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ドラゴンフライ  作者: マサラ
第九章 静岡 後編
117/284

第百十六話 竜司と暮葉の御挨拶周り⑫~決着

「やあ、こんばんは。

 今日も始めて行こうかな?」


「パパッ!

 どうなったのっ!?

 早くッ!」


 あれ?

 昨日はそうでも無かったのに割と(たつ)が興奮してる。


「まあまあ慌てないで……

 じゃあ始めていくよ」


 ###


 ブシュッ……

 ブショッ……


 ボコンッッ!


 身体が裂ける。

 両腕、背中、頭と裂け、続いて走った激痛は肩口。


 駄目だ。

 このままだと身体中が裂けていってかつて皇竜司(すめらぎりゅうじ)という名前だった干物が出来上がってしまう。


 この重力の(くさび)から逃れないと。

 おそらくいつもの小や中の魔力注入(インジェクト)じゃ駄目だ。


 僕が今の状態で切れるカードは大魔力注入(ビッグインジェクト)のみ。

 と、同時に僕は名古屋での後遺症を想い出す。

 まだフネさんの薬は残っていたはずだから後遺症自体はそんなに怖いものでは無い。


 僕が気にしているのはこの場所だ。

 こんな陸地から離れた埋め立て地で首から下の感覚が無くなってしまったらと考えると正直ネガティブな結末しか浮かばない。


 でも…………

 どうせこのまま何もせずにいても僕は干物になるだけだ。

 それならやろう。


 やってしまおう。

 大魔力注入(ビッグインジェクト)を。


 でも僕は任意でアレを使った事が無い。

 出来るものなのだろうか。


 ブシュッ……!

 ブシュッ……!


 ボコォンッ!


 更に裂ける僕の身体。

 そして何の音か判らない大きな破壊音。

 もはや一刻の猶予も許されない。


 僕は念じた。


 大魔力注入(ビッグインジェクト)ッッッ!


 どうだっ!?


 ボコォォォォンッ!


 確認しようにも僕は今物凄い力で地面に圧し付けられ身動き一つとれない。

 僕が出来るのはガレアを信じる事だけだ。


 頼むっ!

 僕は祈る。


 ブシュッ……!

 ブシュッ……!


 身体の裂ける音が聞こえる。

 感覚もぼんやりしてきてどこが裂けたかも判らない。


 早くっ!

 僕は祈り続ける。


 ん?


 何かが触れた。

 ボンヤリとした感覚の中で確かに何か触れている気がする。

 僕は身体の中の定かではない感覚を追っていた瞬間。



 ドッッッックンッッッッッ!!



 心臓が大きく高鳴る。

 心臓の壁が破け散りそうな衝撃。

 まるでドラムを思い切りブッ叩いて破ってしまう様だ。


 この感覚には覚えがある。


 名古屋。

 栄での決戦。

 蓮が吹き飛ばされた時。


 僕がキレて使った魔力注入(インジェクト)

 身体の奥の奥が点火。

 その炎は瞬く間に体内の隅々まで行き渡る。


 熱い。

 身体が熱い。

 もともとボンヤリとしていた感覚に加え、襲い来る熱さに頭もぼうっとしてくる。


 僕は何でこんな事になっている。

 熱さで頭が浮かされ正常な判断が出来ない。


 どうして動けない。


 上から来る圧のせいだ。

 どうやったら解放される。


 元を絶ったら解放される。

 どこだ。

 元はどこだ。


 ググッッ!

 ググググッ!


 ボッッコォォォン!


 僕はゆっくり動き出す。

 超高重力下の中、震えが止まらない。

 が、大魔力注入(ビッグインジェクト)の威力も負けていない。


 どこだ。

 元はどこだ。


 ググッッ!

 ググググググッッッ!


 超高重力負荷が地面へ圧し返そうとする。

 が、大魔力注入(ビッグインジェクト)の圧倒的力が身体中に巡っている今の状態は簡単に屈しない。


 僕は強引に首を曲げる。

 僕の顔は物凄い事になっていたらしい。

 瞳は血の様な色で怪しく光り、表皮は網目の様に血管が浮き出て、髪の毛一本一本まで魔力が行き渡り、それが束になってザワザワと波打つ。


 全身に細かい震えが来ているのはと超高重力負荷と巨大な魔力が身体の中を駆け巡っている為。



 ガチガチガチガチガチ



 これは上下の歯が細かく打ち震えている音。

 そんな僕の赤い眼を見て祖父が呟く。


「ぬう……

 竜司……

 貴様魔力酔い(ウェスティド)か……

 誰に教わったか知らんが保持(レテンション)も教えなかったのか……」



 ガァァァンッッッ!



 一歩。


 祖父に近づく。

 踏みしめた右足が地面に食い込む。

 右足を中心に小さなクレーターが出来る。


 ググッ!

 グググググッッ!


 膝が曲がる。

 やはり二十Gの超高重力負荷。


 強引に地面に圧し付ける力は圧倒的。

 僕は片膝を付く。


 ボコォォォンッ!


 地面についた左膝を中心に出来る小さなクレーター。

 この体勢は維持できるが上から絶え間なく圧し付ける圧倒的重力負荷が僕の身体を縛る。

 

 やはり僕には無理だったのかな。

 祖父はずっと竜河岸としてやってきた人。

 そんな人に一撃を入れる事なんてポッと出の僕には無理だったんだ。



 もう良い。



 僕は疲れた。

 このまま倒れて静かに眼を瞑れば直に楽になるだろう。


 そうだ。

 そうしよう。

 全てを諦めて楽になろう。


「そこまでかぁっ!

 貴様の力などそこまでのものに過ぎんのかぁっ!」


 僕が全てを諦めた所に祖父の怒号が飛ぶ。


「それでも儂の孫かぁっ!」


 更に飛ぶ祖父の怒号。

 しかし僕はもう一度立つ事は出来ない。


「足を踏ん張りッ!

 腰を入れんかぁっ!

 そんな事では憎い儂に一撃を入れる事など夢のまた夢よぉっ!

 この馬鹿孫がぁっ!」


 この一言を聞いて僕の眼がカッと見開く。


 グググッ!

 グググググググッ!


