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ドラゴンフライ  作者: マサラ
最終章 第二幕 東京 暮葉ドームライブ編
157/275

第百五十六話 四海兄弟

 やあ、僕の名前は正親町一人(おおぎまちかずんと)

 警官だよ。

 所属は警視庁公安第五課特殊犯罪対策室特殊交通警ら隊。

 長い肩書ってカッコイイと皆も思わない?


 公安の名が示す様にこう見えてもエリートなんだよ。

 しかも特殊交通警ら隊は公安課の中でもエリート中のエリートなんだ。

 階級は巡査長。

 皆からはカズって呼ばれているよ。


 いつもドラゴンフライを読んでくれてありがとうね。


 さて今回は何故、(たつ)君が出て来ないのかと言うと前回何で僕が現れたかを説明した方が良いって作者が言うもんでね。

 割り込んで参上したって訳。


 心配しなくても僕の話の後にきちんと(たつ)君は現れるから安心してね。


 いやー

 前回はビックリしたね。


 山手通りがメッチャクチャになってるんだもん。

 あちらこちらに気ん持ち悪い手足も転がってるし、それで人も三人倒れてるし……

 その内の二人は知り合いと来たもんだ。


 僕は状況を見て思ったんだ。


 あ、これヤバ気なヤツじゃん。


 ってね。


 全く僕は非番だったんだよ。

 隊長はそんな事お構い無しで頼んで来るからなあ。

 電話の感じはこんなだったんだ。


「おうカズか。

 今何処にいる?」


「え?

 渋谷ですけど」


「そりゃあ良い。

 ちょっと悪いんだが竜司達の様子を見て来てくれねぇか?」


「え?

 何で僕が……?

 今日非番なんですよ」


「いやまあそれは解ってるんだがな。

 昨日も言っただろ?

 今日、暮葉さんの警護で竜司と(おと)が出張ってるんだよ。

 まあ(おと)も居るんだし心配ねえと思うんだがな。

 高確率で襲撃が来るって言うのと犯人の使う正体不明の異能が気になってな……

 言っても俺の自慢の弟だ……

 取り越し苦労だとは思うんだけどな……

 へっ……

 まあ兄心(このかみごころ)ってやつだ……」


「ちょちょ……

 ちょっと待って下さいよ隊長。

 何、悦に浸ってブラコン心語ってるんですか。

 だから僕は今日非番なんですって」


「だからわかってるって言ってるだろ?

 別に連行しろとか言ってる訳じゃねえ。

 今隊員でお前が一番近いから頼んでんだよ。

 どうせドックも側に居るんだろ?

 様子見て問題無かったらそのまま帰って良いからさ」


「まあ確かに居ますけど……

 チラッと見るだけですよ?

 問題無かったら帰りますからね。

 それで何処に行ったら良いんですか?」


「それはすぐにメールで送る。

 じゃあ頼んだぞ」


 ってな訳さ。


 それでいざ来てみれば問題だらけ。

 いや問題だけ。

 問題のみ。

 問題しか無いと言った状況。


 そりゃ僕だって非番だからと言って知り合いが倒れているのに無視することは出来ないよ。


 それで敵っぽい奴も寝っ転がってて何となく状況的に……

 (おと)達が窮鼠猫を噛むのネコ側的な……

 (きん)(くる)しめば車を覆すの車側的な感じがしたんだ。

 要するに敵からの最後の抵抗がまんまとハマったって事だね。


 昨日、隊長から正体不明の異能について聞いてたから即座に奥の手の盛者必衰の理を顕すインビジブル・ハンドカフスを使おうと考えた。

 敵を叩く時は徹底的に最大の攻撃力で攻める。

 これは戦術の基本だからね。


 でもね……

 前回で披露した通り、僕の奥の手は本当に面倒臭いんだ。

 スキルの総称は平家物語テール・オブ・ザ・ヘイケって言って平家物語の序文に準えて四つのスキルがある。


 盛者必衰の理を顕すインビジブル・ハンドカフスを使おうと思ったら対象に三つのスキルをかけなきゃならない。


 祇園精舎の鐘の音レジデュアル・ヌーマトロニック諸行無常の響きありオートクイック・ドローウィングの時なんか何の罰ゲームって感じだったよ……

 トホホ。


 でもどんな悪人だろうと下種な考えを持った奴だろうと残留思念を読み取って絵に起こさないと盛者必衰の理を顕すインビジブル・ハンドカフスはかける事が出来ないんだよなあ。


 でも面倒臭い分だけかかると強力なんだけどね。

 あと今回でわかった事。

 このスキル、強制的に意識を奪う事も出来るみたい。

 脳の働きを強制停止させてるのかな?


 このスキル、手間が恐ろしくかかるからあんまし検証も出来ないんだよね……

 プライバシー丸わかりだし……

 それを了承したとしても沙羅双樹の華の色ロバリー・フィロソフィーはホントに気持ち悪いらしいからね……


 いや……

 冗談じゃ無くガチで……

 だから付き合ってくれる人も居ないんだよ……

 ハァ……


 まあ、そんな訳。


 僕が何故ヒーローの様に颯爽と現れて華麗に助けたか解ってもらえたかな?

 長くなったけど僕のお話はここまで。

 そろそろいつもの様にお父さんとなった竜司君と(たつ)君にバトンタッチしようかな?


 ここから第百五十六話が始まるよ。


 ###


 2045年某月 某屋敷寝室にて


「やあ、こんばんは(たつ)


「あ、パパうす」


 このガレア風挨拶にも慣れた。

 前のヤンキー風に比べたらマシだ。


「さあ、今日も始めて行くよ」


「パパ、今日は何の話だっけ?」


「昨日はカズさんが助けてくれた所からだね」


「あっそうか。

 それにしてもパパの闘う敵ってすんなり勝てない奴が多いよね……」


「う…………

 ま……

 まあすんなりスマートに勝つのはアニメや漫画だけって事だね…………

 …………でも……

 呼炎灼(こえんしゃく)の時は頑張ったんだけどな…………

 ゴニョゴニョ……」


「え?

 パパ、何て?

 最後の方よく聞こえなかった」


「いいいやっっ!

 何でも無いよッッ!

 じゃあ始めて行こうッッ!」


 ###


(おと)、竜司君。

 無事かい?

 もう大丈夫だよ」


 力を大量に吸い出された僕はヨロヨロと身体を起こす。

 視界も侵食していた黒が消え始め、戻って行く。

 薄ぼんやりと見えたその姿に既視感。


 空中に浮いている青藍色のニョロニョロとした蛇の様なもの。

 側に人影。


 やがて視界が明瞭に。

 そこに居たのはドックとカズさんだった。


「カ……

 カズさん……

 それにドックも……

 どうして……?」


【小僧、大丈夫かの?】


「隊長に頼まれてね。

 様子を見に来たらエラい事になってたから手助けしたんだよ」


「ハッッッ!!?

 カズさんッッ!

 ドックゥッッ!

 離れてェッッ!

 側にテロリストが居ますゥゥッッ!」


 バッッ!


 僕は素早く立ち上がり、カズさんとドックを庇う。


「あの…………

 竜司君…………?

 とりあえず一人沈黙はさせたんだけど……

 テロリストってコイツの事……?」


 カズさんが指差す方向。

 そこには白眼を剥いて微動だにしない(なずみ)の姿。

 あれだけ僕らの猛攻を受けても全く怯まなかった(なずみ)が動いていない。


 一体どうやって?

 この不思議な状況に口が上手く動かせない。

 声が上手く出せない。


「…………………………は…………

 はい……

 カズさん…………

 まさか……

 殺してませんよね…………?」


「竜司君、何馬鹿な事を言ってるの。

 僕は警官だよ。

 気絶してるだけさ」


「そ…………

 そうですか……」


「カズ…………

 いいタイミングで登場したわね……」


 (おと)さんも起きてヨロヨロと僕らの方に寄って来る。


「あ、(おと)

 僕は隊長のお使いだよ。

 それより大丈夫かい?

 えらくピンチだったみたいだけど」


「そんな事無いわ。

 まあ……

 確かに最後はホンの少し…………

 少しだけヤバいかな?

 って思ったけど…………

 あくまでもほんの少しよ」


 (おと)さんの尊大な部分。

 いわゆるツンの部分が心なしか雑になってる気がする。

 見知った人と接する時はこんな感じなのかな?


 あ、カズさんの目線が降りた。

 先は恐らく腕部。


「へえ…………

 ほんの少し……

 ねえ……

 まあ良いけどね……

 身体大丈夫?

 奥の手使ったんでしょ?」


魔力注入(インジェクト)で治したから平気に決まってるでしょ?」


「僕が言ってるのは傷の事じゃ無くて失血の事だよ」


 フラ


 (おと)さんが頭を抑えながら少しフラつく。


「確かに……

 少し休みたいわね……

 でも……

 とりあえず仕事はきちんとこなさないと……」


 フラフラと歩きながら拘束衣を拾いに行く。


(おと)って面白いだろ?

 見え見えの強がりばっかり言うんだから。

 竜司君は今回、(おと)と組んでどうだった?」


「ええ……

 最初はすっごく見下されてましたね……」


「あの子、人見知りだからねえ」


 あれはそういうレベルじゃないぞ。


「僕が陸竜大隊の隊長と副長を倒したって言っても信用してくれなかったですし……」


「まあ……

 それに関しては(おと)が信じられないのも無理ないかな?

