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ドラゴンフライ  作者: マサラ
最終章 第一幕 横浜 ドラゴンエラー編
150/284

第百四十九話 Life saving

「やあこんばんは(たつ)


「パパうす」


「今日はパパがピンチになった所までだったね」


「うん、何故か(げん)が助けに来てくれたんだよね」


「そうだね。

 じゃあ始めて行くよ……」


 ###


 舞い上がる砂塵の中ではっきり聞いた声は聴き慣れた関西弁。

 僕の親友、鮫島元(さめじまげん)の声だった。


 やがて砂塵が晴れて行く。

 そこに立っていたのは大柄の男。


 テカテカした大きいスカジャンを身に纏い、金髪のリーゼントヘアーが微かに揺れている。

 自信に満ち溢れた両眼が僕を見下ろす。

 間違いない、(げん)だ。


「げ……

 (げん)……?」


「何や驚きくさった顔しよって。

 ワイやワイ。

 危ない所やったのう竜司」


「な……

 何で……?」


 僕は驚き過ぎてきちんと言葉が出なかった。

 僕の問いを聞いた(げん)はニカッと白い歯を見せて笑う。


「多分ワレと同じ理由とちゃうか?」


「お……

 同じ理由……?」


「救助や救助。

 竜司、ワレも逃げ遅れた人助けとったんとちゃうんかい?」


「う……

 うん……

 そうだけど……」


「横浜エライ事になったのう……

 んでバーチャンづてで組合から声かかったから来たんや」


 組合ってお爺ちゃんが言ってたやつかな?

 ようやく頭が働く様になって来た。


「あ……

 ありがとう……

 (げん)……」


「ヘッ……

 竜司、やっぱオノレはワイがおらなあかんのう」


 返す言葉も無い。

 現にもう少しで即死だった訳だし。


「う……

 うん……

 そうだね……

 で……

 でも、何でここに来たの?」


「ここに来たの?

 って何やねん」


「いやだって……

 余りにもベストタイミングじゃない……

 漫画やアニメじゃあるまいし。

 こんな偶然なんてある?」


「あぁそう言う事な。

 それはな、まずこっちに着いたら上空に見慣れたみどりぃ膜が上空にあるやんけ。

 ワイはすぐ解ったわ。

 それがワレの全方位(オールレンジ)やって。

 んでとりあえず竜司と合流しよ思て中心に向かって行ったら、あらそこにでっかい瓦礫に潰されそうな竜司さんがおるではないかっちゅう訳や」


 なるほど。

 そう言う事か。


「それにしても竜司……

 ワレまた強なったんとちゃうか?

 ワイが来た所からここまでニ十キロぐらいあるで?

 そこまで全方位(オールレンジ)届いとったで。

 前に半径五キロぐらい言うてなかったか?」


 そうなんだろうか。

 もしかして占星装術(アストロ・ギア)やら神道巫術(シントー)やらで最近全方位(オールレンジ)使いまくってるせいだろうか。

 でも強くなったって言われるのは嬉しいけど、今の姿を見ると手放しで喜べない。


 僕は魔力の使い過ぎでまだ立てずにいた。


「……強くなったのは嬉しいけど……

 もう立てないからね……

 ハハハ」


「竜司ッッ!

 大丈夫かァッ!!?」


 そこへ踊七さんが駆け寄って来る。


「あ……

 先輩」


「先輩?」


「だからオメェ無理すんなっつってんだろおっ!

 笑い事っちゃねぇッッ!」


 多分かなり心配したんだろう。

 でも余震が来なければ脱出できたんだ。

 これは僕が悪い訳じゃない。


「おい竜司、この(あん)ちゃん誰や?」


「竜司、こいつは?」


 あ、そういえば踊七さんと(げん)は初対面だった。

 何となく最初の発言から水と油の予感。


「あ……

 えっと(げん)……

 この人は僕が横浜で物凄くお世話になった梵踊七(そよぎようしち)さん……」


「ふうん……

 世話になあ……

 まあオノレが先輩言うぐらいやから相当世話になっとんのやろなあ……」


「うん……

 本当に……

 あ、先輩……

 こちらの方は僕の親友……

 鮫島元(さめじまげん)さんです……」


 僕は踊七さんに(げん)を紹介。

 ジロジロ上から下まで眺める踊七さん。


「親友……

 って竜司、こう言っちゃアレだが……

 笑い事っちゃねぇ親友だな……」


 多分(げん)の恰好を見て、僕の親友と言うのに似つかわしくないと言いたいんだろう。


「何や。

 笑い事やないってどう言う意味や」


「そのままの通りの意味だ。

 鮫島元(さめじまげん)さん」


 明らかに挑発の意志が汲み取れる物言い。


「アァンッッッ!!?」


 当然(げん)も反応し、メンチを切る。

 十センチ弱の距離まで凶相を寄せる。

 怖い怖い怖い。


「何だケンカ売ってるのかお前……?」


 だが、踊七さんも全くたじろぐ様子を見せない。

 このカードは興味ある。

 一体どっちが強いのだろうか。


 いやいやそんな事考えてる場合じゃない。

 早く止めないと。


「ちょっ!

 ちょっとっっ!

 二人とも止めてよっっ!

 喧嘩なんか……

 してる……

 場合じゃ……」


 ドシャァ…………


 起き上がって叫んだ段階で僕は前のめりに倒れる。


「竜司ィッ!?」


「竜司っっ!?」


 二人の心配した声がはっきり聞こえる。

 僕は気絶はしてなかった。

 ただ極度の怠さから身体を動かす事も声も出す事も出来なかった。


「魔力の使い過ぎだ……

 全く笑い事っちゃねぇ……」


「どないする?

 ワイらの拠点に一旦運ぶか?」


「拠点?」


「竜河岸救助隊の拠点や。

 南区の避難所に設けとる」


「南区…………

 お前は竜司の事情を知ってるのか?」


「アァッ!?

 竜司の事情ってドラゴンエラーの話かい。

 ンなもん知っとるわ。

 親友ナメんなや」


「その事情を知っててよく横浜市内の避難所に行こうなんて言えるな……

 笑い事っちゃねぇ」


「あぁ、周りの視線なら大丈夫やで。

 左京のじーちゃんが言うとったけど、比較的竜への差別意識は南区はマシなんやって。

 まだ市長の許可下りてへんらしいから見切り発車でワイら来てんねんけどな」


 そうなのか。

 南区にも竜排会の支部はあったはずだが、横浜市全域で竜を差別している訳では無いのか。

 踊七さんの声は聞こえて来ない。

 多分考えているんだろう。


「本当に大丈夫なんだろうな……」


「疑り深いやっちゃなあ。

 他の竜河岸も居んねんから大丈夫に決まっとるやろ」


「なら……

 頼む……」


「お……

 おぉ……

 何や頭なんか下げよって……

 おいベノム亜空間出せや。行先はさっきん所や」


 僕は担がれた。

 誰が担いでるんだろうか。


「ナナオ、ガレアついてこい」


 声の発生源から多分僕を抱えているのは踊七さんだ。

 少し揺れている感覚がする。

 歩いているんだ。

 亜空間に入ったのだろう。


 ワーワー

 ガヤガヤ


 喧騒が聞こえて来る。

 出口が近いんだ。

 陽が射しているのが目を瞑っててもわかる。


(おや?

 鮫島(さめじま)さん?

 その方はどうされました?)


 誰かが話しかけて来た。


「こいつな。

 ワイの親友で救助活動してて力尽きたんや」


(この子……

 もしかしてリュージ……?)


「知っとんのかい」


(ええ……

 この子自分がドラゴンエラーを起こした犯人だって……)


 この話している人が言うには昨日TVで集団私刑(リンチ)の様子が放送されていたそうだ。

 番組の作りとしては僕が残酷で冷酷で非道な悪魔として報道されていたんだって。


 でも、僕が全く手を出さなかった点。

 そして僕がずっと謝り続けていた点。

 それらの点から、番組の作りに違和感を感じていたそうな。


「そんな事あったんか……

 全くこいつ無茶しおってからに……」


(ええ……

 それはもう酷いものでしたよ……

 でも僕はこのリュージ君がドラゴンエラーの様な酷い事件を起こせるとは思えません……

 例え起したとしてもそれは不幸な出来事が重なって起きた事だと僕は思います……)


「へっ兄ちゃん、なかなか解っとるやないけ」


(それにしても竜河岸は凄いですね……

 遠目でも死んだのではないかと言う程の重症でしたよ……

 それが昨日の今日で完治している……

 それにしてもこの子は何で横浜に……?)


「だからさっき言うたやろ?

 救助活動しとったんや」


(いえ……

 それは解ってるんですが……

 あれだけの暴行を受けた土地の救助活動ですよ……

 普通は嫌がるか嫌がらないにしても足は向かないものでしょう……?)


「へっ……

 竜司が()()()()奴やって事や」


(そうですか……

 わかりました……

 とりあえずリュージさんは寝かせて置きましょう。

 まだスペースあったかな……)


 離れて行く足音が聞こえる。


 僕は嬉しかった。

 こうして解ってくれる人がいる事が嬉しかった。

 僕の選んだ事は間違っていなかったんだ。


 ツウ


 僕の両頬が濡れている感覚。

 僕は泣いていた。

 目を閉じて泣いていた。

 (げん)からのツッコミは入らない。

 と言う事は気付いていないらしい。


鮫島(さめじま)さーん、スペース作りましたーっ!

