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ドラゴンフライ  作者: マサラ
最終章 第一幕 横浜 ドラゴンエラー編
151/284

百五十話 To have grown tense


「やあこんばんは(たつ)


「パパうす」


「今日も始めて行こうかな?」


「パパ、良かったね」


「ん?

 何の話?」


「横浜で解ってくれる人が居て良かったね」


 前回の話の事を言っているのだろう。


「フフ……

 ありがとう(たつ)……

 やっぱりね……

 世間て色んな人が居るんだなあって思ったよ。

 僕を殺したい程憎んでる人も居ればきちんと理解してくれる人もいる……

 本当に世界は広くて人って沢山いるんだなって……

 おっといけない今日も始めて行くよ」


「うん」


 ###


 僕はお爺ちゃんらと共に南区の避難所へ帰って来た。

 やっぱり次元孔ディメンション・クレーターの中に入るのは勇気がいった。

 だって真っ暗闇だもん。


「あっ

 竜司っ

 おかえりっ」


 蓮が笑顔で出迎えてくれた。


「ただいま蓮」


 辺りはさっきとはうって変わって静かになっていた。

 蓮は炊き出し場の片づけをしていて、それが終わった所だった。

 人もまばらで、明るさもさっきの半分……

 いや三分の一だろうか。


【すぴー……

 すぴー……】


 柵に囲まれた中心でルンルが寝息を立てている。

 意外に寝息は普通だ。


「ルンル……

 寝ちゃったの……?」


「ルンルずっと電源になってたから。

 放電量自体は大した事無いんだけど、人間の生活使用レベルまで電圧落とすのが疲れるんだって」


 確か総電量八十ペタワットとか言ってたっけ。

 そんな超膨大な電量からしたら人間で使う電気の量なんかは微々たるものだろう。

 それぐらいしか出せないって言うのはイライラするんだろうな。


「そう、お疲れ様」


「…………ねえ……

 竜司……

 く……

 暮葉は……?」


「ん?

 暮葉は仕事があるから一足先に東京に戻ったよ」


 クルッッ!


 急に勢いよく反対側へ振り向く蓮。

 一体何をしてるんだろう。


(蓮はこの時、竜司に見えない様にガッツポーズしています)


「そ……

 そう……

 ね……

 ねえ少し話をしない?」


「うん、良いけど」


【何だ竜司、お前まだ起きてるのか?

 俺はもう寝るぞー。

 何か眠い……】


「あ、うん。

 寝るのはさっきのスペースだよ。

 場所解る?」


 僕は横浜に留まる気だった。

 何となく帰ったらいけない気がしたから。

 て言うか良いんだよな。

 体育館に僕のスペース用意されてたし。


【うん解らん】


「しょうがないなあガレアは。

 こっちだよついてきて」


 あ、その前にお爺ちゃんに言っておかないと。

 お爺ちゃんと左京さんが亜空間を開いて帰ろうとしている。

 いや、左京さんの方は次元孔ディメンション・クレーターか。


「あ、ちょっと待ってお爺ちゃん」


「ん?

 何じゃ?

 貴様は今の所に帰らんのか?」


 今の所と言うのは西宮の事だろう。


「スメちゃあん、野暮な事は言いっこ無いダニィ。

 ホレ……

 あの娘……」


 左京さんが蓮を指差す。

 右親指を立てるいやらしい指し方。


「ん?

 蓮ちゃんがどうかしたかの?」


「昔ィーっからスメちゃんはこういう事に疎いダニ。

 あの娘から出とる音はの……

 恋する乙女の音ダニィ!

 甘いダニィ!」


「ミタちゃんっ!

 しょうがなかろうっ!

 ワシには超聴覚センシティブ・ヒアリングなんて持ち合わせておらんのじゃっっ!」


「しょーがないダニなあスメちゃんは」


「あ……

 あの僕は横浜に留まろうと思うんだけど……」


「ん?

 横浜に留まるのか……

 簡易的な寝所では疲れも取れまい」


「それはそうなんだけど……

 何となく僕は帰っちゃいけない気がするんだ……」


「フム……

 竜司の気持ちがそう言ってるならワシは構わんが……

 ちょっと待っとれ。

 根津さんに聞いて来る」


(あ、(すめらぎ)さん、リュージ君泊って行くんですか?

 構いませんよ。

 スペースはさっきの所使って下さい)


 段ボールを担いだ男性がやって来た。

 南区に初めて来た時に対応してくれた人だ。

 僕の番組に違和感を感じてくれた人。


 根津さんは爽やかなフラットラインの刈り上げショートカット。

 背は百八十ぐらい。

 世間では背が高いと言われるぐらいの背丈。

 目尻は垂れて何となく犬の印象を受ける。


 ようやく落ち着いてこの人を見る事が出来た。

 何となく今風のオシャレな感じ。

 髪型のせいだろうか。


「そうか。

 根津さん、すまんのう」


(いえいえ、竜河岸の皆さんにはこちらもお世話になってるんですから当然ですよ)


「ありがとうございます。

 何かありましたら遠慮なく仰って下さい。

 お手伝い致します」


(フフフありがとう。

 リュージくんって年若いでしょ?

 それなのにヘンに大人びているねえ)


「そうですかね?」


「フフン……

 根津さんよ……

 これがワシの自慢の孫、竜司じゃよ」


 お爺ちゃんが臆面も無く孫バカを発揮。


「やめてよお爺ちゃん。

 そう言うの孫バカって言うんだぞ」


「バッッ……

 バッカモンッッッ!

 何を言うとるんじゃァッッ!」


 お爺ちゃんの怒声が飛ぶ。

 ビクついてしまう僕。


(フフフ……

 ですよねぇ……)


「ん?

 何がじゃ?

 根津さん」


(いや……

 番組だったら血も涙もない冷徹な殺人鬼の様に言ってて……

 感情なんて無い人なのかな?

 って最初思ってましたから。

 でもやっぱり感情が無い人間が居る訳ないって思いまして……)


「そうじゃよ。

 そんな人間はおる訳が無い。

 竜司だってそこらの中学生と変わらん」


(ええっ!?

 リュージくん中学生なんですかっっ!?)


「ええ……

 中学校は行ってないですけど……

 行ってたら中二ですね」


(それは見えない……

 リュージくん十四の顔立ちじゃ……

 あっ失礼……)


「いえ……

 別に……

 言われ慣れてますので……」


 そうは言いつつそれなりに傷ついてはいた。

 やっぱり魔力注入(インジェクト)の使い過ぎだろうか。


【竜司ー

 何処で寝るんだよー。

 俺もうここで寝るぞー】


 あっ

 いけないガレア置いてきぼりだった。


「あ……

 ガレアがぐずり出したので、寝る所に案内してきます」


(プッ……

 竜ってぐずるんだ。

 僕らからしたら唸り声しか聞こえないから良く解らないけど。

 いってらっしゃい)


「はい、ホラ……

 ガレアこっちだよ」


 僕はガレアの手を引き、引率。

 久しぶりに聞いたな。

 一般人はやっぱり竜の声は聞こえないんだ。

 僕は体育館の僕に設けられたスペース迄戻って来た。


「いいガレア……

 寝ている人も居るから静かにね……

 あとこの区切りは出来るだけ超えない…………」


【ぽへー……

 ぽへー……】


 説明している間に寝てしまった。

 もう面白いイビキを立てている。

 ガレアは寝起きが良いだけでなく寝つきも良いらしい。

 とりあえず僕はそろりそろりと体育館を後にする。


 外に出ると根津さんは何処かへ行っていて、蓮とお爺ちゃんが一緒に居た。

 何か珍しい取り合わせ。


「おう、竜司戻ったか。

 ではワシも退散するとするかの。

 では竜司、蓮ちゃんまた明日の。

 おいカイザァッ!

 戻るぞぉッ!」


「御意」


 黒の王はずっとお爺ちゃんの傍に居たらしい。

 存在感が無くて気が付かなかった。

 黒の王が出した亜空間に入って二人は消えて行った。


「竜司……

 お疲れ……

 ハイこれ」


 蓮が優しく飲み物を差し出す。


「あ……

 お金……」


 僕は財布を取り出そうとする。


「いいわよ。

 このクイーンからの奢りよ。

 有難く飲みなさい…………

 ナンチャッテ……」


「フフ……

 懐かしいね蓮」


 僕は飲み物を受け取る。


 ペコッッ


 ゴクッ


 飲み物のプルタブを空け、飲み物を一口。

 暖かい。

 じんわりと甘い液体が身体に染み渡るのを感じる。

 落ち着くなあ。


「そうね……

 最近ゲーセン行ってないわ……

 腕衰えて無きゃ良いけど……

 また対戦しましょうよ竜司」


「うん。

 でも……

 蓮……

 女の子なんだから格闘ゲームみたいな血生臭いゲームじゃ無しにもっと女の子らしいゲームもやったらどう?」


「何よ~っ

 私だって可愛いゲームぐらいやったりするわよっ!」


「へえどんなの?」


「あ…………

 あさめしまえにゃんことか…………

 ばくばくアニマルとか……」


 古い。

 そしてマイナーだ。


 ■あさめしまえにゃんこ


 1994年にバンプレスト、ザムスから発売されたSFC(スーパーファミコン)のタイトル。

 オセロの様に同じ色のネコで相手のネコをタテ、ヨコ、ナナメに挟み、ジャンケンバトル方式バトルで自分の色のネコにしていく。

 マスが全部埋まった段階で自分のネコの方が多ければ勝ち。


 ■ばくばくアニマル


 1995年にセガから発売した落ち物パズルゲーム。

 セガサターン、ゲームギア、PC版と発売されている。

 決められた種類の餌ブロック、動物ブロックを重ねてブロックを動物が食べ(消す)て連鎖を作っていくゲーム。

 ブロックには餌ブロック、動物ブロックの二種類、それぞれ四つの組み合わせがあり、決められた組み合わせでないと消す事は出来ない。

 こちらは古いゲームではあるがある程度評価されている。

 食べる時の動物がグロテスク。


「うわ……

 すっごい古い……

 二つとも僕らが産まれる前の物だよ……

 ばくばくアニマルはともかくとしても、あさめしまえにゃんこなんて久しぶりに聞いたよ……」


「しょうがないじゃないっっ!

