすがマス枝さん。

 (げん)の棒読み謝罪など完全に無視。

 事務所に備え付けのソファーに踊七さん()()招く。


「それで……

 貴方達は脅威を聞いたと言ってたけどどこまで聞いたの?」


「主に竜司が襲われた話ですね。

 正体不明の異能を使うと言う話でしたので。

 そして竜司の話ではかなりの強敵と言う事で……

 もう一人の責任者の方と助っ人を入れてようやく一人捕らえる事が出来たと聞いてます。

 ご存じかも知れませんが竜河岸の力は脅威です。

 その竜河岸が三人がかりでやっと勝てる相手……

 しかもあと三人居ると聞きました。

 それなら我々も協力出来ないかと思いまして。

 暮葉さんにはお世話になってますし」


 ガチャ


 ここで暮葉が重役出勤。


「おふぁよ~~……

 ムニャムニャ……」


「おはよう暮葉。

 今日も眠そうだね」


「うん……

 となりの怪物くん読み終わって……

 アニメもあるって言うから……

 それ見てて……

 ってっ!?

 アレッ!?

 蓮っっ!?

 (げん)ちゃんもっっ!?」


 蓮と(げん)を見つけた暮葉は一瞬で覚醒。

 踊七さんの後ろに立っていた蓮は笑顔で小さく手を振る。


「おう、暮葉。

 静岡以来やのう」


「わーっっ!」


 ダダッ!


 急いで駆け寄った暮葉は蓮に抱きつく。


「わわっ!?

 く……

 暮葉……」


「久しぶりーーっっ!

 蓮ーーっっ!」


「ちょっ……

 久しぶりって……

 一ヶ月も離れてないじゃ無いの……

 フフフ……

 ちょっと……

 暑苦しいから離れて」


「あっゴメンゴメン。

 エヘヘー」


 ようやく離れた暮葉。

 その様子を見ていたマス枝さん。


「……どうやら、知り合いって言うのは嘘じゃ無さそうね。

 解ったわ。

 警護の責任者はまだ来ていないので少し待っててくれるかしら?

 その間に軽い自己紹介でもしましょうか。

 私は安藤マス枝。

 暮葉のマネージャーをやってるわ」


「では私から……

 名前は梵踊七(そよぎようしち)

 十七歳。

 竜河岸です」


「えっと……

 私は新崎蓮(しんざきれん)と言います……

 十四歳で私も竜河岸です」


「ワイは鮫島元(さめじまげん)

 十七歳。

 竜河岸や………………

 って踊さんっっ!?

 ワイと同いやったんですかっっ!?」


「ん?

 そういやそうだな。

 (げん)、別にタメ口でも構わねぇぞ。

 笑い事っちゃねぇ」


「う~ん……

 ワイてっきり年上や思てたからなあ……

 いや、ええですわ。

 もうここまでずっと敬語で来てますし。

 これからも敬語で接させてもらいますわ踊さん」


 (げん)って踊七さんには一定の敬意を払ってるんだよな。

 僕の知らない所で戦ったのかな?


「ん?

 そうか?

 (げん)がそれで良いなら……」


 ガチャ


「おはようござ…………

 何……?

 この大人数は……」


【わー(おと)ちゃん、竜がいっぱいいるよー】


 最後にやって来た(おと)さんとスニーカー。


「あ、(おと)さん。

 おはようございます。

 この人達が昨日言ってた助っ人の方々です」


「竜司……

 早い方が良いとは言ったけど……

 まさか昨日の今日で連れて来るなんて……」


「あ……

 す……

 すいません……

 ご迷惑でした……?」


「フウ……

 いや……

 むしろ迅速で良いわ。

 刑戮連(けいりくれん)の連中はゲリラ行動に及ぶ可能性もあるしね……

 見た所……()()()()()使えそうだし」


 ちらりと値踏みする様に踊七さん達を見るおとさん。

 僕の時と同じだ。

 尊大な部分が出ている。


「へっ

 そりゃどーも」


「何やこのネーチャン、えらっそうやのう」


「ムッ……?」


 マス枝さんはオバハンで(おと)さんはネーチャンか。

 違いが判らないなあ。

 そして蓮が少しムッとしてる。

 自分が使える人間として数えられなかったからだ。

 どうしようどうしよう。


「あ……

 (おと)さん……

 一つ宜しいですか?」


「ん?

 竜司、何かしら?」


「あの……

 蓮……

 この女の子ですが……

 単純なスキルの火力で言ったら、(げん)……

 この男性より上ですよ?」


「あら?

 そうなの?」


「何や竜司、超電磁誘導砲(レールガン)の話しとんか?

 確かにあんなん喰ろうて生きてる奴なんかおらんわい」


「うん……

 あ、あとちなみに静岡決戦の時も協力頂いてますし……

 テストの時、兄さんも流石に参ってました」


「そうなの?