 こちらへどうぞーっっ!)


「おう、こっちや」


「あぁ……」


 少し歩いている。


 ガヤガヤ


 また違った喧騒が聞こえる。


(こちらです。

 どうぞ)


 ゆっくり降ろされている感覚。

 ひやりとした感触が背中に伝わる。

 寝かされたんだ。


「さて……

 とりあえず竜司はこれでええ……

 オイ、オノレはどうすんねん?」


「ん?

 救助活動に戻るに決まってるだろ……

 笑い事っちゃねぇ」


「ワレ、さっきから笑い事や無い笑い事や無いて何やねん」


「口癖だ。

 気にすんな」


「アァッ!?

 ワレ、会った時から思てたけど何か気に喰わんやっちゃなあっ!」


「ほう……

 奇遇だな……

 俺もだ……」


「ワレ、年いくつやねん。

 見た感じ同い年っぽいけど奇遇なんて会話で使う奴見た事あらへんわ」


「君の格好でそんな事は言われたくないな。

 鮫島元(さめじまげん)くん。

 何だ?

 昔のヤンキー気取りか?」


「アァッ!!?

 ホンマにムカつくやっちゃのうッッ!?」


 言い争いながら二人の声が遠ざかって行く。

 二人とも大事な人だから出来れば仲良くして欲しいなあ。


 と、ここで睡魔が襲って来る。

 張りつめていた緊張の糸が解けたのだ。

 僕は今の状況、これからどうするか等を精査する間も無く眠ってしまった。



 数時間後



 僕はゆっくり目を覚ます。


「ここは……」


 目には物凄く高い天井。

 何処かの体育館だろうか。

 僕はゆっくり身体を起こす。


 ワイワイ


 少し話し声が聞こえる。

 周りはいくつも段ボールで区切られたパーテーションがあり、それぞれの区画に子供や夫婦、老人などが座っていた。

 表情は不安そう。

 自宅の事が心配なのだろうか。


 僕は段ボール数枚の上に寝かされた様だ。

 上にはお世辞にも立派とは言えない毛布。

 今は非常時。

 贅沢は言ってられないのだろう。


 明かりはついている。

 インフラがある程度回復したのだろうか。

 僕はゆっくりと立ち上がる。


 フラ


 少しフラつく。

 まだ完全に回復したとは言えない。

 回復状況は七割に届くかと言った所。


【ぽへー……

 ぽへー……】


 寝ているガレアが側で面白いイビキを立てていた。

 しかもガレアの身体は大きいから隣のパーテーションまではみ出ている。

 が、隣の人は何も言わない。

 こちらに振り向こうともしない。

 差別意識が薄いと言っても一般人の反応はこんな感じか。


「ガレア……

 起きて……」


 ユサ


 僕はガレアを揺り動かす。


【ん……?

 ムニャ……

 竜司うす……】


 珍しい。

 あの寝起きの良いガレアが普通の人みたいな起き方をした。

 何故か?

 僕は少し考える。


 多分ガレアは……

 と言うか竜は基本寝ている時に魔力を生成しているんだろう。

 魔力は無尽蔵なエネルギーだから普段暮らしている間も生成されている。

 となると寝ている間は魔力生成が活性化するんだろう。

 そして、ある程度生成された魔力は体内にプールされるんだろう。


 それらを踏まえた上で本題。


 何故ガレアは普段とは違う起き方をしたのか。

 おそらく原因は僕。

 僕が魔力を使い過ぎたんだ。

 プールしていた魔力の減りが(いちじる)しかったか。

 ガレアの体内の魔力生成と消費のバランスが崩れたのかも。

 あくまでも仮説だが、概ねそんな所では無いだろうかと僕は思う。


 周りに見知った人は誰も居ない。

 何か不安になって来る。

 とりあえず外へ出よう。


 僕はガレアを連れて体育館らしき所から出る。


 外は不自然な程明るかった。

 色々な所に付けられた照明が煌々と灯っている。

 祭りか何かを想起させるぐらいの明るさ。

 僕は光に寄って行く羽虫の様にフラフラと明るい場所へ歩いて行く。


「はぁーいっ!

 炊き出しもらってない方おられますかぁーーっ!」


 聞き慣れた女子の声。

 見ると僕の知っている女の子がエプロン姿で給仕をしている。

 そして少し離れた所に見慣れた焦げ茶色の竜。


「あっ

 竜司っ

 起きたのね」


「蓮……

 君も来てたんだ……」


「うん……

 り……

 竜司が横浜に来てたの知ってたし……

 ママづてで話を聞いて……

 あっ!

 豚汁とおにぎりっ!

 食べるっ!?」


 ぐう


 巨大な寸胴に並々と作られた豚汁を見て、腹の虫が鳴る。


(ハッハッハッ!

 何だ蓮ちゃん知り合いかいっ!?)


 後ろに居たおばさんが威勢よく話しかけて来る。


「あっ

 はい、おばさん」


(何だいっ

 蓮ちゃんのイイヒトかいっ!?)


 おばさんがいやらしい笑い方をする。

 普段の僕なら赤面して否定などしていたのだろうが、この時の僕は違った。


「あの……

 貴方は竜河岸や竜が怖くないんですか?」


(アタシャ

 最近横浜に越して来てねえ。

 山形じゃ竜もチラホラ見かけてたから、別に恐怖なんて感じないよっ!

 それに…………

 ホラ)


 おばさんが指差す方向に見えるのは焦げ茶色の竜。

 ルンルだ。


 何か……

 酷い有様。


 コードがグルグル何本も巻かれ、その周りに柵が設けられている。

 そしてそのコードは何やら大きめの機械に繋がっている。

 その機械がコードの本数分ある。

 そしてその機械から更にコードが伸び、更にそこからタコ足の様にコード。


 恐らくルンルは非常用電源扱いされているのだろう。

 となるとあの機械は変圧器か。


「何か……

 凄い状態……」


(あの竜ちゃんのお蔭でこの避難所は暗闇知らずだよっっ!

 全く竜ってのは凄いねぇ!

 こんなに世話になっていて何を恐れる事があるんさねっっ!)


「そ……

 そうですか……」


 この人は僕を見ても反応が無い。

 となると例の放送は見ていないのだろう。


「聞いたわよ竜司……

 救助活動で無理したんですってね……

 全く貴方ったら……」


「う……

 うん……

 ごめん……」


「フフ……

 まあ良いわ。

 今こうしてるんだし。

 さっ

 豚汁とおにぎり食べてっ

 豚汁は私特製なんだからっ」


 おたまを持って可愛くポーズを決める蓮。


「うん……

 頂くよ……

 (げん)達は?」


「まだ戻って来てないわ。

 多分そろそろ帰って来ると思うけど」


 陽は完全に落ち、かなり暗くなっている。

 まだ救助活動やっているのか。

 僕は片手に豚汁。

 片手におにぎりを持って適当な所に座る。


 ぱく


 おにぎりを一口。


 ズズズ


 そして豚汁を一口。

 あぁ美味い。


 十一月の寒い夜にアツアツの豚汁が身体中に染みわたる。

 味噌と出汁の味がハイレベルで合わさり、僕の舌を包む。

 そこに豚肉の脂のコッテリとした味わいが加わって僕の心を至福の気分にさせる。

 思わずにんまりしてしまう程の美味さ。


「どうかしら?

 豚汁のお味は?」


 蓮が話しかけて来る。


「うん、美味しいよ。

 もう炊き出しは良いの?」


「うん、今居る人達は配り終えたから。

 後は(げん)達だけよ……

 所で竜司……

 横浜はどうだった……?」


「うん……

 最初来た時はビックリしたよ……

 周りの人達全員憎しみの眼で見てるから……」


「そんな所でどうしてたの……?」


「ある人と知り合ってね。

 その人に良くしてもらってたんだよ」


 そんな話をしている折、何か()が現れる。

 それは穴と言うには大きいものだった。

 横に大きい。

 トンネルの入り口の様な。


 中は暗い。

 真っ暗闇だ。

 竜の出す亜空間に似ているが、こんなに大きい入口は見た事無い。


「あ、帰って来た」


 ガヤガヤ


 少し話し声が聞こえて来る。


「へえ(よう)さん、あれ魔法(マジック・メソッド)言うんでっか?

 凄いのう」


「いやいや、(げん)魔力注入(インジェクト)の練度も大したもんだ。

 笑い事っちゃねぇ。

 もしかして竜司より強いかもな」


 踊七さんとナナオ、(げん)とベノムを皮切りにありとあらゆる竜と人が出て来る。


「ミタちゃん、まだまだ力は衰えとらんのう」


「ホッホッホッ。

 スメちゃん、何を言うダニ。

 今日の働きぶりは未だ竜極は健在と言う感じダニよ」


 あ、お爺ちゃんと黒の王だ。

 あと……

 隣の……

 サングラスかけたお爺さんは誰だろう。

 隣に紫色の翼竜も居る。

 気持ち疲れてる感じもする。


「こぉーらデメッッ!

 早く来るダニッ!」


(マスター)ァ……

 そんな事言われても僕、魔力吸われ過ぎてヘトヘトなんですからぁ~~】


 竜が泣き言言ってる。

 何か見た事無い。


「おっ?