 だって竜司君。

 君は十四歳なんだもん」


 そうなのかな?

 確か(おと)さんも言ってたっけ。

 呼炎灼(こえんしゃく)の力は現役竜河岸の中でも最強クラスだって。

 そんな相手に勝ったんだから、信じられないのも無理ないのかな?

 まあ絶招経って言う反則気味のチートを使ったからだけど。


「そうなんですかね……?

 でもテロリストとのやり取りで少し見直してくれたかなって思いました」


「そりゃ良かった。

 プッ…………

 (おと)ってね。

 友達と接する時はただのベタなツンデレになるからね。

 面白いんだよ」


 ガンッ!


 そんな話をしてると、カズさんの頭が下に素早くブレた。


「イタッ!」


「コラッ!

 カズッ!

 竜司に何吹き込んでんのっ!

 誰がツンデレよっ!」


「イタタ……

 (おと)……

 酷いなあ……

 颯爽と現れたヒーローに対して」


「まあ確かに……

 とりあえず礼だけは言っておくわ。

 それよりも拘束衣着せるの手伝って。

 私、結構怠いから」


「あ、はいわかりました」


 僕は素早く立ち上がる。


 フラ


 頭が回り、少しフラつく。

 僕の方もかなり体力と魔力を吸い出されたみたいだ。


「あぁっ!?

 貴方も体力無いでしょう?

 休んでて良いわよ。

 竜司じゃ無いの。

 カズに言ったのよ」


「えーっ!?

 僕、非番なんだよっ!?」


「あ……

 そうなんですか……

 フフ……

 (おと)さん……

 優しいですね……」


 素直な所感を述べると、途端に顔が赤くなる(おと)さん。


「ババッ……!!

 馬鹿な事言ってんじゃないわよっ!

 私が……

 優しいなんて……

 ゴニョゴニョ……」


 あれ?

 何だこの人。

 ベタなツンデレ反応する人だなあ。

 ただの可愛いツンデレか。


「ね?」


 パチリとウインクし、合図を送るカズさん。

 なるほどそう言う事か。


「あ……

 はい……」


「コラコラ。

 喋ってないで連行する人員が来るまでに終わらせるわよ。

 カズ。

 貴方、確か私に借りがあったわよね?」


 何かヘンな事を言い出した(おと)さん。


「う…………」


 マズい事を言いやがってと言わんばかりに言葉を詰まらせるカズさん。


「借りって何ですか?」


 素直な疑問。


「あのね竜司……

 カズが担当していた事件で犯人を取り逃がした事があってね。

 私の電波超傍受(オービット)でメールを傍受して潜伏先や逃走経路なんかも割り出したのよ」


 確か特殊交通警ら隊は一事件に対して担当する竜河岸は一人って言ってたっけ。

 ならカズさんが単独で担当していた事件に(おと)さんが応援に行ったって所か。


「へえ……

 そんな事があったんですね。

 何となくカズさんってソツ無く何でもこなす人だと思ってました」


「う…………

 だってしょうがないじゃ無いかあ……

 現場には遺留品が全く残ってなかったんだからぁ……

 こうなっちゃうと僕の祇園精舎の鐘の音レジデュアル・ヌーマトロニックは役に立たないんだから……」


 確かこのスキルは物の残留思念を読み取るんだ。

 なるほど。

 犯人は狡猾な奴だったのかな?


「そう言う事。

 コイツのスキルは人の持ち物とかから残留思念を読み取るって言う出歯亀スキルなもんだから、現場に遺留品とかが無いと役に立たないのよ」


 出歯亀スキルて。

 いや貴方の電波超傍受(オービット)も大概ですから。

 目くそ鼻くそですから。


「う……

 相変わらず手厳しいなあ(おと)は……

 まあそう言う事。

 それにしてもあの時の電波超傍受(オービット)のタイミングはドンピシャだったね。

 いっつも不思議なんだけどどうやったらあんなにバッチリのタイミングで傍受出来るの?」


「その前に何発か撃ってたでしょ?

 電波超傍受(オービット)って目当ての情報は無くてもその後に繋がる情報は膨大に取得出来るの。

 それらとカズの情報を合わせて精査した結果あのタイミングを弾き出したのよ」


 この精査というのは(おと)さんの受動技能(パッシブスキル)隔離領域(レジオ)を使用したと言う事だろう。

 やはり(おと)さんの凄みはこの受動技能(パッシブスキル)にあると僕は思う。


「タハハ…………

 そ……

 そう……」


 扱われた情報量の多さ。

 そしてそれを精査する事がどれだけ凄いかカズさんは解っている様子だった。


「はいはい。

 これで解ったでしょ?

 あの時の貸しは大きいんだから。

 この際一括で返して貰おうかしら?」


「う……

 解ったよ……

 トホホ……

 代休申請降りるかな……?」


 カズさんも渋々了承。


 何やらシティーハンターの一シーンが想起される。

 シティーハンターって言うのは漫画で主人公冴羽遼(さえばりょう)が美人女刑事の冴子に貸しを作りまくって、それを一括で返せだの返せないだのやっていた。


 その貸しっていうのが具体的に何なのかは読んでいた当時は解らなかった。

 だって僕はまだ子供だもん。


 渋々カズさんは(おと)さんと二人で拘束衣を(なずみ)に着せ始める。

 ゴワゴワしてる為、少し苦労してる模様。


「所でカズ…………

 貴方の盛者必衰の理を顕すインビジブル・ハンドカフスって眠らせる事なんて出来たの?

 確か前に聞いた話だと脳の運動野を支配するスキルじゃ無かったっけ?」


「眠らせると言うよりかは多分意識を落としてるんだと思う。

 電気のブレーカーみたいに。

 脳の動きを強制停止させてるんじゃないかな?

 僕も出来るかどうかは解らなかったんだけどね」


 何やら二人で話している。

 多分カズさんの奥の手の話だろうか。

 運動野を支配とか意識を落とすとか物騒な言葉が飛び交っている。

 特殊交通警ら隊がエリートの集まりと言うのを実感した瞬間だった。


 やがて拘束衣を着せ終わる。

 出来上がったのは犯罪映画とかで出て来る凶悪犯罪者の様な姿のなずみ


 キキィッッ!


 とそこへ乗用車が一台…………

 いや、乗用車じゃない装甲車だ。


 ボディは黒と白のツートンカラー。

 前に桜の大門マーク。

 ここまで来ると解る。

 おそらくこれが兄さんが手配した護送車か。

 続いて二人の陸竜もやってくる。


 ガチャッ

 ガチャッ


 護送車から二人降りて来る。


「オォッッ!?

 (おと)ッッ!?

 やいやいッッ!

 オメーボロボロじゃねぇかっっ!?」


「ゴリさん……

 怠いんですから大声出さないで……

 頭に響く……」


 何だかスッゴク黒い人がのっしのっし降りて来た。

 一言で言うなら巨大な石炭。


 というのも肩幅から腰回りから物凄くガタイが大きい。

 ただスーツの隙間から見える素肌や顔の黒さは父さんの様な不健康な黒さでは無い。

 何かナチュラルな。

 黒色人種(ネグロイド)系な、そんな印象がある。

 知らない人だ。


「…………カズさん……

 誰です?

 この人」


「あぁ、この人は十拳轟吏(とつかごうり)さん。

 特殊交通警ら隊の隊員だよ」


「やーんっ!

 (おと)ちゃん大丈夫~~?」


 もう一人の方はふんわりパーマでほんのりピンク色が入っている。

 ピンクアッシュと言う奴だ。


 服装は……

 確かに女性刑事みたいなスーツではあるのだが……

 何か違う。


 アウターは袖やコージラインのラベルがフリフリとゆったりしてる。

 スカートもブリーツ型みたい。

 丈も短く、白い太腿が露になっている。

 色こそグレーのオフィススーツ色だが形は見た事あるスーツのそれとはかけ離れていた。

 一言で言うならギャル、就職します。

 そんな印象の女性。


「じゃ……

 じゃあ……

 この女性も……?」


「うんそうだよ。

 名前は飴村鞭子(あめむらむちこ)

 彼女もとくし……」


「オラァッッ!!?

 カズゥッッ!

 アタシの名前呼ぶなっつってんだろぉぉっっ!!?

 クソがぁっっ!!」


 ビクン


 カズさんの台詞に被せて、荒げた声をぶつけて来る飴村鞭子(あめむらむちこ)さん。

 その声、台詞は下品そのもの。

 見た目とのギャップが甚だしい。

 突然の事に驚き、身体がビクついた。


「あぁ……

 ゴメンゴメン……

 竜司君……

 彼女は自分の名前が物凄く嫌いでね……

 あの子の事はキャンディって呼んであげて……

 それなら怒鳴られないから……

 まあ自分の名前に便なんて文字が入ってたら嫌いになるのも解るけどね」


 確か(むち)って漢字に便って部分があったっけ。

 鞭の子で鞭子(むちこ)か。

 それにしても酷い名前をつける。


 あの人のヘンにギャルギャルした格好も名前の嫌悪感からの反動じゃ無いだろうか。

 ていうか良くあの格好を許したな兄さん。

 多分あれは改造スーツだな。

 昭和の不良みたいな事をするなあ。


「おぉっっ!?

 カズッッ!