 所で竜が一人足りないけど誰の竜が居ないの?」


「あ、私です」


 蓮が手を上げる。

 どうやら溜飲は下がった様だ。


「どうして連れて無いのかしら?」


「あ……

 ウチの竜、蓄電量が物凄いから避難所で電力供給してますので……」


「なるほどね……

 でもそんな事で大丈夫?

 刑戮連(けいりくれん)の連中は竜河岸単体で捕獲できる程甘くは無いわよ」


「そっ……

 それに関しては大丈夫ですっ……

 踊七さんが蓄電池を打診してくれてますので、有事の時はそれで対応しようかと……」


 相変わらず(おと)さんは初対面の人間に厳しいなあ。

 ツンツンモードの(おと)さんに少し怯みながらもキチンと説明した蓮。


「まあずっと拘束されてる訳じゃ無いのなら良いわ。

 改めてよろしく。

 歓迎するわ。

 私は警視庁公安第五課特殊犯罪対策室特殊交通警ら隊所属、勘解由小路響(かでのこうじおと)

 私の事は(おと)と呼んでね」


 そう言ってピッと敬礼する(おと)さん。

 凛としているなあ。

 そして相変わらず名前呼びは徹底している様だ。


「よろしくお願いします」


「ワイは血の滾るケンカさえ出来たらそれでええんや。

 よろしゅう頼んまっさ」


「よ……

 よろしくお願いします」


 三人とも自己紹介を済ませ、今日の予定を説明。


 刑戮連(けいりくれん)の動向がまだ不明。

 残り二人の顔も判明していない所から踊七さんのみが同行する事に。

 これから逐一(おと)さんが電波超傍受(オービット)で情報集めを行い、動きが見え次第人員を追加していくと言う運び。


「まあ、今日は顔合わせだけやって話やったしな。

 ワイは帰って復旧作業手伝うわ」


「私も……

 今ルンル居ないし……」


(げん)君、蓮さん。

 わざわざ足を運んでもらったのに申し訳ないわね。

 でも竜司があれだけ強いんだから貴方達を過小評価しているつもりは無いわ。

 有事の際は頼りにしてるから」


「へへっ!

 ほんじゃあまた来ますわ。

 暮葉ーっ!

 ワイら帰るわーっ!

 頑張れよーっ!

 ライブ呼んでくれやーっ!」


「じゃあね暮葉」


「ええっ!?

 二人とも帰っちゃうのっっ……!?

 シュン……」


 暮葉がションボリしちゃった。


 ポン


 暮葉の肩に優しく手を置く。


「暮葉、二人とも遊びに来たんじゃないんだから。

 それに今日は先輩だけど日で交代するはずだから…………

 そうですよね?

 (おと)さん?」


「そうね。

 警護に加わった時の動きなんかも確認しときたいからその方が良いかもね。

 (げん)君は明日。

 蓮さんは明後日で良いかしら?」


「おう、ええで」


「あ、はいわかりました」


「蓮さん、警護の日は竜を連れて来てね」


「わかりました」


 そう言って(げん)と蓮は去って行った。


「タエさん、今日の予定はどんな感じですか?」


(なあんだ……

 イケメンは帰んのか…………

 えぇっ!?

 なになにっ!?

 あぁっ今日の予定ねっ!

 メンゴメンゴォ~~っと……)


 タエさんはどうやら(げん)がお気に入りらしい。

 ワイルド系が好みなのかな?


(今日は……

 午前はダンスレッスンと……

 午後は幼稚園の営業ねん)


「わかりました。

 ありがとうございます」


「じゃあ出発しましょうか」


「はい」


 僕らはまずレッスンスタジオへ。


(あっ!?

 ガレアきゅーんっ!

 待ってたよーっ!)


 波留(はる)さんがガレアに抱きつく。


【何だよお前。

 相変わらずうっとおしいなあ】


 怪訝とした表情を見せるガレアだが、竜の言葉が解らない為全く気にしない波留さん。


(はいっ!

 今日来るって解ってたからまた買って来てあげたよーっ!

 ばかうけ)


【おっ!?

 お前うっとおしいけど良い奴だな】


 ばかうけの山を見た途端、顔が綻ぶガレア。

 全く現金な奴だ。


(この顔がカワイイのよね~~…………

 って何っ!?

 あの竜ッッ!?

 尻尾がいっぱいあるっっ!)


 ナナオを見かけた波留さんが騒ぎ出す。

 一旦ガレアから離れ、ナナオの元へ。

 ガレアはと言うと特に気にせず、亜空間にばかうけを片付けている。


(うわー……

 すご……

 これ全部で何本あるの……?)


【ん?

 人間の女……

 我の尾に興味があるのか……?】


「全部で七本あります。

 七つの尾だからナナオって言います。

 これから時々暮葉さんの警護に参加しますのでよろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げる踊七さん。


(わっ……

 いやコチラコソ……

 ゴテイネイニ……)


 キチンと挨拶した踊七さんを見て、畏まっている波留さん。


 三時間後


(よしっ!