 僕は再びゆっくり起き上がる。


 ガクガクガクガクガクガク


 両膝が笑っている。


 ボコォンッ!


 一歩。

 僕は一歩祖父に近づく。


 再び出来る小さなクレーター。

 プルプル震える。


 足を踏ん張り。

 腰を入れる。

 今、祖父が言った事を実践する。


 ボコォォォンッ!


 もう一歩。

 祖父に近づく。

 さっきから両膝の笑いが治まらない。


 ボコォンッ!


 再び片膝を付く僕。

 付いた右膝を中心に出来る小さなクレーター。


 駄目か。

 やはりもう限界か。


「何をしておるッッッ!

 再び膝をつくなどッッ!

 勝負を捨てた者のする事ぞぉッッッ!」


 僕に耳に入る祖父の怒号。

 それが僕に諦める事を許さない。


「立てィィッッ!

 立って見せいっっっっ!」


 これが僕の耳に入った瞬間、僕は再び立ち上がる。


 グググッ!

 ググググググッッッ!


 僕は再び立ち上がる。

 そして圧し付けてくる圧倒的な力に逆らいながら一歩前へ。


 ボコンッッ!


 右足を前に進める。

 三度出来る小さなクレーター。

 祖父までは二メートルも無い。


 いつもはすぐに歩ける距離。

 が、今日は。

 今は物凄く遠い。


 僕は引き摺る様に震える左脚を持ち上げまた一歩前へ。


 ボコォォォォン!


 左足を中心に小さなクレーター。

 ようやく僕の射程範囲。

 

 長かった。

 次は手を持ち上げないと。


 ググッッ!

 ググググググッッ!


 ボコォォォォン!


 プルプル震えながらゆっくりと右手を握り、持ち上げる。

 足を踏ん張った為、小さかったクレーターが更に大きくなる。


 肩口まで上げ、何とかパンチを打つ体勢にはなれた。

 そして震えながら口を開ける。


 

 今まで。

 引き籠っていた頃からずっと言いたかった事を声にする。



「うるさいっっっ…………!

 僕はお前の孫として生きてるんじゃないッッッッ!」


 ドクッッッッン!


 心臓が大きく高鳴る。

 ヤバいもう限界だ。

 名古屋の時は確かこの後……


 ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン!


 心臓が超速で高鳴り始める。

 あと二アクションッ!

 二アクションだけ持ってくれッッ!


「僕はッっっっ!!

 僕だぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!」


 プルプル震えながら拳を前へ。

 意識が飛びそう。

 もう駄目だ。



 ペシッ



 何かが拳に当たった気がした。

 が、僕はそれが何に当たったのか判らなかった。


 何故なら。

 僕は気を失ったのだから。


 ###


 僕はゆっくり眼を開ける。

 僕はどうなったんだ。

 上には布団が掛けられている。


 どこかで寝かされている様だ。

 気を失う時の事を思い出してみる。


 ペシッ


 確かに何か当たった……

 気がする。

 僕は右手を動かそうとする。


 ピクリとも動かない。


「ハァ……」


 僕は溜息をつく。

 この状態には覚えがあったからだ。

 さて出ている後遺症の症状を確認しよう。


 両脚。

 全く動かない。


 腰。

 全く動かない。


 両前腕部。

 全く動かない。


 両上腕部。

 ん?

 動く。


 前腕部の感覚が無いままゆっくりと持ち上げて見る。


「おお……」


 若干の怠さはあれども僕の言う事を聞いて持ち上がる両腕。

 ゆっくりと降ろす。


 そして首を左右に振ってみる。

 これも動く。


 まとめると今回の後遺症は胸部から下と両前腕部の感覚が無い様だ。

 名古屋の時と比べて感覚のある個所が増えている。

 これは僕の成長と取って良いのだろうか。


 しかし動く箇所が増えたと言っても身動きが取れないのは変わらない。

 僕は念話(テレパシー)を使用する。


―――グース……

   グース……

   応答して。


 しばらく待つ。

 応答があった。


―――ハイハイ。

   如何致しました竜司様?


―――急で悪いんだけど……

   グースって僕が今いる場所ってわかる?


―――ハイ。

   私の生成した精神端末(サイコターミナル)をお持ちの様ですので。


―――ちょっとこっち迄来てくれない?

   今、僕は身動き全く取れないんだ……

   だから……

   治療として……


―――治療……

   ですか?


―――もっ!

   もちろんこれは正式な出張診断だ。

   診断料も払うよ?


―――いえ……

   お金の問題では無いのですが……

   少々お待ち下さい……

   (マスター)に聞いてきます。


 やはりちょっと図々しかったかな?

 グースだって凛子さんだって日々働いているんだから。

 少し待っていると再びグースから応答がある。


―――お待たせしました竜司様。

   では、(マスター)と一緒に伺います。

   今、午前中最後の患者を診察している最中ですのでそれが終わり次第そちらに伺います。


―――お願いします。


―――では後程……


 グースとの念話(テレパシー)終了。

 後はグースたちが来るのを待つだけだ。


「ふう……」


 僕は少し溜息。

 立ち合いはどうなったんだろう。

 僕はお爺ちゃんに勝ったのかな?


 そんな事を考えていると……


 ガチャ


 ドアの開く音がする。


「あ、竜司。

 目が覚めた?」


 首を左に振る。

 上手く死角に入り姿は確認できない。


 でも声で解る。

 暮葉(くれは)だ。

 僕はとりあえず顔を元に戻す。


暮葉(くれは)

 そこに居るの?

 顔を見せてくれない?」


 にゅっ


 視界の端から勢いよく暮葉(くれは)のキョトン顔が覗く。


「竜司、大丈夫?」


 チャプ


 水音がする。


「あぁ、何とかね……

 暮葉(くれは)、何を持ってるの?」


「ん?

 これ?

 洗面器とタオルよ。

 竜司のお父さんが身体がボロボロになってるから拭いてあげて下さいって」


「へえ……」


「さっ。

 竜司っ。

 起き上がって脱いでっ」


 床に洗面器を置いた暮葉(くれは)はそう言う。


「そうしたいのは……

 山々なんだけど……

 僕……

 今、動けないんだよね……」


「えっ?

