第十二話 ガレア酔いデレる
「やあ、こんばんは。
今日も話をしていこうか」
確か凛子さんに声をかけられた所からだったね。
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僕と凛子さん、グースの三人は外に出た。
テラスも物凄く広かったよ。
「どう?
竜司君、楽しんでる?」
「はい……
ものすごく楽しいです……」
僕は自分の気持ちを正直に伝えた。
「そう、それは良かったわ。
その割には元気無いわね」
「何か……
僕みたいな人がこんなに楽しくて良いのかなって……」
「何かあったのかしら?
おばさんで良ければ話を聞くわよ」
そこはさすが大人の女性。
ぼんやりと察した様子だ。
僕は話した。
今までの事全てを。
横浜での事件の事。
家で居場所が無かった事。
引き籠もっていた事。
ガレアとの出会い。
ガレアを馬鹿にされた事。
そしてそれを否定出来なかった事。
そんな家に嫌気が嫌気が差して家出して来た事。
「そう……」
それだけ言った凛子さんは黙り。
少し沈黙が流れた。
「私の事を少し話しましょうか」
「え……?」
「私の家は歌舞伎をやってる家庭でね。
昔から凄く厳しくて、毎日帰ると稽古稽古。
友達とは遊べなかったわ。
でも嫌じゃ無かった。
上手くなるのは嬉しかったし。
何より兄様に見てもらって褒められるのが嬉しくてね」
「それで何故医者に……?」
「もともとグースは先代からウチに付いてる竜でそれを次世代が受け継いでいく。
だからカンナが思春期になれば譲るのよ」
僕は黙って話を聞いていた。
空は暗くなっていた。
「十二歳の時よ。
私が歩いていたら道路の向かいに兄様を見たのよ。
赤信号なのに私は道路に飛び出した……
そしたらトラックが猛スピードで来てね……」
十二歳と言う所に僕のトラウマと重ねてしまった。
「私は無事だった。
突き飛ばされたから。
でも身代わりになった兄様は……
兄様は集中治療室に入ったわ。
命に別状はなかったのだけれど、右腕と左足は脳性麻痺によって二度と動かないだろうって……」
僕は竜河岸は心のトラウマを持っているものなのか?
と思ったよ。
「兄様は歌舞伎界のスターとして将来有望されていたの。
そんな兄様の将来を奪ったんだ、何で赤信号に気付かなかったんだろうって凄く後悔したわ。
父様も私にはあたりが厳しくなった。
稽古で叩かれるのも増えた」
「あ……」
僕は祖父の態度を思い出し、自分だけじゃ無かったと認識したよ。
「悩んで悩んで私は決心したの。
竜儀の式を終えて私が兄様を治すってね。
最初父様は反対したわお前に何が出来るってね。
それでもしつこくしつこくお願いしたわ。
私が出来るのはそれだけだったからね。
殴られても突き飛ばされても私は止めなかった。
最後、父様の足に噛み付いてようやく了承したわ」
この追いすがる気持ちが僕は無かったと思ったよ。
「グースを連れて私は兄様の病室に行ったわ。
そこで初めてグースの癒しの力を見たわ。
そして、兄様は完治して今は歌舞伎協会の会長になっているわ」
辺りの闇は濃くなり鈴虫の音しか聞こえなかった。
「グースの力に感動した私は同時に自分の進路も決めたわ。
医者になろうって。
医者になって兄様と同じ苦しみ抱えた人を救うんだってね」
「そうだったんですね……」
「私はグースを連れて世界を回ったわ。
中には一国の首相なんかも治したんだから。
お金もいっぱいもらってそれでこの家を買ったのよ」
凛子さんの人生に触れ、何かもやもやが少し晴れた気がした。
「竜司君ガレアの事、好き?」
突然凛子さんがこんな事を聞いて来たんだ。
「はい……
アイツが居なければ僕はまだ引きこもりのままですし……
何よりアイツと居ると楽しいんです。
何もなかった僕がこうしていられるのは全部アイツのおかげなんです」
「なら竜司君、ガレアと竜儀の式をしなさい」
「え……?
何故ですか?」
「竜儀の式と言うのは単純に竜に跨るだけじゃ無いの。
竜の魔力を制御する。
竜司君がガレアの手綱を握るの。
なら、もうそんな事件は起きないわ」
「そうですか……」
僕は考えた。
ガレアと竜儀の式をする。
それは大歓迎だ。
けど踏ん切りがつかなかった。
そこへ凛子さんが……
「後ね、竜儀の式を終えたらそれぞれ個別のスキルが使えるようになるわよー」
「え……?