 オメー非番じゃ無かったのかよッッ!?」


 十拳轟吏(とつかごうり)さんが話しかけて来た。


「僕は隊長のお使いですよゴリさん。

 全く代休でも貰わないと割に合わないですよ」


 ゴリさんって言うのは多分この人の愛称。

 轟吏(ごうり)からゴリさんなんだろう。


「ん?

 こんな所に子供が居るぞォッ!

 ボーズッッ!

 刑事に憧れるのも解るが、こんな所に居ちゃ危ないっっ!

 早くお帰りなさい」


 目をギョロリとさせ、遥か頭上から僕を見下ろすゴリさん。

 若干勘違いがあるが、良い人っぽい。

 あと自分の仕事に誇りを持ってそうだ。


「あ……

 いえ……

 あの……」


「ゴリさん、この子が噂の隊長の弟さんだよ」


「ナニィィッッ!!?

 君があの呼炎灼(こえんしゃく)を撃退したって言う弟君かぁっっ!?」


 ゴリさんが驚く。

 頭上から驚嘆の声と唾が大量に振って来る。

 ていうかゴリさんは知ってて何で(おと)さんは知らないんだ。

 情報共有してくれよ兄さん。


「ゴリさんゴリさん。

 ツバツバ……

 ちょっと落ち着いて下さいよ」


「あぁ……

 スマンスマン。

 俺の名は十拳轟吏(とつかごうり)

 ゴリさんと呼んでくれっ!

 よろしくなッッ!」


 ヌッとゴツゴツした真っ黒な右手を差し出すゴリさん。


「あ、よろしくお願いします。

 僕の名前は皇竜司(すめらぎりゅうじ)です」


 握手に応じる僕。


轟吏(ごうり)……

 この子供は誰?】


 と、ここへ一人の陸竜が話に加わって来た。


 その竜の鱗はやわらかい赤紫色。

 いわゆる撫子色(なでしこいろ)と言う奴だ。

 物凄く綺麗。


 そして目を見張ったのはその顔立ち。

 頭にエゾジカの様な立派な二本の角を生やし、鋭くも暖かさを感じる優しい瞳。

 口は竜だからやはり大きいのだが何処か気品を感じる。

 全体的にスッと整ったフォルム。


 多分人間で言う所の美系というやつに該当すると思う。

 この場合は美竜だけど。

 こんなに綺麗な顔をした竜は見た事無い。


「ん?

 やいやいっ!?

 竜司君っっ!

 どうしたそんなボーッとマミーを見つめてっ!」


「いや……

 こんなに綺麗な竜は見た事無いなあって思って」


【フフ……

 名も知らぬ子供よ……

 初対面の女にお世辞で入るのは少し節操が無いんじゃなくて?】


 本心で言ったんだけどな。


「いえ、本当にそう思ったんですよ。

 僕の名前は皇竜司(すめらぎりゅうじ)です。

 よろしくお願いします」


 僕は手を差し出す。

 握手の為だ。


 スッ


 ゆっくりと。

 そして気品の漂う動きで僕の握手に応じたゴリさんの竜。


【竜司……

 よろしく……

 私の名はマミー……

 本名は別であるが、もう捨てた……】


「あっ!

 ポナーナじゃないっ!

 久しぶりーッッ!」


 後ろから暮葉の声。

 振り向くと暮葉が立っていた。


 ん?

 暮葉はマミーと知り合いなのか?

 って何?

 ポナーナって。

 何か凄く可愛い。


【アァッッ!!?

 アルビノォォッッ!!?

 貴方こんな所で何してるのよォォッッ!!?】


 綺麗だったマミーの顔が険しく歪む。

 マミーにはどうやら人型でも暮葉が竜だと判別出来る様だ。

 ガレアは出来なかった。


「私は人間界(こっち)でアイドルやってるのよ。

 まさかポナーナも来てたなんて驚きー」


【アァァアッッッ!!

 アルビニォォォッッッ!

 本名はァッッ!

 本名はやめてぇぇぇっっ!!】


 険しく歪んだ顔を保ちながら必死に暮葉の口を塞ぐマミー。

 えらい取り乱し方。

 焦り過ぎてアルビノがアルビニォになってるし。


「ムググ……

 プハッ!

 何するのよポナーナッッ!」


【だからやめてぇぇっっ!】


 ドタバタとえらい騒ぎ。


【お願いしますアルビノ様。

 どうか私の本名はもう呼ばないで下さい。

 私の事はマミーと呼んで下さい。

 お願いします】


 最終的に土下座したマミー。

 竜にも土下座って文化があったのか?

 いや、違う。

 多分人間界に来て、覚えたのだろう。


「ねえ……

 暮葉……

 何か可哀想になって来たよ……

 この(ひと)の事マミーって呼んであげたら?」


「うん?

 よくわかんないけどマミー?

 でいいの?」


 暮葉は良く解ってない様子でキョトン顔。

 マミーは安堵の表情。


 ゴリさんが言うにはマミーは竜儀の式でやって来た時、周りの反応が僕と同じ感じだったんだって。

 それで有頂天になっちゃって決して本名を名乗らなかったんだ。

 ゴリさんの父親も竜河岸で警官だったからマミーと名付けたんだそうな。


 警視庁に入った竜は刑事ドラマのキャラクター名が付けられるのが慣例とヤマさんが言ってたけどマミーは最初から刑事ドラマのキャラ名が付けられてた稀なケースなんだって。


 でもポナーナの何がいけないんだろう。

 可愛いと思うんだけどな。


「あらんっ!?

 ねーねーカズゥ!

 このカワイイ少年は誰ーっ?」


 今度は飴村(あめむら)さんが絡んで来た。


「この子は隊長の弟さんだよキャンディ」


「初めまして……

 あ……

 飴村(あめむら)さん……

 僕は皇竜司(すめらぎりゅうじ)と言います……

 兄がいつもお世話になっています」


 僕は右手を差し出した。

 握手の為だ。


 ガッッッ!


 僕の予想と反して右手首を掴まれた。


「え…………?」


 グィィィィッッ!


 そのまま強く引き寄せる飴村(あめむら)さん。


 ボヨォンッ!


 見た目以上にボリュームあるバストに僕の顔が埋まる。

 あ、この感じ。

 久しぶり。


 何だ?

 この人何なんだ?


「キャーンッッ!

 タイチョーにこんなカワイイ弟クンがいたなんてーっ!

 知らなかったわぁーっ!

 アタシの名前はキャンディッッ!

 よろしくね竜司きゅんッッ!」


 ギュッッ!


 より一層抱きしめる手に力を込める飴村(あめむら)さん。

 僕の顔が更に深く胸の谷間に沈んで行く。


「モガーーーーッッ!」


 苦しい。

 窒息してしまう。

 この状況を天国だと言う男の人は多いだろう。

 でも僕からしたら全然そんな事は無い。

 ただ苦しいだけだ。


 ここで少し力が緩まる。


「プハッ!」


 ようやく胸の谷間から解放されたと思ったら、真っすぐ射る様な視線で僕を見下ろす飴村(あめむら)さん。

 背筋に戦慄が超速で奔る。


「わかってるわよねぇ……

 竜司きゅん……

 アタシの事、名前部分で呼びやがったら…………………………

 殺すから……」


 ドキン


 心臓が高鳴る。

 視線に殺気を感じたからだ。

 それも猛烈な。

 この人は殺る。

 多分鞭子(むちこ)と呼んだら殺される。


「……………………返事は……?」


 ポツリと一言。

 怖い怖い怖い怖い。


「……………………………………ハイ…………」


 返事するので精一杯。


 パッ


 途端に拘束が解かれ、ようやく解放された。


「よぉ~しっ!

 素直なコはおねーさん好きだぞぉ~~」


 ナデナデ


 僕の頭を優しく撫でる飴村(あめむら)さん。

 この態度の急変が怖い。

 物凄く。


「あの………………

 あ…………

 飴村(あめむら)さんじゃ……

 ダメですか……?

 何かキャンディさんって呼ぶの気恥ずかしいんですけど……」


「ん~~………………

 ギリギリだねっ!

 まあ隊長の弟クンだから大目に見ようっっ!

 その先で呼んだら…………………………

 産まれて来た事、後悔させてあげるからっ!」


 ゾクゥッッ!


 猛烈な寒気が脊髄を遡る。

 怖い。

 何だこの人、凄く怖いんですけど。


【少年よ……

 キャンディは本当にやるぞ……

 死にたくなければ名前の件……

 ゆめゆめ忘れぬ事だ……】


 もう一人の竜が話しかけて来た。

 飴村(あめむら)さんの竜かな?


 鱗は強い黄色がかかった赤。

 樺色(かばいろ)とでも言うのだろうか。


 この竜の顔はつるんとしている。

 角や髪の毛の類は全く生えていない。

 人間で言う所のスキンヘッドなのかな?