 動けないって?」


「今動かせるのは……

 肩と首ぐらいなんだ……

 それ以外は感覚が無くて……」


「感覚が無いって?」


「触ったりしても解んないって事だよ」


「触っても……」


 暮葉(くれは)キョトン顔。

 そして何か閃いた顔になる。


「フッフーーンッ。

 竜司っ。

 えいっ。

 コチョコチョコチョコチョ……」


 暮葉(くれは)が何かしている。

 動けない上に感覚も無いもんだから何をしているかさっぱり解らない。


「ごめん……

 暮葉(くれは)……

 何してるのかさっぱり解んない……」


「コチョコチョコチョコチョ…………

 ぶーーーっ!

 つまんないっ!」


 何やら暮葉(くれは)がむくれている。


「ごめんね……

 暮葉(くれは)


「もういいわっ。

 じゃあ私が脱がしてあげるっ」


 ヒョイッ


 両脇に手を差し入れ軽々と僕を持ち上げる。

 布団から引っ張り出し上半身だけ壁にもたれさせる。


暮葉(くれは)……

 重たくないの?」


「重い?

 何が?

 ……さぁーっ……

 プチプチプチ……」


 手早く僕の上着のボタンを外していく暮葉(くれは)

 あれよあれよと上着を脱がされる僕。


「ハイッ!

 バンサーーーイッ!」


 アウターのTシャツを上に持ち上げ脱がす。

 半裸になる僕。


「…………暮葉(くれは)……

 よくバンザイなんて言葉を知っていたね」


「前に幼稚園に営業に行った時にね。

 子供の世話もしたのよ。

 保母さんに教わったの。

 こう言ったら子供は素直に脱いでくれるって」


 なるほど。

 って言うかアイドルの営業で幼稚園って珍しいなあ。


 チャプチャプ……

 ギューーッ


 暮葉(くれは)が洗面器にタオルを浸し、絞っている。

 絞り終わったタオルを正方形に畳む。


「それじゃあ拭いて行くね……

 ゴシゴシ……

 わっ真っ黒っ」


 チャプチャプ……

 ギューッ……


 暮葉(くれは)が洗面器でタオルを洗い、再び僕の身体を拭き始める。

 前面部が拭き終わった。


 続いて背中を拭き始める。

 テキパキと手早く拭いていく。


「竜司、ものすっごく汚いわよ。

 コレ顔も拭いた方が良いかもね」


 そう言いながら僕の顔にタオルを押し付ける。


「ムーーーッ」


 思わず声が出る僕。


「はいっ!

 ふぅっ。

 これで上は終わりっ」


 上は?


 暮葉(くれは)がおかしなことを言い出す。

 そして次の発言を聞いて僕は驚愕する。


「さぁっ!

 次は下よっ!」


「えっ…………

 ええええええええっっっ!?

 ちょっ!

 ちょっとちょっとっ!

 下はいいよっ!」


「駄目よ。

 上がこんなに汚かったんだから下も汚いはずよ」


 そう言いながら僕のズボンに手をかける暮葉(くれは)


「これどうやって外すのかしら……」


 カチャカチャ


 暮葉(くれは)がズボンのベルトを弄っている。

 止めさせたいが身体は全く動かない。

 もどかしい。


 僕は顔をブンブン振って拒否の訴えをする。

 が、暮葉(くれは)は聞かない。


 シュルン


 ベルトが外された。


 ジィ~~ッ


 ズボンのファスナーを降ろされた。

 やばい。

 やばいやばいやばいやばい。


「んしょっ……

 なかなか脱げないわねえ……

 竜司、お尻浮かせて」


「無理だよ。

 っていうか止めてーーーっっっ!」


「ウフフ何だか楽しくなってきたわっ。

 止めませーーーんっっ。

 んしょんしょ……」


「止めてっ……

 お願いっ……

 止めてっ……」


 僕は暮葉(くれは)に懇願する。

 が、止まらない暮葉(くれは)の手。

 もう泣きそうだ。


「どーーーーーんっ!」


 ズボッ



 僕のズボンが脱がされた。



 下着ごと。



 満面の笑みの暮葉(くれは)

 そして全裸になった僕。


 笑みが解けた暮葉(くれは)は僕の下半身を見てキョトン顔。

 お願いだから見ないでくれ。


「なあにコレ?」


 ピシピシ


 暮葉(くれは)が僕の下半身の一部分を弄り始めた。

 僕の両眼には僕の下半身の一部分を軽く叩いたり伸ばしたりしている暮葉(くれは)が映る。

 もう泣く。


「ねえねえ竜司。

 この“棒”なに?」


 純真な眼で僕に問いかけながら“棒”を弄り続ける暮葉(くれは)


「やめて……

 お願い……

 やめて……」


「ねえねえ竜司。

 この“棒”なに?

 何で毛が生えてるの?」


 制止も聞かずどんどん疑問をぶつける暮葉(くれは)

 僕は顔を真っ赤にしながら唇を噛み締める。


「ねえねえ竜司。

 ねえこの“棒”何?

 ねえこの毛なに?」



 プツッ



 僕の中で何かが切れた。

 恥ずかしさが最高潮(ピーク)に達しても人間ってキレるんだ。

 いや、キレると言うかタガが外れたと言った感じだろうか。


「…………陰茎……」


「陰茎?」


 暮葉(くれは)のキョトン顔も意に介さず説明を続ける僕。

 もうどうにでもなれ。


「陰茎。

 男性器の一部で体内受精をする動物のオスにあり、身体から常時突出しているか、あるいは突出させるさせる事が出来る生殖器官である……

 うんたらかんたら」


 タガの外れた僕は饒舌にペラペラその“棒”について話していた。

 僕ってこんなに活舌、良かったんだ。


「へーぇ。

 何でこの“棒”こんなにフニャンフニャンなのかしら?」


 ピシピシ


 僕の話を聞きながらまだ“棒”を弄っている暮葉(くれは)

 頬が濡れるを感じる。

 僕は静かに泣いていた。


「…………陰茎は幼児語で“ちんちん”、“ちんこ”、“ちんぽ”と言い……」


 静かに泣きながら説明を続ける僕。

 すると僕の発したワードに暮葉(くれは)が反応した。


「あっ!