 ママが持ってたんだもんっっ!」


 ()()(あかざ)さんがあさめしまえにゃんこ。

 イメージと違い過ぎる。


「あの……

 蓮……?

 あさめしまえにゃんこって物凄く可愛いゲームだよ……

 あの(あかざ)さんがやるの……?」


 あさめしまえにゃんこ。


 そのゲームはOPから可愛い。

 ちっちゃいネコが踊りながら横に並ぶのだ。

 ゲーム中もカーソルがネコジャラシだったり、終始にゃーにゃー言ってる本当に可愛いゲームなんだ。

 あの粗暴な(あかざ)さんとはかけ離れている。


「ママ……

 無類のネコ好きだもの……

 それのせいかよく相手させられたわ……」


「あ、そう……

 ば……

 ばくばくアニマルならやった事あるから相手出来るよ」


「ホントッ?

 ソフト持ってる?」


「いや、ゲーセンでだよ」


「あれ物凄い古いゲームよ。

 よくゲーセンにあったわね」


「横浜に居た時にね……

 近くに古いゲームを扱うゲーセンがあってね。

 そこで二、三回やったよ」


 ドラゴンエラー前の記憶はほとんど思い出せないのに、こういう事は覚えてるんだよな。

 小学校の時の記憶や友達の名前も忘れてしまっている。

 僕がドラゴンエラーで殺してしまった友達の名前すらも。


 僕がゲームをずっとやっていたからだろうか。

 そんな自分に少し凹む。


「竜司……

 どうしたの……?」


 凹んだ僕を見て少し心配している蓮。


「うん……

 えっと……

 僕って横浜の時の記憶がほとんど無いんだよ……

 ドラゴンエラーで………………

 殺してしまった…………

 友達の名前も…………

 それなのに…………

 横浜の時のゲーセンの事は覚えてる自分に少し凹んでね……」


「そう…………

 良く解らないけど……

 ドラゴンエラーに繋がる記憶だけ消す様になっちゃってるのかもね……」


 確か病気で解離性健忘と言うのがあるって言うのを聞いた事がある。

 もしかして僕の横浜時代は心の病気によって思い出せないのかも知れない。

 それでもドラゴンエラーが起きた瞬間は思い出せる。


 最近でこそ吐かなくなったけど、一時期は精神的外傷(トラウマ)になっていた程。

 思い出すだけで吐いていた。

 最近ではドラゴンエラーの墓を見た時とガクの両親が(なぶ)り殺された話を聞いた時ぐらいか。


「そうなのかもね……」


「ねえ……

 横浜での話を聞かせて……」


「うん……」


 僕は話した。

 横浜は竜と竜河岸に対する憎しみで溢れたヘイトシティ(憎しみの街)と化していた事。

 ドラゴンエラーの被爆地は今も荒野になっていた事。


 その荒野の境目に夥しい墓が並んでいた事。

 荒野の中で踊七さん達と知り合った事。

 そして踊七さんの恋人の眠夢(ねむ)さん。

 その眠夢(ねむ)さんのご両親もドラゴンエラーの被害に遭った事。


 とりあえずその辺りを話す。

 本当にこんな事では言い足りないぐらい色々な事が横浜であった。


「そう……

 話を聞いてる感じだと、竜司がドラゴンエラーを起こしたって言うの言っちゃったみたいだけど、何で……?」


「どう言う事?」


「だって……

 横浜でそんな事言っちゃったらみんな目の敵にするじゃない……

 それは踊七さんも一緒よ……」


「うん……

 そうだった……

 死にかけたし……」


「し……

 死にかけたって……?」


 僕はドラゴンエラーを起こしたのが自分だと言った瞬間踊七さんが襲い掛かって来た事を告げた。

 本当に踊七さんは強くて、僕も全力で挑まないと渡り合う事は出来なかったことを話した。


「でも今日見た感じだと仲良さそうじゃない……

 それは……?」


「それは条件を飲むならって……

 眠夢(ねむ)さんが赦してくれたから……」


 眠夢(ねむ)さんの出した条件。

 竜河岸と人間が仲良く笑って過ごせる世の中にする為尽力する事。

 過去の事に囚われて自分を卑下したり、歩みを止めたりする事を禁ずる事。

 それらを了承するなら許してくれると言ってくれた事を話す。


「そう……

 良かったわね……」


 そして僕の発案で踊七さんは西宮に引っ越す事になり、今は僕も含めて蘭堂凛子さんの家に厄介になってる事を話した。


「そ……

 その蘭堂凛子さん……?

 家に五人もやって来て迷惑じゃ無いの?

 そこに竜司と竜二人も加わるんでしょ?」


「あ、それは大丈夫。

 凛子さんの家、豪邸だから」


「豪邸って言っても八人よ八人」


「僕が旅で見た中でも三本の指に入る程の豪邸だよ。

 海外からもお客さんが来るらしくて、僕らが居候しててもまだ部屋余ってるんだもん」


 本当に凛子さんの家は大きいんだ。

 ちなみに旅で見た豪邸TOP3は


 一位:駆流の家

 二位:凛子さんの家

 三位:兄さんの静岡のマンション


 こんな感じだ。

 やっぱり一位は駆流の家だ。

 宗次さんが何て言ったって世界的に有名なレーサーだし。

 三位は兄さんの静岡のマンションだ。

 やはり億ションだけあって馬鹿みたいに広い。


「なら良いけど……

 それで……

 ドラゴンエラーについては決着ついた……?」


 これが本題だ。

 どうしよう。

 言おうかな?


 でも少なからずショックを受けるだろうなあ。

 爆心地である中区の人々を前に告白した事を言ったら。

 でも、蓮も僕を心配してくれて言ってくれてるんだ。

 キチンと言わないと。


「う……

 うん……

 西宮の図書館であるお坊さんの話を読んで……

 それに倣おうと……」


「お坊さん?」


「うん……

 インドにね……

 アングリマーラって言うんだけど……

 意味は指の首飾り……

 この人は百人の人を殺して指を集めて首飾りを作る殺人鬼だったんだ……」


「うわ……

 そ……

 そんな人、本当に居たの……?」


「うん……

 本当に居たらしいよ……

 それでアングリマーラは仏陀に出会って出家するんだよ」


「ふうん……

 でもそんな殺人鬼が出家しただけで世間は認めてくれるものかしら?」


「うん……

 その通りだよ……

 周りは殺人鬼の事しか知らないから石を投げたり……

 棒で叩きのめしたり……

 毎日毎日酷い怪我をして帰って来たそうだよ……」


 それを聞いた蓮は絶句している。


「それでね……

 それを見た仏陀が言ったんだ……

 耐えなさい。

 貴方は今地獄で何万年と受けるであろう罰を受けているのですって……

 それでアングリマーラは耐えたんだ。

 毎日毎日石や棒を受けながら耐えたんだ。

 すると、やがてその姿を見て手を合わせる人が出てきた……

 そう言う話……」


「竜司……

 倣ったって……

 まさか……」


「うん……

 だから僕は…………

 一所に横浜の人を集めて……

 ドラゴンエラーの僕が知りうることを全て話したよ……」


 また絶句する蓮。

 しばらく沈黙が続き、やがて蓮が重い口を開く。


「ぶ…………

 無事だったの……?」


 一言。

 ただ一言こう問う蓮。

 それに対して僕はゆっくり首を振る。


「いいや……

 それはもう横浜の人達の怒りは凄まじいものだったよ……

 とにかく石を投げられて……

 角材で叩きのめされて…………

 何回も何回も踏みつけられて……

 死にかけた……」


 それを聞いた蓮は黙っていた。

 長い沈黙。

 気になり、ゆっくりと蓮の顔を見ると


 ツウ


 泣いていた。

 僕はまた蓮を泣かせてしまった。


「…………何でよ……」


 そっと僕の頬に手を合わせる蓮。


「え……?」


「何でいっつもいっつも竜司ばっかりッッッ!

 そんな目に遭わないといけないのよッッ!

 静岡の時もそうだったッッッ!

 あの時も死んじゃうんじゃないかって……

 心配したんだからァッッ……

 うっうっ……」


「ごめんね……

 でもこれを乗り越えないと……

 僕は僕を赦せない……

 でも安心して……

 僕は死ぬつもりで受けた訳じゃないんだ……

 ちゃんと死なない様に作戦を立ててはいたから……」


「そう言う事じゃないでしょぉっっ!!

