第十二話 ガレア酔いデレる
2047年 某県某市 皇邸寝室。
「やあ、こんばんは。
今日も話をしていこうか。
確か凛子さんに声をかけられた所からだったね」
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僕と凛子さん、グースの三人は外に出た。
テラスも物凄く広かった。
「どう?
竜司君、楽しんでる?」
「はい……
ものすごく楽しいです……」
僕は自分の気持ちを正直に伝えた。
「そう、それは良かったわ。
その割には元気無いわね」
「何か……
僕みたいな人がこんなに楽しくて良いのかなって……」
「……何かあったのかしら?
おばさんで良ければ話、聞くわよ」
そこはさすが大人の女性。
ぼんやりと察した様子。
僕は話した。
今までの事全てを。
横浜での事件の事。
家で居場所が無かった事。
引き籠もっていた事。
ガレアとの出会い。
ガレアを馬鹿にされた事。
そしてそれを否定出来なかった事。
そんな家に嫌気が嫌気が差して家出して来た事。
「そう……」
それだけ言った凛子さんは黙り。
少し沈黙が流れた。
「……私の事を少し話しましょうか」
「え……?」
「私の家は歌舞伎をやってる家庭でね。
昔から凄く厳しくて、毎日帰ると稽古稽古。
友達とは遊べなかったわ。
でも嫌じゃ無かったの。
上手くなるのは嬉しかったし。
何より兄様に見てもらって褒められるのが嬉しくてね」
「それが何で医者に……?」
「もともとグースは先代からウチに付いてる竜でそれを次世代が受け継いでいく。
だからカンナが思春期になれば譲るのよ」
僕は黙って話を聞いていた。
空は暗くなっている。
「十二歳の時よ。
私が歩いていたら道路の向かいに兄様を見たのよ。
赤信号なのに私は道路に飛び出した……
そしたらトラックが猛スピードで来てね……」
十二歳と言う所に僕のトラウマと重ねてしまう。
「私は無事だった。
突き飛ばされたから。
でも身代わりになった兄様は重傷でね……
集中治療室入り。
命に別状はなかったのだけれど、右腕と左足は脳性麻痺によって二度と動かないだろうって……」
僕は言葉を失う。
竜河岸は心のトラウマを持っているものなのか?
この話を聞いてそう思ったよ。
「兄様は歌舞伎界のスターとして将来有望されていたの……
そんな兄様の将来を奪ったんだ、何で赤信号に気付かなかったんだろうって凄く後悔したわ。
父様も私に厳しく接するようになった。
稽古で叩かれるのも増えた」
「あ……」
聞いた事がある。
歌舞伎の世界って確か女人禁制。
凛子さんのお兄さんが事故にあった事で将来は絶望的になる。
つまりお父さんがやっていた事は八つ当たりに近い。
僕は祖父の態度を思い出し、自分だけじゃ無かったと認識したよ。
「悩んで悩んで私は決心したの。
竜儀の式を終えて私が兄様を治すってね」
「……それはさっきの花瓶を治した時みたいにですか?
竜の魔力で」
コクリ
凛子さんは何も言わず頷くのみ。
僕は言葉を重ねる。
「でも、魔力で治せるなら何で凛子さんのお父さんはそうしなかったんでしょう?
グースを使役してたんですよね?」
「それは父様とグースの距離が原因ね。
竜河岸って言っても色々いるの。
別に魔力が使えるからって言っても特に自分の営みに変化がある訳じゃない。
だから竜には何も求めない。
父様にとってグースってただの珍しい居候って位置付けだったみたい。
私はグースと結構、話をしてたから魔力の万能性の事は知っていたの」
「……じゃあ、すんなりグースを譲り受けたんですか?」
僕の問に首を横に振りながら話を続ける。
「最初父様は反対したわ。
お前に何が出来るって。
余計な事はするなって。
それでもしつこくしつこくお願いしたわ。
私が出来るのはそれだけだったからね。
叩かれても突き飛ばされても私は止めなかった。
最後、父様の足に噛み付いてようやく了承を奪いとったの」
凄い。
僕とはえらい違いだ。
この追いすがる気持ちが僕には無かった。
「で、式を終えて晴れて私はグースを父様から譲り受けた。
グースを連れて私は兄様の病室に行ったわ。
そこで初めてグースの癒しの力を見た。
そして、兄様は完治して今は歌舞伎協会の会長になっているの。
流石の父様も驚いていたわ」
辺りの闇は濃くなり鈴虫の音しか聞こえなかった。
「グースの力に感動した私は同時に自分の進路も決めたわ。
医者になろうって。
医者になって兄様と同じ苦しみ抱えた人を救うんだってね」
「そうだったんですね……」
「私はグースを連れて世界を回ったわ。
中には一国の首相なんかも治したんだから。
お金もいっぱいもらってそれでこの家を買ったのよ」
凛子さんの人生に触れ、何かもやもやが少し晴れた気がした。
辛い想いをしてるのは僕だけじゃ無かった事が少し僕の気持ちを軽くした。
「竜司君。
ガレアの事、好き?」
突然凛子さんがこんな事を聞いて来たんだ。
「はい……
アイツが居なければ僕はまだ引きこもりのままですし……
何よりアイツと居ると楽しいんです。
空っぽだった僕がこうしていられるのは全部アイツのおかげなんです」
「なら竜司君、ガレアと竜儀の式をしなさい」
「え……?