 (よう)さん、竜司起きとるで」


「ホントだ。

 アイツ……

 別の女の子と一緒かよ……

 笑い事っちゃねぇ」


「あぁ(よう)さん、ちゃいますちゃいます。

 あの子は新崎蓮(しんざきれん)言いましてな。

 竜司の友達……

 あ・く・ま・でもっ!

 友達や……」


(げん)……

 聞こえてるわよ」


 ブスッとした顔で(げん)を睨む蓮。


「二人ともお疲れ様」


「おうお疲れ」


「お疲れさん」


「二人とも……

 何か仲良くなったみたいだね……」


「ん?

 何を言うとんねん。

 最初から仲ええっちゅうねん。

 な?

 (よう)さん」


 ガッ


 力強く踊七さんの肩に手を回す(げん)


「あぁ、もちろんだとも(げん)

 竜司、(げん)はかなり強いだろ?」


 何か出て行った時と雰囲気がガラリと変わっててうまく言葉が出ない僕。


「え……

 ええ……

 まあ」


魔力注入(インジェクト)の練度なんて笑い事っちゃねぇぞ。

 これでまだ習得して半年ぐらいと言うじゃねぇか」


(よう)さん、褒め殺しは頂けまへんで」


「プッ……」


「アーハッハッハッハッーーッッ!」


 何か二人顔を見合わせて、大爆笑。

 僕と蓮を置いてきぼりで。

 何がそんなにおかしいんだ。


【ムウ……

 何がそんなに可笑しいのかさっぱりわからん……

 人間とは不思議な生物よな……】


 ここでナナオが口を挟む。


「それにしても、(よう)さんの竜珍しいでんな。

 尻尾が七本も有りよるわ」


「あらホント。

 七本もあって邪魔じゃ無いのかしら?」


 二人とも呑気な事を言っている。

 いや、ナナオは天災と呼ばれてる(ロード)の衆ですから。


「それで絡まってたら笑い事っちゃねぇだろ?

 あぁ自己紹介がまだだったな。

 俺は梵踊七(そよぎようしち)

 よろしくな」


 堂々と右手を差し出す踊七さん。


「貴方が竜司がさっき言ってた“良くしてくれた”って人ね。

 私は新崎蓮(しんざきれん)

 竜司の………………

 友達です……」


 弱弱しく踊七さんと握手する蓮。


 ちくり


 僕の胸に罪悪感の棘が突き刺さる。

 お願いだから少し凹んだ顔をしないでくれ。


 グウゥゥウゥウゥゥゥゥ…………


 と、そこに巨大な腹の虫。

 天の助け。

 誰だ?


「あぁ~

 めっちゃ腹減ったわ~~」


 腹の虫の出所は(げん)だった。


「あ、ご飯あるわよ。

 食べる?

 おにぎりと豚汁だけど」


「おっ!!?

 食う食うっ!

 (よう)さんも食いましょうや」


 そう言い残し、蓮と(げん)、踊七さんの三人はテントの方へ歩いて行った。

 (げん)って何となく踊七さんには敬語っぽい喋り方なんだよな。

 一体救助活動で何があったんだろう。


【うまうま、なかなかこの汁美味えな……

 ズズズ】


 隣でガレアが美味しそうに豚汁を飲んでる。

 犬食いで器用に飲むなあ。

 僕も食事を再開しよう。


 ズズズ


 うん、やっぱり美味しい。

 やはり寒い中に暖かい豚汁は有難い。


「フウ……」


 一息つく僕。


「この子ダニか?

 スメちゃん」


 後ろで声がかかる。

 振り向くとお爺ちゃんとさっきのサングラスの人、そして黒の王と紫色の竜が立っていた。

 お爺ちゃんは相変わらずの作務衣を纏い、そのサングラスの人はジャージを着て、手には杖を持っていた。


「あ、お爺ちゃん」


「お爺ちゃんでは無いわぁっ!」


 開口一番、お爺ちゃんの怒鳴り声。


「ええっっ!?」


「あの青年から話は聞いたぞっっ!

 竜司ィッ!

 貴様、救助活動中で倒れたらしいのうっ!」


 あ、お爺ちゃんにバレていた。


「う……

 うん…………」


「だから言っておるじゃろうがぁっ!

 魔力は人体に毒なんじゃあッッ!

 いくら保持(レテンション)があったとしても少なからず身体にダメージはあるんじゃぞぉっっ!」


 いや、まあ魔力が毒だって言うのは知っているけども、そんな事お爺ちゃんから習ったかな?


「う……

 うん……

 ごめんなさい……」


「ワシに謝っても仕方が無かろうッッ!

 救助に出向いた者が倒れてどうするッッ!

 全くこの愚か者がぁっ!」


「はい……

 シュン……」


 お爺ちゃんに怒られた事で少しションボリしてしまう。

 ここでフォローが入る。


「フォッホッホッ。

 スメちゃん、孫の前じゃとそんな雰囲気になるんダニ。

 こりゃ新鮮ダニ」


「ミ……

 ミタちゃん……

 こりゃ恥ずかしい所を見せてしまったのう……」


「スメちゃん、あまりがなり立てんでもええんじゃないダニか?

 竜司君も義憤で救助に出向いたんじゃろうて。

 現に竜河岸の中では一番早く救助しとったんでは?

 その点は褒めてやってもええダニ?」


「う~ん……

 ま……

 まあ確かにいち早く駆け付けて人命救助をしたと言うのはさすが我が孫じゃわい……」


「お……

 お爺ちゃん……

 こちらの方は?」


「おお自己紹介がまだじゃったダニな竜司君。

 儂は御手洗左京(みたらいさきょう)

 お爺ちゃんの古い友人ダニ」


 そう言えば左京のじーさんって(げん)が言ってたっけ。

 この人がその人か。


「よろしくお願いします。

 皇竜司(すめらぎりゅうじ)です」


 ぺこり


 僕はお辞儀。


「フォッホッホッ。

 スメちゃんの孫とは思えんぐらい礼儀正しい子ダニ」


「ミッ……

 ミタちゃんっ!」


「竜司君や……

 スメちゃんの若い頃と言うとのう……

 それはそれは不愛想で仏頂面の男だったダニ……」


「言う程でも無いじゃろうっっ!」


「プッ……

 お爺ちゃんがいつもお世話になってます」


 僕は右手を差し出す。

 握手の為だ。

 だが右手を出しても全く動かない御手洗(みたらい)さん。


「お爺ちゃん……

 御手洗(みたらい)さんってもしかして……」


 目が見えないのでは。


「あぁそうじゃっっ!

 ミタちゃんは()()()じゃいっっ!」


 ちょっと待てお爺ちゃん。

 差別用語飛び出しちゃってるから。

 そんなに仏頂面って言われたのが腹立ったのだろうか。


「ん?

 どうしたんダニ、竜司君。

 何やらトホホと言った感じダニが……」


「あ……

 すいません。

 僕が握手の為に右手を出したのですが反応が無いのでもしかして目が不自由なのではないかと思いまして……」


「ほらぁースメちゃん。

 きちんとしている人は盲目の人の事を目が不自由な人って言うんダニィ。

 フォッホッホッ竜司君はちゃんとしとるダニ。

 若いのに立派ダニ」


「あ……

 いえ……

 そんな……」


 目が不自由と言っただけでダニダニ言いながら物凄く褒められた。


 フイッ

 フイッ


 御手洗さんが軽く右手を振っている。

 少し僕の手に当たる。


「おおここダニここダニ。

 はいよろしくダニ竜司君」


 僕は御手洗(みたらい)さんと握手。

 なるほど。

 僕の手を探していたのか。


「フンッッ!

 竜司ッ!

 ミタちゃんに気を使う事は無いぞいッッ!

 ミタちゃんは受動技能(パッシブスキル)があるから平気なんじゃっっ!」


 受動技能(パッシブスキル)

 紫色の竜が側に居たし、この人も竜河岸か。

 少し興味がある。


受動技能(パッシブスキル)ってどんなんなんですか?」


「儂のはな超聴覚センシティブ・ヒアリングって言うダニ。

 音の反射で物の形を映像化して頭の中に映すんダニ」


 へえ。

 確かそんな超常能力を持ったアメコミヒーローが居たな。

 確かデアデビルだったっけ。

 デアデビルは騒音の中では行動不能に陥ると言う弱点があった。


「それだと災害現場とか行って大丈夫だったんですか?」


「ん?

 どう言う意味ダニ?」


「あ……

 いえ、災害現場なんて騒音が激しいじゃないですか。

 そんな所に行くと受動技能(パッシブスキル)のお蔭で大変なんじゃ無いのかなって」


「あぁあぁそういう意味ダニか。

 音を映像化するのは儂の任意でしとるから大丈夫ダニ。。

 そりゃ昔は大変じゃったんダニ」


「へえ、鍛えたって事ですか?」


「まあそう言う事ダニ。

 まあうるさいのはあまり好かんけどの。

 フォッホッホッ」


 受動技能(パッシブスキル)って鍛えれるんだ。

 新事実。

 こうなると俄然スキルの方が気になって来る。


「み……

 御手洗(みたらい)さん……

 ちょっとお伺いして良いですか?」


「儂の事はミタちゃんでええダニ。

 んで何ダニ?」


 何か砕けた盲人だな。


「じゃ……

 じゃあ左京(さきょう)さんで……

 えっと……

 左京さんのスキルってどんなのですか?」


「フォッホッホッ。

 儂のスーパー受動技能(パッシブスキル)を聞いて興味が湧いたって感じダニ。

 ええダニのう若い者は」


「フフ……

 竜司よ……

 ミタちゃんのスキルは凄いぞ」


 何かお爺ちゃんが威張ってる。

 そんなに凄いのか。


「フォッホッホッ。

 まあそれ程でもあるダニ。

 何ならここでやって見せようかの?」


「はい、是非」


 ポン


 急に肩を叩かれる。


「え?」


 僕は振り向く。

 が、誰も居ない。

 あれ?