 うっうっ……」


 僕の言い訳を一蹴する。

 確かにその通りだ。

 そう言う問題じゃない。


「う……

 うん……

 ごめんね……」


「うっ……

 うっ……

 うっ……」


 まだ泣き止まない蓮。

 また心配をかけてしまった。

 これに関しては僕が悪い。


「ご……

 ごめんね……

 蓮……

 でもこの集団私刑(リンチ)を受けて僕はドラゴンエラーについて一歩進んだ気がしたんだ……」


「うっうっ……

 でもっ……

 その度、瀕死の重傷を負ってたらァッ……

 いつか本当に……

 うっうっ……」


 確かに死なない為の作戦を立てていたとしてもいつ事故で死んでしまうか解らない。

 現に今回は踊七さんが起こしてくれなかったら、本当にヤバかったかも知れない。


「うん……

 ゴメン……

 もう言ったから……

 もうこんな事はしない……」


 もう告白は終わった。

 僕の事は電波に乗って横浜中に知れ渡っている事だろう。

 あとは横浜の人が僕をどう判断するかだ。

 全員が全員根津さんみたいな感じでは無いだろう。

 殺したい程憎んでいる人も居るだろう。


「救助……

 続けて……

 大丈夫……?」


「うん……

 僕は……

 横浜の人を助けたい……」


 だけど、僕は横浜の人を助けたかった。

 一人でも多く助けたかった。


「わかった…………

 なら私もサポートする……」


「うん……

 ありがとう……」


 こうして夜は更けていった。



 次の日



 ワイワイガヤガヤ


 騒がしい。

 僕はゆっくり目を覚ます。

 ここはどこだ?


 あぁそうか。

 ここは避難所だ。


 パキパキ


 ゆっくり身体を起こすとパキパキ鳴る。

 ほぼ地べたで寝たのと変わらないからな。


 ギュッ


 僕は右拳を握ってみる。

 よし、もう少しだ。

 体力は八~九割回復と言った所。


(あぁっっ!?

 リュージくんっっ!)


 そこへ根津さんがやってくる。

 何か慌ててる印象。


「おはようございます根津さん」


(おはようじゃないよっ!

 早くッ!

 早く竜を隠してっっ!)


「え?

 え?

 どうしたんですか?

 根津さん」


(市長がやって来てるんだよっっ!

 誰かが密告したんだっっ!

 今は僕の友達が入口で止めているっっ!)


 市長。

 密告って誰かが竜が来ている事を告げ口したって事か。


(隅の荷物の所でこの毛布で覆ってっっ!)


 根津さんは慌てて毛布を差し出す。


「わかりました」


 毛布を受け取り、ガレアを揺り動かす。


【竜司うす】


「ガレアッッ!

 急いでッッ!

 こっちに来てッッ!」


【何だよ竜司。

 起きた途端によう】


 僕はガレアの手を引き、隅の荷物が積まれている所まで連れて行く。


【何だよ竜司。

 こんなとこで何をするんだよ……

 プワッ!】


 バサァッッ!


 返答をする間も無く、ガレアに毛布を被せる。


【何だ何だっっ!

 何だよこの布っ!】


 突然の事にガレアがモガモガ藻搔(もが)いている。


「ごめん……

 ガレア……

 ちょっとだけじっとしていて欲しい…………

 落ち着いたら迎えに来るから……」


【おおっっ!?

 何かアステバンみたいな展開だなッッ!

 確か敵に見つからない様に隠れるって奴だろッッ!?】


 ガレアが言ってるのはアステバン第二十九話“魔空城の秘密を暴け”のエピソードだ。

 おとぼけ賑やかしキャラの味方が敵本拠地の秘密を奪取して逃げるシーンだ。

 良かった。

 狭っ苦しい所はガレア嫌がると思ってたけどアステバンの模倣となると話は別だ。

 ガレアはアステバンオタクなんだから。


「あぁそうだっ!

 コトブキ君っっ!

 君は何としてもそのマイクロチップを私に届けないといけないっっ!

 出来るなっ!?」


 僕も乗っかる。


【はっ!

 司令っ!

 まっかせるべぇっ!】


 当然ガレアも乗っかる。

 このコトブキ君って言うのは作中のギャグ担当で、ヘンな訛った喋り方をする。

 いわゆる水戸黄門で言う所のうっかり八兵衛ポジだ。


 毛布の動きも落ち着き、静かになる。

 良かった。


「根津さん……

 僕も隠れていた方が良いでしょうか?」


(多分……

 リュージくんは顔が割れてるからね……)


「わかりました」


(じゃあ僕は外の様子を見てくるよ)


「はい」


 とはいうものの、市長がどんな様子なのかは気になる。

 どうしよう。

 あ、僕には全方位(オールレンジ)があったんだ。


全方位(オールレンジ)


 すぐにスキル発動。

 ワイヤーフレームが広がる。

 えっと……

 市長は………………



 居た。



 中学校の校門付近だ。

 根津さんの友人が頑張ってくれているらしい。

 お付きの人が十~二十人。

 この非常時に一体何を考えているんだ。

 僕は隠れると言ったけどガレアを置いて移動する。


 全方位(オールレンジ)があるから相手の動きは丸見えだ。

 見つかる事は無い。


 お爺ちゃんは……

 まだ来ていない様だ。


 僕は茂みに隠れて、様子を伺う。

 あ、根津さんが対応に入った。

 何か遠目で揉めている様だ。


 話が聞きたいなあ。

 あ、そうだ。

 僕には魔力注入(インジェクト)があったんだ。

 耳と眼に魔力集中。


(…………だから検査をしたら帰ると言っているだろうっっ!

 そこをどけぇっ!)


(だからアポイントメントも無しに急に来られても対応できないって言ってるんですよっ!)


(貴様では話にならんっっっ!

 山口を出せぇっ!)


(アポも取らないで来てるから区長は居ませんよっっ!)


 山口と言うのは横浜南区の区長の事だろう。

 あ、根津さんが市長を押した。

 いや、押し入ろうとしたのをブロックしただけか。


(ええいっ!

 私に触れるなァッッ!

 この俗物ッッ!

 貴様がこれほどまで拒む理由は解っているぞォッッ!

 竜を匿っているんだろうっっ!)


(い……

 今のこの横浜で竜を匿う人が居る訳が無いじゃないですか……)


(フン……

 貴様ら南区の人間は我々竜排会にいちいち非協力的だ!

 情報も入っているぞ!

 この避難所だけ煌々と明かりが灯っていたとなぁっ!

 他の避難所は蓄電池と発電機を使った乏しい明かりで過ごしているのにも関わらず……

 だっっ!

 インフラが寸断されている状態でなぜそれだけの灯りを確保できているのか……

 答えは簡単だ……

 竜か竜河岸による異能現象だッッ!

 さぁっ!

 早く出せっっ!

 竜を出せっ!)


 市長が根津さんに詰め寄る。

 ルンルが電源になっている事もバレている。


 あっ……


「何じゃ……

 騒々しい……」


 お爺ちゃんの声。

 そして楕円形の穴。

 左京さんの次元孔ディメンション・クレーターだ。

 竜河岸救助隊がやって来てしまった。

 何と間の悪い。


「この凄い剣幕のご婦人は?」


(あっ……

 す……

 (すめらぎ)さん……

 何と間の悪い……)


 うん、根津さんごもっとも。


(またぞろぞろと出てきたな……

 化物共ッッ!)


(こちらの方は横浜市長です……)


「おうおうそれはそれは……

 お初にお目にかかる。

 わしは竜河岸組合の相談役を担っておる(すめらぎ)と言う者じゃ」


(フン……

 私は横浜市長の林だ。

 即刻横浜から立ち去って貰おう)


 取り付く島もない。


「フン……

 そうはいかんのう。

 我々も子供の使いで来とるわけでは無い。

 みんな今の横浜を憂慮して志願しとるんじゃ。

 貴様の許可なぞ要らん。

 こっちは勝手に救助をさせてもらう」


(この横浜で勝手な事は許さんッッ!)


「フム……

 ならば問おう。

 ここでワシと貴様が言い争っているのと即救助に取りかかり、横浜の道の整備や瓦礫の撤去が進むのとどちらがいい?

 前者を選ぶなら横浜市長を辞任する事をお勧めする」


(ぐっ……

 そっ……

 それはっ……)


「貴様が竜や竜河岸の事をどう思おうと構わん。

 人の上に立つ人間なら我々を利用するぐらいの器量を持たんか」


 さすがお爺ちゃん。

 一歩も引いていない。

 それを聞いた横浜市長は沈黙。


「今回の地震……

 まだ余震の可能性は十分考えられるらしいではないか……

 ならば今の内に救えるだけ救ってはおかんか?」


(…………良いだろう…………

 だが市民に危害を加えた場合は即刻退去してもらうっっ!

 そして貴様らこの避難所以外にたむろする事も禁ずるッッ!

 これが約束できるなら勝手にするがいいっっ!)


「フン……

 こちらは善意でやっておるのに随分じゃのう……

 自衛隊は明日救助に来るそうだ。

 これも貴様が竜河岸を嫌がるのが原因じゃがな……」


 震災発生から丸二日以上。

 恐ろしく遅い。

 あの初動が遅れた阪神大震災ですら当日の昼過ぎには出動していた。


(くっ……

 それもこれも貴様ら竜と竜河岸が人間社会に土足で上がり込んだのが悪いッッ!

 我々の世界に化け物じみた力なぞ持ち込みおってッッ!)


「それは我々人間がどうこう言っても始まらんじゃろう。

 竜が勝手に来おったんじゃ」


(貴様らの存在がどれだけ人間の歴史を狂わせているのが解らんのかぁっ!)


「だからといって貴様は我々竜河岸全員に死ねと言うのか?

 それではドラゴンエラーを起こした者と変わらんでは無いか。

 いや……

 貴様の場合、私怨も含まれているからより邪悪じゃな」


 明らかな挑発。


(なっ……!?

 貴様も愛娘をドラゴンエラーで奪われてみろォッッ!