 クレハッ!

 よくやったわっ!

 ダンスはこれで完璧ッッ!

 あとはこれの反復練習で身体に覚え込ませるだけよっ!)


「ありがとうございますっ!」


 そう言って頭を下げる暮葉は汗だく。

 竜でも人型になれば汗を掻くんだな。

 どうやらミスをせず全て踊り切ったらしい。


「へへーーんっっ!

 竜司っっ!」


 僕の方を向いてピースサインの暮葉。

 白い歯を見せてニッコリ笑っている。


「フフ……

 暮葉、お疲れ様」


「オイ……

 竜司……

 暮葉さん……

 スゲェな……

 三時間ぶっ続けで踊ってたぞ……

 俺でもあんなにスタミナは続かん……

 笑い事っちゃねぇ……」


 そう言えば踊七さんはダンサーだった。

 まあそりゃ竜だしなあ。

 でも暮葉が褒められると何か僕も嬉しい。


 あれ?

 そう言えば(おと)さんは何処行ったんだろう。

 とか考えてたら、(おと)さんがスニーカーと戻って来た。

 塩の結晶を齧りながら。

 となると……

 もしや……


(おと)さん、お疲れ様です。

 電波超傍受(オービット)ですか?」


「そうよ」


「何か目ぼしい情報はありました?」


「これと言っては無いわね……

 ただ……

 飲食店の店長が何人か行方不明になってるぐらい……」


「それ関係ありますかね?」


「まあ普段の電波超傍受(オービット)はこんなものよ。

 ほとんど事件と関係無い情報だもの」


「さぁ次は幼稚園の営業に向かうわよ」


 マス枝さんが音頭を取る。


 僕らは幼稚園に向かう。

 そこでの営業は滞りなく進んだ。

 割とナナオが人気だったのが印象的だった。

 こうして一日が終わる。


 この日は刑戮連(けいりくれん)の動きは特になし。

 次の日は(げん)

 そのまた次の日は蓮と交代制で暮葉の警護は進んで行く。


 だが、全くと言って刑戮連(けいりくれん)の動きは無かった。


 だが……


「ねえ竜司、(おと)さんて今何処に居るの?」


 隅で体育座りの蓮が尋ねて来た。


「ん?

 多分屋上じゃないかな?

 スキルを使ってるんだと思うよ」


「ん?

 スキル?

 (おと)さんのスキルってどんななの?」


電波超傍受(オービット)って言って範囲内の電波を傍受するスキルなんだって。

 電話とかメールとか」


「え……

 何それ……?

 傍受って……

 内容を……?」


「うん」


「こ……

 怖いスキルね……」


「色々とリスクはあるみたいだけどね」


 そんな話をしていると(おと)さんとスニーカーが帰って来た。


「ええ……

 はい……

 これは……」


 (おと)さんは何処かへ電話していた。


「はい……

 わかりました……

 隊長」


 電話を切った。

 話していたのはどうやら兄さんだ。

 何か動きがあったんだろうか?


(おと)さん、何かあったんですか?」


「ん?

 あぁ、ちょっと妙な事が起きてて。

 今日も行方不明者が何人か出ててね」


「でも、行方不明者って年間に何万人も出てるんじゃ無かったでしたっけ?

 それなら毎日居てもおかしくないんじゃ?」


「それにしても場所がほぼ固定されてるのはおかしいわ。

 それにほとんどが飲食店の関係者と言うのも妙よ」


 確かに。


「………………一昨日の電波超傍受(オービット)でもチラッと言ってましたよね?

 飲食店の方が行方不明だって……」


「ええ……

 多分……

 関連はある……

 …………

 渇木髄彦(かつきすねひこ)の犯行じゃないかと私は思うの」


 渇木髄彦(かつきすねひこ)

 刑戮連(けいりくれん)のメンバー。


「どうしましょう?

 我々も向かった方が良いのでしょうか?」


「待ちなさい竜司。

 私達の任務はあくまでも暮葉さんの警護よ。

 持ち場を離れる事は出来ないわ。

 それにまだ刑戮連(けいりくれん)の事件だと確定出来た訳じゃない。

 とりあえず得た情報の詳細は隊長に伝えてあるからその連絡待ちね」


 さすが(おと)さん。

 冷静だ。


「わかりました」


 僕らの任務はあくまでも暮葉の警護だ。

 決して刑戮連(けいりくれん)の逮捕じゃない。

 兄さんが誰かを派遣してくれるのだろう。


 ###


「はい、今日はここまで」


「あれ?

 パパ、もう終わり?」


「うん、ここで切るのが良いと思ってね」


「何か今日の話は目立った事が無かったね」


 (たつ)は子供。

 だからこその忌憚の無い意見。


「ぐっ…………

 ま……

 まあ、そんな日もあるよ。

 布団に入って……

 おやすみなさい」

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