 特徴的なのはその眼。

 この竜には瞳が無い。

 いわゆる極端な三白眼。


「あ、よろしくお願いします。

 僕は皇竜司(すめらぎりゅうじ)と言います」


 僕は右手を差し出す。

 すんなり応じてくれた。


【私の名前はデューク……

 こちらこそよろしく願う……

 竜司……】


 何だかカッコイイ。

 カッコイイ竜。

 僕がデュークに抱いた印象はこんな感じだった。


「状況の説明をお願いします」


 ここでマス枝さん登場。


「あ、マス枝さん。

 私が説明します。

 襲撃犯に関しては確保できました。

 即連行したいと思います。

 暮葉さんを狙ってる犯人はグループで四人居ると言うのが解りました。

 今日、ここから先の営業に関してですが出来れば中止して頂きたいのですが如何でしょう?」


 (おと)さんがテキパキと説明。


「それは出来ないわ。

 例え遅れたとしても園児は暮葉が来るのを待っている。

 アイドルたるものファンの期待には全力で答えないといけないの」


 今の状況が見えているのだろうかこの人は。

 辺りは爆撃を受けた様な有様になっているのに営業もクソも無いだろうと思うのだが。


「…………わかりました」


 少し沈黙した後了承した(おと)さん。

 こうなったら仕方が無い。


「あ……

 僕は大丈夫です……

 少し体力は戻って来ましたし」


「私は……

 正直今日は役に立ちそうに無いわね……

 どうしようかしら……?

 あ、カズーッッ!」


 思い立った様にカズさんを呼びつける(おと)さん。


「何だい?

 僕、そろそろおいとましようと思ってたんだけど」


「悪いけど、暮葉さんの警護変わってくれない?」


「え?

 何言ってるの……?

 そんな事したら僕の非番丸潰れじゃん……」


「これで貸し借りの件はチャラにしてあげる。

 代休申請は私がやっておくから頼まれてくれないかしら?」


「ええっっ!?

 そっ……

 それじゃあ僕よりゴリさんかキャンディの方が……

 ホラ……

 僕のスキルって戦闘向きじゃ無いし……」


「やいやいっっ!

 カズゥッ!

 俺が行っても良いが一度戦闘が始まったら被害がシャレにならんぞォッッ!」


 ゴリさんのスキルって一体どんなんなんだろう。


「私もパ~スッッ!

 お昼休みにエステの予約入れちゃってるしィ~~」


 と、飴村(あめむら)さん。

 この人、一体いくつなんだろう。


「…………だ、そうよ……

 カズ……

 諦めなさい」


「……………………ハァ…………

 わかりました……」


 物凄くションボリするカズさん。

 ドンマイ。


 ブロローッッ!


 と、そこへ一台車がやってくる。

 降りてきた人は知らない女性。


(マス枝さーん、車お持ちしましたーっ)


 どうやらユニオンの人らしい。


「マス枝さん、誰ですか?」


「ユニオンの社員よ。

 車がダメになったから代車を持って来て貰ったの」


 事務所付近から来たと考えてえらく早い。

 これが意味する事は何か。

 多分代車の申請は車内で行われた。

 と、なると僕らが(なずみ)とやり合っている間に打診したと言う事。

 本当にこの人の頭の中は暮葉の営業の事しか無いんだな。


 こうして(なずみ)は拘束衣に包まれ、ゴリさんと飴村(あめむら)さんによって連行された。

 (おと)さんは現場に残り、所轄へ連絡。

 山手通りの修復や交通整理などの引継ぎを行うとの事。

 僕らは幼稚園に向かう。


【なあなあゴール爺。

 何かよー

 さっきの奴、ヘンな人間だったぜ。

 手がたくさん生えてやがんの】


【ほうほう。

 そりゃ奇怪な人間じゃのう】


 外ではすっかり元気を取り戻したガレアとフヨフヨ浮かんでいるドックが話している。

 本当にガレアはドックが好きだなあ。


 東京都品川区 第一日野すこやか園


 着いた。

 見れば見る程立派な建物。

 地図アプリで確認するが、住所はここで間違いない様だ。

 それにしても幼稚園にしては分不相応だ。


 と、ここで看板が目に入る。

 そこにはこう書かれていた。


 教育文化会館


「あれ?

 マス枝さん、幼稚園に行くんじゃないんですか?」


「ここは教育系の複合施設なの。

 図書館や文化センター、小学校や保育園とかも併設しているのよ」


 なるほど、そう言う事か。


【なかなか入り組んどる建物じゃのう……

 こりゃいい隅が見つかりそうじゃわい】


 ドックは相変わらず隅っこが好きな様だ。

 目的地の幼稚園はここの四階らしい。


 到着。

 教室を覗くと園児達が綺麗に並んで、保母さんがオルガンを弾いている。


「遅れて申し訳ありませんっ!」


 マス枝さんが中に入り、保母さんに声をかける。

 演奏が止まる。


(あっ、ユニオンさん。

 お待ちしておりましたよ)


「さっそく準備しますので別室へ案内をお願いします」


(ああっ!?

 クレハだっ!)


(クレハちゃーんっっ!)


 園児達がクレハに気付き、瞳を爛々とさせて声をかける。


「フフ……」


 それに笑顔で小さく手を振りながら応える暮葉。


 僕らは別室に移り、暮葉はメイクを始める。

 こんな幼稚園の営業なんかでもきちんとアイドルのクレハになろうとしている。

 こういう所は立派だなあ。


 いや……

 それだけこの幼稚園の営業に力を入れていると言う事か。


「竜司、貴方もこの営業に協力してもらうわよ」


 マス枝さんが妙な事を言い出した。


「協力?

 何をやるんです?」


「正確には貴方の使役してる竜にね。

 出来ればカズさんにもご協力をお願いしたいのですが」


「僕は別に構いませんよ」


 メイクが完了し、僕らは園児の待つ教室へ。


(さぁっ!

 みなさーんっ!

 今日はドラゴンアイドルのクレハさんが来てくれてますよーっ!)


(わーっっ!)


 園児たちが一斉に歓声をあげる。


(今日は竜さんについてのお話です。

 みんなも街で見た事あるよね?

 今たーくさんの竜さんが歩いてるの)


(うんっ

 僕も見た事あるっ!)


(私も私もーっ!)


(フフ……

 じゃあ何で竜さんがやってきたか知ってるかな?)


(んーんーっ

 知らなーいっ)


(僕も知らなーいっ)


(それはね……

 私達が楽しそうに遊んでるのを見てね。

 友達になりたいって来たの)


 おお、当たらずとも遠からじ。

 小さな子へ竜の事を説明するのにこんなに解り易く、明確な言葉があろうか。

 僕は素直に感心してしまった。


(へーっ

 そーなんだーっ!)


 フムフムと園児は興味津々。


(それでね……

 クレハさんも活躍してるアイドルを見て、私もなりたいって来たのよ)


 そう言いながらマス枝さんに目配せする保母さん。

 無言で頷く。


(へーっ!

 じゃあクレハって何で人型なのーっ?)


「私はね、不思議な力を使って竜の形から人の形になってるの」


 ここから暮葉にバトンタッチ。

 園児への配慮だろうか魔力を不思議な力と意訳して話している。


 ここから堰を切った様に質問タイム。

 暮葉の凄い所は全ての質問を聞き洩らさず答えてる所だ。


(ねーねーっ!

 クレハちゃんは恋人いるのーっ!?)


 おませな子からの質問。


「ん?

 いるよ」


 あっけらかんと答える暮葉。

 おい、これマズくないか?


 ビュンッッ!


 と、思ったらマス枝さんが既に動いていた。


「ごめんなさいねぇお嬢ちゃん。

 そういう質問は余りしないでねー」


 ゴゴゴゴゴ


 そんな音が聞こえて来そうな迫力。


(ひっ……!?

 ごっ……

 ごめんなさい……)


 あーあ。

 園児が怖気づいちゃった。

 マス枝さんも大人気ないなあ。

 すぐさま暮葉に耳打ち。


「暮葉……

 いい……?

 ゴニョゴニョ」


「えっ……!?

 何でっ!?

 だって竜司が…………

 ふうん……

 そういうものなんだ……

 わかった」


 多分色恋沙汰の話はNGだみたいな話をしてるのだろう。

 こうして質問タイムは終了。

 続いてお遊戯タイム。

 ここでガレアとドックの出番だ。


「ガレア、悪いんだけどこの子達と遊んであげてくれない?」


【…………………………別に良いけどよ】


 ガレアの頬が赤い。

 こいつガチで小さな子にはすべからく萌える様だ。

 やっぱり(はるか)の時は似非だったからだなあ。

 あの見た目で四十二歳だし。


 まあガレアは大丈夫だ。

 僕はガレアの通訳をしないと。


「カズさんの方はどうです?」


「ん…………

 ドック、園児達と遊んであげてくれない?」


【この若造がぁっ!

 人間の子らと、遊べだとうッッ!!?

 一万八千年生きるワシを愚弄するかぁっ!】


 予想外に息巻き始めたドック。


「あのね……

 ドック……

 いい加減人間界(こっち)の生活に慣れてよ……

 ここで良い顔しとけば思わぬ所で桜餅貰えたりするかも知れないよ」


【ぬう……

 それはまことか……

 しかしカズよ……

 ワシにも竜のプライドと言うものがのう……】


「別に芸を見せろとか言ってる訳じゃないだろ。

 背中に載せてプカプカ浮いてくれるだけで園児達は満足するだろうしさ」


【ムウ……

 まあ……

 それぐらいなら……】


 何が決め手になったか解らないがとりあえず了承したドック。

 何かチョロい。

 ここからお遊戯タイム開始。


 わあわあと園児達が暮葉にガレアにドックにそれぞれ散って行く。


(わーっ

 すっごーいっ!

 プニプニしてるーっ!)


 ガレアの鱗を小さな指でちょいちょい突く園児。


【うひゃひゃ、やめろつっつくな】


(ねーねーっ

 竜さんおっきーねっ

 何でそんなにおっきーのっ?)