 私の無念がっっ!

 憤りがっっ!

 解るはずだぁっ!)


 あの市長が見え見えの挑発に乗っかった。

 やはりこの人の中でドラゴンエラーは許す事が出来ないのだろう。


「フン……

 まあ良い……

 ここで話していても平行線じゃ。

 お主はお主で市民を救うために動くが良い。

 我々は神奈川区の救助に向かう」


(フンッッ!

 勝手にしろッッ!)


 そう言い残し市長は去って行った。


 僕は何をしていたんだ。

 どこかあの集団私刑(リンチ)を経た事で赦された気になっていなかったか?

 もちろんそんな気持ちじゃ無かったとは思う……

 思いたい。


 どうしてもあの市長の取り乱し様を見ると自責の念が芽生えてしまう。

 ようやく行った様だ。

 僕は茂みの中から身体を出す。


「お爺ちゃん、おはよう……」


「何じゃ?

 朝にも関わらずその浮かない顔は」


「いや……

 さっきのやり取り見てたからね……」


「見ていたのなら出てくれば良いのに」


「いや……

 あの市長とは面識があるから……」


「会った事があるのか。

 一体何処で?」


 あ、しまった。

 僕はお爺ちゃんに集団私刑(リンチ)の事を言っていない。


「あの……

 その……

 僕……

 横浜の人達にドラゴンエラーの事について話しちゃったんだ……」


 少し驚いた顔をするお爺ちゃん。


「………………そうか……」


 だがすぐに平常の顔に戻り、ただ一言。


「それで……

 一か所に横浜の人を集めて貰う為に市長に会いに行ったんだ」


「……貴様、一体何人の前で言ったんじゃ?」


「…………確か千五百人以上……」


「なっ!?

 貴様ッッ!?

 無事だったのかッッ!?」


 お爺ちゃんが取り乱している。

 僕が今ここに居ると言う事は無事だったって事だと思うんだけどな。

 恨みを持った千五百人以上の人間の前で怨みの元が自分だと告げる事がどう言う結果を招くかを解っているんだろう。


「うん…………

 死にかけた……

 本当に……」


「当たり前じゃあッッ!

 人間とは感情の生物なんじゃぞうっっ!?」


(あぁ、(すめらぎ)さんは番組を見ていないんでしたね。

 リュージくんは赤レンガ倉庫の広場で……

 えっとリュージくん、(すめらぎ)さんに言っても構わないかな?)


 ふいに話に加わった根津さんが尋ねてくる。


「えっ……

 あ、はい……

 僕も(すめらぎ)なんですが……」


「番組?」


(ええ……

 リュージくんが赤レンガ倉庫の広場でドラゴンエラーの事を告白したんです……

 その模様が報道されまして……

 ドラゴンエラーを起こしたのは自分だと……

 自分が竜の逆鱗に触れてしまったのが原因だと……

 そして土下座して謝ってました……

 そして……

 そこから……

 集団私刑(リンチ)が始まりました……)


 お爺ちゃんは黙って聞いていた。


(もうその様子は凄惨で……

 怒った聴衆がリュージくんに襲い掛かって……

 もう滅茶苦茶でした……

 でも、リュージくんはやり返さず、全て受けてました……

 ただの一発もです……

 その番組はリュージくんを血も涙もない鬼畜の悪魔として報道してまして……

 でも僕はその番組に違和感を感じずにはいられませんでした……

 謝りながら抵抗せずに殴られ続けてる悪魔なんて聞いた事無いですからね……)


「そうか……

 根津さん……

 ウチの孫を理解してくれてありがとう……」


 それにしてもどんな番組だったんだろう。

 あの騒然としている中、僕の声が拾えるなんて。

 集音マイクの性能が良いのか。

 殴っている人達にマイクでも仕込んでいたのか。


「それはそうと……

 竜司…………」


 ゴゴゴゴゴゴゴ


 空気が震えている気がする。


「はっ……

 はいぃぃぃっっ!」


 恐怖を感じた僕は直ちに気をつけの姿勢。


「この愚か者ォぉォぉっっっ!!

 そんな愚行をすれば死ぬかも知れんだろうがァァッッ!

 例え魔力注入(インジェクト)が使えたとしても無限では無いのだぞォォッッ!」


 お爺ちゃんには魔力注入(インジェクト)を使って無かった事は黙っておこう。


「う……

 うん……

 いや、はい……

 もうしません……」


「殴り返さなかった事を聞くとどう言う想いで挑んだのかは察するがな……

 それにしても貴様が死んで滋竜や母や兄ィッ!

 もちろんワシもォッッ!

 悲しまんとでも思うとったのかぁっ!!?」


「ヒィィッッ!?」


 怖い。

 物凄い剣幕で怒鳴り散らすお爺ちゃん。

 この後三十分ガミガミとこってり絞られた。

 トホホ。


「竜司、おはよ」


「あ、蓮とルンル。

 おはよ」


 ルンルの出した亜空間から現れる蓮とルンル。


【あらん、竜司ちゃんチャオ】


 挨拶を済ませたルンルはいそいそ横たわっていた柵を立て、自分の身体にコードを巻き始める。


「ルンル……

 何やってんの……?」


【ん?

 電源の準備よん】


 気が付いたら他の人達も伸びたコードを変圧器に繋ぎ出す。

 瞬く間にルンルをグルリと機器が囲む。


【ハーイッ!

 じゃあ行くわよん】


「みなさーんっっ!

 ルンルが放電しまーすっ!

 少し離れて下さーいっ!」


 蓮が叫ぶ。

 周りの人が一歩引く。


 バリィッッ!


 ルンルの鱗から青白い火花が散る。

 放電しているんだ。


 ピトッ


 その放電しているルンルの鱗に手を添える蓮。 


「ルンル……

 ちょっと電圧高い……

 もうちょっと低く」


 蓮が指示。


【あらん。

 強かったかしらん……

 ならこれぐらいでどうかしらァ?】


「うん、OK……

 はーいっ

 みなさーーんっ

 もう使って大丈夫ですーーっっ!」


 蓮の号令を聞き、周りの人がコンセントを繋ぎだす。

 よく見る持ち運びができる円形の奴だ。


 カラカラカラカラ


 コンセントを伸ばしていく。

 更にそこからコンセントを繋いでいく。

 避難所全体に電力が行き渡っている感じがする。


(さあッッ!

 竜ちゃんからピチピチの電気来たから朝の炊き出し作るよーーっっ!

 蓮ちゃーーんッッ!)


「はーいっっ!

 今行きまーーすッッ!」


「れ……

 蓮……

 朝からルンルと一緒に大忙しだね……」


「ううん。

 こんなの災害救助する人たちに比べたら全然平気よっ

 竜司、今日も頑張ってね」


「うん」


 と、そこへ楕円形の真っ暗な穴が空いているのが見える。

 さっき見たのより小さめだ。


「さあ、行くかの」


「お爺ちゃん、何処へ行くの?」


「ん?

 竜司か。

 これから神奈川区に向かうんじゃ」


「もう行くの?

 まだ朝食も食べてないのに」


「いや、我々は斥候じゃよ。

 被害の状況などの確認じゃ。

 もちろん緊急のものがあれば救助するがの」


「僕も行きますッッ!

 連れて行ってくださいッッ!」


「体力は?」


「全快……

 とは言えないけど……

 八~九割は……

 僕の全方位(オールレンジ)なら斥候向きだよ」


 確か昨日お爺ちゃんは全快しろって言っていた。

 連れて行ってくれるだろうか。


 ドキドキ


「……フム……

 確かに全方位(オールレンジ)ならば逃げ遅れた人も探せるか……

 よしついてこい」


 やった。

 僕は次元孔ディメンション・クレーターの穴を潜る。

 三回目だけど慣れないなあ。

 真っ暗闇の中に脚を踏み入れるのは。



 神奈川区



 そこは荒れ果てていた。

 今日は快晴。

 太陽が大地震で破壊し尽くされた神奈川区の街を照らす。


 神奈川区は都会。

 おもちゃ箱をひっくり返した様になっている。

 地割れやアスファルトの破損も酷い。


「フム……

 神奈川区は初めてじゃが……

 思っていたより酷いな……

 第一、第二京浜からか……

 昨日の鶴見区にも繋がるしの……」


「もう救助活動している人が居るダニよ。

 スメちゃん」


 ブィーーンッッ!


(もう少しで救出できますからァッ!

 しっかり気を持ってーーっっ!)


 左京さんが指差す方向にオレンジ色の制服に身を包んだ人達が必死に救助活動を行っている。

 太い角材をチェーンソーで切る音が響く。


「あっ

 いけないっ

 手伝わないとっ!」


「待て竜司。

 貴様は顔が割れておる可能性がある。

 みだりに行ってレスキューの方々を騒がせるやも知れん」


 多分番組の事を言ってるんだろう。


「あ……

 うん……」


 ポン


 誰かが僕の肩に手を置く。


(ここは俺に任せときな……)


 昨日残って救助活動していた人だ。

 名も知らない竜河岸の人。


「あ……

 はい……」


発動(アクティベート)……)


 あ、魔力注入(インジェクト)だ。

 この人も使えるんだな。

 発動後、ゆっくり歩いてレスキュー隊が救助している瓦礫の山に向かう。

 多分あの瓦礫はアパートだったんだろう。


 恐らく二階建てか三階建て。

 その建物が見る影も無く崩れている。

 あ、何か話しかけている。

 レスキューの人達を押しのけて……


 ガラァッ!


 太い角材を片手で持ち上げたっ!