何故ですか?」
「竜儀の式と言うのは単純に竜に跨るだけじゃ無いの。
竜の魔力を制御する。
竜司君がガレアの手綱を握るの。
なら、少なくともガレアじゃもうそんな事件は起きないわ」
「そうですか……」
僕は考えた。
ガレアと竜儀の式をする。
それは大歓迎だ。
けど踏ん切りがつかなかった。
そこへ凛子さんが……
「後ね、竜儀の式を終えたらそれぞれ個別の超能力が使えるようになるわよぉ?
スキルって言うの」
「え……?
スキルですか?」
俯き加減だった顔を上げて凛子さんを見つめる。
「あははっ。
やっぱり竜司君てオタクなのねえ。
そんな事で揺らいじゃった?」
凛子さんの言う通りだった。
スキルで食指が動いてしまった自分が情けなかったよ。
「凛子さん、僕……
ガレアと竜儀の式をやります」
僕は決心した。
ガレアとこれからも仲良くやっていくために。
でも、頭はほんの少しどんなスキルだろうって考えていたよ。
「そういえば凛子さんのスキルって?」
「私のスキルは流透過。
魔力の流れや大きさ性質なんかを色別化、視覚化できるの」
「え?
でも竜河岸って魔力の流れは見えるんじゃあ……」
「普通の竜河岸はぼんやりと流れぐらいしか解らないけど、私の流透過はその魔力の大きさや性質とかもわかるのよ。
解像度が違うわ」
「だから東雲さんの魔力の動きが……」
「そうゆう事。
どう?
かっこいいでしょ?」
「ハイ!
かっこいいです!!」
今日一番声を張ったんじゃないかな?
「よろしい少年。
じゃあ、グース。
後はお願い」
【はい主。
それでは竜司様。
竜儀の式は明日の午後、素戔嗚神社で執り行いましょう。
それまでにガレアに説明をお願いします】
「わかりました……
グース少し質問良いかな?」
【何でしょう?】
「グースは何でこっちに来たの?」
【私はフラッと地球にやって来まして。
最初、日本の歴史に興味深くて。
やがて蘭堂家に御厄介になり、今は歌舞伎に興味があります】
「あー道理で。
その髪……」
グースが歌舞伎役者のような白髪で白粉みたいに白いのを納得したよ。
【それじゃあ、中に戻りましょうか】
幾分か気持ちがスッキリした。
悩みを抱えたのは僕だけじゃ無かったんだってね。
中に戻ると酷い有様だった。
あたりには料理が散乱し、みんな酔い潰れて眠りこけていた。
起きているのはカンナちゃんと酔ったガレアだけだったよ。
「そいじゃーいっくよーっ!
ガレアちゃんっ!」
カンナちゃんが空中にローストビーフをばら撒く。
【はぁ~い】
それを一つも落とさずに全部食べるガレア。
だがろれつが回っていない。
「よーしよしよし、ガレアちゃんえらいねー」
カンナちゃんがガレアの頭を撫でる。
【うみゅう~】
うみゅう~?
ガレアの猫なで声なんか聞いた事なかったよ。
でもこんな惨劇でも凛子さんは冷静。
「コラ、カンナ。
食べ物で遊ばないの。
はいはい、皆さん。
そろそろお開きにするわよ。
カンナみんなを起こして」
「わかったー」
するとカンナちゃんが厨房に消えていき、すぐに帰って来た。
手にプライパンとすりこぎを持って。
「すぅーーっ」
カンナちゃんが大きく息を吸い込む。
次の瞬間……
「起きろーー!!」
ガンガンガンガンガン!!
声を張り上げてフライパンをガンガン叩き始めた。
僕は思わず耳をふさいだ。
隣で凛子さんもふさいでいた。
次第にむくむくと死者が蘇るようにみんな起き出した。
柏手を打った凛子さんが一言。
「さあさあ、皆さんもう打ち上げは終了ですよ」
「へぇーい」
みんなダラダラと片づけを始めた。
片付けもすぐに終わり、みんなは帰宅。
「竜司君、じゃあね」
賢治さんを見送った後……
「では僕も……」
「あら?
竜司君、今日は泊まって行きなさい」
「え……?
えええっっ!?」
僕は一気に赤面した。
「あははっ!
竜司君たらやーねー。
大丈夫よ襲ったりしないから。
アナタが襲ってくるなら構わないけど」
「ななな……っ!?
何を言ってるんですか!?
そんな事はしませんっ!
普通に寝るだけです!」
更に……
「と言うことは泊まってくれるのね?」
やられたと思ったよ。
でもガレアは泥酔状態だしここからガレアを引っ張って宿を探すというのも物理的に考えて無理だった。
「……はい、御厄介になります……」
僕は観念して泊まる事にした。
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「さあ、今日はここまで。
続きはまた明日……
おやすみなさい……」
続く。