スキルですか?」
「あははっ。
やっぱり竜司君てオタクなのねえ。
そんな事で揺らいじゃった?」
凛子さんの言う通りだった。
スキルで食指が動いてしまった自分が情けなかったよ。
「凛子さん、僕……
ガレアと竜儀の式をやります」
僕は決心した。
ガレアとこれからも仲良くやっていくために。
でも、頭はほんの少しどんなスキルだろうって考えていたよ。
「そういえば凛子さんのスキルって?」
「私のスキルは流透過。
魔力の流れや大きさ性質なんかを色別化、視覚化できるの」
「え?
でも竜河岸って魔力の流れは見えるんじゃあ……」
「普通の竜河岸は流れぐらいしか解らないけど、私の流透過はその魔力の大きさや攻撃的か平和的かとかもわかるのよ」
「だから東雲さんの魔力の動きが……」
「そうゆう事。
かっこいいでしょ?」
「ハイ!
かっこいいです!!」
今日一番声を張ったんじゃないかな?
「よろしい少年。
じゃあ、グース。
後はお願い」
【はい主。
それでは竜司様。
竜儀の式は明日の午後、素戔嗚神社で執り行いましょう。
それまでにガレアに説明をお願いします】
「わかりました……
グース少し質問良いかな?」
【何でしょう?】
「グースは何でこっちに来たの?」
【私は最初、日本の歴史に興味を持ってこちらに来ました。
そして蘭堂家に御厄介になり、今は歌舞伎に興味があります】
「あー道理で。
その髪……」
グースが歌舞伎役者のような白髪で白粉みたいに白いのを納得したよ。
【それじゃあ、中に戻りましょうか】
幾分か気持ちがスッキリした。
悩みを抱えたのは僕だけじゃ無かったんだってね。
中に戻ると酷い有様だった。
あたりには料理が散乱し、みんな酔い潰れて眠りこけていた。
起きているのはカンナちゃんと酔ったガレアだけだったよ。
「そいじゃーいっくよーっ!
ガレアちゃんっ!」
カンナちゃんが空中にローストビーフをばら撒く。
【はぁ~い】
それを一つも落とさずに全部食べるガレア。
だがろれつが回っていない。
「よーしよしよし、ガレアちゃんえらいねー」
カンナちゃんがガレアの頭を撫でる。
【うみゅう~】
うみゅう~?
ガレアの猫なで声なんか聞いた事なかったよ。
でもこんな惨劇でも凛子さんは冷静。
「はいはい、そろそろお開きにするわよ。
カンナみんなを起こして」
「わかったー」
するとカンナちゃんが厨房に消えていき、すぐに帰って来た。
手にプライパンとすりこぎを持って。
「すぅーーっ」
カンナちゃんが大きく息を吸い込む。
次の瞬間……
「起きろーー!!」
ガンガンガンガンガン!!
声を張り上げてフライパンをガンガン叩き始めた。
僕は思わず耳をふさいだ。
隣で凛子さんもふさいでいた。
次第にむくむくと死者が蘇るようにみんな起き出した。
柏手を打った凛子さんが一言。
「さあさあ、皆さんもう打ち上げは終了ですよ」
「へぇーい」
みんなダラダラと片づけを始めた。
片付けも終わりみんなは帰宅した。
「竜司君じゃあねえ」
賢治さんを見送った後……
「では僕も……」
「あら?
竜司君、今日は泊まって行きなさい」
「え……
えええ?」
僕は一気に赤面した。
「あははっ!
竜司君たらやーねー。
大丈夫よ襲ったりしないから。
アナタが襲ってくるなら構わないけど」
「ななな……っ!?
何を言ってるんですか!?
そんな事はしませんっ!
普通に寝るだけです!」
更に……
「と言うことは泊まってくれるのね?」
やられたと思ったよ。
でもガレアは泥酔状態だしここからガレアを引っ張って宿を探すというのも物理的に考えて無理だった。
「……はい、御厄介になります……」
僕は観念して泊まる事にした。
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「さあ、今日はここまで。
続きはまた明日……
おやすみなさい……」
バタン