 上に積まれた夥しい瓦礫ごと。

 脇で落ちる瓦礫の音が聞こえる。


 あっレスキューの人が中に入った。



 数十秒後



 中から救助者が担ぎ出された。

 毛布にくるまれている。


 ズズズゥゥンッッ!


 竜河岸の人がゆっくり瓦礫を降ろす。

 そのままレスキュー隊に一瞥もせずこちらに戻って来る。


「ご苦労じゃった」


(はい)


 凄い。

 何がってこの名も知らない竜河岸の人の魔力注入(インジェクト)がだ。

 パワーもさることながら、あれだけ膨大な瓦礫を短い角材に載せて一つも落とさずに浮かせる。

 しかも片手で。


 重量は全く違うが、ああゆうのをサーカスで見た事がある。

 一体どうやって?

 これも人間の慣れだろうか。

 それとも集中(フォーカス)先に秘密があるのだろうか。


「おい竜司、全方位(オールレンジ)で索敵を頼む。

 周りに救助対象が残っているか探れ」


「うん。

 全方位(オールレンジ)


 僕を中心に翠色のワイヤフレームが広がって行く。

 神奈川区の様子はどうだろう。


 あれ?

 ほとんどいない。


 いや……

 いる事はいるが救助対象の周りに動いている人が無数にいる。

 救助対象が一人~三人。

 その周りに人が沢山居る。


 それがひと固まりになっていくつか集落の様に点在している。

 あっ一人が運ばれた。


 それにしても物凄く手際が良い。

 周りで動いている人は全て白点。

 と言う事は一般人だ。

 竜河岸では無い。


 となると人間の力だけで救助していると言う事だ。

 凄い。

 人の力って凄い。

 どんな窮地に陥ってもこうして這い上がる力を持っている。


「ん?

 どうした竜司。

 救助対象が居たのか?」


「いや…………

 居ないんだ……

 いや……

 居る事は居るんだけどもう全員救助に取り掛かっているんだよ」


「ホウ……?

 あの市長の手の者じゃろうか?

 なかなかに優秀じゃのう。

 よしわかった。

 じゃあ本日は道路の瓦礫撤去、車道の整備とするっっ!

 よいかァッ!

 貴様らァッッ!」


(ハイッッ!

 わかりましたぁっ!)


 こうして斥候を終えた僕らは南区に帰還。

 戻ると(げん)達と踊七さん達も来ていた。


「オウ竜司、おはようさん」


「竜司、おはよう」


(げん)、先輩。

 おはよう。

 ナナオさんとベノムもおはよう」


【ウム……

 おはよう……】


 ベノムが無言で僕の方を見る。


「ハッ、ベノムがおはようやって」


 相変わらず(げん)にはベノムが何言っているか解る様だ。


「ナナオさん、すいません。

 こうして救助活動に付き合って貰ってるとぽちぽちと遊ぶ時間も取れないんじゃないですか?」


【ムウ……

 人間の子よ……

 気にする事は無い……

 (マスター)である踊七の意向に沿うと決めておるのだ……

 我は我で勝手にやっておる……

 些かぽちぽちと触れ合えないのは寂しくはあるがな……】


 いつもの仰々しいナナオ。

 と言うか普段は誰に対してもこんな感じなんだろうな。

 そう考えるとやはりぽちぽちと接した時のでちゅまちゅ言葉が一際光る。

 面白い意味で。


「ありがとうございます」


「んで竜司は左京のじーさんらと何処行っとったんや?」


「あ、今日復興作業を行う所の様子を伺いに行ってたんだよ」


「今日はどこやんねや?」


「今日は神奈川区だよ」


「どやった?

 様子の方は」


「うん、救助者はもう居なかったよ。

 もう全員助け出してた」


「そうか。

 やはり言うだけあってあの市長、優秀だな」


 ここで話に加わる踊七さん。


「まあ市長の指示かどうかはわかりませんが、多分あの人数と統率の取れた動きから竜排会の人達じゃないかと」


「リューハイカイ?

 何じゃそら?」


 (げん)がキョトン顔。

 何か新鮮。


「竜を排斥する会。

 略して竜排会。

 NGO団体だよ」


 (げん)が知らないのも無理はない。

 竜排会の活動は主に関東、東海道までらしいから。


「何や胸糞悪い名前やのう。

 何や横浜が竜嫌いになったんはそいつらが原因かい」


「まあ竜や竜河岸のネガティブな情報を拡散したのは竜排会だけど、そもそもの原因はやっぱり僕が起こしたドラゴンエラーだよ……」


「こぉーらっ

 竜司……」


 ジロリと僕を睨む踊七さん。


「わかってますよ先輩。

 別に自分を卑下した訳じゃないので」


 多分睨んだ原因は僕が眠夢(ねむ)さんとの約束を忘れたのではと思ったからだ。

 僕はただ純然とした事実を述べたに過ぎない。


「なら良いけどな」


「皆さーーんっ!

 朝ご飯出来ましたーッッ!

 おにぎりは二つっ!

 おかずは一人一皿でーすっっ!」


 朝食が出来たらしい。


「おっ

 メシやメシ。

 竜司、踊さん行こうや」


(げん)、朝ごはん食べて無いの?」


「ん?

 こういう時は一緒に飯食うもんや。

 同じ釜の飯って言うやろ?」


 確かに。


「なるほどね」


「とは言ったもののちょい遅いから腹減ったわ。

 はよ行こうや」


「うん」


 僕は配膳所へ向かう。

 そこはもう長蛇の列が出来ていた。


(お嬢ちゃんっっ!

 昨日の豚汁作ってたんだってなっ!

 美味かったぜっ!

 ありがとなッッ!)


「フフ。

 ありがとうございます」


 前に並んでいる中年男性が蓮に声をかけている。


(アンタッ!

 こんな若い子に色目使ってんじゃないよっ!

 さっさと食って家の片づけ行って来なっ!)


 配膳所の中から怒声が飛ぶ。

 昨日蓮と話していたおばさんだ。

 どうやら夫婦の様だ。


(なっ……

 何だよっ

 別に色目なんか使ってねえだろ……)


 すごすごと朝食を持って立ち去る中年男性。


「あ、竜司」


「ご飯貰いに来たよ。

 今日もメニューは何?」


「今日はおにぎり二つとツナ白菜、あと余ってたジャガイモで作ったミニ粉ふき芋よ」


 凄い。

 きちんとおかずが出来ている。

 が、このおかずを水気無しで食べるのはしんどいかも。


「二人は食べたらどうするの……?

 モグモグ……」


 僕はおにぎりと粉ふき芋を頬張りながら話しかける。

 この粉ふき芋、単なる塩気だけじゃ無い。

 出汁の風味がする。

 何か味に一工夫加えてるんだろう。

 とても美味しい。

 さすが蓮。


「モグモグ……

 ワイはじーちゃんらと一緒に食うたらすぐ救助行くわ……

 モグモグ……」


「モグモグ……

 俺は今日使う生活用水と飲料水を出したら、救助に合流するよ……

 モグモグ」


 三人とも忙しなく口を咀嚼しながら話している。

 それだけ朝食が美味しいのだ。

 が、同時にどんどん口内から水分が失われて行く。


「ゴホッ……

 ゴホッ……

 み……

 水……」


 しまった。

 粉ふき芋が喉に詰まった。

 死ぬ。


「ん?

 竜司、お前ペットボトル持って来てねえのか……

 笑い事っちゃねぇ奴だな……

 待ってろ……」


 コト


 透明のコップを地面に置く。

 そしてL字の左手が正円を描く。


五行魔法(ウーシン)……

 太極が陰陽に分離し、陰の中で極冷部分が北に移動して、水行を生じる……

 第一顕現……

 水波能売命(ミズハノメノミコト)……」


 コポコポコポコポ


 踊七さんの右手から清水が出て、みるみるうちにコップに注がれる。


「ホレ、これを飲め」


 バッ


「んっ……

 んっ……

 んっ……」


 苦しい僕は地面のコップをひったくり、一息に飲み干す。

 どうやら粉ふき芋は流れて行った。


「助かった……

 先輩……

 前見た時よりも全然威力が無いですね……」


「ンなもん威力調節してるに決まってるだろ。

 笑い事っちゃねぇ」


 あ、なるほど。


「精密な調節が可能なのが水波能売命(ミズハノメノミコト)

 超絶威力の水の竜巻が武美名別命(タケミナワケノミコト)だ。

 こっちは細かい調節が出来ねぇ」


 なるほどなあ。

 確かにガレアに乗って空を飛んでる時もピンポイントで狙撃された。


「な……

 何や……

 何も無いトコから水が出てきよったで……

 手品か?」


 五行魔法(ウーシン)を目の当たりにした(げん)が驚いている。

 あれ?

 でも仲良くなって戻って来た時二人でスキルの話してたと思うんだけど。


(げん)、これは先輩のスキルだよ。

 昨日見て無いの?」


「いや……

 見たけど……

 何や歴史の教科書で載っとるみたいな剣出したからてっきり武器生成系のスキルかと……」


 言ってるのは踊七さんの五行魔法(ウーシン)の第四顕現、伊斯許理度売命(イシコリドメノミコト)だ。

 何で災害現場で武器が必要なんだ。


「ん……?