 これが“ちんこ”なのねっ!

 幼稚園で子供が裸で“チンコダーーッシュ”って叫びながら走ってたわっ。

 その後、保母さんに物凄く怒られていたけど何でだろ?」


 そんな世紀末な会話をしていると……



 ガチャ



 ドアが開く。

 まずい。


「竜司君……?」


 来客は凛子さんだった。

 全裸の僕と下半身の“棒”を持ってる暮葉(くれは)を見つめる。


「あら……

 お邪魔だったかしら……

 終わったら言ってね」


 出て行こうとする凛子さん。

 何か勘違いしている。


「違ーーーーーーーーうっ!」


 僕は首を左右に思い切り振りながら全力で否定する。


 続いてグースが入って来る。

 全裸の僕と下半身の“棒”を持ってる暮葉(くれは)を見つめる。


「おや……

 セックスの最中でしたか?

 しかし竜司様、疲労状態での性行為はあまりお勧めしませんよ」


「だから違ーーーーーーうっっっっ!」


 とりあえず全裸の僕の側に座る凛子さんとグース。

 何となく気まずい空気。


 ピシピシ


 そんな空気も気にせず下半身の“棒”を弄り続ける暮葉(くれは)

 感覚が無いため為すがままの僕。


「………………まあ竜司君も若いんだし……

 ムラムラするって言うのも解らなくは無いけど……

 いくら婚約者とはいえ知り合って間もない女の子に奉仕させるって言うのは……」


 うん。

 凛子さんはまだ勘違いしている。

 とりあえず僕は事の顛末と暮葉(くれは)がしていた事はただの興味本位であり如何わしい事は何もない事をとうとうと説明した。


 それを聞いて赤面する凛子さん。


「えっ!?

 嫌だ……

 私ったら……

 ホホホ。

 ごめんなさいねぇ。

 私、勘違いしちゃって」


 照れてる凛子さん。

 少し可愛い。

 でも僕は最初から否定してたんだけどな。


「いえ……

 判ってくれれば」


 珍しい凛子さんはここまでで終わり。

 少し目が鋭くなる。


「じゃあ竜司君。

 まず診断から始めるわ。

 布団に寝てくれるかしら?」


「はい。

 暮葉(くれは)、僕を布団に寝かせてくれない?」


「ん?

 ホイ」


 ビュッ!


 両足を無造作に引っ張る暮葉(くれは)

 物凄い速さで強制的に布団に寝かされる全裸の僕。


流透過(サーチ)……」


 久々に見る凛子さんのスキル。

 頭の先からつま先までまんべんなく眺める事一分半。


「魔力汚染が酷いわ……

 特に胸部から下が……

 グースッ!

 魔力除去術式行くわよっ!」


「わかりました」


 グースが手をかざす。

 緑色に光っている。


 シルシルシルシル


 何か黒っぽい液体の様な物が僕の身体から滲み出てきてグースの手に集まって大きめの球になりつつある。


 パン


 グースが両手を合わせその球を破壊する。


「どう?

 グース」


 凛子さんがグースに尋ねる。


「かなり濃い魔力ですのであと四、五回は必要かと……」


「そう……

 お願い」


「はい」


 シルシルシルシル


 再びグースは黒っぽい液体を手に集め始める。


 パン


 また破壊する。

 ん?

 グースの手が先から前腕部全体が黒く変色している。


「グース……

 手が……」


「ん?

 ああ……」


 キュオッ!


 瞬く間にグースの手が元通り。

 上下に振って元に戻ったか確認している。

 僕がじっとグースの手を見ていると察したのか説明してくれた。


「これは竜司様の中にあった魔力の影響です」


「え……

 でも魔力って竜の養分じゃないの?」


「基本的に竜と言うものは他に魔力を分け与えると言う事はしないものです。

 と、言うのも魔力が養分になるのは竜界の大気に漂うものか自身で生成した魔力のみなのです」


「え……

 じゃあ他の竜の魔力を取り込んだら……?」


「先程の手のようになりますね。

 要するに他の竜の魔力は毒と言う事です」


 あっけらかんと冷静に言うグース。

 そうだったのか。


 僕は驚きを隠せない。

 そしてまたグースは作業に戻る。


 シルシルシルシルシル


 パン


 僕の身体の魔力除去作業が繰り返し行われた。

 時々グースの手を元に戻す。

 続ける事三十分弱。


(マスター)、完了しました」


「ありがとう」


 治療が終わったのか。

 僕は身体を動かそうとするがまだ感覚は戻ってない。


「次っ!

 血液の魔力除去行くわよっ!」


「はい(マスター)


 凛子さんの眼が赤く光り、両手を少し上に向ける。


血液透析(ヘモ=ダイアライシス)ッ!」


 シュオォォォォォッ!


 僕の身体から赤い液体が滲み出てくる。

 これは僕の血か?

 そして凛子さんの手に集められ、見る見るうちに赤球が出来上がる。


「う…………」


 気怠さが僕を包む。


「竜司君っ!?

 大丈夫っ!?

 気をしっかり持ってっ!

 グースお願いっ!」


「はい(マスター)


 凛子さんのての赤球から黒っぽいモヤが染み出しグースの手に集められる。

 黒球完成。


 パン


 その黒球を両手を合わせ磨り潰す。


「んっ……」


 凛子さんの声に呼応するように赤球が解け僕の身体に戻って行く。


暮葉(くれは)さんっ!

 協力して頂戴っ!

 竜司君の身体を押さえ付けてっ!」


 何を言ってるんだ凛子さんは。

 と思った瞬間。


「ぐああああああっっっっ!!」


 僕の身体に激痛が走る。

 体内に高圧電流を流した様な。

 僕はたまらず身体を左右に振り悶え始める。


「竜司っ!」


 ガバッ!


 暮葉(くれは)が自身の身体全体を僕に預け押さえ付ける。


「ありがとう……

 暮葉(くれは)さん……

 もう少し暴れると思うから押さえててね……

 んっ!」


 シュオォォォォォッ!