 確かに叩かれたはずなのに。


 ポン


 振り向いた瞬間、また肩を叩かれる。


 え?

 また向き直す。

 誰も居ない。


 ポン


 肩を叩かれる。

 振り向く。

 誰も居ない。


 ポン


 肩を叩かれる。

 誰も居ない。


 この繰り返し。

 何だ。

 何だコレ。

 物凄く気持ち悪い。


「フォッホッホッ。

 やはりこのスキルを初めて見せる時は愉快ダニ。

 さて仕上げは……」


 目の前に三つ穴みたいなものが現れる。

 そこからヌッと手が三本這い出て、こちらに向かって伸びて来る。


「ウワァッッ!」


 その物凄い光景に驚いて叫び声をあげる。

 するとその三本の腕は止まった。

 そして三本ともサムズアップ。

 穴の奥を見ると左京さんが右手を穴の中に入れている。


「フォッホッホッ。

 とまあこんな感じダニ」


 訳が分からない。

 狐に摘ままれた様な顔になってしまう。


「な……

 なんだこれ……」


「良い反応をするダニ竜司君。

 これが儂のスキル次元孔ディメンション・クレーターダニ。

 儂は次元を捻じ曲げて繋げる事が出来るんダニ……

 ホレご覧の通り」


 ニヤリ


 不敵な笑みを浮かべながら胸下辺りに穴を出し、中に右手をいれる左京さん。

 すぐに顔の横に穴が現れ、その中から右手が出て自分の頬を撫でている。

 サラッと言ってるけど物凄くヘンな画だ。


「す……

 凄い……

 で……

 でもさっきの三本の腕は……」


「フォッホッホッ。

 それが次元孔ディメンション・クレーターの凄い所なんダニ竜司君。

 あれは位相空間の時間点列の収束現象ダニ」


 意味が解らない。


「ど……

 どう言う意味ですか?」


「あぁちょっと難しかったダニか?

 竜司君、いいダニか?

 世の中と言う物は一つじゃ無いんダニ。

 それこそ無限にあるダニ。

 それが並列に並んどるんダニ」


 どこかで聞いた事がある話。

 頭の中でマザードラゴンの世界線の話を思い出す。


「せ……

 世界線……」


「お?

 竜司君、君は世界線を知っとるダニ?」


 知ってるも何も特異点だった事もある。


「ええ……

 まあ……」


「どこでその話を聞いたんダニ?」


「あ……

 えっと……

 マザードラゴンから……」


「何と!?

 竜司君はマザーと会った事があるダニか?」


「は……

 はい……」


「おいスメちゃん。

 この子凄いダニ。

 マザーと会った事があるらしい」


「そう言えば竜司よ……

 前に竜界に行ったと言っておったがその時の話か?」


「うん」


「フフン……

 さすが我が孫じゃわい。

 どおだっ?

 ミタちゃん」


 何かお爺ちゃんが威張ってる。

 確かマザーと会った事がある人間は僕が初めてと言っていたっけ。

 地味にマザーと謁見するって凄い事なのかな?

 ただの火サスとあたりめ好きなお婆ちゃんなのに。


「ぐぬぬ……

 ええダニええダニ、スメちゃんはええダニ……

 ウチの愚孫にも見習って欲しいものダニ……」


 左京さんもダニダニ言いながら、悔しがってる。

 何だか誇らしい気分になって来る。


「左京さんはマザーに会った事があるんですか?」


「いや儂も無いダニ。

 世界線の話はデメから聞いたんダニ。

 のうデメ」


【はい、そうですねえ。

 僕がマザーの城に行った時に近衛の人達とそんな話をしてるのを盗み聞ぎしたんですよ】


 おい。

 盗み聞きて。

 僕が絶句している所を左京さんが気付く。


「すまんダニ竜司君。

 コイツは昔から手癖が悪い奴ダニ……」


「あ……

 いえ……

 別に……

 あ、そうそう話が脱線してしまった。

 左京さんの腕についてだ」


「おうおう失礼したダニ。

 歳をとると話が長くなっていかんダニ。

 つまりの……

 こうしている今も並列で色々な世界があるっちゅう事ダニ。

 簡単な所で言うとその豚汁を食べなかった竜司君がおる世界線と食べた世界線は並列で交わらずに未来に進んでおる」


「はい」


「フォッホッホッ。

 素直な子ダニ。

 ここで本題。

 タネ明かしをするとダニな……

 あの二つの穴から出た手は別世界線の儂の手ダニ」


「え……?」


 訳が分からない。


「フォッホッホッ。

 本当に竜司君は良い”りあくしょん”をするダニィ」


「え……

 じゃあさっき三つの穴から出て来た他の手は誰のですか?」


「儂ダニ」


「え?

 でもここに居る人も左京さんですよね?」


「そうダニ」


「え?

 と言う事は左京さんって人間って沢山居るって事ですか?」


「四次元的な考え方をするとそうダニ」


「え?

 でもどうやってタイミング合わせてるんですか?

 別世界線の自分が居るとして今のこの瞬間に手を出してサムズアップをするって動きをそう簡単に出来るものなのでしょうか?」


 次元を捻じ曲げる事が出るのは解った。

 だけどそれだけじゃ説明がつかない。

 何か秘密があるはずだと僕は考えた。


「なかなか鋭いダニ竜司君。

 それは脳共有(コモンブレイン)を使っておるからダニ。

 儂はスキルで別世界線の儂の動きを操れるんダニ」


 脳共有。

 その文字が示す通り別世界線の自分の脳を支配できるんだろうか。


 凄い……

 のか?

 何か良く解らない。

 色々疑問も沸く。


「それって今僕が接している左京さんしか操れないんですか?」


「いいや。

 そんな事は無いダニ。

 別次元の儂も同様に脳共有(コモンブレイン)使える奴はおるダニ」


 更に疑問が湧く。

 操られてる時ってどんな動きをするんだろう。


「あ……

 操られてる時ってどんな動きをするんですか……?」


「前に一度あったダニ。

 何か()()()()()()()()


「し……

 したくなる……?」


「そうダニ、そうしたくなるダニッ!

 ちなみにその時はスタンガンの電源を入れて穴に突っ込んだダニ」


 一体何をしたんだ。


「で……

 でも……

 そんなの大変じゃありません?

 頻繁にヘンな動きをしたくなったりして……」


「ん?

 そうでも無いダニ。

 儂が操られたのはその一回だけダニ」


 あれ?

 意外に少ない。

 何故だろう。


「少ないですね」


「そりゃそうダニ。

 基本的にこの次元の儂を操りたいとかコントロール出来る訳じゃないダニ。

 基本脳共有(コモンブレイン)を発動させる儂がやりたい事に則した次元の儂を操るらしいんじゃがのう」


 いや、じゃがのうじゃ無しに。


 細かい所で引っかかる所はあるがとりあえず手が三本出て来た理由に関しては納得した。


「多分儂が操られていた時は何かしらとケンカでもしとったんじゃないダニ?

 フォッホッホッ」


 いや、フォッホッホッじゃ無しに。


「さ……

 左京さんが皆の移動を手伝っていたと言う事ですね」


「そうダニ。

 儂の次元孔ディメンション・クレーターは大きさも自在に変えれるダニよ……

 ホレご覧の通り」


 左京さんの右隣りに幅の広い楕円形の穴が現れる。

 何となくこういうのって穴の縁とかが吸い込むような感じになってるものだけどなあ。

 漫画やアニメとかだとそんな感じだ。

 他に亀裂が入っていたりとか。


 でもこの次元孔ディメンション・クレーターで生成した穴は……

 何て言うか……

 本当に穴だ。

 ポッカリと空中に穴が空いている。


 中は暗い。

 真っ暗だ。

 まるで夜の闇の様に暗い。


 亜空間の場合は中が薄暗いんだ。

 外から覗いても中に空間がある事が解る感じ。

 この違いが何か恐ろしさを感じる。

 この中に入るとどうなってしまうのか。


「おっ

 竜司っ

 左京のじーさんと話しとんのかい。

 この人のスキル凄いやろ?

 ワイも敗けたわ。

 目ェ見えへんとは思えんわい」


 え?

 (げん)とケンカしたのか?

 てかそんな暇あったのか?

 て言うか()()げんが敗けた?

 このスキル見た所、攻性スキルでは無い。

 いわば補助スキル。

 これでどうやって勝ったんだ?


 色々信じられない事が僕に畳みかけて来る。

 色々疑問が浮かぶ。


(げん)…………

 敗けたの……?」


 僕は猜疑心を込めた視線を送る。


「何や竜司、その眼は。

 ワイは敗けた事を勝ったとかパチこく(嘘つく)奴ちゃうぞ?