「ガレア、何で?」


【俺が知るかよ。

 生まれた時からこうなんだ】


 僕はゆっくりしゃがみ質問した園児に目線を合わせる。


「今ね。

 竜さんは産まれた時からこの大きさだって言ったんだよ」


(おにーちゃん、竜さんの言ってる事解るの?)


 園児がキョトン顔。


「うん、僕と……

 あそこのお兄さんも竜さんとお話出来るんだよ」


 それを聞いた園児達が一斉に歓声を上げる。


(おにーちゃんっっ!

 すっげーっっ!)


(おにーちゃん、すっごーいっっ!)


 これが現在日本での竜河岸の認知度である。

 日本の全人口が一億三千万。

 その中で竜河岸の数は五千人強。

 パーセンテージで表すと0.003%足らずなのである。


 日本の各所で竜河岸は存在し、日本経済などの社会を動かしてはいる。

 だが、この園児の様に竜河岸の存在を知らない人達はまだまだいる。


 暮葉の役割はこういった人達に竜はどういう存在なのか教えると言う意味合いもあるのだろう。

 それなら僕も協力しないと。

 何故なら眠夢(ねむ)さんとの約束で竜と人との懸け橋になる事と言うのがあるからだ。

 と、なると僕に何が出来るだろう。


 あ、そうだ。


「ガレア、亜空間出して」


【ん?

 何すんだ?

 ホラヨ】


 ガレアが出した亜空間の中に手を入れる。

 その様子を不思議そうに見つめる園児達。


 どうだろう。

 一発で出てくれればいいんだけど。

 あ、何か掴んだ。


 一息に取り出す。

 手に持たれていたのはばかうけ。

 良かった。

 ちゃんと出てくれた。


【あっ!?

 竜司ッ!

 何すんだっ!

 それは俺んだぞっっ!】


「わかってるよ。

 落ち着いて。

 さあみんな聞いてくれるかな?

 この竜さんはこのばかうけが大好物なんだよ」


(おにーちゃん、なあにそれー?)


(僕も知らなーい)


 ばかうけは小さい子が食べるお菓子じゃないからなあ。


「これはねお菓子。

 この竜さんはこのお菓子が凄く好きなんだよ。

 みんな一つずつ渡すからあげてごらん」


(わーっ!

 私やってみたいーっ!)


(僕も僕もーっ!)


「じゃあみんな一列に並んでねー」


(はーいっ!)


 みんな素直に並ぶ。

 袋を開けて一つずつ渡していく。


【おいっ!

 竜司っ!

 何勝手にやってんだよっ!

 俺のばかうけだぞっ!】


「だから落ち着けってば。

 ガレア、いい?

 今から小さい子がガレアにばかうけを食べさせてくれるよ。

 ここで注意して欲しいのは間違っても園児の手まで食べないでね」


【ん?

 ん?

 ん?

 何だそりゃ?

 何でそんな事するんだ?

 俺、よくわかんねぇぞ】


「いいからいいから。

 さあみんなばかうけを受け取ったね。

 最初にあげたい子は誰かなー?」


 みんな最初と聞くとやはり緊張するのか。

 モジモジして名乗り上げない。


(………………はいっっっ!

 私やってみたいっっ!)


 と、そこへ手を上げたのは黒髪のストレートヘアーが可愛い女の子。


「フフフ……

 じゃあ包みから出して掌に載せて、手を上げてみようか?」


(うんっ………………

 ドキドキ)


 恐る恐るばかうけを小さな掌に載せて、ガレアに差し出す。


【ん?

 何だ?

 これ食って良いのか?】


「うんいいよ。

 ガレア、あまり素早く動くと女の子ビックリしちゃうからゆっくりね」


【おう】


 のそりとガレアの顔が下がる。

 その様子を緊張しながら真っすぐ見つめる女の子。


 ガブリ


 パリッ

 ポリポリ……


 咀嚼した途端にガレアの顔が綻び出す。


【やっぱ美味えなあばかうけ】


 その綻んだ顔を見てパァッと明るい笑顔になる女の子。


「フフフ……

 すっごく美味しいって言ってるよ」


(わぁーっ!

 竜さん、可愛いーっ!)


 女の子が騒ぎ出す。

 ガレアは美味しいものを食べると言葉が理解出来なくても解るぐらい顔が綻ぶのだ。

 ここもガレアの良い所だと思う。


(いーなーっ!

 僕も僕もーっ!)


(私もーっ!)


 みんなガレアの前に並び出す。

 次々とばかうけをあげていく。

 そして次々食べるガレア。

 場はふれあい動物園さながらになっていた。


(わぁーっ!

 食べた食べたーっ!)


(竜さん、喜んでるーっ!

 可愛いーっ!)


 ばかうけを食べ終わった後はすっかりガレアに懐いてしまった園児達。

 周りに群がっている。


「竜司、貴方なかなかやるじゃない」


 と、ここで後ろにマス枝さん。


「まあ、ガレアは本当に正直で可愛いですからね」


(わーっ!

 たっかーいっ!

 僕、空飛んでるーっ!)


 ドックの背に乗って天井付近をクルクル回ってる園児の声だ。


「君ーっ!

 危ないからあんまり動いちゃ駄目だよーっ!

 ドックーっ!

 落とさない様に注意してねーっ!」


 と、注意を促した矢先



 園児が落ちた。



 テンションが上がって身を乗り出した為だ。

 ヤバい。

 この高さだと怪我をしてしまう。

 助けに行こうとした時。


【ん?

 ホイ】


 素早くドックの長い身体が園児の下に回り、優しく園児を受け止めた。

 そのまま床へ降ろす。


【これ子供。

 いくらワシの背が気持ち良いからと言っても気をつけないと駄目じゃぞ】


(おにーさん、竜さん何て言ったの?)


「気をつけないと危ないよって言ったんだよ」


(うんっ

 ありがとーっ!

 竜さんっ!)


 わんぱくそうな笑顔を見せる男子園児。


「何だいドッグ。

 まんざらでもなさそうじゃない」


 そう言うドックの顔は若干頬に赤み。


【なっ……!

 何を言うとるんじゃあカズゥッ!】


(ねーねー?

 何のお話してるの?

 おにーさん)


「ん?

 その子の笑顔が見れて嬉しそうだねって言ったら照れてるんだよ」


(へーっ!

 竜さんも照れたりするんだーっ!)


 こっちも盛り上がっている。

 何はともあれ大事に至らなくて良かった。


「待て待てーっ!

 捕まえちゃうぞーっ!」


(わーっ!

 みんな逃げろーっ!)


 ドタドタ


 暮葉はと言うと園児を相手に鬼ごっこみたいな事をしている。

 暮葉が本気を出したら一瞬で捕まりそうな気がするけど。

 でも何か捕まらないみたい。


 暮葉が手加減しているのか。

 子供とドタバタするのを楽しんでいるのか。

 良く解らない。


 お遊戯タイムの後はおうたの時間。


(おーきなくりのーきのしたでー♪)


「おーきなくりのーきのしたでー♪」


 保母さんのオルガンに合わせて園児が満面の笑顔で歌っている。

 そして何故か暮葉も満面の笑顔で歌っている。

 しかも声量やテンポもきちんと園児に合わせて。

 アイドル活動で培った技術がこんな所で活かされている。


 最後は暮葉が一曲披露。


「これは次のドームツアーで歌う曲です……

 聞いて気に入ってくれると嬉しいです……

 竜と人が眠る街……」


 静かにタイトルを言って歌い出す暮葉。

 歌詞は人と竜が一緒に暮らし、日々が移ろいで行くと言った内容。

 バラード調でサビはハイトーンで歌い上げる暮葉。

 アカペラにも関わらず凄い迫力。


 やがて曲が終了。


 パチパチパチパチパチ


(クレハちゃーんっ!

 ステキーっ!)


 園児の声援が飛び交う中、大盛況で幼稚園の営業は幕を閉じる。

 でもドームツアーで初お目見えの曲を今歌っても良いのだろうか。

 帰りにマス枝さんに聞いてみると。


「今日は時間に遅れてしまったからね。

 サービスよ」


 だそうな。


 午後のラジオやダンスレッスンも滞りなく進み、ようやく一日終了。

 最後にヘトヘトになっているカズさんが印象的だった。


 出だしは化物と渡り合った大変な一日だったが無事避難所まで戻って来れた。


 帰って来た時はもう深夜だったので誰もおらず、僕はそのまま寝てしまった。


 次の日


 僕は目覚め、起き上がる。

 身体の怠さは薄く残ってる。

 身体をフラつかせながら校庭に出る。


 そこはもうみんな活動していた。

 今日は少し寝過ごしてしまった様だ。


「あ、竜司。

 おはよう」


「おはよう蓮……」


 最初に蓮が挨拶。

 もう炊き出しの配膳は終わっている様子。


「おう竜司、おはよう。

 よう寝とったみたいやのう」


「竜司おはよう」


 そこには(げん)、ベノムと踊七さん、ナナオも集まっている。


「おはよ~……

 ございます……」


 身体の怠さが抜けない為、アンニュイな挨拶をしてしまう僕。


「あ、竜司。

 お腹空いてるでしょう?