 凛子さんが手をかざす。

 僕の身体から再び血液が滲み出てくる。

 赤球完成。


 先程と同じ様に黒っぽいモヤが滲み、グースの手に。


 パン


 黒球破壊。

 そしてまた赤球が解け、僕の身体に戻される。

 すると先程よりも勁烈(けいれつ)な痛みが身体中を駆け巡る。


「あああああああぁぁぁあああああぁああっっっっっっっ!」


 余りの痛みに僕は涙を流していた。


「竜司っ!

 しっかりしてっ!」


 暮葉(くれは)が必死に身体を押さえ付ける。

 地獄絵図が繰り返される事一時間弱。


「フウッ!

 これでもう大丈夫よっ!」


 凛子さんが額に掻いている汗を拭う。

 と言うか顔全体が汗びっしょりだ。

 インナーも汗で湿っている。


「うっ……」


 凛子さんがふらつく。


「大丈夫ですかっ?

 凛子さんっ!」


 思わず凛子さんを支える全裸の僕。


 あれ?

 動く……


 動くぞっ!


「凛子さんっ!

 動きますっ!

 身体が動きますよっ!」


「まだ激しい運動は出来ないけど普段の生活をする分には問題無いわよ……

 所で竜司君……

 服……

 着たら?」


「え……?」


 僕はゆっくり目線を下に降ろす。

 瞬時に熟れたトマトの出来上がり。

 熟れたトマトの顔のまま僕は床にほっぽり出してある下着とズボンに飛びつく。


 すぐ様、下着をズボンを履く。

 半裸状態。


 ふうようやく落ち着いた。

 僕は上着を着ながら先の処置について聞いてみる。


「さっき使ったのって凛子さんのスキルですか?」


「そうよ。

 血液透析(ヘモ=ダイアライシス)

 いつもは腎不全の患者さんに使うんだけどね。

 私はスキルで外科的処置を施さずに血液を抜き取る事が出来るの」


 確か透析と言えば大きな装置を使って血液をろ過する治療法だ。


「凄いですね……

 でもそんなに汗かいて……

 グースに任せてはいけないんですか?」


「私でも出来なくはないですが(マスター)のあのスキルはミリ単位の繊細な魔力操作が必要なのです」


 グースが話に割って入って来る。


「ね?

 一度グースも試してみたのよ。

 実験用ラットでね。

 そしたら……」


「そしたら……

 ゴクリ」


「全身から血を噴き出して爆発したわ」


「オイ」


 僕は思わず二文字でツッコミを入れる。


「竜界には文字通り竜しか居ませんから。

 か弱い生物に魔力を通すなんて経験がありませんので」


 グースは平然と言っている。

 実験用ラットとはいえ少し可哀想な気がしてしまう。


「ところで竜司君。

 お爺ちゃんとはどうなったの?」


 凛子さんが優しい微笑を浮かべ聞いてくる。


「えっと……

 まずですね……」


 僕は実家に帰って来た後の話を凛子さんとグースに説明した。


 父さんも実家に帰って来た事。

 祖父に一撃入れる事が出来たら認めてくれると約束した事。

 最終的に祖父のスキルを突破して一撃入れる事が出来たと思われる事。


 など。


「そう……

 それでっ!

 お爺ちゃんを一発ぶん殴る事は出来たんだっ!?」


 右手を握りながら横に振りかぶり右腕をくの字に曲げる凛子さん。

 何かこんな荒ぶったポーズを取る凛子さんは新鮮だ。


「えっ…………

 えっと……

 よく覚えてないんです…………」


「覚えてない?」


「ええ……

 最後にお爺ちゃんのスキルが物凄くって……

 確か重力負荷は二十Gって言ってたっけ……

 覚えているのは拳をお爺ちゃんに突き出した事と……

 軽い感触ぐらいしか……」


「に……

 二十G……?

 途方もない数字ね……」


「二十Gと言う事は黒の王は戦闘に参加しなかった様で。

 良かったですね竜司様」


 グースが冷静にそう言う。


「何でもお爺ちゃんに地球で戦闘するなって止められてるらしくて……

 って何で解るの?」


「黒の王が本気で戦闘に参加した時の重力負荷は五十Gは下らないからです」


 もう何が何だかわからない。

 とそう言えばここはどこだろう。


 十畳ぐらいの畳敷きの部屋で布団が何組か置いてある。

 僕は窓際まで行きサッシを開ける。


 フワッ


 優しい潮風と潮の匂い。

 そして目の前に広がる海原。


 天頂迄上がり切り少し傾いた太陽。

 この風景で察した。


 多分ここは父さんの職場の施設だ。

 と言う事は僕が気を失ったのは一時間弱か。


 僕も成長したもんだ。

 施設って事は父さんはいるはずだ。


「あ、凛子さん。

 ここに僕の父さんが居ますから紹介させてください」


「あら?

 竜司君のお父さん?

 御挨拶したいわ」


「じゃあこちらへ……」


 僕は部屋の外へ出る。

 身体全体が少し気怠いが動く事は出来る。


 案内する体になってるけど僕もこの施設は初めてだ。

 とりあえず廊下を端まで歩く。

 壁に目をやる。


 三F


「三階か……」


 僕は階段を降りろ。

 そういえばガレアも居ない。

 どこ行ったんだろ?


 そんな事を考えている内に一階到着。

 一階には右に受付らしいカウンターがあるが人っ子一人居ない。

 皆出払ってるのかなあ。


 自動ドアを潜り外へ出る。

 そこは正門だった。

 さっきケイシーさんと父さんが筋肉で会話してた所だ。


 とりあえず僕は立ち合いが始まった所に戻ってみる。

 赤や青の大きなコンテナが立ち並ぶ間を海へ向けて歩いていく僕ら。

 波止場が見えてきた。


 が、父さんの姿は見えない。


「あれ……?

 父さんどこ行ったんだろ?」


 ザンブザザザッ!

 ザンブザザザッ!


 左の方で遠く波音と水音がする。

 僕は左に曲がってみた。

 人影が見えた。


 父さんだ。


「おーいっ!

 父……」


 呼びかけようとした僕の声が止まった。

 何故なら僕の網膜に飛び込んできたのは父さんのキュッとしまった尻だったから。


「いやっ!

 こっちには父さんは居ないみたいだっ!

 おっかしーなっ!