 敗けたんや。

 一瞬や。

 オイ竜司、ワレ多分移動が出来るだけのスキルとか思っとらんか?」


 ギクリ


 図星をつかれた。

 相変わらず(げん)は鋭い。


「う……

 うん……

 だって(げん)震拳(ウェイブ)みたいな攻性要素無いじゃん……」


「フォッホッホッ。

 竜司くんや……

 ケンカで勝つには何が必要か知っとるダニか?」


 不意に質問を投げかける左京さん。


「え……

 そりゃ圧倒的なパワーだったりとか……

 スピードだったりとか……

 物凄いスキルだったりとか……?」


「フォッホッホッ。

 若いダニ竜司君。

 (げん)君も同じ様な事言っとったダニ。

 ワシから言わせればそんなもんどうとでもなるダニ」


「え……

 そうなんですか……?」


「一番必要なのは悪意・殺意の類。

 要するに気持ちダニ」


「…………ホントですか……?」


「何ならやってみるダニ?」


「…………良いんですか?」


 僕は(げん)の様にケンカっ早い人間では無いので普段ならこんな立ち合い断ってたんだけど、今回は応じる気だった。

 その理由は踊七さん。

 僕はさっきの発言を忘れていなかったんだ。



 もしかして竜司より強いかもな。



 簡単に言うとこの発言が応じた理由。

 これで僕が左京さんに勝てば、僕の方が(げん)より強いと言う事になる。

 要するに悔しかったんだ。

 他でも無い踊七さんに(げん)の方が強いと言われた事が。


 こうして僕は左京さんと立ち会う事に。

 五メートル程離れて対峙する僕。


「フォッホッホッ。

 竜司君、君は魔力注入(インジェクト)は使えるダニ?」


「ミタちゃん、竜司は魔力注入(インジェクト)使えるぞい」


「おお……

 それは重畳(何より)……

 竜司君、魔力注入(インジェクト)は使って構わんダニ」


「わかりました……

 ガレア……」


【何だまたケンカするのか?】


 ドッッッックゥンンッッッ!


 魔力補給完了。


 保持(レテンション)


 ガガガガガシュガシュガシュガシュ


 そっちが使えって言ったんだから知らないぞ。


 集中(フォーカス)


 両脚に魔力集中。

 一気に間合いを詰める為だ。

 拳はどうしよう。

 何だかんだ言っても老人だ。

 右拳にはほんの少しだけ魔力を集中させとこう。


「フォッホッホッ。

 準備は出来たダニ?」


「はい」


「オイ竜司……

 気ィ抜くなよ……

 抜いたら死ぬで……

 いやマジで……」


 開始直前に(げん)が怖い事を言い出す。

 もうここまで来て止めれるか。


「うん……

 では行きます」


「フォッホッホッ。

 かかって来るダニ」


発動(アクティベート)


 ギュンッ!


 一気に間合いを詰める。

 僕の身体は疾風と化し、五メートルの間合いを一瞬。

 眼前に左京さんの顔。

 僕は右拳を振り上げる。

 右フックの体勢。


 ヒヤリ


 背筋に極大の悪寒が奔る。


 僕の右拳が止まる。

 いつの間にか首筋に鋭いナイフが突き立てられていた。

 危ない。

 もう少しで斬ってしまう所だった。


 と言うかこのナイフは何?

 よく見ると左京さんの右手が次元孔ディメンション・クレーターの穴に入っている。

 あの一瞬で。

 僕は殴るのを止め、右手でそのナイフを押しのけようとする。


 ヒヤリ


 更に悪寒。


 僕の右手首にまたナイフ。

 動かせない。

 見ると左京さんが手を突っ込んでいるのは右手のみ。

 となるとこれが脳共有(コモンブレイン)か。


「くっっっ!」


 僕はすぐにしゃがみ、後方へ飛ぶ。

 間合いを空ける為だ。


「フォッホッホッ。

 判断としては間違ってはおらんダニ…………

 だけんど……

 こと儂が相手の場合は…………

 悪手ダニ……」


 ガンッッ!


 何かが背中にぶつかった。


 ドシャァッッ!


 突然のことに驚き、地面に突っ伏して倒れる僕。


「くっ……

 くそっっ!」


 すぐに起き上がると、目の前に左京さん。


 スッ


 しゃがみ、改めて僕の首筋にナイフを当てる。

 その目線に込められているのは殺意。

 純然たる殺意。


 この人は斬る。

 躊躇わずに斬る。

 そう思わせる目をしていた。


「ま…………

 まいりました……」


 そう言うしか無かった。


「フォッホッホッ。

 まあざっとこんなもんダニ」


「竜司よ……

 ミタちゃんは強いじゃろ?」


「う……

 うん……」


 左京さんの恐ろしい所はあらゆる動きに予備動作が無い所だ。

 気が付いたらもう行動している。

 確か武術の奥義で無拍子と言うのがあると聞いた事がある。

 それが次元孔ディメンション・クレーターを更に強くしている。

 そしてあの殺意がこもった気迫。


 無拍子、次元孔ディメンション・クレーター、殺意。

 この三つがこの人の強さの秘密だ。

 無拍子。

 僕の神通三世(プリディクション)でも躱せるかどうか。


「儂も本気でやって勝てるかどうかわからんわい……」


「フォッホッホッ。

 何を言っとるんダニ。

 重力操れるスメちゃんに勝てる訳が無いダニ。

 ゴホッゴホッ……

 儂ももう年ダニ……」


 左京さんがおどけて咳き込む真似をする。


「ズズズ……

 おい竜司、何やってんだ?」


 豚汁を啜りながら踊七さんがやってきた。


「えっと……

 あの……」


「あぁ(よう)さん、今左京のじーさんにコテンパンにやられたトコですわ」


「モグモグ……

 何だ竜司やられたのか?」


「は……

 はい……

 すいません……」


あの人(左京さん)、多分強いだろ?

 俺の勘がそう言ってる」


「は……

 はい……

 何か……

 先輩や(げん)とは異質の……

 得体の知れない強さでした……」


「あのスキル自体が恐ろしいからな……

 モグモグ」


 口を咀嚼している踊七さん。


「ワイも同じような感じでやられたわ。

 ホンマ左京のじーさん、人殺しとんのちゃうか思うわ」


 え?

 まさかね……

 僕はちらりと左京さんを見る。


 ぎくり


 何かそんな印象の顔をする左京さん。


 あれ?

 マジで?

 この人、殺しているのか!!?


「フォ……

 フォッホッホッ……

 まあ…………

 経団連の会長などやっとると色々あるダニ……」


 何かはぐらかされた。

 後で聞いたんだけど左京さんて世界的に有名なキヤノンの社長だったんだって。

 もう引退して今は会長らしいんだけど。


 なるほど。

 あのキヤノンの会長なら日本への発言権が強くても納得だ。

 結局、左京さんが人を殺した事があるかどうかはグレーなまま話は流れた。

 だけど物凄く黒に近いグレー。

 僕はそう思った。


「んっんっ……

 ふう……

 ごちそうさん……

 美味い豚汁だったなあ。

 さて源蔵さん、救助活動再開しましょう」


 踊七さんからの提案。

 そうだ。

 色々あって忘れていたけど僕は救助活動する為に居るんだ。

 夜だろうと関係無い。

 動かないと。


「お?

 晩飯を食べ終わったか。

 なら夜の救助隊を組織しよう……

 ミタちゃんはどうする?

 夜じゃが来るか?」


「スメちゃん、儂の眼を心配しとるんダニ?

 なら無用ダニ。

 もともと視覚には頼っとらせんし、夜は空気が澄んどるから音が良く通るダニよ。

 超聴覚センシティブ・ヒアリングの方が良く見えるダニ。

 目が不自由なのに見えるっちゅうのもおかしな話じゃけどのう……」


「プッ……」


「カァーーッハッハッハッハッ!!」


 老人二人が顔を見合わせて大爆笑。

 何がそんなに可笑しいんだろう。

 何だか乗り遅れた気分。

 今日、こんな事ばっかりだな。


「お?

 救助行くんか?

 ワイも行くで」


「竜司はどうするんじゃ?」


 僕はどうしよう。


 ギュウッ


 ゆっくり右拳を握る。

 よしイケる。


「はい!

 僕も行きます!

 お願いします!」


「なら通達してこよう。

 ちょっと待っとれ……」


 カランコロン


 下駄を鳴らし、テントへ歩いて行くお爺ちゃん。

 災害現場でも下駄なのかこの人は。

 やがて竜河岸と竜を数組連れて戻って来る。

 中央にお爺ちゃん。

 何か迫力がある。


「よーし、お前ら並べ。

 注意事項を言っておく」


 僕らはお爺ちゃんの前に並ぶ。

 何か本当に隊みたいな感じがする。


「えーーっ!

 今から夜の救助活動に向かうっっ!

 各々魔力の使い過ぎには注意する様にっっ!

 孫の様に魔力の使い過ぎで倒れてしまう事の無い様頼むっっ!

 我々は救助に来ておるっっ!

 その救助を行うものが倒れておっては本末転倒じゃっっ!」


 何かお爺ちゃんが僕を引き合いに注意事項を述べている。


(はいっっっ!)