 瓦礫の撤去で使ったんだよ」


 踊七さんが僕の視線を察して釈明。

 なるほど。


「これが先輩のスキル五行魔法(ウーシン)だよ。

 先輩はスキルで五つの超常現象を起こせるんだ」


 僕は簡単に五行魔法(ウーシン)について説明。


「すご……

 マジでか……

 そんなんスキルの範疇越えとらんか……?」


 確かに。

 兄さんの不平等交換(コンバーション)でも大概だったのに。


「まあな。

 だから俺は魔法(マジック・メソッド)で創ったんだよ。

 …………おっと……」


 僕は驚いて、踊七さんの方を見る。

 踊七さんも僕の視線に気づく。


 この話の流れだと魔法(マジック・メソッド)の事を話さないといけない。

 前に話した通り、僕は出来るだけ魔法(マジック・メソッド)の事は流出させたくない。


 理由は魔法(マジック・メソッド)の技術はそれだけ危険だと言う事。

 あとは僕の気持ち的な問題だ。


 どうしよう。

 言っても良いかな?

 バトルマニアの(げん)の事だから絶対に興味持つ。


 だけど、僕のピンチに(げん)は助けてくれた。

 それに(げん)は頭が良い。

 事情を話せば言い触らす事はしないだろう。

 僕は頷く。


「…………良いのか?」


 て言うか踊七さんは何か魔法(マジック・メソッド)の事を話す時、僕の許可を得ようとするんだ。

 自分が考えた技術なんだから自由にしたら良いとも思う。


魔法(マジック・メソッド)て昨日言うてたやつでっしゃろ?

 あれがスキル名や思てましたわ」


「それだと違和感あるだろ?

 笑い事っちゃねぇ」


「そうですねん。

 剣を出すスキルにしてはけったいな名前やなあ思てましたんや。

 なるほどのう……

 となると言うてはった魔法(マジック・メソッド)っちゅうんは魔力注入(インジェクト)みたいなモンて事か」


「ほう……

 (げん)、お前はなかなか頭が良いな。

 まあそう言う事。

 簡単に言うと魔法(マジック・メソッド)ってのは自分で(ことわり)を設定する技術だ」


(ことわり)……

 ルールって事か……」


「そうだ。

 俺の場合は五行思想に則ったものであったり、竜司の場合は精霊と対話するものであったり」


「ん?

 竜司、お前も魔法(マジック・メソッド)出来んのかい」


「うん、僕の場合は占星装術(アストロ・ギア)神道巫術(シントー)になるよ」


「踊さん、魔法(マジック・メソッド)て複数持てるんでっか?」


「そうみたいだな。

 なにぶん魔法(マジック・メソッド)は使える奴が俺と竜司だけだからな。

 まだまだ検証が足りねえ」


「そんで竜司よ。

 ワレ、何で精霊と話するなんてけったいなんにしたんや?

 何で拳が当たったらどんな奴でもぶっ倒れるとかにせんかったんや?」


「う~ん……

 何だろう……?

 何となく僕にそういう攻撃的なスキルって似合わないって言うか……

 しっくり来ないって言うか……

 精霊と対話出来たら、色々情報貰えたりとかもするし……

 攻撃に使えなくも無かったり…………

 ゴニョゴニョ……

 あ、あと(げん)

 この魔法(マジック・メソッド)って欠点(ネガティブポイント)を設定しないと威力が出ないんだって。

 だから拳が当たったら誰でも倒せるみたいな都合の良いものは出来ないと思うよ」


「何でや!?」


(げん)、それは俺も良く解らん。

 俺の五行魔法(ウーシン)も生成順序があったり太極図描かないと発動しなかったりするし。

 何せ例が少ないからな」


「僕は人間の達成感的なものが関係していると思うけど。

 困難であればあるほど喜びが大きいみたいな」


神道(しんとう)言うとるから多分神道巫術(シントー)って言うのが精霊と対話できるスキルやろ?

 ほんじゃあ占星装術(アストロ・ギア)って何やねん」


 もう精霊と対話するって言う事を受け入れている(げん)

 異能の出る漫画とかアニメみたいだ。


占星装術(アストロ・ギア)で出来るのは予知と回避だよ」


「何や派生スキルもあんのか…………

 って予知やてぇっ!?」


 回避じゃ無くて予知に喰い付いた。

 何か意外。


「う……

 うん……

 ま……

 まあ一応……」


「プッ……

 ククク……」


 踊七さんが笑い出した。


「踊さん、どないしたんでっか?」


「ククク……

 いや……

 まあ確かに()()は予知だわな」


「先輩ッッ!」


「悪い悪い竜司……

 ククク」


「何や二人して気色の悪い……

 そないにキショい予知なんか?」


「いや……

 キショいって言うか……

 ね?」


 僕は占星装術(アストロ・ギア)で行う予知がどの様なものか話した。

 物凄く恥ずかしかった。


 それを聞いたげんはキョトン顔。

 コレも意外な反応。


「な……

 何じゃそら……

 何でそないなめざましテレビみたいなんになっとんねん」


 奇しくも僕と同じ感想。


「それは僕もわかんない……

 何故かこんな感じになっちゃって……」


「いっぺんやってみろや」


 不意の提案。


「え……

 今ここで?」


「そうや」


「う……

 うん……

 まあ別に良いけど……

 全方位(オールレンジ)


 僕を中心に広がるワイヤーフレーム。


「おい、全方位(オールレンジ)ちゃうぞ。

 ワイが見たいんは占星装術(アストロ・ギア)や」


「わかってるよ。

 僕の魔法(マジック・メソッド)はどちらも全方位(オールレンジ)展開済みが条件なんだ」


 パンッッ!


 胡坐をかいた僕は勢いよく両手を合わせる。


黄道大天宮図(ホロスコープ)


 合わせたままで上に観音開き。

 掌上に現れる大星団図。


「おおっ

 何か出よったでぇっ!?」


「これでちょっと待ってて……

 星の言葉が降りてくるから……」


「お……

 おぉ……

 何じゃこら……

 何や学研の付録みたいやのう……」


 マジマジと黄道大天宮図(ホロスコープ)を眺める(げん)

 そうこうしてる内に星の言葉が降りてきた。


「あ……

 キタ……

 ……………………

 今日の貴方はとてもアンラッキーッ!

 大水難の予感がしますぅ~

 貴方の判断が最悪の結果を招くかもぉ~

 ラッキーアイテムはたくさんのテトラポット。

 アンラッキーアイテムはこんがり焼けた食パンですッッ!

 ………………

 …………だそうです」


 何故か敬語になってしまった。


「………………ん?

 終わりか…………?」


 何だか狐に摘ままれた様な顔をしている(げん)


「え……

 ええ……

 まあ……

 はい」


「そんでこれ誰の占いやねん」


対象固定(サブジェクト・ロック)してないから多分僕の事だと……」


「んで何でオカマ口調やねん」


「それは僕も良く解らないんだ……

 これでもマシになったんだよ」


「んで水難とか言うてたけどホンマに起きるんか?」


「さあ…………

 占っても全然出てこなかったアイテムとかもあったりしたし」


「何じゃそら。

 ハッキリせん予知やのう」


 確かにハッキリしない。

 これならめざましテレビ見ていても余り変わらない。

 これは未来と言うのが今の段階でまだ決まって無いからだと思う。


 おそらく世界線の上にはマザーでも観測できない小さな特異点が無数にあって細かい分岐を繰り返して一本の世界線になっているんだろう。

 にしても予知にしては軽いなあ。


「おーいっ!

 食事が済んだ救助隊の面々は集まれーっっ!

 そろそろ出発するぞーーっ!」


 お爺ちゃんの声が響く。

 おっといけない。

 そろそろ行かないと。


「俺は水を出したらすぐに向かう。

 確か神奈川区だったな」


「はい、わかりました」


 僕らはお爺ちゃんの元へ。


「ほいじゃあ今日も張り切って行くダニィ!

 次元孔ディメンション・クレーター……」


 目の前に楕円形の穴が現れる。

 穴の中は相変わらずの真っ暗闇。

 みんな次々と穴に踏み入れて行く。

 やっぱり勇気がいるなあ。


 再び神奈川区に。



 神奈川区



「よし竜司よ、念のためにもう一度全方位(オールレンジ)で周囲を索敵しろ」


「あ、はい。

 全方位(オールレンジ)


 超速展開される緑色のワイヤーフレーム。

 内部を確認。

 うん、大丈夫だ。

 人は一所に固まっている。

 多分避難所か病院だろう。


「うん、大丈夫だよ。

 みんな固まってる」


「よし了解した。

 皆の者ォッ!

 本日は道路の瓦礫撤去ォッ!

 および整備を行うっっ!

 場所は第一、第二京浜ッッ!

 わしの班と御手洗の班に分けるっ!

 久遠寺(くおんじ)はわしの班で作業ッ!

 御手洗の班には後ほど助っ人が来るっ!」


(わ……

 わかったんだな……)


 この言っている久遠寺(くおんじ)って人は救助隊に来た竜河岸の一人。

 スキルが独特で魔力で扱うのは結合エネルギー。

 要するに物と物をくっつける事が出来るんだって。


 何かベックを思い出すスキルだ。

 僕は左京さんと(げん)は左京さんの班。

 後で助っ人が来ると言っていたが誰の事だろう。


 僕らは第二京浜道路の整備を担当。


「あと各班、ラジオを常時つけて地震の情報を流しておくように。

 では行くぞッッ!」


 お爺ちゃんは、竜河岸数組引き連れて第一京浜道路へ向かった。


「はぁい、ワシの班の子らは集まるダニィ」


 僕とガレア、(げん)とベノムは左京さんの元へ。


「左京さん、助っ人って誰ですか?」


「言っても竜司君は知らないダニよう。

 何かスメちゃんが組合経由で連れて来たんダニィ。

 何でも時間系のスキル持ちらしいダニ」


 時間系?