 どこ行ったんだろーなっ!」


 途端に素早く反転し、グースと凛子さんを制止する。

 どうして全裸なんだあの人は。


「キャッ!

 とっ……

 突然どうしたの?

 竜司君」


「いいからっ!

 向こうには誰も居ませんからっ!」


「えっ?

 む……

 向こうに誰か居るじゃない……」


「あれは全然知らない赤の他人です!

 ホラッ!

 早く別の所に行きましょうっ!」


「オヤァ……

 竜司……

 目覚めたんですかァ……

 良かったデスネェ……

 フフフ」


 僕の背中に戦慄が走る。

 振り向くと目の前に父さんが立っていた。

 

 全裸で。


 さっき居た所から目算で十メートル以上離れているぞ。

 しかも全く音がしなかった。

 気配すら。


 全く何なんだこの人は。


「父さん……

 何で服脱いでるの……?」


「ムフフゥ……

 やはり(ホーム)に帰って来たのなら身体全体で風を受け止めたいじゃないデスカァ……

 所で竜司、そちらの御婦人方は……?」


「はぁ……」


 僕は少し溜息。

 もう逃げられない。


 この全裸で立ってる変態を自分の父として紹介しないといけない。

 僕はスッと横にずれる。


「えっと……

 こちらは僕の治療をしてくれた蘭堂凛子女医と助手で高位の竜(ハイドラゴン)のマザーグースです……

 ハァ」


 二度目の溜息。

 僕の友達に父さんを紹介しないといけない。


「それで……

 この人が…………

 ハァ……

 僕の父さんで皇滋竜(すめらぎしりゅう)です……

 日本郵船で船長をやってます…………」


 父さんと凛子さん。

 まず口火を切ったのは父さんだった。


「ムフフフゥ……

 初めましてェ……

 フンッ!

 ……いつも竜司がァ……

 ハァッ!

 ……お世話にぃ……

 ホゥッ!……

 なってまァすっ……!

 フロント・ラット・スプレーーーーッド!」


 バン!


 筋肉が一回り大きく弾け、意気揚々とポーズを決める全裸の父さん。

 何を考えてるんだこの変態は。


「まあ……

 逞しい……」


 上から下までジロジロ何度も往復して眺める凛子さん。


「ハッハーーーーーッ!

 この筋肉には海の男の魂が入っていますのでネェ……

 ムフフゥ」


「まぁ……

 ()()シイが……」


 少しウットリとしながら受け応える凛子さん。

 見つめる視線の先から何となく凛子さんの魂の言い方にヘンな意味が込められてないだろうかと邪推してしまう。


 そして更に場は急展開。

 混沌(カオス)の様相を見せる。

 暮葉(くれは)が騒ぎ出したのだ。


「あっ!

 チンコッ!」


 ブッ!


 急に来たストレートな言葉に僕は噴き出した。


「ちょ……

 暮葉(くれは)……」


「ねえねえ竜司っ!

 チンコよチンコッ!

 ものスッゴク大っきいのねぇ」


 暮葉(くれは)が父さんの局部を指差し叫んでいる。

 どうしよう。

 この状況どうしよう。


「でも何で竜司のと大きさ違うのかしら?」


 マジマジと父さんの局部を見つめる暮葉(くれは)


「ンフフフゥ……

 それはですネェ……

 竜司のモノは“チンコ”……

 私の場合は男根と言いますぅ……

 チンコから男根へレベルアップするにはまだまだ海の男の魂が足りませんネェ……」


 勝手に局部の品評をされた。

 何か物凄く凹む。


 よせばいいのに僕はこの話題に対して返答してしまった。

 何故なら悔しかったから。


「そっ……

 そんな事言っても僕は十四歳なんだからっ!」


「ムフフフゥ……

 暮葉(くれは)さァん……

 どうでしたかぁ……

 竜司のはァ」


「うんっ!

 えっと……

 竜司のお父さんの三分の一ぐらいだったわ」


暮葉(くれは)ーーッッ!

 何言ってんのーーっっ!」


 僕は慌てて制止する。

 何を言ってるんだ暮葉(くれは)は。

 純粋さの弊害とでも言うのだろうか。


「…………とりあえず父さん……

 服着てくれ……

 お客さんも来ているんだし……」


 チラッと凛子さんの方を見る。

 頬がほんのり赤くウットリ。

 視線が下方に向けられてるのが気になる。


「…………ハッ!?

 いいっ……

 イヤッ……

 私は別に……」


 何が“別に”なんだ凛子さん。


 ザンブッ!

 ザンブッ!

 ザザザッッ!


 大きな波音と共にバキラがその巨体を泳がせてこちらにやって来る。

 

 ん?

 あれ?

 

 何で背中にガレアが乗ってるんだ?

 しかもキョトン顔で。


 僕らを見てバキラが騒ぎ出す。


【あーーーっっ!

 滋竜(しりゅう)っちったらまたーーーっっ!

 そんな女に鼻の下、伸ばしてーーっっ!】


 ザンブッ!

 ザンブッ!


 バキラが興奮してその巨体を揺らす。

 大波が起こり波止場を濡らす。


 一緒にガレアも揺れている。

 キョトン顔で。

 何かカワイイ。


 おっといけない。

 僕が事情を説明しないと。

 父さんんとバキラの間に入る。


「ちょっ……

 ちょっとまってよっ!

 バキラ…………っち……

 この女性(ひと)はお医者さんで僕の治療に来てくれただけなんだよっ!」


 ザッパンッ!

 ザッパーーーンッッ!


 何に反応したのか。

 更に興奮するバキラ。


 波が僕の足元まで届いてくる。

 そしてまだキョトン顔でチョコンと乗って揺れているガレア。


【ムカーーーーッッ!

 どうして滋竜(しりゅう)っちは女医を見るとそうなのよーーーっっ!

 十七(とうな)と言いっ!

 その女と言いーーーっ!】


 ああ、なるほど。

 おそらくバキラは父さんが好きなんだろう。

 父さんはもちろん既婚者。


 でも竜だからそんな事は関係ない。

 だからバキラは十七(とうな)母さんを恋敵的な眼で見ているのだろう。

 そして母さんが医者だから“女医”という職業にも敏感なのだろう。


「タハハ……

 バキラァ……

 ちょっと落ち着いて下さァい……」


 頭をポリポリ掻きながら少し困り顔。

 父さんでもこんな顔するんだ。


十七(とうな)許すまじーーっ!