 炊き出し取り置いてるから持って来るわね。

 ガレアの分も」


「あ……

 ありがとう……」


 蓮が席を立つ。

 本当に優しいなあ。

 僕はゆっくり地面に腰を下ろす。


「竜司…………

 その様子だと相当苦労したみたいだな……

 笑い事っちゃねぇ……」


「ええ……

 まあ……

 敵はかなりヤバかったですね……

 詳しくはご飯を食べなが…………

 いや、ご飯を食べた後に……」


 食べながら説明しようと思ったが(なずみ)の気持ち悪さ、(おぞ)ましさは相当なものだったので、食べ終わってから説明する事にした。


「竜司、お待たせ」


 蓮が朝食の炊き出しを持って来てくれた。

 メニューはにんにくの芽とニラと豚肉の炒め物、味噌汁、おにぎりだ。

 これはニラレバ炒めみたいなものかな?


「美味しそうだね。

 頂きます」


「フフ……

 召し上がれ。

 ガレアの分もすぐ持って来るわね」


 僕に炊き出しを渡した蓮はまた配給所まで戻って行く。

 甲斐甲斐しい子だなあ。

 やがて大きな紙皿に載せた大量の野菜クズを持って来た。


「ありがとう蓮」


「ガレアの分は温められなくてゴメンね」


 そう言えば炊き出しが暖かい。


【ん?

 何の話だ?

 うまうま……】


 ガレアはそんな事お構いなしに山に噛り付いている。

 僕も頂こう。

 やはり蓮の料理は美味しい。

 疲れた体に栄養が染み渡って行くのが解る。

 食事終了。


「ふう、ご馳走様。

 蓮、美味しかったよ。

 ありがとう」


「それでどうだったんだ?

 暮葉さんを狙ってたやつは」


「あ……

 はい……

 まず敵は四人のグループです……

 だから多分……

 みんなに手伝って貰う事になるかと…………

 思う……」


 正直(なずみ)みたいな(おぞ)ましい怪人みたいなのと僕の大事な友達を対峙させるのは物凄く嫌だった。

 だけど、そうやって僕一人が抱え込むから蓮が泣いてしまうんだ。


 私も危険な目に遭って共有したいもん


 こう言った蓮の心を無駄にしてはいけない。


「ガハハハ。

 ほうかほうか。

 任せとかんかい」


「うん……

 私も協力する……」


「任せとけ竜司」


「多分……

 みんなに協力してもらうのはライブ当日になるかと思う……」


「それで敵の異能というのはどういう風だったんだ?」


「あ……

 はい……

 概ねみんなの予想通りと言った感じで……

 恨みのエネルギーを動力に使用するもの…………

 だけど…………

 その作用が…………」


「ん?

 竜司どうした?」


「いえ…………

 かなり(おぞ)ましくて…………

 まず……

 僕が見たのは大きく分けて二つ……

 身体強化と恨みの力を流し込むものです……

 身体強化に関しては効果は魔力注入(インジェクト)に匹敵します……

 恨みの力を流し込むのは……

 かなりヤバくて……

 体力、魔力を吸い出されます……」


「魔力をか……

 それはかなりヤバいな……」


 ブルッ


 僕は身震いする。

 それは(なずみ)の使用した死肉を使う“じゅにく”と言う術を思い出したからだ。


「あと…………

 これが一番気持ち悪くて(おぞ)ましいんですが…………

 相手は…………

 死体の肉を使って……

 身体の部位を補完、補強、増設が……

 出来ます……」


 それを聞いたみんなは無言。

 唖然としている様だ。


「竜司……

 それガチか……?」


「冗談でこんな事言わないよ(げん)……

 僕が対峙した敵は合計九本の腕を生やしてた…………」


 ブルッ


 次は(げん)が身震い。


「気持ち悪ゥっっ!

 もう人間辞めとるやないかいッッ!」


「竜司……

 ()()を使うと言ったな……

 と、なるとそいつは平然と人殺しをするって事か……

 笑い事っちゃねぇ……」


「先輩……

 そうです…………

 後、(げん)……

 この連中とやり合う時はケンカがどうとか考えないで…………

 二対一だろうと取り押さえる事を第一に考えて欲しい……

 それだけ相手はヤバい……

 僕も特殊交通警ら隊の人とカズさんと三人がかりでようやく捕まえる事が出来たんだから……」


「何っっ!?

 竜司っっ!

 タイマンはアカン言うんかっっ!?」


「うん…………

 お願い……

 (げん)……

 相手は人間じゃない…………

 ()()は化物だ……

 僕は友達が大怪我に逢う所なんて見たくないんだ……」


 僕は懇願する様な目で真っすぐ(げん)を見つめる。


「う…………

 う~~ッッ!

 わかったわいっっ!

 わかったからそんな眼でワイを見んなや」


 どうやら解ってくれた。

 良かった。


「じゃあ僕はまた暮葉の警護に行くよ」


「おう、行って来いや」


「竜司、気をつけてな」


「いってらっしゃい」


 こうして僕はまたユニオン事務所に向かった。


 ガチャ


「おはようございます」


「あら?

 竜司、何しに来たの?」


 そこに居たのはマス枝さんのみ。

 何か書類に目を通している。


「あれ?

 暮葉は?」


「何言ってるの。

 今日はオフよ」


 聞いてない。


「いや……

 聞いてないですけど……」


「あら?

 そう、今日はオフだからお休み。

 わざわざ足を運んでもらって悪いけど帰って貰って良いわ」


 ガクッ


 何だか物凄く力が抜けた。

 何だよ。

 そんな事なら言ってくれよ。


「あ…………

 はい…………

 じゃあ…………

 失礼します……」


 トボトボ僕は事務所を後に。

 さてどうしようか。


 プルルル

 プルルル


 そう考えてた所に電話が入る。

 ディスプレイを確認。


 皇豪輝(すめらぎごうき)


 兄さんだ。

 どうしたんだろう。


「もしもし」


「もしもし竜司か。

 今日お前オフだろ?

 今何処にいる?」


 何で兄さんが知っているんだ。


「今は渋谷だよ。

 暮葉の事務所を出た所。

 今日オフだって知らなくってさ」


「そうか。

 ならお前、今から警視庁まで来るか?」


 突然の提案。


「え?

 何で?」


「今から俺と(おと)(なずみ)の取り調べに向かうんだが、お前も同行するかと思ってな」


 あ、なるほど。

 もしかして敵の術の事が解るかも知れない。


「うん、じゃあ一緒に行くよ。

 前と同じ様に警視庁の下で良い?」


「それで大丈夫だ。

 じゃあ待ってるぞ」


 通話終了。

 さっそく僕はガレアを連れて千代田区へ向かう。

 一度行ったルートだから今回は問題無く到着。


 二度目の警視庁。

 僕は兄さんに電話をかける。


「もしもし、兄さん?

 着いたよ。

 下に居る」


「おう、わかった。

 降りるからちょっと待っててくれ」


「うん」


 少し待っていると黄色系の竜が二人と昨日見た装甲車みたいな車がやって来る。


【あっ弟クン】


 二人の竜がユニゾン。

 ボギーとスニーカーだ。

 二人とも子供っぽい竜だから区別が難しいなあ。


 僕の前で停車。

 助手席から兄さんが顔を出す。


「おう、竜司。

 乗れ」


「う……

 うん……

 ガレア、この車について来てね」


 僕は乗車。


 車体が大きく内部はかなりゆったり…………

 し過ぎていた。


 座席が付いているのは前方二席のみであとはトランクの様になっている。

 確か護送車と言ってこれが来たから、多分僕が載っている所は犯罪者を載せる所なんだろう。

 オイ兄さん。


「竜司、昨日はお疲れさん」


「竜司、おはよう。

 昨日はよく眠れた?」


 運転しているのは(おと)さんだった。

 良かった。

 元気そうだ。


「まあ……

 そこそこには……

 昨日結局警護は夜までありましたし……

 (おと)さんは元気になって良かったですね」


「この仕事やってたらあんな事、日常茶飯事よ」


 と、平然な顔の(おと)さん。


「それよりこの車すげーだろ?

 セキュリコ製の特殊防弾仕様のアーマードランドクルーザーを更に改造した逸品だ。

 外部も全てチタン装甲に張り替えてある」


 誇らし気に兄さんが語る。

 まあ確かに物々しくはある。


「まあそれはそれとして……

 (なずみ)は今何処にいるの?」


「府中刑務所だ。

 いくら術を使うと言っても一般人だからな。

 凶悪犯罪者と同等で扱ってる。

 昨日の内からリッチーが取り調べにかかっていてな。

 後で(つづり)も合流する予定だ」


 昨日は彼氏の方で今日は彼女の方か。


「わかった」


 ブロロロー


 他の車と比べて比較的揺れは少ない。

 だが、兄さん達と違って車体底部にダイレクトに座ってる為、振動がモロに伝わって来る。

 尻が痛い。


 そんな状態で五十分程揺られ、到着。


 府中刑務所


 物凄く大きい施設だ。

 五メートルぐらいの塀が横にずっと続いている。

 大きな門の前で停車。

 門の詰所に居た刑務官に声をかける(おと)さん。


 ゴゴン…………


 ゆっくり。

 ゆっくりと大きな門が開いて行く。

 その物々しさに地獄の門が想起される。


 ■府中刑務所


 東京都府中市にある法務省東京矯正管区に属する日本最大の刑務所。

 敷地面積25万平方メートルを誇り、2500人以上の受刑者を収容可能。


 車のまま中に入る。

 施設の前で停車。

 僕ら三人は車から降りる。


「ん?