 久我真緒里(こがまおり)さんが頭に浮かぶ。


「時間系ですか。

 珍しいですね」


「世界見渡しても数える程しかおらんダニ。

 日本じゃ一人だけダニ」


 はい、ここで確定。

 助っ人って多分久我真緒里(こがまおり)さんだ。

 でも今は留置所か刑務所のはずだ。


「あの……

 左京さん……

 その助っ人……

 多分知ってる人です……

 でもその人、今刑務所か留置所にいるはずですけど」


「何と!?

 竜司君の知り合いダニか。

 なるほど、司法取引って言ってたのはそれでダニか……

 まあ良いダニィ。

 何やかんやの手続きが完了したら連絡が入るダニ。

 それまで頑張って道路を直すダニィ」


「あ、はい」


 僕らは次元孔ディメンション・クレーターの穴に入り第二京浜に辿り着く。


 そこは戦地の様に荒れ果てていた。

 縦横無尽にひび割れ、乱雑に瓦礫が散乱。

 道路脇には崩れた建物やビルがずっと続いている。

 これを片付けるのは骨だ。


「よし、瓦礫の撤去から取り掛かるダニ。

 ひび割れに関しては助っ人に任せるダニ」


(ハイッッ!)


 元気に返事……したもののどうしよう。

 これ区境まで三キロ程あるぞ。


「ほんじゃあワイ、いっちゃん端っこ行きますわ」


「うむ、(げん)くん頼んだダニ」


「ちょ……

 ちょっと待って待って。

 一体何をするの?」


「ん?

 瓦礫の撤去に決まっとるやろ」


「いや、それは解ってるんだけど……

 段取りとか全然知らないんだけど」


「あぁそうか。

 ワレは瓦礫撤去初めてやったな……

 段取りはこうや」


 (げん)が言うにはまず魔力注入(インジェクト)を使用する。

 主に集中先は両脚両手、あとは臨機応変にだそうな。

 段取りとしてはこう。


 一、第二京浜の端から拠点までポイントポイント毎に竜河岸配置。

 間隔は三百メートルから五百メートル。


 ニ、自分の範囲の瓦礫を一か所に集める。

 集め終わったら拠点の左京さんにメール。


 三、左京さんからの開始メールが来たら、端のポイントから瓦礫を投擲…………



 投擲ッ!!?



「げ……

 (げん)……

 と……

 投擲って……?」


「ん?

 投擲って投げる事や。

 魔力注入(インジェクト)の加減ミスんなや」


 よ……

 要するに竜河岸同士でパスをし合って瓦礫を運ぶって……

 事か。

 バケツリレーみたいに。

 ただ恐ろしく長い。


 出来るのかな?

 まあ一つぐらいなら魔力注入(インジェクト)を使えば取れるかな?

 とりあえずポイントに散らばる僕ら。


 ピリリ


 メールが来る。


 ―――――――――――――――――

 (げん):竜司、瓦礫集め終わったか?


 僕:いやまだ。


 (げん):はよしてとっとと左京のじーさんにメール送れや。


 僕:うん

 ―――――――――――――――――


発動(アクティベート)


 僕は両腕両脚に魔力集中し、魔力注入(インジェクト)発動。


 ヒュンッッ!


 軽い。

 身体の重さをまるで感じない。

 風の様に駆け抜ける僕。

 瞬時に瓦礫の元へ。


 ヒョイッ


 瓦礫を軽々持ち上げる。

 どうしよう。

 後でこれを投げるんだよな。

 なら投げて砕かない方が良いだろう。


 ヒュンッッ!


 僕は両手で瓦礫を抱えながら、移動。

 巨大な瓦礫。

 恐らく七百キロぐらいはあるだろう。

 が、そんな大重量を抱えていても関係無い。

 僕の動きには遜色ない。


 ドズゥンッッ!


 瓦礫を降ろすと、もくもくと砂塵が舞い上がる。

 よし、ここにどんどん集めて行こう。

 僕はテンポ良く瓦礫を集めて行く。


 五分後


 よし、こんな所かな?

 僕の視界にはもう大きな瓦礫は見当たらない。

 僕の側にうず高く瓦礫の山が積まれているからだ。

 もう道には小さな石ころが散らばってるのみ。

 ひび割れはそのままだが。

 よしメールしよう。


 ―――――――――――――――――

 僕:瓦礫を集め終わりました。


 08054687524:了解ダニ。竜司君が最後ダニ。ちんたらやってると日が暮れるダニよ。


 僕:すいません


 08054687524:冗談ダニ。じゃあ始めるダニ


 僕:はい。お願いします。

 ―――――――――――――――――


 そう言えば左京さんとアドレス交換してなかった。

 にしても活字で口癖出さなくても。


 どうしたら良いのかな?

 僕の前のポイントは(げん)だ。

 (げん)が居る方を向いて待ってればいいのかな?


 クル


 僕は(げん)の居る方角を向き、しばらくボーッと待っていた。

 しばし静寂。

 その静寂を破る様に事態は急変。


「え…………?」


 上空から瓦礫がこちらに向かって勢いよく落ちて来る。



 しかも複数。



 無数の巨大な瓦礫が流星の様にこちらに向かって来る。


 え?

 え?

 え?

 ちょっ!

 ちょっと待て!


 どどどどうしようどうしよう。

 これを全部受け止めないと駄目だよな。

 これは堪らん。


 すぐに脳に魔力集中。

 タキサイキア現象を起こす為だ。


 キタ。

 瓦礫がゆっくりになる。

 あ、しまった。

 絶招経発動していないと動きもゆっくりになるんだ。

 案の定手の動きも恐ろしく鈍い。


 ただこのゆっくりな動きはキャッチするタイミングを吟味できる。

 よく見ると瓦礫の位置には差がある。

 そりゃそうだ。

 投げてるのは人間なんだから。


 となるとキャッチする順序を間違えなければ全て取れる…………と思う。

 僕はゆっくり両手を上げ、構える。


 ズンッッ!


 落下の勢いもあり、ずしりと重さが身体中に伝わる。

 が、取れる。

 よし、このまま少し角度をつけて下に降ろす。

 脇に寄せる感じ。


 ズンッ!

 ドスッ!

 ズンッ!

 ドスッ!


 よしよし良い調子。


 ガンッ!


 痛っ!


 僕の頭に瓦礫が当たった。

 受け止めた瓦礫の影に隠れていたから気が付かなかった。

 タキサイキア現象発動中だから痛みがゆっくり身体中に伝播する。


 じわじわゆっくり奔る痛み。

 キツい。

 これはキツい。


 でもまだ降って来る瓦礫。

 あと三分の一ぐらいだ。


 ズンッ!

 ドスッ!

 ズンッ!

 ドスッ!


 これでラスト。


 ズンッ!

 ドスッ!


 よし、OK。

 タキサイキア現象解除。

 うず高く積まれていた瓦礫の山が更に高くなっていた。

 物凄い高さだ。

 天を衝く様に(そび)える。


「ふう…………

 痛……」


 一息ついた所で頭に激痛が奔る。

 安心したら痛み出して来た。

 患部に魔力集中。


魔力注入(インジェクト)


 みるみる内に痛みが引いて行く。


【なー

 竜司ー

 今の何なんだー?

 何か急に空からいっぱい岩が降って来たぞ】


 傍のガレアがキョトン顔で聞いて来る。


「あぁガレアこの岩はね、片付けてるんだよ。

 ほら、ここにいっぱい積まれているだろ」


【これな】


 キョトン顔のまま山を見上げるガレア。


「こんなのがこの大きな道にいっぱい転がってるんだよ。

 こんなのあったら生活できないからね」


【何でこんなのあるんだ?

 昨日いた所にはこんなの無かったじゃねぇか】


 あ、ガレアはいつもの通り解らずついて来てるんだ。

 地震の事は知らないんだろう。


「地震で出来たんだよ」


【地震?

 そんなのあったか?】


 本当にガレアは鋭いのか鈍いのかよくわかんない。


「凛子さんの所じゃ無いよ。

 地震があったのは別の所」


【ふうん】


 まあ納得したのかな?


 あ、そうだ。

 みんなに瓦礫受け取った事を報告しないと。

 あと(げん)にちょっと文句言ってやろう。


 ―――――――――――――――――

 僕:(げん)、ちょっと瓦礫の数多すぎ。


 (げん):(笑)ワレならイケる思たw


 僕:いや思たwじゃ無しに……頭打っちゃったよ。


 (げん):wwwwwwそりゃ悪い事したのう。

 ―――――――――――――――――


 何か爆笑してる。


 ―――――――――――――――――

 僕:本当に無茶し過ぎだよ。


 (げん):まあそう言うなや。ワイもそっち行くから待っとけや。

 ―――――――――――――――――


 (げん)もこちらに来るらしい。

 さて、次はみんなに一斉メールだ。


 ―――――――――――――――――

 僕:(げん)からの瓦礫受け取りました。続いて投げたいと思います。


 08054687524:了解ダニ。


 08048791298:了解

 ―――――――――――――――――


 多分、前者の返信が左京さん。

 後者のが僕の前のポイントの人だろう。


発動(アクティベート)


 僕は両腕に魔力集中。


 ヒョイッッ


 大きな瓦礫を軽々持ち上げる。


 ビュンッッッ!


 空に向かって思い切り投げる。

 瞬時に空へ消えて行った瓦礫。


 しばらく待つ。

 受け取ったのだろうか?

 僕はメールで確認して見る事に。


―――――――――――――――――

 僕:受け取れましたでしょうか?