 そこの女も許すまじーーっ!

 滋竜(しりゅう)っちはアタシのもんだーーーっ!】


 ザッパーーーン!

 ザッブーーーン!


 興奮に輪をかけ加速するバキラ。


 冷たっ!


 大波が波止場を這いあがり僕の脛を濡らす。


「フゥッ……

 こうなったらバキラは聞きませんからァ……

 しょうがありませんネェ……」


 タッ


 全裸の父さんはジャンプして軽々とバキラの背中に移る。

 と、言ってもバキラの背中まで結構距離があるんだけどな。


 多分父さんなら普通家屋の二階ぐらいなら一跳びなんだろう。

 もはや自分でも何を言ってるか解らなくなってきた。


「ちょォッとォ……

 前失礼しますよォ……

 竜司の竜君……」


 あれ?

 そういえば父さんにガレア紹介してなかった。


 バキラの(うなじ)に取りついた父さんはその大きな腕を首に回す。

 当然だがバキラの大きな首ではさすがの父さんの腕でも回り切る事は出来ない。



 が……



「フンッ!」



 バンッ!



 離れても聞こえる父さんの筋肉の弾ける音。

 さらに一周り程大きく膨らむ上腕筋群、前腕筋群。

 この人は本当に人間なのだろうか。


【何よっ!

 今更遅いんだからッ!

 滋竜(しりゅう)っちっ!】


 怒りを主張しながら首を振って父さんを振り解こうとする。


 ギリギリギリ


 肉が絞まる音がする。

 父さんがバキラの首を絞めている。


 ギリギリギリ


「フフフゥ……

 バキラァ……

 Hi hoー♪

 Hi hoー♪

 It's home from work we goー…………♪」


 あれ?

 父さんの唄ってる歌。

 どこかで聞いた事あるなあ。


 あ、そうだ。


 白雪姫のテーマだ。

 っていうか何で白雪姫なんだ。

 海、全く関係ないじゃないか。


【あぁっ……

 滋竜(しりゅう)っち……

 やめてっ……

 ハイホー……

 ハイホー……

 …………………………ガクッ】



 バキラがオチた。



 駄目だ。

 この人には一生敵う気がしない。

 竜を気絶させる生身の人間って。


 ザザザザーッ


 バキラがどんどん沈んでいく。


「おッとォ……

 いけませんねェ……

 では竜司の竜君もォ……

 このままでは海に沈んでしまいますネェ……」


 ヒョイッ


 そう呟いた父さんは軽々ガレアをリフトアップ。


【わっ!

 何だ何だッ!?】


 ガレアが驚いている。

 持ち上げられるなんてなかなか無い経験だろう。


 ヒュンッ


 沈みゆくバキラの背中からヒラリと波止場へ舞い戻る。


 スタッ


 悠々と波止場に降り立つその姿はまるで命を救った英雄(ヒーロー)のように思えた。


「サァ……

 もう大丈夫ですヨォ……」


 ゆっくりとガレアを降ろしすっくと立ちあがる全裸の父さん。

 僕の両網膜に見たくも無い父さんの局部が飛び込んでくる。



 前言撤回。



 英雄(ヒーロー)じゃない。

 変態だ。


「ハイ……

 父さん……

 ご苦労様……

 とりあえず……

 服着ようよ……

 ね?」


 僕も口調が変わり、諭すようになってきた。


「え……?

 しょうがないですネエ……」


 いそいそとコンテナとコンテナの間に消えていく父さん。

 ふうこれで一安心だ。


 ん?


 コンテナの間に服なんか置いてあるのだろうか。

 そんな事を考えていると父さんが戻ってきた。


「これでヨシッとっ!」


 うん。

 ネクタイだけ締めて戻ってきた父さん。

 再び僕の両眼に父さんのデカい局部が映り込む。


 これ昨日もあった。

 だからこの人の中で正装と言うのはどう認識されているんだ。


「いい加減にしろーーーッッ!」


 僕の怒りのツッコミが飛ぶ。


「オヤァ?

 竜司、何を怒ってるんですかァ?

 私の格好そんなにおかしいですかァ?

 ネェ……

 凛子先生ィ……」


 全裸にネクタイの父さんはチラリと凛子さんの方を見る。


「えっ……!?

 いっ……

 いやっ……

 私は別に……」


 赤面しながら眼を逸らす凛子さん。

 だから何が“別に”なんだ凛子先生。


「もうっ!

 こっちに来てよっ!

 父さんっ!」


 僕は太い父さんの手首を握り施設に早足で戻る。

 一階の見取り図を探す。

 あった。


「更衣室は……

 ここか……

 さァッ!

 ついてきてっ!」


 僕は一目散に更衣室を目指す。

 おそらく社員が着る作業着などがあると踏んだからだ。


 ガチャ


 更衣室


 父さんを中に入れ僕は扉の前に陣取る。

 そして服を着るまでここはどかないという意思を込めた眼で父さんを見つめる。


「さぁっ!

 父さんっ!

 服を着てッ!」


 ギロリ


 父さんを睨みつける僕。


「なっ……

 何なんですカァ……

 竜司ィ……

 ちょっと目が怖いですゥ……

 わかりましたよォ……」


 ガチャ


 父さんがロッカーを開け中から作業着を取り出す。

 いそいそとズボンを履いている。


 この際ノーパンはどうでもいい。

 しばし待つ。

 父さん着衣完了。


「じゃあ……

 戻ろうか……

 父さん……」


「ハァイ……

 ちょっとこの作業着キツイですネェ……」


 とりあえず着衣してくれた事に安心した僕は最後の一言を気にも留めなかった。

 再び僕らは波止場へ。


 凛子さんとグース、ガレアと暮葉(くれは)の元へ戻って来る。

 凛子さんがこちらに気付き歩いてくる。


「初めまして。

 私は蘭堂凛子。

 西宮で開業医をやってます。

 そしてこちらが私の使役している竜。

 マザー・グースです」


 微笑を携えながら手を差し出す凛子さん。

 いつもの颯爽とした凛子さんだ。


「これはこれはご丁寧にィ……

 私は皇滋竜(すめらぎしりゅう)