 竜司、何やってんだ。

 行くぞ」


「兄さん、まずどこに行くの?」


「総務部だ。

 矯正長に挨拶と面会の手続きだ」


 なるほど。

 ちなみに兄さんの言った矯正長と言うのは府中刑務所のトップらしい。

 施設内に入り、上階へ進む。

 矯正長に軽い挨拶を終え、手続きは滞りなく進む。

 

 お次は下へ向かう。

 エレベーターも付いているのに何で階段で行くんだろう。


「兄さん、何で階段で行くの?」


「ん?

 (なずみ)が勾留されてる場所が階段しか無いんだよ。

 (なずみ)は収容分類S級の凶悪犯罪者だからな。

 特殊独房に収容されている」


 なるほど。

 そんな凶悪な犯罪者がもし逃走した時、上がる経路が一つだけの方が色々好都合と言う事か。

 ちなみに収容分類でS級と言うのは公式には存在しなくて、警察官の間で隠語として使われてる物なんだって。


「僕がこんな事を言うのはアレだけど……

 留置所じゃ無くて直接刑務所なんだね」


(なずみ)はもともと婦女殺害で刑務所送りだった所逃走した奴だからな。

 しかも昨日殺人の罪を重ねている。

 お前も見たんだろ?

 そんな奴、留置所じゃ管理しきれねぇよ」


 な……

 なるほど……

 でいいのかな?


 とりわけ人権に関してうるさい国なのが日本。

 犯罪者だろうと人権保護しようと働く国だ。

 (なずみ)だろうと最低限の人権は保障しようとするのではないか。


 と、なるとおそらく(なずみ)の収容如何に関しては秘密なんだろう。


 府中刑務所 地下三階


 薄暗く静かな廊下を進む。

 響くのは僕らの足跡のみ。

 進むがあるのは四方の壁だけ。

 やがて突き当りの扉に辿り着く。


 ガチャ


 おもむろに扉を開けると、まず眼についたのは長椅子に腰掛け、背もたれに深く背中を預けて天を仰いでいる男性。

 タオルを顔全体にかけている。

 その姿はトレーニングをし終えたボクサーの様。

 ボクサーと形容したのはその男性が痩せていたから。


 側には蒼い鱗をした一人の陸竜。

 ラガーだ。

 と、言う事は……


【あぁっ!

 隊長さんに(おと)さんっ!

 お疲れ様ですっ!

 竜司さんもっ!

 ご無沙汰しておりますっ!】


 ぺこぺこと頭を下げるラガー。

 御無沙汰って言っても一ヶ月ぐらいしか離れて無いんだけどな。

 相変わらず礼儀正しい竜だ。


「おい……

 ラガー……

 静かにしろ…………

 頭に響く…………」


「ラガー、リッチーどうしたんだ?」


【ええ、昨日から何度かスキルをかけようと試みてはいるんですが……

 どうにも苦戦している様で……】


 スキルと言うのは日常茶飯事(おままごと)の事だろうか。

 どう言う事だろう。


「苦戦だと……?

 日常茶飯事(おままごと)はかかってねぇのか?」


「あ~~~…………

 その声は隊長っスか…………

 何かヤツの目を見たら身体の力が抜けてくんすよ……」


「私達と同じ症状ね」


「その声は……

 (おと)のヤロウも来てんのか…………

 あ~~……

 怠リィ…………」


 全くポーズを変えず話を続けるリッチーさん。

 タオルもかけたまま。


「俺はてっきり取り調べは進んでる物だと思っていたが……

 参ったな……

 と、なると(つづり)待ちか……」


 その台詞を聞いた途端、バッと顔のタオルを取ったリッチーさん。


「ちょっと隊長ォッ!

 待って下さいよぉっ!

 このまま終わったら俺のプライドが許さねぇ……

 意地にかけて必ず日常茶飯事(おままごと)はかけてやりますからぁっ!

 ……………………ってぇっ!?

 ウオォッッ!

 ガキィィッッ!

 テメーも来てやがったのかぁっ!」


 僕を見て大声を上げるリッチーさん。


「あ…………

 リッチーさん……

 ご無沙汰してます……」


 とりあえず会釈をする僕。


「クソッッ…………!

 絶対(ぜってー)日常茶飯事(おままごと)かけてやる……」


 ドスン


 また長椅子に腰掛け、顔全体をタオルで覆い天を仰ぎ始めたリッチーさん。


「あ~~~…………

 隊長ォ……

 もうちょい待って下さい…………

 あと少しで回復するんで…………」


「わかった。

 頼んだぞ」


 確か日常茶飯事(おままごと)は対象の警戒心や猜疑心等のネガティブな感情を取り払い、懐柔させられるマインドコントロールスキル。


 多分(つづり)さんが呼ばれたのは吸血(サックブラッド)を使う為だろう。

 これは相手の思考を読む一種のテレパススキル。

 ただマザーの全知全能(オールパーポス)の様に何でもと言う訳では無く、心にトラウマやストレスを感じた事に関してはすぐ読み取れないらしい。

 確か心錠前(コアロック)とか言ってたっけ。


 本間の時は日常茶飯事(おままごと)をかけ、更に吸血(サックブラッド)によって思考を読み取って取り調べをしていた。

 日常茶飯事(おままごと)がかけられなくても、吸血(サックブラッド)があればある程度の取り調べは出来るだろうけど、時間がかかるだろうな。


 待てよ…………

 もし日常茶飯事(おままごと)がかかった場合、(なずみ)の恨みはどうなるのだろう。

 気になる。


 三十分後


「…………よし……」


 タオルをかけたまま微動だにしなかったリッチーさんがポツリと一言。

 勢いよくタオルを取る。


「リッチー、いけるか?」


「ウィッス……

 じゃあ行きます……

 ラガー……

 ありったけ魔力よこしやがれ…………

 これで最後にしてやる…………」


【わかりました……

 リッチー……

 あまり無理はしないで下さいね】


「バカヤロウ…………

 ここで無理しなかったらいつ無理するっつーんだよ……」


 ガチャ


 僕らは別室へ移動。


 中は暗かった。

 明かりをつけると大きなガラスともう一つ扉が見える。

 ガラスの向こうには拘束衣で固められ、舌切り防止の器具と目隠しを付けられた(なずみ)が見える。

 酷い有様。


「行くぞ……

 ラガー……」


【はい】


 扉を開け、(なずみ)が拘束されている部屋へ向かうリッチーさん達。


「隊長ォ……

 俺の声、届いてるっスかぁ……?」


 部屋の隅に備え付けられたスピーカーからリッチーさんの気怠い声が響く。


「大丈夫だ。

 問題無い」


 兄さんが備え付けマイクで話している。


 まず口に付けられた器具を外すリッチーさん。


 嫌らしく(なずみ)の口角が持ち上がる。


「グッッモォ~~ニ~~ン…………

 ケヒャァッ……!

 クソの犬共……

 気分はどうだい……?

 昨日はご苦労だったナァ~~……

 何か俺に仕掛けようとしてたがよォ~~……

 やめてくれよォ~~……

 あんなサマミロ&スカッとサワヤカな気持ちを味わわせるのワァ~~……

 晴れちまうじゃねぇかぁ~~……

 ケヒャヒャヒャヒャヒャァァァッッ!!!」


 下卑(げひ)た笑い声がスピーカーから響く。


「…………狂ってるな……」


 ただ一言ポツリと兄さん。


「兄さん。

 今、(なずみ)が言った“晴れる”って言うのは多分“しき”って術の動力源の事だと思う」


「なるほど……

 昨夜のリッチーの失敗している様子を見て、幾分か恨みが晴れたと言う事か……」


「オイコラ……

 チョーシに乗って、勝手な事くっちゃべってんじゃねぇぞ……

 これで終わりにしてやる……

 テメーは俺の隷属となって洗いざらいブチ撒けるんだよ……」


 負けじとリッチーさんも言い返す。


「リッチー、いけるか?

 よろしく頼む」


「りょ~かい…………

 隊長ォ~……」


 気怠い声が聞こえる中、ゆっくりと目隠しを取るリッチーさん。


日常茶飯事(おままごと)ォォォッッ!」


「…………眼刺死(まなざし)……」


 リッチーさんの気合が入った声と一緒に(なずみ)の呟きも載せて聞こえる。


 ガクゥッ!


 力が抜けた様に突然、両膝がガクンと沈むリッチーさん。


「クッッ……

 クッッソォォォッッ!

 ラガァァァァァッッ!

 もっと魔力をよこしやがれェェェッッッ!」


 ググググッッッ!


 両膝に力を込めたのか、ゆっくり。

 ゆっくりと奮い立ち、顔を上げるリッチーさん。


 目を凝らすとラガーから大量の魔力が流れているのが解る。

 と、同時にリッチーさんの身体から魔力が膨大に溢れて出ているのも見える。


 ここで僕の頭に疑問が過る。

 僕らもここで様子を見ているのに何故症状が出ないんだろう。


「兄さん……

 妙だ……」


「竜司、どうした?」


「何で僕らには症状が出ないんだろうって……」


「この攻撃は昨日、お前と(おと)が喰らったものなのか?」


「うん」


「多分マジックミラーのせいじゃないかしら?」


 ここで(おと)さんからの意見。


「マジックミラー?」


「そう。

 中に入れば解るけど、この大きなガラスはマジックミラーなの。

 中からは鏡にしか見えないはずよ」


「なるほど。

 と、なるとあの力を霧散させる術は光の反射で防げるのでしょうか?