 元気に返事。

 お爺ちゃんの言う通りだ。

 注意しないと。


「では行くか……

 ミタちゃん、頼む」


「わかったダニ、次元孔ディメンション・クレーター……」


 大きな穴が現れる。

 この大人数が同時に入れる程の大きさ。

 だが、この穴に入るのは少し勇気がいる。

 キョロキョロ周りを見ているとどんどん入って行く。

 ええい、ままよ。

 僕は勇気を出して穴に踏み入る。


 一歩


 一歩踏み込んだらもうそこは災害現場だった。

 次元を捻じ曲げると言う事はこういう事か。

 亜空間とは違う。

 亜空間の場合は目的地に着くまで少し中を歩くんだ。


 だが、この次元孔ディメンション・クレーターは違う。

 文字通り一瞬で着く。

 でも何で向こう側の景色が見えないんだろう。

 何か難しい理屈がありそうだ。


 災害現場は夜にも関わらず騒然としていた。

 辺りの家屋はちらほらまだ燃えている。

 地元の消防隊が消火作業していたり


(誰かァーーッッ!

 お母さんを知りませんかぁーーッ!

 竹本よし子と言いますーーっっ!)


 離れ離れになった家族を探す女性が右往左往していたり


(頑張れぇッッ!

 もうちょっとだぁっっ!)


 瓦礫の下敷きになった救助者へ必死に呼びかけている人。


(もう一度行くぞォォッッ!

 ソォーレェッッッ!)


 そしてテコの原理で瓦礫を持ち上げようとしている者。

 みんな必死になって救助しようとしている。


「お……

 お爺ちゃん……

 ここはどこ……?」


「ここは鶴見区じゃ。

 まずここが復興せねば東京からの救援も来れんからの」


 なるほど。

 確か鶴見区は横浜最東端。

 よし、場所も解った。

 動かないと。


「うんわかった。

 じゃあ救助活動始めるよ」


「ウム、では各々散って行ってくれ。

 ここは横浜。

 基本的に竜を憎んでいる者ばかりじゃ。

 その点くれぐれも注意して行動してくれ。

 間違っても揉め事なんて起こさぬ様に。

 とりあえず三時間救助を行う。

 三時間経ったら一旦ここに集まる事。

 それで各状況を判断した上で続行かを決めるッッ!

 よいかぁぁっっ!」


 お爺ちゃんの大声が響く。


(はいっっっ!)


 元気な返答。

 考えてみればこの名も知らない他の竜河岸の方々も横浜がどう言う土地か知っているんだよな。

 みんな僕より大人だし。

 それでもお爺ちゃんの呼びかけに応じてくれた。

 志が高いのか。

 それともお爺ちゃんのカリスマだろうか。


 バタバタ


 そんな事を考えているとみんな急ぎ足で散って行った。

 踊七さんは火災現場の方へ。

 (げん)は瓦礫撤去を手伝う様だ。

 僕もうかうかしてられない。


 ダッ


 僕は駆け出す。

 目的地はさっきお母さんを探していた女性の元。


(誰かぁーっ!

 誰か竹本よし……)


「す……

 すいません……」


(あぁっ!?

 あなたお母さんの場…………)


 僕は声をかけた。

 振り向く女性の言が止まる。

 やがてガタガタ震え出す。


(あ……

 あなた……

 リュージ……?)


 ガタガタガタガタ


 止まらない震え。

 この人は番組を見ていたのか。

 ここでウソを言ってもしょうがない。


「え……

 ええ……

 そうです……」


 へたん


 力無くその場にへたり込む女性。

 目から大粒の涙。


(私……

 ここで死ぬんだ……

 お母さん……

 お母さん……

 もう一度会いたかったよ……)


 この人の頭の中では僕は殺人鬼の悪魔か何かとなってるんだろう。

 凄く悲しい。

 この大きな誤解が本当に悲しい。


「……違います……

 僕はただ……

 お母さんを探すのを手伝いたいだけです……

 ただそれだけなんです……」


(あぁ……

 あぁ……)


 僕の言葉は全く耳に入らず、震えながら僕に向かって両手を合わせ、天を仰ぐ。

 まるで命乞いでもしているかの様だ。


「…………話を聞いて下さい…………」


(あぁ……

 あぁ……)


 駄目だ。

 一向に耳を傾けてくれない。


 僕の目的はこの子のお母さんの顔写真を見る事だった。

 名前と顔が認識出来れば僕の全方位(オールレンジ)で見つけ出す事が出来るからだ。

 どうにか出来ないものか。


(お……

 お母さん……

 私……

 死にたくないよお……)


 そう言いながらスマホを取り出し画面を点ける。

 画面を凝視する女性。


 これって……

 もしかして……


 僕は背後に回り込む。

 見ていたのは母親らしき人と女性が写っている自撮り写メだった。


 よし!

 確認した!


全方位(オールレンジ)


 僕を中心に超速で広がる翠色ワイヤーフレーム。

 瞬く間に鶴見区を覆っていく。


 お母さんは……

 どこだろう………………


 居た。


 他にも沢山人が居る。

 恐らく避難所だ。

 この場所はどこだろう……


 僕はスマホを取り出し、地図アプリ起動。

 えっと……

 ここがこうだから……

 解った。


「えっと…………

 信じるかどうかは解りませんが……

 お母さんは市場旧東海道公園に居ます…………」


(えっ……

 その公園なら知ってる……

 何でそんな所に……)


 ようやく僕の話を聞いてくれた女性。


「他に人が居ますから……

 多分避難所でしょう……

 行くつもりなら気を付けて……

 ここから一キロほど離れていますので…………

 それではこれで……」


 相変わらず震えてはいるが表情に驚きの色が見える。


 ぺこり


 僕は女性にお辞儀をして、反応を待たずその場から離れようとする。


(待ってッッ!!)


 背中に女性からの声。

 僕は歩みを止める。


「な……

 何か……?」


(貴方は……

 ドラゴンエラーを起こした……

 悪魔のはずでしょう……?

 そんな人が…………

 どうして……

 私に……)


 何で私を助けるのかと聞きたいのだろう。

 そんな人に言う事は決まっている。


「…………信じて貰えるかどうかわかりませんが……

 僕は殺したくて殺したんじゃないんです…………」


 それを聞いた女性は黙っている。


「それでは……

 無事お母さんに会える事を祈っています」


 ぺこり


 僕は再びお辞儀をして、その場を離れる。

 次の現場へ急ぐ為だ。


 僕は北へ走る。

 向こうの方が開けている。

 多分川だろう。

 確かさっき地図アプリで見た。

 鶴見川だ。


 ここまでは特に火事等は無かった。

 全方位(オールレンジ)で確認しても逃げ遅れた人も見当たらない。

 困っている人も特には居ない。


 みんな避難所に行ったんだろうか。

 インフラが寸断されているのか辺りは真っ暗。

 闇夜の中を走る。

 地面は地割れや瓦礫が散乱している様子。

 真っ暗な中で悪路を進むのは危ない。

 僕は止まる。


【ん?

 竜司、こっち行くんじゃ無いのか?】


 ガレアが聞いて来る。

 真っ暗の為良く解らない。

 けど、多分キョトン顔なんだろう。


「ガレアってさ……

 こんな真っ暗でも見えるの?」


【ん?

 見えるぞ。お前のアホ面までハッキリと】


 グサリ


 ガレアの一言が胸に刺さる。

 今の僕は怒れないから代わりに物凄く悲しい。

 泣きそうだ。


【うおっ!?

 何だ竜司っ!?

 オメエ泣きそうじゃねぇかっっ!?

 こんなの冗談だってっ!!】


 自分で気付かなかった。

 僕はそんな顔してるんだ。


 これでハッキリした。

 ガレアはこの真っ暗な中でも見えている。

 さすが竜。


「もう……

 ガレアこっち来てよ……」


 フイッ

 フイッ


 僕の右手がスカる。

 それ程の暗闇。

 一寸先は闇状態。


 僕は魔力補給の為にガレアを呼びつけたのだ。

 別に鱗に触れなくても補給は出来るんだけど、何だろう。

 竜排会と争った時にガレアの魔力を横取りされてから僕の中で癖付いてしまっている様た。


 ピト


 この艶めかしい感触。

 ようやくガレアに触れた。


「ガレア、魔力頂戴」


【はいよう】


 ドッッッックゥンンッッッ!


 心臓の高鳴り。

 魔力補給完了。

 続いて……


 保持(レテンション)


 ガガガガガシュガシュガシュガシュ


 ふう、これで良し。


 集中(フォーカス)


 両眼に魔力集中。

 網膜に暗視装置で通したような景色が映る。

 クリアーになると地震の酷さが解る。


 僕は車道に立っていた様だ。

 地面のアスファルトが大きくひび割れ、隆起している箇所もチラホラ見える。

 ここで止まっておいて良かった。

 このまま走ったら転んでいた。


 ダッ


 準備完了した僕は更に先へ進む。

 開けた場所に到着。

 左から右へ水が流れている。

 やはり川だった。


 集中(フォーカス)


 両脚に魔力集中。

 こんな川どうと言う事は無い。


発動(アクティベート)


 僕は魔力注入(インジェクト)発動。


 ドルルンッッ!

 ドルルルルンッッッ!

 ドルンッッ!


 体内で響くエンジン音。


 ダンッッ!


 僕は大地を強く蹴る。

 斜め方向へ真っすぐ僕の身体が弾け飛ぶ。

 弓なりの軌道を描き、大きく跳躍。

 この跳躍は川を飛び越えるだけだからすぐに着地体勢。


 ガァァァンッッッ!