 08048791298:問題無い。どんどん投げてくれていい。ただ少し強い。もう少し弱めでOK。


 僕:了解

 ―――――――――――――――――


 なるほど。

 多分(げん)が無茶をした訳じゃない。

 あれが普通だったんだ。


「おう竜司」


 そうこうしている内に(げん)がやって来た。


「あ、(げん)


「何しとんねや。

 どんどん投げんかい」


「う……

 うん……」


発動(アクティベート)


 (げん)魔力注入(インジェクト)発動。


 ビュンッッ!


 躊躇いも無く瓦礫を空に思い切り投げる(げん)

 次々と投げて行く。

 僕も負けてられない。


 ビュンッッ!


 僕も遠慮はいらないとばかりにどんどん投げる。

 これ、かなり多いけど大丈夫か?

 まあでも段取りの流れから初めてでは無いんだろう。


 構わずにどんどん投げる。

 (げん)が加わった事によりどんどん瓦礫は無くなっていく。


「ラストォッッ!」


 ビュンッッ!


 (げん)が大きな掛け声と共に最後の瓦礫を投げる。


「ふう……

 終わったね」


「おうご苦労さん」


 ピリリリ


 少し待っているとスマホが鳴る。

 メールだ。


 ―――――――――――――――――

 08048791298:受け取り完了。続いて送って行きます。

 ―――――――――――――――――


 あれだけの瓦礫受け取れたんだ。

 地味に凄い人だな。

 と言うかこの瓦礫リレー拠点に近づけば近づく程キツくないか?


「竜司何しとんねん。

 手伝いに行くで」


「あ、うん」


 あ、そうか。

 終わった人は手伝いもあるからそんな事も無いか。

 僕らは移動する。


 向かった先には僕が積んだよりも更に高い瓦礫の山が聳え立っていた。

 それを言葉を出さずに見上げる僕。


「こ……

 これ……

 全部投げるの……?」


「んなもん当たり前やろ」


(…………よしメール送った。

 君達行くぞー)


「あ……

 はい」


「ヘイッ!

 ほんじゃあやるかぁっ!

 発動(アクティベート)ッッ!」


 (げん)の気合の入った魔力注入(インジェクト)発動。

 僕も続いて発動する。


 ヒョイッッ!


 ビュンッッ!


 瓦礫を持ち上げて、投げる。

 それを繰り返す。

 瞬時に弾幕の様な瓦礫の雨が天高く飛んで行く。


 地味に一緒に投げている竜河岸の人は凄い。

 僕と(げん)があれだけ投げた瓦礫を全て受け取っている。

 今来ている竜河岸が全てこのレベルだと考えると遠慮は無用と言う事だ。


 次々に投げる。

 どんどん投げる。

 投げて投げて投げまくる。


 それはもう一心不乱に。

 余計な事を考えず。

 魔力のコントロールだけ気を使いながら。

 最後の一つ迄投げ尽くした。


(さあスッキリした。

 行こうか君達)


「はい」


「おう」


 僕らは更にポイント移動。

 あと残りは拠点を除くと一つだ。

 すぐにポイントへ辿り着く。


「……あれ?」


 少し様子が違う。

 僕らが投げた瓦礫は受け取…………

 られてないぞ。


 いや、キャッチ出来てるのもあるんだろうけど何かやたら破片が散らばっている。

 そして担当の竜河岸が居ない。

 何処に行ったんだろう。


 ドカーンッッ!


 激しい爆音と共に瓦礫の山が爆散。


「うわっっ!」


(お前らーーっっ!

 もっと加減せんかーーいッッ!)


 何か怒ってる人が瓦礫の山から出て来た。


(あ、ケンさんだったんだ。

 ならあの量はキツかったかな?

 まあでもケンさんの魔力注入(インジェクト)だったら大丈夫でしょ)


 この人が言うにはこのケンさんと言う竜河岸は防御の魔力注入(インジェクト)が秀でてるんだって。


(俺は平気かも知れねぇがまた散らばったじゃねぇかッッ!)


(タハハ……

 まあまあすぐに集めますから)


 散らばった瓦礫を一所に集める。

 えっとここで最後だから後は拠点に送るだけ。

 拠点には誰が居るんだろう。


「ねえ(げん)

 拠点には誰が居るの?」


「あ?

 ンなもん左京のじーさんに決まっとるやろ」


「え……

 ホントに……?」


 僕は側に積まれた超膨大な瓦礫の山を見上げて真偽を確認。

 それ程の量。

 第二京浜から集められた大量の瓦礫。

 これだけの量は特撮ぐらいでしか見た事無い。


「大丈夫なの……?」


「ワレ、左京のじーさんのスキル忘れてへんか?」


 あ、次元孔ディメンション・クレーターか。

 それで何とかすると言うのだろうか。


(おーいっ!

 お前らーっ!

 メール送ったからやるぞーっっ!)


「あ、はい」


「おう。

 ヘヘヘ……

 今度こそ一つでも落としてじーさんに吠え面をかかしたるで」


 何か(げん)のやる気が別方向へ行っている。


 ヒョイッ!

 ビュンッ!

 ヒョイッ!

 ビュンッ!


 どんどん投げる。

 投げて投げて投げまくる。

 さっきよりも更に分厚い瓦礫の弾幕が空に向かって飛んで行く。


 まだまだ瓦礫は残っている。

 更に投げる。

 ガンガン投げる。


 竜河岸四人で行う作業だ。

 テンポ良く瓦礫は減って行く。


「これで最後ですッッッ!」


 最後の瓦礫は僕だ。


 ビュンッッッ!


 思い切り投げる。

 気が付くとあれだけあった大量の瓦礫は無くなっていた。

 後方には第二京浜が真っすぐ伸びている。


(ふう、それじゃあ戻ろうか)


「はい」


「へへへ……

 左京のじーさんはどうなっとるやろ……?

 コブでも作ってへんかな?」


 妙な期待を抱いている(げん)


 僕らが戻るとそこには杖を持ってサングラスをかけた老人が一人立っているだけだった。


「フォッホッホッ。

 みんなご苦労様ダニ」


「あ……

 いえ……

 はい……」


 襲い来る違和感。

 確かに僕らは左京さんが居る方向に投げたはず。

 夥しい量の瓦礫を。


 が、左京さんの周りには一片の瓦礫も無い。


「フォッホッホッ。

 どうしたんダニ?

 竜司君」


「いや……

 かなり大量の瓦礫を投げたはずなんですが……

 一つも無いのが……

 物凄く気持ち悪くて……」


「フォッホッホッ。

 竜司君はいい反応をするダニ。

 あれしきの量、わしの次元孔ディメンション・クレーターがあれば屁のカッパダニ」


「ど……

 どこやったんですか?」


「どこかの海溝ダニ。

 今頃深海に転がってるダニよ」


 次元孔ディメンション・クレーターで海溝に繋げたと言う事か。


「んで左京のじーさん、どうすんねん。

 反対側もやるんか?」


「そうダニなあ。

 とりあえずスメちゃんと話して決めるダニ。

 だから集合場所に戻るダニ」


 左京さんが再び次元孔ディメンション・クレーターを開け、集合場所に戻る。


(ハァッ……

 ハァッ……)


 集合場所に戻ると、お爺ちゃん達はもう戻って来ていた。

 何かへたり込んでいる人がいる。


「お爺ちゃん」


「おお、竜司か」


「あの人、どうしたの?」


「ん?

 久遠寺(くおんじ)か?

 あいつはスキルの使い過ぎじゃ」


(ハァッ……

 ハァッ……

 つ……

 疲れたんだな……

 おにぎりが食べたいんだな……)


 何か裸の大将みたいな喋り方だ。

 そんな事を考えていた時



 大自然の猛威が僕らに襲い来る。



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ



 大きな地鳴り。

 大地が揺れている。

 余震だ。


 僕は身を屈める。



 ゴゴゴゴゴゴゴ



 大きい。

 そして長い。

 しばらく身を伏せた体勢。


【うお。

 地震だ】



 ピンポロンピンポロン



 と、ここでラジオから音。



(緊急地震速報です。

 神奈川県沖で強い揺れを感じました。

 東京都、神奈川県、千葉県、静岡県の方々は強い揺れに警戒して下さい。

 ただいま震度の情報が入りました。

 最大深度六弱です。

 神奈川県横浜市で最大震度六弱を観測しました。

 ………………

 今新しい情報が入りました!

 津波警報!

 津波警報が出ました!

 津波警報が出ているのは神奈川県!

 津波はすぐに来ます!

 予想の高さは七メートル!

 七メートルは人の背丈の四倍以上!

 津波は物凄い力を持っています!

 今すぐに避難をして下さい!

 東日本大震災を思い出して下さい!

 皆さん、可能な限り高い所へ避難して下さい!)



 一瞬、何を言ってるのか判断できなかった。

 が、すぐに身体が総毛立つ。



 津波が来る。


 ###


「はい、今日はここまで」


「パパ……

 津波が来たの……?」


 どうやら(たつ)は津波の怖さは知っているらしい。

 後で聞いたら、授業で東日本大震災の映像を見たそうな。


「うん。

 これが占星装術(アストロ・ギア)の予知だったんだね」


「確か……

 貴方の判断が最悪の結果を招くとか言ってたよね……

 どうなったの……?」


「フフフ。

 (たつ)、予知の良い所って言うのはね回避できる可能性を持たせてくれるって所なんだよ」


「よ……

 よくわかんない……」


「さあさあ今日はもう遅いからおやすみなさい」

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