 それとも術者が相手を認識しないと駄目なのでしょうか?」


「それはまだわからないわ。

 でもこれが解れば一般警察も動員して網を張る事が出来るかも」


「どう言う事ですか?」


「もしマジックミラーが有効なら、ヘルメットのシールドをマジックミラーに変えたものにすれば良いんだから。

 でも危険な連中には変わりないから大体的には出来ないだろうけど」


 なるほど。

 そう言う事か。


「ん……?

 リッチー、どうした?

 上手くいったのか?」


 中で動きがあったらしい。


「隊長ォォッッ…………!

 ちょっと黙っててくんねぇっスか…………

 もう少しなんスからァァァァァッッ!」


 リッチーさんの叫び声。

 叫び声を上げながらグググと身体を起こし両眼を(なずみ)に向ける。


 ブルッ


 (なずみ)の身体が少し震えた。

 これはもしや…………


「よぉ~~し…………

 (なずみ)ィ…………

 俺が誰だかわかるよなァァァァ~~~……?」


「ア…………

 アウア…………

 リッチー…………

 さん…………」


 グッッ!


 屈みながらグッと力強く右拳を握る。

 勝利を確信したんだ。

 フラッフラになりながら部屋から出て来るリッチーさん。


「隊長ォ~~……

 任務完了っス…………

 今かけた日常茶飯事(おままごと)は今までで一番強力な奴ッスから……

 多分効果は二日ぐらいは持つかと……

 ただ……

 精神をかなり引っ掻き回したので多分2時間ぐらいはまともに喋れねぇと思うっス…………」


「そうか。

 だが、こちらの質問に対して回答は浮かぶんだろ?」


「それは多分問題無いっス…………

 奴のネガティブな感情はほぼほぼ取り払ったはずっスから……」


「なら問題無い。

 (つづり)吸血(サックブラッド)で対応する」


「じゃあ~~……

 そう言う事で~~……

 俺ァ疲れたから八時間程寝かして貰いやす…………

 オラァッッ!

 ガキィィッッ!!」


「ハッッ……!

 ハイィィッッ!」


 急に声を荒げ、僕を呼ぶリッチーさん。

 突然の事に驚いて声を上げる。


「これが“仕事をする”って事だァァァッッ!

 解ったかァァァッッ!?

 ガキィィッッ!」


「ハイィィッッ!

 お疲れ様ですゥゥッッッ!」


「くっくっくっく」


 僕とリッチーさんのやり取りを見て笑っている兄さん。


 バタン


 一人別室へ消えて行ったリッチーさん。


「グォォォォォッ…………!

 ガァァァァァッッ!」


 と、思ったら大きなイビキが聞こえて来た。

 もう寝たのか。


【あぁもうリッチーったら。

 またお腹出して寝てるんじゃないでしょうか……】


 バタン


 続いてラガーも別室へ。

 何だかお母さんみたいだ。


「竜司……

 そうは見えねぇかも知れねぇがな……

 あれでリッチーはお前の事、気に入ってるぞ」


「え……?

 ホント?

 まだ僕の事ガキって呼んでるけど……」


「だってな……

 お前が来てるって解った瞬間リッチーの奴、気合入れやがったからよ。

 呼炎灼(こえんしゃく)の一件でお前に対する見方が少し変わったらしい。

 お前の事は……

 何だろうな……

 ライバルでもあり……

 弟でもあり……

 みたいな複雑な感情を抱いてんじゃねえのか?」


「隊長、そう言えば竜司……

 弟さんも呼炎灼(こえんしゃく)事件に関わったらしいですね」


 (おと)さんがここで話に加わる。


「あぁ関わったもんなんかじゃねぇ。

 竜司が居なかったら呼炎灼(こえんしゃく)は逮捕出来なかった。

 俺の自慢の弟だ」


「やめてよ……

 兄さん……」


 誇らしくもあり、何だか恥ずかしい気もする。


「え…………?」


 (おと)さんが絶句している。


「ん?

 おと、どうした?」


「竜司……

 前に言ってた……

 隊長と副長を倒したって言うのは……」


「あれ?

 お前に言って無かったか?

 そうだぞ。

 呼炎灼(こえんしゃく)を倒したのは竜司だ」


 あっけらかんと言う兄さん。

 だから何で情報共有して無いんだってば。


「ま…………

 まあ…………

 確かに?

 昨日の?

 (なずみ)との戦いぶりを見てたら頷けるけどねっ!

 決して驚いてないわよっ!

 驚いてないんだからっ!」


 何だろう。

 このベタな可愛げのあるツンデレは何だろう。

 疑問系が多いなあ。


「僕だけじゃ無いですよ……

 兄さんが居なかったら取り押さえる事は出来なかったですし……」


 まあ、とにかく解ってくれて良かった。


 四十五分後


 ようやく(つづり)さんがやってくる。


「あらんっ!

 竜司くぅんっ!

 お久しぶりねぇんっ!

 呼炎灼(こえんしゃく)の時は迷惑かけたわぁんっ!

 ムチュッ!」


 来るなり艶っぽい、と言うか脂っこい言葉を僕に投げかけながら投げキッスをする(つづり)さん。

 うん、この痴女は相変わらずだ。


(つづり)……

 アンタ来るなり痴態を晒すのやめなさいよ」


「なあにぃん!?

 (おと)ォ、居たのぉん?

 アンタそんな堅っ苦しい事ばっかり言ってるから彼氏の一人も出来ないのよぉん」


「なぁんですってぇぇっ!!?

 もう一遍言ってみなさいよ!

 この色情魔ァァッッ!」


 (つづり)さんに喰ってかかる(おと)さん。

 こんなに感情的になるのは珍しいな。

 多分この二人は仲悪いんだろう。


「はいはい、そこまでだ」


 顔を突き合わせてた二人の顔を引き剥がす兄さん。


「さっそくで悪いが、(つづり)

 吸血(サックブラッド)を頼む」


「わかったわぁん」


「あと、念のためだが目隠しは取るな。

 奴の術にかかるかも知れんからな。

 首筋の辺りを破って吸ってくれ」


「了解ぃん」


 ガチャ


 そう言って(なずみ)の居る部屋に入る(つづり)さん。

 マジックミラー越しだからよくわからないが、どうやら硬い拘束衣の布が破れない模様。


 あ、ナイフを取り出した。

 多分布を切る気だ。


 切れるのかな?

 アラミド繊維だぞあの拘束衣。


 あ、やっぱり駄目っぽい。

 防弾チョッキとかにも使われる強靭なアラミド繊維。

 一般のナイフなんか通さないみたいだ。


 あ、やり方を変えた。

 (なずみ)の首筋に刃先を突き立てる気だ。

 だがなかなか穴が空かない様だ。


 あ、ナイフの柄を両手で押さえ始めた。

 プルプル震えている。

 やがてナイフをを離し、少しズラしてもう一度。

 遠目で見るが破れた様子は無い。

 一体何をやったんだろう。


 カプ


 そんな事を考えていると(つづり)さんが(なずみ)の首に咬み付いた。

 全く破れてないのに何か不思議。

 一分程血を吸い取った後、素早く顔を離す。


 ブェッッ!


 床に血を吐き出した(つづり)さん。


 ガチャ


 (つづり)さんが帰って来た。


「あ~~~……

 マッズ…………

 ゲロとクソを一緒にこね回して食紅で紅くした様な味だわ…………

 竜司くぅん……

 飲み物持ってなぁい?」


 顔を険しく歪ませながら、身も蓋も無い超下品な言葉を吐き飲み物を要求する(つづり)さん。


「あ……

 いえ……

 すいません……」


(つづり)、ホレ」


 兄さんがミネラルウォーターを投げ渡す。

 本当に用意が良いなあ。


「隊長ォん、ありがと。

 ……んっ……んっ……んっ……

 ハァー……

 ようやく落ち着いたわ」


(つづり)さん……

 何か……

 大丈夫ですか?」


「まあ……

 何とかね……

 今まで一番不味い血だったわ……」


 血に味の良し悪しなんてあるのだろうか。


「所で吸血(サックブラッド)って離れていても大丈夫なんですか?」


「そんなに広くは無いけど、このぐらいなら有効射程よぉん」


「じゃあ始めるぞ。

 (おと)、書記を頼む。

 聞き取りは(つづり)

 吸血(サックブラッド)で得た情報も全て(おと)に伝えてくれ」


「了解です」


「了解ィン」


 こうして(なずみ)の取り調べが始まる。


 全てが明るみになり、僕は絶句した。


 ###


「はい、今日はここまで」


「ねーねーパパー。

 シティー?

 ハンター?

 だったっけ?

 それの貸し借りって一体なーにー?」


 今日結構話したのに聞く所がそこか。


「え……

 あ……

 いや…………

 あの……

 何だったかな……?

 何せ60年前の作品だからねー。

 何だったか覚えてないなー」


 当然僕はもう立派な大人だから知っている。

 そしてその内容が(たつ)にはまだ早い事も。


「なあんだ、ちぇー」


 どうやら好奇心の矛は納めてくれた様だ。


「じゃあ……

 今日も遅い……

 おやすみなさい」

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