 大きな着地音。

 無事着地。


「ふう……」


 バサッ

 バサッ


【おーいっ

 竜司ーっ】


 ガレアが飛んで、こちら側までやって来た。


 ドスッ


 ガレアも無事着地。


【んでこっからどうすんだ竜司】


 ガレアがキョトン顔。


「えっと……

 とりあえず川を登って……

 様子の確認からかな?」


【ふうん、まあとりあえず行こうぜ】


「うん」


 僕らは坂を上がり河川敷の道へ。

 上から見ても火の手が上がっている様子は見えない。

 全方位(オールレンジ)内でも近くに人の反応は無い。


 思ってた以上に避難が早いな。

 市民は避難訓練でもしていたのか。

 それとも竜河岸の救助が早かったのか。

 依然として道路は酷い有様だけど。


 こちらは大丈夫そうだ。

 もう少し見てから向こう岸へ戻ろう。

 僕は河川敷から降りる。


 川の側にフェンスの様な柵がある。

 フェンスの向こうは広い地面。

 グラウンドだろうか。

 僕はスマホを取り出し、地図アプリ起動。


「へえ……

 中学校だここ」


 横浜市立市場中学校。

 地図アプリにはそう表記されていた。


 僕が行った事の無い中学校。

 不登校をしなければ行っていた筈だった中学校。

 入学もしていないから全く知らない。

 少し興味が湧いて来る。


 ヒュンッッ!


 僕は軽く地面を蹴ってフェンスを飛び越える。

 中学校ってどんな所だろう。


 ベチャァァァッッ!


 何か着地の感触がおかしい。

 何だコレ。


 ん?

 何か地面がおかしい。

 魔力注入(インジェクト)で視力強化したとは言え、詳細は良く解らない。

 僕はしゃがんで地面を触ってみる。


 ヌル


 何か濡れている。

 地面自体は特に地割れしている訳では無さそうだ。

 となるとこの水は何処から?

 川辺にあるとは言ってもここまで水は流れて来ないだろう。

 第一川の水なら河川敷が決壊しているはずだ。


 こういう時はこの精霊(ヒト)に聞こう。


全方位(オールレンジ)


 僕は全方位(オールレンジ)を張り直す。


 パンッッ!


 勢いよく手を合わせる。


神道巫術(シントー)


 ポウ


 両指先が青白く灯り、軌跡が青白い鳥居を描く。


水虬(ミヅチ)、この水って何か解る?」


 ボボウッッ!


 目の前に青い炎が現れる。


〖楼主さん……

 これは地下水でありんす……〗


「地下水?」


〖そうでありんす……

 激しい揺れによって地下に溜め込まれてた水が地表に噴き出たんでありんす……〗


 そう言えばこんな現象があるって小学校の先生が言ってた様な。

 確か液状化現象。

 どうにかした方が良いのかな?

 学校のグラウンドって仮設住宅とか建てたりするらしいから要るはずだし。


「ねえ水虬(ミヅチ)、この水って取り除く事出来る?」


〖こら手数(難しい)な事仰りんす……

 まあ出来ん事無いでぇ……

 それでもこの量でありんすからなあ……

 野椎(ノヅチ)がおったら多少楽が出来るのでありんすけんどなぁ……〗


 どうやら地下水除去には野椎(ノヅチ)の助けがいるらしい。


「そうなの?

 じゃあ呼ぼうか?」


〖呼んでくんなまし……〗


野椎(ノヅチ)

 野椎(ノヅチ)

 ちょっと出て来て助けてくれない?」


 しん


 辺りは静寂。

 しんと静まり返っている。

 何も出てこない。

 やる気が無いからなあ。


野椎(ノヅチ)ッッ!

 野椎(ノヅチ)ーーッッ!

 出て来ーーーいッッッ!」


 ポッ


 あっ黄緑色の火が灯った。

 けどちっさい。

 ライターの火よりちっさい。

 しかも無言。


 フッ


 あっ消えた。

 あの火の大きさが精霊(本人)のやる気に直結している気がする。

 どうしよう。

 呼び出てくれないぞ。


水虬(ミヅチ)……

 どうしよう……

 野椎(ノヅチ)来てくれないよ……」


〖あぁ……

 失礼しんした……

 野椎(ノヅチ)を呼ぶんはちょおコツがいりんす……

 楼主(ろうしゅ)さん、(かて)下すっても(貰っても)良いでありんすか……?〗


「うん……

 良いけど何するの?」


〖あぁ……

 楼主さんの(かて)は美味いでありんすなあ……

 このネットリと舌に絡みつく感じ……

 たまりんせん……

 こんな美味しい(かて)くれるんならずっとついて行くでありんす……

 あぁ美味い……〗


 何か水虬(ミヅチ)がヘンな事を言い出した。

 精霊に味なんか解るのか?


 ボボウ


 と、思ったら黄緑色の炎が灯る。

 さっきとは違う。

 普通の大きさ。


〖マジでかっ!?〗


 大きく炎が揺らめく。


〖あぁ……

 わっちは嘘はつきんせん……〗


〖ちょおっ!

 オーナーッッ!

 ワシにもッッ!

 ワシにも(かて)くれやっっ!

 働くからぁっ!〗


 うん、何か野椎(ノヅチ)がやる気になってる。

 チョロいな野椎(ノヅチ)


「う……

 うん……

 わかった……

 えっと……」


〖あぁあぁ……

 楼主さん……

 いいですいいです……

 とりあえずこの地面を何とかしたいんでしょ……?

 作業の指示はわっちがやりんすによりて……

 大人しくしててくんなまし……〗


「う……

 うん……

 お願いするよ……」


 こういう事はプロに任せた方が良い。


〖ほいじゃあ……

 野椎(ノヅチ)……

 わっちが土砂ごと水持ち上げるから、中から土塊(つちくれ)やら落としてくんなまし……〗


〖フム…………

 確かに結構美味いやんけ……

 えっ!?

 何てっ!?

 聞いてないわ〗


 やる気が出ても野椎(ノヅチ)野椎(ノヅチ)だ。

 もう一度説明する水虬(ミヅチ)


〖なるほどな……

 せやかて人間っちゅうんは邪魔くさいイキモンやのう〗


「そんな事言わないでよ野椎(ノヅチ)

 このままだと暮らすには不便なんだよ」


〖まあワシは(かて)さえ貰えたら何でもええけどな……

 ホレ水虬(ミヅチ)、とっととやってまおうや〗


〖はいな〗


 ヒュゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォッッ!


 一点に多量に地下水を含んだ土砂が集まって行く。

 物凄い音。

 まるで耳元で掃除機が吸い込む音を聞かされている様だ。

 水さえ含んでいたら土砂でも操れるらしい。


 グググッッ!


 一点に集まった土砂混じりの水球が宙へ浮かぶ。

 キタ。

 身体の中に巨大な喪失感。

 水虬(ミヅチ)(かて)を使ってるんだ。


「ガレアッッ!

 こっちに来てッッ!」


【何だよ】


 ピトッッ!


 ドッッッックゥンンッッッ!


 心臓が高鳴る。

 キツくなる前に前もって魔力補給しておいたんだ。


〖ホイ……

 こな所でいいでありんしょうか……

 野椎(ノヅチ)土塊(つちくれ)を下に落としんさい……〗


〖はいよ。

 ホレ〗


 ドサドサドサドサァァッッ!


 空から土砂が降って来る。


「……ゲホッ!

 ……ゲホッゲホッ!」


 むあんと砂塵が立ち、(むせ)る僕。

 凄い。

 落ちて来る土砂に一滴も水が含まれてない。


〖楼主さん……

 とりあえずこの水は川に流すけどよろしいでありんすか?〗


「う……

 うん……」


 フヨフヨ


 宙に浮いている大きな水球はゆっくり川に進んで行く。

 何か可愛い。


 体内から()()無くなる感じがしない。

 と、言う事は今保有している(かて)で動かすのは事足りると言う事だ。

 どう言う事したらどれぐらい使うのか把握しとかないとな。


 バッシャァァァァァァァァンッッッ!


 そんな事を考えていると遠くで物凄い大きな水音。

 もはやここまで来ると爆音だ。


〖ほい、かーんりょ……

 あとこれを二~三回やれば水は取り除けるでありんす……〗


 あと三回もやるのか。

 大掛かりだな。


「うんわかった。

 お願い」


〖はいな〗


 同じ様に泥を一点に集める。

 宙に浮いた大きな泥の球を見上げる僕。


 ドサドサドサァァッ


 重力に逆らう事無く泥の球から土砂が落ちて来る。

 この光景が本当に不思議だ。

 泥の球は見る見る内に清水の球に変わっていく。


 フヨフヨ


 またゆっくり川に向かって進んで行く。


 バッシャァァァァァァァァンッッッ!


 また爆破の様な水音。


 もう一度同様の行動。

 気が付いたらグラウンドは元通りに…………


 あれ?

 何かモサモサしてる。

 暗いから良く解らないけど何かモサついている。


「ね……

 ねえ水虬(ミヅチ)……

 何かグラウンドがモサモサしてるけど……」


〖ん?

 何や楼主さん……

 時間巻き戻したみたいに綺麗さっぱり元通りになるて思っとったでありんすか……?

 そら甘いで……

 いくらわっちらでもやれる事とやれへん事がありんす……

 わっちが言われたのは水を取り除く事だけですわ……〗


 ま……

 まあ水は取り除けたんだし良しとするか。


 プルルルルル


 僕のスマホが鳴る。

 電話かな?