 竜司の父です。

 日本郵船で船長をやっています。

 そしてこれが私に使役している竜で蒼の……

 あ……」


 父さんはチラリと穏やかになった海側を見る。

 自分が締め落とした事を忘れていたのか。


「そう言えばバキラは海中でしたネェ……

 後で紹介いたしますゥ……」


「そう言えば父さん、お爺ちゃんはどうしたの?」


「お爺ちゃんなら散歩してくると言って何処かへ歩いて行きましたヨォ……

 そろそろ戻って来るんじゃないですカネェ……」


 ザッザッ


 そんな話をすると祖父と黒の王が戻ってきた。


「フム……

 滋竜(しりゅう)では無いがやはり海はいい……

 新たな創作意欲が湧いてくるわい……

 のうカイザよ……」


「はっ……

 (マスター)


「む……

 竜司……

 目覚めたのか……」


 僕らに気付く祖父と黒の王、


「お爺ちゃん……」


 少し空気が張る。


 ドキドキ


 緊張してきた。


「竜司……」


「はっ……

 ハイィィィッッ!」


「んー……

 まぁ……

 何だ……

 ゲフンゲフン……

 約束じゃからな……

 儂に一撃入れる事は出来た訳じゃし……

 ゴニョゴニョ」


「エッ!?

 何てっ?

 ちっさくて聞こえないっ!」


「あーっ!

 竜司ッ!

 貴様を認めてやると言っておるんじゃ!」


「お爺ちゃん……」


 僕の顔は安心と嬉しさで綻んでしまった。

 その顔を見てお爺ちゃんは……


「かっ!

 勘違いするでないぞっ!

 一撃入れたとは言えあんな蚊の鳴く様な貧弱な拳では何も出来んからのうッ!

 竜司ッ!

 確かに貴様は落ちこぼれでは無かったっ!

 一人で努力し研鑽してきたのも認めようっ!

 だがまだまだじゃぁっ!

 そんな事では儂に勝つなぞまだまだ先の話よぉっ!」


 何か祖父がツンデレている。

 いわゆる二年越しのツンが解けてデレに転じたと言う所か。

 僕は本当に嬉しくて顔の綻びが解けそうにない。


「うん……

 今の僕はまだまだだ……

 でもいつか……

 いつかお爺ちゃんを超えて見せる……

 そして暮葉(くれは)を……

 僕の好きな人を護れるぐらいの強さを手に入れるっ!

 だから……

 お爺ちゃん……

 これからも僕に色々教えてね」


「フン……

 儂の指導は厳しいぞ」


「うん……」


 長かった。

 本当に長かった。

 二年間僕を苦しめていたトラウマの一つが解消された気がした。


「でも……

 お爺ちゃん……

 僕は旅を続けるよ……

 ドラゴンエラーの供養はきちんとしておきたいから……」


「ムウ……

 竜司……

 急に旅立った理由は供養の旅だったのか?」


「違うよ……

 最初は家が本当に辛かったからただ逃げただけ……

 この旅の目的は大阪で出会った友達が教えてくれたんだ……」


「そうか……

 儂とは違い、良き友に出会えた様じゃの……」


「うん……」


 ポン


 ここで父さんの柏手の音が聞こえる。


「さァさァ!

 これで晴れて皇家は一つになったと言う事でェ…………

 宴会といきマショウッ!」


 僕は急の提案に驚いた。

 が、僕の今までの旅を考えたらお決まりのパターンとも言える。


「え……

 宴会……?

 どこで……?」


「もちろんこの波止場でですヨォ……

 野外バーベキューと洒落込みまショウ……」


「そんな事勝手にやって良いの?」


「大丈夫ですヨォ……

 どうせ関西支店で僕に口出しできる奴なんていませんシネェ。

 今日働いてる社員全員呼んで大宴会にするつもりデスシィ。

 予算も百万ぐらい僕のポケットマネーから出しますからァ」


「フム……

 祝いの席は盛大にと言うからのう……

 いいだろう……

 では儂は知り合いの店で神戸牛を仕入れて来てやろう」


 僕は驚いた。

 祖父がそんなお使いみたいな真似しないと思っていたからだ。

 やはり僕は全然祖父の事を知らなかったようだ。


「ハァイ。

 それでは僕は社員に周知してきますゥ……

 凛子先生、マザー・グースさんも如何ですかァ?」


「ええ。

 午後の診察があるからそれが終わったら参加させて頂くわ」


【あれ?

 カンナ?

 カンナが居ないぞ】


「フフフ。

 安心してガレア。

 宴会の時はカンナも連れてくるから」


 凛子さんが優しく微笑んでいる。


【そっかっ!

 なら良いぞっ!】


「して滋竜(しりゅう)……

 何キロぐらい買って来ればよいのじゃ?」


「そうですネェ……

 うちの社員はみんなよく食べますから三十キロって所じゃないでしょうかァ?」


「フム……

 となると全て神戸牛となると予算をオーバー……

 五十万で神戸牛。

 後の五十万でランクの下げた肉。

 魚介。

 野菜などを買うとするかの」


「お爺ちゃん、魚介と普通の肉と野菜は僕が買ってくるよ」


「そうか……

 ならそちらは竜司に任せるとするかの」


「じゃあ私達は午後の診察の準備があるから戻るわ。

 竜司君、お大事に。

 グースお願い」


「わかりました(マスター)


 亜空間を開くグース。


「はい、ありがとうございました凛子さん」


「フフフ。

 じゃあ後でね竜司君」


 亜空間に消えていく凛子さんとグース。


「さて儂らもそろそろ準備に取り掛かるとするかの」


「わかりましたァ」


「うん。

 わかった」


 さぁ宴会の準備だ。


 ###


「はい。

 今日はここまで」


「チンコダーーッシュッ!

 プププ……」


 まだ(たつ)は子供みたいな下ネタでウケるのか。


「こら。

 (たつ)も六年生なんだからいつまでも子供みたいな事言わないの」


「はぁい」


「じゃあ今日も遅くなったね……

 おやすみ……」

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