 誰からだろう。

 スマホのディスプレイには時間が表示されていた。


 二十一時五十五分


 あ、アラームだ。

 もう三時間経ったのか。


「じゃあ水虬(ミヅチ)野椎(ノヅチ)

 お疲れ様でした」


〖はいな、おさればえ(さようなら)


〖はいよ、ごっそさんでした〗


 フッッ


 黄緑と青の炎が消える。


「ガレア、そろそろ帰ろう」


【はいよう】


 僕はガレアの背に跨る。

 僕はガレアで待ち合せ場所まで戻るつもりだった。


「ガレア、お願い。

 どこに行けば良いかは僕が教えるから」


【何だ飛んで良いのか……

 なら……】


 バサァッ!

 バサァッ!


 ガレアが大きく翼をはためかせる。

 同時にお尻が強い力で押し上げられる。

 僕とガレアは空へと舞い上がる。


 眼下に広がる景色は闇。

 明かりの灯が消えた街と言うのはここまで暗くなるものなのか。

 まるで宇宙空間を飛んでいる様だ。


 あれ?

 暗い……?


 あぁいけないいけない魔力注入(インジェクト)が切れていた。

 僕は再び両眼に魔力集中させ魔力注入(インジェクト)発動。

 だが、使ってもさして変化は無い。

 確かに下には街は広がっているがやはり暗い。


【んで、どこに行くんだよ竜司】


 あ、そうだそうだ。

 いけない。


全方位(オールレンジ)


 超速で広がるワイヤーフレーム。

 えっと……

 どうしよう……

 あ、そうかお爺ちゃんを探せばいいんだ。

 お爺ちゃん……

 お爺ちゃん……


 あ、居た。

 近くに(げん)と踊七さんも居る。

 急がないと。


「ガレア、こっちの方向へ飛んで。

 ……ガレア、お前は速いからくれぐれもスピードのだッッ………………!!!?」


 ギュンッッ!


 僕の指し示した方向へガレアが飛ぶ。

 瞬時に高速域。

 おい、ちょっと待て。

 だからスピード出すなって。


 眼下の街が超速で後ろに流れて行く。

 あ、集合地点通り過ぎた。


「ちょっっ!

 ちょっとぉぉぉっっ!

 ガレアァァァッッ!

 ストップゥッッ!

 ストーーープッッ!」


 ギュウンッッ!


 素早くガレアが宙返り。

 スピードを殺す為だろうか。

 振り落とされない様しがみつく。


【何だよ竜司】


「行き過ぎたってば……

 もうちょっと戻って……」


【何だよめんど臭いなあ】


 うって変わってゆっくり進むガレア。

 出来るんじゃん。


 もうちょっとだ。


 眩しッッ!


 ハレーションが起きたかの様に光が網膜を包む。

 目がチカチカして何も見えない。

 これはたまらない。

 即魔力注入(インジェクト)解除。

 ふう、落ち着いた。

 見下ろすと灯りの元に小さなお爺ちゃんが見える。


「そこっ

 その辺りに降りて」


【はいよう】


 バサァッ


 翼を少しはためかせ、ガレア下降。


「お爺ちゃーーんっっ!」


 僕はガレアの背中から叫ぶ。


「ん……?

 竜司か……」


 お爺ちゃんの口が少し動く。

 空中だから解らない。


 ドスッッ


 ガレア着地。

 背中から降りる。


「よし、全員戻った所で救助の状況を伝えてくれ」


(…………私は瓦礫の撤去を……)


(竜極ッッ!

 自分はァッ!

 車道の整備ですッッ!)


 次々と報告していく。


「ワイは下敷きなっとる人らを助けて……

 ついでに瓦礫の撤去もやっとったわ」


(げん)君、どの辺りか教えてくれんか?」


 何か大きめの板を(げん)に見せるお爺ちゃん。

 多分鶴見区の地図が張り付けてあるんだろう。


「えっと……

 現在地がここで……

 この辺り一帯やわ」


「フムフムなるほどのう。

 わかったありがとう。

 次ッ」


「俺はまだ消火しきれてない火事を消化していた。

 ここら一帯はあらかた消火したぞ」


 ここら一帯ってどれだけ消火してたんだ。

 空から見ると辺りは完全に闇だった。

 全て踊七さんが消火したのか。

 さすが。


「フム……

 鶴見区の火事は完全に消火した様だな……

 火災旋風にならなくて良かった……」


 ■火災旋風


 地震などの自然災害や空襲などの人災による都市部広範囲の火災や、山火事によって炎を伴う旋風(つむじかぜ)が発生し、大きな被害をもたらす現象。

 旋風の発生条件や発生メカニズムは未解明である。

 火災旋風の内部は秒速百メートルもの炎の旋風が吹き荒れており、巻き込まれた者は高温のガスや炎を吸い込み、呼吸器を損傷した事による窒息死が多く見られる。

 旋風の温度は千度を超えるとされ、輻射熱による被害も生じる。


「か……

 火災旋風……」


 ゴクリ


 僕は生唾を飲み込む。

 知識としては知っていた。

 火災旋風が発生すると任意で消火出来ないと言う事も。


 本当に良かった。

 もし火災旋風が起きていたら焼け死ぬ人が膨大に出ていただろう。


「ん?

 竜司、何だその顔は。

 笑い事っちゃねぇ」


 僕の顔を踊七さんが覗き込む。


「いや……

 火災旋風起きなくて良かったなあって……

 あれって、何で起きるか解らないんですってね……」


「ん?

 条件厳しいけど、俺なら加具土命(カグヅチノミコト)で火災旋風起こせるぞ」


 踊七さん、あっけらかん。

 対照的に僕は絶句する。


「せ……

 先輩……

 絶対起さないで下さいよ……」


「わーってるって。

 笑い事っちゃねぇ。

 条件厳しいって言ってんだろ?」


「は……

 はい……」


「最後っ!

 竜司じゃ」


「あ、はい僕はお母さんの行方を捜している女の子の手助けと中学校の液状化現象を治してました」


「ん?

 竜司、貴様のスキルでどうやって液状化を治したのじゃ?」


 あ、そうか。

 お爺ちゃんは魔法(マジック・メソッド)の事を知らない。


「あ……

 えっと新しいスキルで治したんだよお爺ちゃん」


「ほう……

 新スキルか……

 まあ良い。

 それで液状化を治した中学校は何処じゃ?」


「私立市場中学校だよ」


「なるほど……

 わかった……

 さてっっ!

 皆の尽力で鶴見区の被害は最小限に抑えられたァッ!

 ご苦労ッッ!

 大儀であったぁっ!」


 お爺ちゃんの大声が響く。


(ハイッッ!!

 お疲れ様ッッしたァァッッ!)


 負けず劣らず竜河岸達の大きな返答。


「さて、皆の者これからどうする?

 体力がまだある者は救助活動を続けるか?」


(あ、はい。

 僕はまだ体力あるので救助続けます)


(あ、俺も)


 二人が名乗りを上げる。

 傍には翼竜がいる。

 僕はどうしよう。


 ギュ……


 握る力が弱い。

 身体も少し怠い。

 正直もう帰りたい。

 僕は黙ってしまう。


 …………が、最終的に僕が選んだ結論は


「ん?

 何じゃ竜司。

 お前も続けるのか?」


 僕は手を上げていた。


「う……

 うん……」


 ポン


「竜司、やめとけ……

 お前そろそろ倒れるぞ……」


 踊七さんが優しく肩に手を置く。

 上げた手は小刻みに震えていた。


「え……?」


「竜司……

 お前疲労が溜まり過ぎてる……

 午後の疲れも取れて無い所で動いたんだ……

 笑い事っちゃねぇ……」


「で……

 でもっ……」


 僕は他でも無い横浜だから僕は限界まで助けたかった。

 それが贖罪に繋がるんだから。


「だから竜極の爺さんも言ってただろ?

 助ける者が倒れたら本末転倒って」


「竜司よ……

 貴様が横浜と言う土地にどう言う想いを抱いているかは知っているつもりじゃ……

 だからこそ休め。

 今は休め。

 全快してまた来れば良い。

 ここで貴様が抜けたからと言って非難するものなどおらん……」


「う……

 うん……」


 僕は弱弱しく手を降ろす。


「竜司っ!

 救助に関してはワイに任せとけッッ!

 竜司のジーちゃんっっ!

 ワイはもうちょい救助しまっさ」


「おお(げん)君、悪いのう」


「ええてええて。

 ほな竜司、ワレは帰ってクソして寝とけや」


「うん……

 気を付けてね……」


 こうして僕は拠点へ引き上げる事になった。


 ###


「はい、今日はここまで」


「パパー。

 僕、地震って体験した事無いけどそんなに凄いの?」


「僕も直接体験した事は無いけど、地震直後の横浜は酷いものだったよ。

 辺りで火は上がってるし、瓦礫もいっぱい散乱してるしね。

 あと夜が物凄く暗いんだ。

 電気が止まっちゃってるからね」


「ふうん……

 良く解んないなあ……」


 (たつ)がポカンとしている。

 地震は自分が今見ている風景が激変する。

 救助活動を行なってた僕ですら信じれない程に。

 体験しないと実感が沸かないんだろう。


(たつ)には体験しないまま行って欲しいモノだけど…………

 こればっかりは神様のお気に召すままだからね……」


「何それ?

 よくわかんない」


 何か(たつ)がガレアみたいな事言ってる。

 僕は自然災害の制御は人間には無理と言う事を言いたかったんだけどな。


「フフ…………

 さあ今日も遅い……

 おやすみなさい」

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